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QUAD 33

菅野沖彦

’81世界の最新セパレートアンプ総テスト(ステレオサウンド特別増刊・1981年夏発行)
「’81世界の最新セパレートアンプ総テスト」より

 独特なオーディオコンセプトをもつクォードの個性的な製品だ。オーディオを主役とせず、音楽を楽しむための道具として目立たず、美しくという考え方がよく出ている。見方によっては、少々おもちゃっぽいところもなくはないし、メカマニアには全くアピールしないものかもしれないが、センスとしては高く買いたい。コントロール類の使い勝手も、クォードらしい気軽さとシステマティックな考え方で統一されている。

音質の絶対評価:5.5

QUAD 33

瀬川冬樹

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

性能面ではやや見劣りするが外観の渋い雰囲気は他の製品にはない魅力。

QUAD 33

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 パワーアンプの405が発売されたあと、いずれ新型のコントロールアンプが発表されると誰もが思った。だがいつまでも出てこない。しびれを切らしてロス・ウォーカー(QUAD社長)に質問したら、「33でどこか不満か?」と聞き返された、という話は有名になっている。これに象徴されるように、33の音を最新のソリッドステートと比較すれば、不満はいくらも指摘できるが、反面、ボリュウムを上げてレコードから鳴ってくる音楽に耳を傾けるとき、この、たしかに音像は小造りだしひとを驚かす切れこみの良さも鮮度の高さもないが、聴くにつれて底に流れる暖かい響きの美しさとバランスの良さに気づけば、これはこれで完結したひとつの小世界なのだと納得せざるをえない。

QUAD 33

井上卓也

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 現在の水準からしても、かなりオーソドックスにまとまった音である。
 聴感上での周波数レンジは、さしてナローレンジ型を意識させない程度に伸びており、バランス的にはローエンドが抑えられ、低域はやや厚み不足ではあるが、芯のしっかりした適度のソリッドさがある。中域は安定し、高域は少し粗粒子型で硬質さがあり、立ち上がりは甘く、ハイエンドがなだらかに下降している。
 音の表情はおっとりしているが落ちつきがあり、ほどよくプログラムソースをまとめる特長があるが、反応は遅いタイプで機敏さはない。音場感はやや狭く、音像はふくらみ気味で、輪郭の線が甘い。

QUAD 33 + 405

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 33と303の組合せのところでも書いたことの繰り返しになるが、アンプを(に限らずものを)作る態度に、その時点での最新・最高の技術を惜しみなく投入する方向と、ひとつの限定された枠を設定してその中で最善を尽くそうという方向との両極があるが、QUADはもちろんその後者として、長い年月をかけて目立たないながら改良を加えて洗練の度を増してゆくという作り方に、私は好ましさを感じている。405というアンプは、オーディオの周辺機器やレコードの録音技術の発展と、それにともなう聴き手の側の感覚の変化に対応して、かつて設定したひとつの枠をほんの少し拡大したことの具現というふうに受けとれる。音質そのものは、単体のところで書いたように、もっと能力のあるコントロールアンプと組合せれば、相当に水準の高いフレッシュな音を鳴らす可能性を持っているのに、あえて33以外のアンプ(今のところは)発売しない頑固さは、微笑ましくもあるがしかしいささかものたりない。

QUAD 33 + 303

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 マッキントッシュのところでも書いたように、音の味わいという面でマッキントッシュと対極にあるのがマークレビンソンだろうが、その両者を含めておよそ原題で考えられるかぎりの手間と費用を惜しまないという態度に対して最も反対の極に位置するのがQUADだろうと思う。ただそれが、必要最少限の実質本位というだけならダイナコやそこを離れて独立したハフラーがあるが、QUADの場合にはそこにもうひとつ、洗練された優雅さを求めるという点が、やはり英国の伝統を感じさせる。悪くいえばこれを、ケチ根性の中でせい一杯発揮するエレガンス、みたいに受けとれてQUADの悪口をいう人はたぶんそこが嫌いなのだろうが、ひとつの限定された小さな枠の中で最大限の洗練を求めてゆくという態度は、むしろ日本古来の短歌のこころ、あるいは坪庭や盆栽の清新にも一脈通じるところがあって、その意味で私には共感できるし、事実はこれはいつ聴いてもやはりよくできたアンプだと思う。

QUAD 33

菅野沖彦

ステレオ別冊「あなたのステレオ設計 ’77」(1977年夏発行)
「’77優良コンポーネントカタログ」より

 イギリスのクォードの現役プリアンプで、いかにもこの社の製品らしいセンスの溢れた美しいプリアンプである。家庭で使う再生装置はかくあるべしというクォードの思想を強く前面に押し出しているのが、この社の製品の特色で、このユニークな美しさからもそれがわかるだろう。シンプルな中にも豊富なコントロール機能を持っている。端正な癖のない音だが、クォードらしいバランスと質感に個性が感じられる。

QUAD 33

瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 オーディオの本質をふまえた確かな製品となると、英国のQUADは絶対にかかせない存在だろう。きわめて寡作なこの会社の唯一のプリアンプである33は、ソリッドステート化以来ずっとロングセラーを続けているモデルで、その卓抜なデザインと完成度の高い音色でかけがえがない。最先端をゆくような音では決してないのだが、同社のパワーアンプと組み合わせて最良の結果を得るのは、結局のところ、この33に行きついてしまう。

QUAD 33, 303, 405, FM3

瀬川冬樹

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 創設者のP・ウォーカーは英国のオーディオ界でも最も古い世代の穏厚な紳士で、かつて著名なフェランティの協力を得てオーディオの開拓期から優秀な製品を世に送り出していた。ロンドンから一時間ほど車で走った郊外にあるアコースティカル社は、現在でもほんとうに小さなメーカーで、QUADブランドのアンプ、チューナーとコンデンサースピーカーだけを作り続けている。
 QUADは、なぜ、もっと大がかりでハイグレイドのアンプを作らないのか、という質問に対してP・ウォーカーは次のように答えている。
「もちろん当社にそれを作る技術はあります。しかし家庭で良質のレコード音楽を楽しむとき、これ以上のアンプを要求すればコストは急激にかさむし、形態も大きくなりすぎる。いまのこの一連の製品は、一般のレコード鑑賞には必要かつ十分すぎるくらいだと私は思っています。音だけを追求するマニアは別ですが……」
 こうした姿勢がQUADの製品の性格を物語っている。
 管球アンプ時代から、QUADはアンプをできるかぎり小型に作る努力をしている。ステレオプリアンプの#22は、それ以前のモノーラル・プリアンプと全く同じ外形のままステレオ用2チャンネルを組み込むという離れわざで我々をびっくりさせた。必要かつ十分な性能を、可能なかぎりコンパクトに組み上げるというのがQUADのアンプのポリシーといえる。
 この小さなアンプたちはデザインもじつにエレガントだ。ブラウン系の渋いメタリック塗装を中心にして、暖いオレンジイエローがアクセントにあしらわれる、というしゃれた感覚は、QUAD以外の製品には見当らない。このデザインは、どんなインテリアの部屋にも溶け込んでしまう。ことに、プリアンプとFMチューナーを一緒に収容するウッドキャビネットは楽しいアイデアだと思う。
 必要にして十分、と言っていたQUADも、一年前にパワーアンプの新型#405を発表した。100W×2というパワーをこれほど小さくまとめたアンプはほかにないし、そのユニークなコンストラクションは実に魅力的でしかも機能美に溢れている。
 アメリカや日本のアンプのような贅を尽した凄みはQUADの世界にはないが、33、303のシリーズの音質は、どこか箱庭的な、魅力的だがいかにも小づくりな音であった。405はその意味でいままでのQUADの枠を一歩ひろげた音といえる。この小柄なシャーシから想像できないような、力のある新鮮な音が鳴ってくる。クリアーで、いくらか冷たい肌ざわりの現代ふうの音質だ。アメリカのハイパワーアンプと比較すると、ぜい肉を除いた感じのやややせぎすの音に聴こえる。そして、405の音を聴くと、QUADはおそらく33よりも一段階グレイドの高いプリアンプと、やがてはチューナーも用意するのではないかと想像する。しかしそれはあくまでも良識の枠をはみ出すことのない、QUADらしいコンパクトな製品になるにちがいない。

QUAD 33, 303

岩崎千明

サウンド No.7(1976年発行)
「岩崎千明のグレート・ハンティング これだけは持ちたいコンポ・ベスト8(アンプ編)」より

 このアンプだけは、他のものと違って少々くつろいだ選択基準にのっとっている。つまり、朝に夕に、息を抜いたひとときに気軽にスイッチを入れてレコードを楽しむためのアンプとでもいえようか。特に、そうしたときに「音に対決する」といった息づまるような聴き方でなく、音楽を楽しめるコンデンサー・スピーカーを選んで、これを実用的に鳴らすことを考慮した時に必ず浮上するのが英国のアコースティック・インダストリー・マヌファクチャー社のコンデンサー・スピーカーQUAD(クォード)ESLであり、それをドライブするためのアンプとしてのクォード・トランジスタ・プリアンプ33、パワーアンプ303なのだ。
 ごく一般的な音楽の高級ファンの場合「永く聴いても疲れることのない装置」が強く望まれるものだ。QUADのシステムはこうした要求にぴったりであろう。聴く位置は固定されるが音像の確かさもすばらしいし、その品質は価格からは想像できない。まして最近のポンド下落の折で、日本での価格はこれからも高くなることはあるまい。
 クォードのアンプとして、オーディオマニアであれば、管球式のステレオ用プリアンプ・モデル22とパワーアンプ・モデル2を2台というのが、いつわらざる本音だろうし、今日、やや骨董的な価値も出てきて、マニアであればあるほど大いに気になるアンプであろう。
 ただ、今ではこれを探すのは労多く、価格的に割高のはずだ。トランジスターで間に合わせようというわけではないが、303と33でもいい。内容を見れば米国製の同価格の製品とくらべてみるとよく判ろうが、驚くほど綿密に、精緻に作られ、まるで高級測定器なみだ。プリント板の差換えでフォノイコライザーやテープイコライザーを変えられるようになっている所もいい。アンプの再生クォリティーは、今日の水準からは決して優れているというわけではないが、しかしESLを鳴らすには、この303の出力は手頃だし、最新パワーアンプ100/100ワットの405のお世話になることもあるまい。価格対内容では世界有数の製品だ。

QUAD 33

瀬川冬樹

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 性能もデザインも実にユニークで洒落ていてこういう製品が存在することがうれしくなる。とうぜん、パワーアンプの♯303、チューナーのFM3と組み合わせるべきである。

QUAD 33

井上卓也

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 大型の傾向が著しい国内製品群からみると、実にコンパクトで、楽しい機種である。メカメカしいオーディオではなく、音楽を、くつろいで聴くためには素敵なアンプである。

QUAD 33

菅野沖彦

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 このプリアンプを選んだ最大の理由はデザインの魅力だ。むろん、性能が著しく悪くては困るが、まずまず中級の中味。持つ喜び、使う楽しみの味わえる愛すべきプリだ。

QUAD 33

岩崎千明

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 時代の流れを越えて、誇りと伝統を貫くといったジョンブル精神をオーディオに凝縮したのが、このプリアンプだ。マニアであればサブ用として必ず欲しくなる魅力の強烈さ。

QUAD 33 + 303 + FM3

瀬川冬樹

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 プリアンプの小型で精巧な造形処理と、パワーアンプの工業用機器を思わせる緻密な形態と、全く異質とも思える意匠を巧みに融合した手際の見事さ。意匠も色彩も他に類型の出現する余地の無いほど独特でしかも完成度が高い。初期の製品はいかにもトランジスター臭い粗さがあったが、現在の製品は音質の面でもまた一流である。この場合はチューナーもぜひ同じシリーズで揃えないと魅力が半減する。

QUAD 33, 303, ダイナコ PAT4

岩崎千明

無線と実験 5月号(1968年4月発行)
「最近の海外Hi-Fiアンプの傾向」より

まえがき
 近着の米国オーディオ誌を眺めていたら、変ったことに気付いた。最近のオーディオやハイファイ誌に小型のFMラジオの広告が多いことである。それも1頁あるいは2頁みひらきという堂々たる広告でありながら、そのラジオはステレオ・アダプターもついていない程度の、小型パーソナル・タイプである。しかし、そのFMラジオは、本格的なHi−Fiメーカーで作られていることが興味をそそった。
 Hi−Fiアンプの最大メーカーから総合メーカー的な色合を濃くしているフィッシャー社、ブックシェルフ型スピーカー・メーカーとしてARと並び、最近はモジュラー・ステレオから完全な総合メーカーへと脱皮をとげて登り坂のKLH社、カートリッジ・メーカーとしてシュアに並ぶ高品質をもって鳴り、最近はスピーカー・システム、アンプへと手を拡げているADC社など、そうそうたる一流メーカーの手で、小型FMラジオがどんどん作られているのは何を示すか?
 その辺の事情を調べてみたら面白いことが判った。昨年末は米国市場においてFMラジオが爆発的に売れて、民需電子産業としてカラー・テレビに次ぐ売行きだったとか。これはFM放送網の拡充した50年代後期以来の流行だということである。
 何が理由で、今どろFMラジオが急激に売れてきたか。この辺が今年の米国市場のHi−Fi界のアンプの行き方と決して無関係ではなさそうなのである。
 そこでFMラジオが今までとどこが違うか。その技術的背景を考えてみよう。昨年末以来のFMラジオは、むろん例外なくトランジスター化されている。そしてその技術を踏台とLて、Hi−Fiメーカー製ラジオは、コンパクトながら、かなり完全な密閉型スピーカー部を備えているのが特長だ。管球式では小型ラジオのスペースの多くはシャシーにとられてしまうが、Tr化されればごく小型の基板以外は全部スピーカーが占められる。
 グッドマンのマキシム・タイプのスピーカーは米国でUTCが一手に引受けてマキシマスという名で売っていたが、その売行きは当初における予想を下まわって大したことはなかったが、その技術はモジュラー・ステレオのスピーカーにおいて生かされ、さらに今日、小型FMラジオにおいて真価を発揮しているわけである。
 もうひとつ、FMラジオで見逃がされないのは、フロント・エンドへFETを採入れることにより、永年問題となっていた強力電波による過大入力のクロストークの解決である。Hi−FiアンプのFETの採用はスコット社のチューナー・アンプを皮切りにシャーウッド、ケンウッドなどから今日では大部分の製品に採用されているが、これはFETの量産体制が備わった67年における大きな進歩であった。FMラジオの大流行は、「FETの採用により今までのクロストークの問題が解消し、Tr化によりスピーカー・システムを充実させることができ得た」ことが理由だ。

アンプの大きな流れ
 米国のHi−Fiアンプを見るとき、FM小型ラジオの著しい売行きからも判断できるように、Hi−Fiレシーバーが今や完全に庶民の実用品となってきている点を見逃がせない。そこで、Hi−Fiアンプのあり方も日本での場合とかなり違っており、その辺のことを了解していないと全般的傾向を判断しにくいいわけである。
 今年度のアンプ界における傾向で注目できるのは、マランツ18にみられるような、超一流ブランドによるレシーバー、つまりチューナーつきアンプの出現である。価格700〜500ドルという従来の倍の価格の高級アンプが狙うのはどんな層か。マランツ以外に、マッキントッシュ、アルテック、スコット フィッシャー、さらにソニーからもこの級の豪華型が発表されており、高級アンプはますます高級化、デラックス化の道をたどりつつある。
 スコット、フィッシャーなどの場合には、その一連の製品のイメージアップが大きな目的であるが、マランツ、マッキントッシュ、アルテックなどにおいてははっきりした目的があり、それがハイファイ・マニアでないオーソドックスな高級音楽ファン、ないし金持ちの一般市民に狙いを合せた製品であることは間違いなかろう。
 これと対照的に一般のHi−Fiアンプ、特にチューナーつきのレシーバーと呼ばれる総合アンプは全般的傾向として低価格の方向に進んでいる。米国でもっとも一般的な名声をもつフィッシャーを例にとると500ドルの700Tの最高ブランドを頂点にしていながら一般向けは200ドル級という、今までにない低価格の200Tと普及化されているのが判る。
 ケンウッド、パイオニア、サンスイなど日本製米国向けのアンプにもこの傾向はみられ、これらの製品はそのままの型で日本市場に出ているので如実に見ることができる。ハイファイ産業は今やマニアだけの物でなく一般市民の間に大きく根を下してきているのだ。

日本市場での海外アンプ
 米国市場でのデラックス化を反映して、日本に最近入ってきたアンプも多くが超高級品である。30万円前後の高価格だ。マランツ18、アルテック711B、フィッシャー700T。最近発表されたソニー6060やパイオニアの1500T、トリオの1300、サンスイでも同級のものがあるというが、米国市場では全て超豪華型といわれる級だ。
 これらのレシーバーは取扱いやすさを考えれば、一般向けという点に焦点を合わせた以外の技術的グレードの点で、今までのプリメイン型よりも高級であるといわれる。
 しかし今日の日本における需要層であるマニアの立場からはちょっと物足りない点が多い。たとえば入力端子が、本格的高級機なみにたくさんほしい。またチャンネル・アンプ化のためプリアンプ、メインアンプを独立して使いたいなど、数え上げればきりがない。日本製の高級アンプでは、こういうマニアの要望がほぼ完全に実現されているだけに海外アンプに対する物足りなさは一層だ。
 しかし、考えてみると日本のマニアのレベルはおそらく世界一ではなかろうか。チャンネル・アンプにしても日本ではかなり多く実用されているのに、米国市場ではアコースティックX以外の商品はなく、むろんマニアの間でそれが実用化している例も聞いたことがない程度だ。最近では米オーディオ誌の3月号に、チャンネル・アンプの記事がアコースティックXを例としてのっているのが珍らしいほどだ。特にステレオ期以後において、マニアに関しては日本の方が水準が上である。
 67年のコンシューマー・レポートの米国市場におけるアンプのテスト・レポートにおいても、日本製アンプがパイオニアの1000TAをはじめ、輸出専門メーカー製などがフィッシャー、スコットとならび、上位にランクされていることからも日本製品のグレードの高さが判ろうというものだ。これは結局、日本のハイファイ需要層の底辺の広さと、そしてマニアの満点の高さが製品に反映しているのだといえる。

ダイナコとクワッド
 さて、コンシューマー・レポートといえば、そのトップ・ランクの製品が、米国で低価格製品の異色とされているダイナコであった。
 ダイナコはアクロ・サウンドの技術者であったD・ハフナー氏が戦後アンプ・キットのメーカーとしてスタートした独特なメーカーである。この社の製品の高品質ぶりは定評があるのだが、最近、米国市場を湧かしているアンプは次のようなものがある。
 マランツ初のチューナー・アンプ〝モデル18〟、マッキントッシュ初のチューナー・アンプ〝1500〟とその改良型〝1700〟、これは終段は球で7591をPPとしたトランスつきだ。そしてこの高級2機種に対してARが初めて出すアンプ、そしてこのダイナコのTr化されたアンプのシリーズ、メインアンプの〝ステレオ120〟と、プリアンプの〝PAT4〟である。
 コンシューマー・レポートにおけるダイナコは管球プリアンプ〝PAS3X〟、とTrパワーアンプ〝ステレオ120〟だ。Trプリアンプ〝PAT4〟はすでに一昨年末に発表され、一部の商品が出まわっていたものだが、メーカーとしても「PAT4が必らずしもPAS3Xよりも優れているとはいわない」という微妙ないい方で、その販売に力を入れてることをしなかったものだ。それはTr化に伴いトラブルの予測ないしは実際に起きていたに違いなく、現実に市場に出ていた〝PAT4〟は全製品ダイナコの手で回収されたと伝えられていた。
 しかし、昨年、67年暮以来、そのS/Nに関するトラブルも解消し予期の高性能に達したようで、68年度は大々的に〝PAT4〟を売る方針のようだ。
 そしてその第一陣はすでに米市場で好評をもって迎えられ、日本でも4月には発売れよう。
 〝ステレオ120〟、60/60ワット・パワーアンプとの組合せは、価格を考えると最高品質といわれており、米国でも売行はキットを含めてプリ・メインのトップを行き、ものすごいようである。なおFMチューナーは管球式の従来のFMステレオ・マルチつきがコンビとされている。
 日本ではこのダイナコと前後してクワッド・ブランドで知られる英国アコースティカル社のTr化された新型アンプが入ってきた。
 QUAD33プリ、303パワーアンプの組合せである。クワッドは日本でハイファイ初期から特に高く評価されており、ファンも多く、人気も高い。このクワッドとダイナコのアンプが、日本マニアの間で当分の間人気争いの2大製品となろうことは明らかであり、またその内容、技術の対称的な点を含めて興味が深い。

QUAD33プリアンプ
 回路全体を簡略化、単純化するという点でダイナコと似た構成上の考え方を示しているが、ダイナコが球をほとんどそのままTrに置きかえた構成に対しクワッドはその2ブロックとボリュームとの段間に2つのエミッター・フォロワーのインピーダンス変換回路を挿入し、スイッチ配線に対してのリードのストレイ容量の影響および回路間のマッチングを考慮している、この点がダイナコと差があるだけである。トーン・コントロールが2段にわたるNF型である点、LCによるハイカット・フィルターがプリアンプ最終段にある点などダイナコとまったく同じであるのも興味深い。
 英国製共通のパワーアンプがハイゲインなため、プリアンプ出力は規格歪率にて0・5Vと低いが、この構成では1Vの出力においてもなんら差支えないであろう。
 ダイナコとの差は写真より判るように、その構造の違いだけといえそうだ。ダイナコのPU入力端子は3つあり、これは回路図よりみられるように入力端子において低レベル入力なみに落されてイコライザーに加えられるような方式をとっており、回路内でのスイッチを含め複雑化を防いでいるが、クワッドのプリアンプでは永年やってきたようなプラグイン・イコライザーの考え方をプリント基板の挿し変えという方式によっている。
 これは従来のようにいくつかのイコライザー・ユニットを用意するのでなく、あらかじめ0.5〜2mVまでの低出力、1.5〜6mVまでの高出力、セラミック用の各種のカートリッジのイコライザー、それに予備の端子を具えたプリント板の向きを換えて挿し変えて必要に応じた使い方をするわけである。
 テープ・アダプターの方はイコライザーに続くエミッター・フォロワーそのもので、プリント基板裏面にあるスクリューを切換えてテープ出力に応じたレベル・セットができる。このようなクリッピングを考慮した設計はTr化されたセットでは適切なものといえる。

ダイナコのPAT4
「偉大なものはすべて単純である」この言葉はフルトヴェングラーの芸術に対しての名言だが、ダイナコの回路図をみたとき、この言葉を想起した。実に単純きわまりない。片側の構成は4石、それも2段直結の2ブロックという、もっともシンプルな構成である。一般にハイファイ・アンプTr化の最大の問題点はトップの雑音発生である。S/N比を高く保つことがいかにむつかしいか、最高級を謳われるマランツ7TにおいてさえS/Nのバラツキが需要家最大の悩みのたねであった。
 ダイナコはこれを、構成を最少滅に喰いとめるという、もっとも当り前なオーソドックスな方式で解決したわけである。たくさんのツマミが好きで、マルチ・スピーカーが好きな変形マニアにはこのダイナコの良さは納得できないであろう。すべて製品は最終的に到達した性能、ハイファイでは、それに加えて出てきた音で判断すべきである。
 初めの2石直結ブロックはNF型のイコライザーを構成している。イコライザーはフォノ・テープヘッドおよび特別入力端子の3つが用意されている。直結アンプの前後に入力切換のスイッチがあり、その出力側にモニター・スイッチ、ヘッドフォン・ジャックによる入力端子、簡単なCR型のロー・フィルターが続く。
 そのあとにシーソー・スイッチ2個によるステレオ・モード切換があり、ボリューム・コントロール、バランス・コントロールと一連のリード配線を経て第2ブロックの2段直結回路に導かれる。
 この2つの直結構成の回路はほとんど同じもので電源B電圧の後段が高いため、動作点も後段が大入力用となっているわけだ。
 第2ブロックは、ダイナコ特許の2段構成NF型トーン・コントロールで、すでに管球式PAS3Xにおけるもの。もっと初期のモノ用プリPA1の回路と基本的に何ら変るところがない。BAX型と呼ばれるNF型のトーン・コントロール素子がエミッター・コレクター間の2段にわたって結ばれている。このため全体の中域のゲインは20dB以上あり、しかも従来起りがちの低域の上昇がなまることもなく、超低域上昇特性のよさは、まさにマランツなみを誇るものである。ダイナコ・プリアンプの優秀さの最大の支えとなっているのが、このダイナコ特許の2段NFトーン・コントロール回路であり、Tr化された今日でもこれは少しも変ることなく続いているのをみると、米国製品に珍らしい技術的なしぶとさを感じるのである。
 この2段出力段のあとにLCによるハイカット・フィルターが入り、出力端子へと導かれる。低出力インピーダンスのあとのハイカット・フィルターだけに素子のインピーダンスを下げなければならず、コア一に巻かれたインダクタンスを採用したのであろう。出力インピーダンスの十分低いトランジスター回路ではLは管球以上に利用されるわけだ。
 ダイナコPAT4の出力は2Vまで規格歪率でおさえられており、むろん電源負荷である点を考えると、規格出力が0.5Vのクワッド・プリアンプ〝33〟よりも独立使用の点で有利であり,またクワッドがヨーロッパ規格のコネクター式入力端子であるのに対し,ダイナコが米国のRCAピン・プラグ入力端子である点も、日本のオーディオ層にはなじみ深く、有利といえそうである。内部配線の米国らしいみてくれを考えない合理的なリードの引きまわし方は、一見弱々しくみえる内部構造とともに,神経のこまかいマニアには納得できないかも知れない。そういう点からはクワッドの測定器なみの組み立て配線の方がはるかに良心的で日本人的センスであるが、出てきた性能はほとんど同レベルと考えてよく、まさに合理主義的米国式か、ガッチリと伝統を守る英国式かという内部構造の点と約2万円近い価格差だけが選ぶ者にとっての導標だ。