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アルテック Crescendo (605B)

岩崎千明

スイングジャーナル 7月号(1974年6月発行)
「ベスト・バイ・コンポーネントとステレオ・システム紹介」より

 大口径スピーカーのみの持てる、ハイ・プレッシャー・エナジーの伝統的な迫力の洗礼を受けたのは、アルテックの15インチによってであった。38センチという言い表わし方ではその迫力の象徴を表現するには絶対的に不足で、オレにはどうしても15インチ以外はピンとこない。
 それは昭和26年頃の、まだ戦後の焼跡の生々しい銀座の松坂屋裏のちっぽけな喫茶店であったっけ。重いドアを押して中に一歩踏み入れた途端、奥まで紫煙が立ちこめ、そこに群がる黒人兵達の嬌声やらどなり声を圧するが如く、ニューオリンズ・ジャズのホーンの音のすさまじさ。動くこともできず思わずその場にたたずんではしばし、呆然としていた。
 初めは本物のバンドが紫煙の奥に在るのかと、いぶかしくなるほどにそのサウンドは生々しくリアルで力に満ちていた。奥に入っていって、そのジャズ・エネルギーがなんとスピーカーであることを知らされた。その名、アルテックの603Bは、死ぬまで忘れられない名としてオレの脳裏に刻み込まれたのだった。この邂逅はその後のオレのオーディオ・ライフへの道を決めてしまった劇的なものであった。
 この戦後の東京では最も古いに違いない喫茶店「スイング」は今も渋谷は道玄坂の一角で、その時のあの15インチ〝603B〟が、今もなお健在で集まってくる若人に20年前と同じ圧倒的な迫力をもって応じている筈である。
 この603Bが、今日の新たなる技術をもってリファインされたのが「クレッセンド」のユニットの605Bに他ならない。
 さて、15インチ2ウェイ・コアキシャル型の605Bは、その名から推測されるようにプロフェッショナル・モニター用として名の轟く604Eを基準とした製品だ。ユニット自体は604Eの11万強に対して約9万と安い。だから、しばしば604Eの普及型というとらえ方をされる。事実外観上の差はほとんどなく、マグネット・カバー上の型番を見るまでは見分けることすら難しい。
 だが、604Eが音質チェックを目的としたモニター(監視用)であるのに対して605Bはあくまで音楽再生を目的とした、アルテックきっての高級スピーカーなのである。つまり、音楽をサウンドとしてではなく、音楽とのかかわりを深く求めんとして再生する限り、この605Bの方がより好ましいのである。それは音色の上にもはっきりと現れて604Eがしばしばクリアーであるが、堅い音として評されるのに対して、605Bのそれは何にも増して「音楽的な響きをたたえた暖か味」を感じさせる。604Eの力強いがなにかふてぶてしく、鮮烈であるが華麗ではないサウンドに対して、605Bはこのうえなくバランス良く豊麗ですらある。
 つまりいかなるレベルの音楽愛好者といえどもこの605Bの魅力の前にはただただ敬服し、感じ入ってしまう品の良いサウンドであることを知らされるに違いない。しかもこのサウンドは、単に音が良いというだけでなくしばしば言われる〝シアター・サウンド〟を代表するアルテックという、世界で最もキャリアのある音楽技術に裏付けられた物理特性あっての成果なのだ。電気音響界きっての誇りと伝統と更に現代技術の粋とを兼ね備えた音楽再生用スピーカーとしての605Bの優秀さは、もっと早くから日本市場にも紹介されるべきであったのだ。
 これがかくも遅れたのは、このスピーカーが抜群の高音響出力を持つためだ。高いエネルギーを可能とすることには付随的なプラスαとして無類の高能率があるのだ。そうした場合、スピーカー・ユニットを組込むべき箱は実に難しく、多くの点を規制され充分な考慮をせずには成功しない。箱の寸法とか補強措置や板厚のみならず、その材料にまで充分に注意を払わねばならない。つまり箱に優れたものをなくしては優れた本来の性能を出せなくなってしまうのだ。
 幸いなるかな日本市場では605Bは「クレッセンド」と呼ぶシステムとして優れたエンクロジュアに組込まれた形でユーザーの手に渡ることになっている。つまり605Bの良さは損なわれることなく万人に知られ得るに違いないし、それはしばしば誤られるごとく「ウエスト・コースト・サウンド」といわれるものではなく、この30年間常に、いや創始以来ずっとハイファイをリードし続けた、アメリカのオーディオ界の良識たるアルテック・サウンドの真髄を発揮した「サウンド」なのである。
 まずクレッセンドが比類なく高能率、高音響出力という前提では、アンプにはさして大出力は不要ということになる。その結論はひとつの正しい判断として間違いないし、そうした決定から国産の平均的アンプ、40/40W程度のものを対象としても、アルテック・クレッセンドはその実力を充分に発揮してくれ、そのサウンドは、間違いなくそこに選ばれたアンプが「かくも優れたものであったか」ということを使用者におそらく歴然とした形で教えるに相異あるまい。
 だからといって、このひとつの結論としてのそのサウンドがアルテック・クレッセンドの良さをフルに引き出したのかというと、残念ながら決してそうではないのである。国産の40/40Wのアンプは矢張りその価格に見合った性能しか秘めていない。倍にも近い価格の、だから多分高出力になっているに違いないより高級なアンプの持っている諸特性を考えれば40/40Wの手頃な価格のアンプはやはりそれなりの特性でしかないのだ。
 つまりクレッセンドの内蔵する
アルテックの605B、その輝やかしい歴史と伝統に支えられた15インチ・コアキシャルは、もっとずっと、否、最高級のアンプで鳴らした時にこそ、最高の性能を発拝してくれるのである。
 それはイコライザー回路から、トーン・コントロールから、およそ回路の隅々にまで至るすべての点に最高を盛り込んだアンプのみがアルテックの傑作中の傑作を最も本格的に鳴らしてくれるのである。
 そしてそういう結論を大前提とし、なおかつ、大出力は必要条件ではないとしてもすべてを満たし得るアンプ、その少なくない国産品から選べば、次の3機種こそアピールされてよかろう。①ソニー:TA−8650②オンキョー:Integra711③ヤマハ:CA1000 以上のアンプは最大出力は100/100Wを下回るものの価格的にはヤマハを除いては割安とは言い得ない。つまり、メーカーとしてはどれもがそのメーカーの最高機種としての誇りと技術を託した高級アンプなのであり、そうしたベストを狙ったもののみがクレッセンドの良さを最も大きく引き出せよう。特にヤマハのアンプは品の良さと無類の繊細感で.この中では最高のお買物として若い人にはアピールされよう。ソニーの場合新開発FETアンプの持つ真空管的サウンドを買ったのだ。オンキョー711については、使うに従ってその良さが底知れぬ感じで期待でき、是非これに605Bを接いでみたい誘惑にかられているのだ。プレイヤーはプロ志向の強いトーレンスTD125MKII。カートリッジとしては、使い易さと音の安定性からズパリ、スタントン600EEを推そう。

オルトフォン SL15

井上卓也

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 個性的な魅力と欠点が交錯して存在した忘れがたいカートリッジであるS15に続いて発表されたこのSL15は、しばらくの間はSPUの存在があまりにも大きいために忘れていたのだが、折にふれて使ってみるとオルトフォンの音を受継ぎながら現代化された魅力が次第に感じられてきた。私にとって、いわば大器晩成型のカートリッジである。ストレートな表現ながら適度の情趣性がある。やはり、オルトフォンはオルトフォンなのだ。

マッキントッシュ MC2105

菅野沖彦

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 C28プリアンプをはるかに上回るパネルデザイン。片チャンネル150ワットの大出力と、重厚な音のイメージは、このアンプの大きさ、重さ、デザインと完全に一体になっていて、どこにも無峻や違和感がない。ブルーにイルミネイトされる出力レベル・メーターの色のギリギリの線で嫌らしく青くなるのを押えた明度と色調。まさにアクアブルーの自然の神秘さを再現する。これを真似た国産のアンプのすべては嫌らしい失敗作である。

オルトフォン SPU

井上卓也

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 数多くの海外製品、国内製品が発表され消えていく中にあってステレオ初期以来MCカートリッジの王座を維持している実力は大変なものである。豊かな低音をベースにして明快で適度の響きをもった中域から高域のソノリティはレコードファンの誰しもが感じるあの魅力をもっている。感覚的に古さを感じてはいながら使うたびに一種の安心感と新しい喜びを感じさせるのは何なのだろうか。現在、消えてしほくない製品の筆頭である。

シュアー V15 TypeIII

井上卓也

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 エラックとクロスライセンスをもつシュアーはMM型のオリジネーターであり製品の豊富さでも屈指の存在である。V15タイプの第3世代として登場したV15/IIIは、シュアーサウンドと呼ばれたV15/IIを音質面、物理特性面ともに一段とリファインして完成したシュアーの傑作である。フラットに延びきった周波数レスポンスとトラッキング能力は抜群で、V15/IIIを聴いてみて髄15/IIの色づけの濃さが確認できるようだ。

デッカ Mark V

井上卓也

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 独特な垂直系のカンチレバーを採用したダイレクトカップリング方式とマトリクス内蔵の構造を一貫して通しているのは異例な存在である。従来から音色上でも異色といわれ、ある範囲のソースに対しては抜群の表現力をもつ、いわば単能カートリッジといわれていたが、このMKVは伝統を保ちながらよりバーサタイルな性格をもっている点がよい。明るく輝かしい音ながら緻密であり、ニュアンスの表現でも見事である。

エンパイア 1000ZE/X

井上卓也

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 このカートリッジほど使用する人によって評価が変わる例はあるまい。けっして表面的に個性の強さを感じるような性格ではないだけに大変に興味深いものがある。ヨーロッパ系のカートリッジがもつ明快さや輝きといった美点こそないが、都会的に洗練された陰影の深い音はソフィスティケートされた、このカートリッジならではの魅力であり、欠かすことのできない存在である。内面的な個性の豊かさでは、右にでるものはない。

B&O Beogram 4000

井上卓也

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 いわゆるヨーロッパ調デザインのオリジネーター的存在であるB&Oのオーディオ製品はオーディオに限らず世界のインダストリアルデザインに影響力をもつといわれている。ベオグラム4000は超薄型のシステムながら完全にフールプルーフな純電子的コントロールによるフルオートプレーヤー機構を備えている。メカニカルなフルオートにくらべレコードサイズの自動識別、自動変速などの新機能を備えた未来志向型の典型だ。

エンパイア 598 New Troubadour

井上卓也

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 すべてを濃いゴールド系の色調で統一したニュートラバドール598は、旧タイプほどのアクの強さは、薄らいでいるがアメリカならではつくりだしえない雄大なスケール感をもっているのは見事というほかない。システムのトータルなバランスは、完全なハウリング対策をベースとしているだけに優れたものがある。機構的には実用上で不便に感じる面ももつが、却って自己主張の強い魅力と受取れるところがオーディオである。

トーレンス TD125MKII

井上卓也

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 かつてのTD124の面影こそないが数少ないヨーロッパ系のマニュアルプレーヤーシステムの最右翼に位置する製品である。薄型でキュービックなデザインであるが完全なハウリング防止対策、交換可能なアームボード、クラッチ機構付のサーボベルトドライブなどプレーヤーシステムに要求される基本を確実に把握したトータルバランスの良さでは、DD方式を武器とした数多い国産プレーヤーシステムの遠く及ばざるものがある。

マッキントッシュ MC2300

菅野沖彦

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 超弩級ハイパワーアンプ。片チャンネル300ワットのモンスター・アンプ。その次元の違う再生音のスケールの大きさは、鳴らしてみれば納得するだろう。少々ちゃちなスピーカーでもガッシリと鳴る。ただし、いい気になってパワーを入れるとヴォイス・コイルが焼けてすっ飛ぶ。8ℓFFキャディラック・エルドラードを思わせるアンプだ。重さに匹敵する価値を感じる事だろう。こういうアンプを他に先がけて商品化する底力が凄い。

フェログラフ S1

井上卓也

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 いわゆる英国の音がもつ伝統を守りながら新しい英国系モニタースピーカーは大幅なグレイドアップをなしとげたようだ。比較的小型で奥行きが深いプロポーションをもち、拾い周波数レンジと能率が極めて低いことが共通な特長といえよう。S1システムは、バランス上、やや高域と低域の周波数レスポンスが少々する傾向をもつが、ステレオフォニックな拡がりと、定位の鮮明さに優れる。格調が高く緻密な音は素晴らしい。

JBL 4320

井上卓也

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 JBLプロフェッショナルシリーズのモニタースピーカーは現在4機種あるが近日中に、さらに充実したシステムがシリーズに加わると予測されている。4320は旧D50SMモニターをベースとしてモディファイしたプロフェッショナルモニターの中心機種である。とかくモニターといえばドライ一方の音になりやすいが、表現力が豊かであり強烈なサウンドも、細やかなニュアンスも自由に再現できるのは近代モニターの魅力だ。

JBL L26 Decade

井上卓也

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 JBLの新世代を象徴する新しい魅力をもったシステムである。米国では約130ドルで現在ではJBLのもっともローコストなシステムであるが、このディケードの音は、まさしくJBLの、それもニュージェネレーションを感じさせる、バイタリティのあるフレッシュで、かつ知的なサウンドである。米国内でも爆発的な人気らしく、JBLのラインのほとんどがこのシステムでしめられていたのを見ても裏付けられるようだ。

アメリカ・タンノイ Mallorcan

井上卓也

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 マローカンは、英タンノイのユニットでは比較的なじみの薄いモニター12ゴールドを米タンノイがブックシェルフ型エンクロージュアに収納したシステムである。英国の音のティピカルな存在である。タンノイの音から想像すると驚かされるほど、このマローカンの音はボザーク、KLHと共通性をもった米東岸の音をもっている。まさにニューイングランドの音といってよいだろう。小型ながら適度のスケール感と高品位な音が魅力。

ジョーダン・ワッツ Module Unit

井上卓也

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 いまはなき、ローサーと並ぶフルレンジユニット、グッドマンAXIOM80の設計者であるEJジョーダンが自らの名を冠したユニークなフルレンジユニットである。10cm口径の一体成型軽合金コーンにベリリュウムカッパー線を3本使ったダンパーなど構造上でも異色の存在である。明るく滑らかで反応の早い音は小口径フルレンジユニットのファンの琴線に触れる魅力であろう。現在数少ない個性豊かなユニットの典型である。

マッキントッシュ C28

菅野沖彦

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 シンメトリックなツマミ配置が完成の域に達したコントロール・アンプ・デザイン。なんといっても、イルミネーションのグラス・パネルが創り出す、ファンタジックな効果が印象的。絶対に指紋をつけっぱなしにしておけないという代物だ。もし、これを指紋だらけで平気で使っていられるとしたら、そんな無神経な奴は死んでしまえ! である。重厚な落着いたサウンドは、やや陰りを感じさせる渋さで黒光りといったイメージだ。

ウーヘル Compact Report Stereo124

瀬川冬樹

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 手帳一冊よりも小さなカセットテープに録音するのに現在のようなアンプ一台ほどの大きなデッキが必要だということを誰も疑問に思わないらしいことが逆にわたくしは不思議でならない。たしかにメカと電気回路で中味はいっぱいだが、それはメーカーの都合で既製の大型パーツを流用しているからで、本質から考え直して練り直してみればこんなに小さなメカニズムで往復再生さえできることを、ウーヘル124が教えてくれる。

オルトフォン SPU-GT/E, RS212

瀬川冬樹

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 他のカートリッジでは絶対に聴くことのできない重厚な豊かさと、その厚みにくるまれて一見柔らかでありながら芯の強い解像力は、もはや一メーカーの商品であることを離れてひとつのオーディオ文化とさえ言いたい完成度を示していた。残念ながら経営者の代が変って、最近の製品の音質は少々神経質な鋭さが出てきたし、専用のダイナミックバランス・アームも製造中止になってしまった。何とか以前の音質を保たせたいものだが……。

SME 3012, 3009/S2 Improved

瀬川冬樹

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 ごく初期に少数市販された製品は、軸受まわりが現在のようなオムスビ型ではなく、丸いリングを切りっぱなしで、その他細部も今ほど練り上げられていない。山中敬三氏の話ではそれ以前にもっと別の試作品に近い形の製品もあったらしいが、一応現在のスタイルで市販されてからでもすでに15年。その間幾度かマイナー・チェンジが施されている。こういう年月を経て名器が完成するという代表的なサンプルだろう。

EMT 930st, 927Dst

瀬川冬樹

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 やや旧式ながらヨーロッパの伝統的な機械の美しさをいまだ受け継いでいる、いわゆるスタジオ用のマシーンだが、人間と機械との関係にいかに血の通った暖かさを思わせる手触りや、取り外してみるとびっくりする分厚いターンテーブルや、ほとんど振動の無い駆動モーターのダイナミックバランスのよさなど、むろんカートリッジや内蔵のヘッドアンプの良さを含めて、ディスク・プレーヤーの王様はこれだと思わせる。

B&O Beogram 4000

瀬川冬樹

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 近ごろ最も頭に血が上った製品で、写真よりも実物の方がいっそうチャーミングでしかも写真に写るよりも実物の方がはるかに小型でキュートである。フールプルーフのオートメカニズムやそれを誘うするワンタッチのコントロールパネルの感触や、ストレートラインのアームの動きなどまるでドリーム・デザインのようでありながら実に良く練り上げられている。蛇足ながら専用のSP15型カートリッジの音質も独特のクールな魅力。

B&O Beomaster 3000-2

瀬川冬樹

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 B&Oというメーカーも、他に類型の少ない独特のデザインポリシーで際立っているが、一連のレシーバーのデザインは、とくにどの型ということなく、どれをとってもそれぞれに素晴らしい。残念ながら日本ではFM放送の波長の違いからそのままでは楽しめないが、一台ぐらい手許に置きたい魅力がある。パネルの白いアルミニュウム(機種によってプラスチックもあるが)やレバースイッチの形状など、ヤマハ製品にB&Oの影響がみえる。

ブラウン L710

菅野沖彦

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 ブラウンには同じようなユニットを組み合わせた一連のシステムのヴァリエーションがあるが、私は620、710が好きだ。この上の810はウーファーが二つで、やや低音が重く中域の明瞭度をマスクする。ブラウンの滑らかな音は、充分解像力にも優れるし、音楽が瑞々しく、ハーモニーがよく溶け合う。白とウォールナットがあるが、断然ウォールナットがいい。仕上げも美しく虚飾のないすっきりしたデザインは極めて高いセンスだ。

ナグラ IVSD

瀬川冬樹

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 テープデッキというよりはまるで精巧な時計やカメラを思わせるメカニズムとその仕上げの精密さで、驚くほどコンパクトな設計でありながらプロ用として絶対の信頼をかちえているところが実にニクい。純然たるプロフェッショナル用の設計であるところが、我々に馴染みの深い一般アマ機とは勝手の違う面が多分にあるが、類型のない(ライバルに同じスイスのステラボックスがあるにしても)発想に学ぶ面が多分にある。