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マイクロ PLUS-1, LM-20, LC-40

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 マイクロのカートリッジは、ステレオ初期のMM型1007シリーズを最初の製品として発売して以来、発電方式もMC型、VF型などのモデルがあったように、音色の傾向も、時期によりある幅で変化をしたが、最近の一連のシリーズではMM型を中心に完成度を高め、音色も落着いた大人っぽい印象が高級モデルに感じられるようになってきている。
 LM20は、MM系カートリッジのトップモデルである。中低域から低域はやや甘口ではあるが、質感もよく、ゆったりと余裕をもって響く特長がある。聴感上の周波数レスポンスは、とくにワイドレンジとは感じないが、トータルのバランスがよく安定感がある。粒立ちは全域にわたって細かいタイプで、クォリティは高い。
 ヴォーカルは素直で、細やかさがよく出て、あまり子音を強調する傾向はないのがよい。ピアノは響きが美しく、やや甘い感じにはなるが、スケール感も充分にある音だ。音の性質は、米国系のカートリッジにくらべれば淡白ではあるが、大人っぽいゆとりが感じられる。ステレオフォニックな音場はよく拡がるが、ややホールトーンのような響きがあり、音像は自然に定位している。この音は音と対決して聴くタイプではなく、ゆったりと落着いて音楽を聴くタイプで、プログラムソースの幅も広く、柔らかさ滑らかさが魅力である。
 LC40は、MC型で指定トランスがないため、FRのFRT4を3Ωにして使った。全体の印象はLM20よりも爽やかでクリアーな音であり、細部をよく表現するが、低域から中低域に豊かさがあるため安定感がある。粒立ちがよく、磨き込んであるために、適度の艶があり、汚れが少ない。ヴォーカルは、やや音像が大きいが誇張感がなく、らしさがあり、音場感はLM20同様によく拡がるタイプだ。クリアー志向が多いMC型のなかでは、マイルドな表情がメリットである。
 PLUS1は普及モデルだが、トータルバランスがよく上手にまとめられている。粒立ちは、やや粗く、聴感上のSN比が少し気になる。低域は量的に多く、甘口だが小型スピーカーには適度のバランスだ。

Lo-D MT-202E

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 MT202Eは、カンチレバーの支持機構に独得な宝石ピヴォット方式を採用しているのが特長である。マグネットには、サマリウム・コバルトを採用し、C型ヨークという新開発の磁気回路によるムービング・マグネット型のカートリッジである。
 聴感上の帯域バランスはかなりコントロールされているが、低域から中低域の質感が甘く、音の芯が弱いために、やや安定感を欠く傾向があるようだ。中域から中高域は粒子が少し粗い感じで、このクラスのカートリッジとしてはスクラッチノイズの質が問題になるかもしれない。ステレオフォニックな音場感は、壁の柔らかいホールで聴くように、拡がりはあるがベースやドラムスのような低音のエネルギーが多い楽器は距離感があり、ヴォーカルは、音像はクリアーに立つが、ハスキー調となり乾いた感じになるようだ。全体に、いま少し音に強さがあれば、フォーカスがピタリと決まりそうである。

ジュエルトーン JT-333, JT-555

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 JT555は、ソフトで粒立ちが細かく滑らかな音である。全体に音を軽く柔らかく表現するために、汚れがなくキレイであるのはよいが、やや性質が消極的で実体感や力感不足の面があり、コントラストがつきにくいようだ。ヴォーカルはクッキリとは立たないがナチュラルな軽さがあり、プログラムソースの性質によっては誇張がないメリットにつながるようだ。
 JT333はJT555にくらべ、音に若さがあり、反応も早く、スッキリとストレートに音を出してくる良さがある。音の粒子は細かく、かなり磨かれており、柔らかで耳あたりがよく性質も素直である。バランスは、全域にわたりよくコントロールしてあるが、低域が少し甘く、いま少し腰が強い表現が欲しい印象である。

グレース F-8L, F-8M, F-8C, F-8E, F-8’L, F-9U, F-9L, F-9P, F-9E

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 F8Cは、数多くのF8シリーズのトップモデルと考えてよい製品である。低域のダンプはほぼ標準的で、粒立ちはやや細かい感じがある。全体に、クリアーで爽やかな音であり、軽快さを狙った音であろう。表情はスタティックで、スッキリとしているが、適度に甘さがあり、やせた音にならぬのがよい。
 F8Eは、低域が少し甘口で、粒立ちは細かく、Cよりも表情はマイルドである。中低域は豊かで響きがあり、スケール感はCよりも大きく、聴きやすく滑らかでゆったりとした雰囲気がある。性質は、かなりデリケートで細かい音をよく拾い、音像は小さくクリアーに立つタイプである。
 F8Mは、低域のダンプが甘口で、中低域が豊かに拡がる傾向はEと似ているが、中域以上の線が少し太く、音にコントラストをつけて表現するあたりが異なっている。帯域バランスは、中域が薄く、高域がやや上昇した感じがあり、再生音楽を効果的に聴く面白さがあるようだ。音の鮮度はかなり高く、スッキリとしている。
 F8Lは、粒立ちはやや粗く、聴感上のSN比が他のモデルよりも悪くなる。音は安定感があリ落着きがあるが、現在の水準ではややソフトフォーカス気味で、クリアーさ、細やかさが不足する。聴きやすく安定しているが、反面、フレッシュでイキイキした表情が欲しくなる感じだ。
 F8L10は、F8シリーズ発売10周年を期して、F8シリーズの成果を集大成したモデルとして発売されたカートリッジである。粒立ちは現代的に細かいタイプとなり、低域のダンプはLよりも甘口である。音色は明るくニュートラルであり安定感があるのが目立つ点だ。Lに少し感じられたベールがかった感じがスッキリと取れて、クリアーになり、表情が豊かで、新しい第2世代のF8Lとして、標準型で信頼感がある音である。クォリティが高く、トータルバランスが優れているのが、このモデルのメリットである。
 F9Eは、全体に細身でクリアーな音をもっている。低域は甘口で、中域以上がスッキリとしているが、スケール感が小さくなり、全体をサポートする力感不足で、表現が表面的に流れて音が安定しない面がある。
 F9Lは、落着いて安定感がある音をもっている。中低域はおだやかさがあり、拡がりがある。ヴォーカルは、子音を低い帯域で強調する傾向があるが、低域が安定し量感があるため、音の重心が低く、力強さが感じられる。ピアノはソフトにホールトーンを伴って鳴り、スケール感がある。音場感、音像定位は標準型と思われる。
 F9Uは、低域のダンプがLよりもソフトとなり、全体のおだやかな印象もさらに上廻っている。但し、中域以上の粒立ちはカッチリとして芯が強く、明快で線は太いが安定度は充分にあり、全域を通して汚れが少なく、耳あたりがよい。とくに、低域から中低域の腰が強く、力があるため、EやLよりも重心が低く、押出しがよい特長がある。
 F9Pは、やや、音の粒子は粗いが、芯が強くカッチリとした力強さがあり、これといった強調感がなく、色付けが少ないメリットをもつが、表情は抑え気味で、安定はしているものの反応の鋭さがほしい場合がある。聴感上の帯域バランスは、中域が充分にあるが、ややナローレンジ型である。

オンキョー M-3

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 さきに、ユニークなデザインと音をもったスピーカーシステム、M−6により、注目を集めたオンキョーから、その第二弾製品としてM−3が発表された。
 M−3は、外見上ではM−6とまったく共通のデザインとユニット構成を採用しているために、遠くから見ると見誤りやすいほど、よく似ている。ただし、ユニット構成が同じ2ウェイシステムだが、ウーファーの口径が28cmとひとまわり小さくなり、エンクロージュアのプロポーションも異なっており、結果としてのバッフル版上のユニットのレイアウトは、むしろM−3のほうが良いバランスと感じられる。
 エンクロージュアは、円筒状のポートをもつバスレフ型である。ポート部分は取外し可能で、対照的な位置に取付けてあるトゥイーターと位置交換が可能であるために左右スピーカーシステムのスピーカーユニットを、いわゆる対照的配置とすることが可能である。
 ウーファーは、5cm径のロングボイスコイルと直径120mm、厚さ20mmの大型磁気回路をもち、直線性が優れ、かつ大入力と高能率化がはかられている。トゥイーターは、メタルキャップ付きの4cmコーン型である。レベルコントロールは、ユニット間のクロスオーバーの変化までを考えてある再生音モードセレクターと呼ばれる3段切替型である。トータルバランスがよく明るい音色をもつ点ではM−6に勝る。

フィデリティ・リサーチ FR-101, FR-101SE, FR-5E, FR-6SE, FR-1MK2, FR-1MK3

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 FRは、磁芯を使わないMC型専門メーカーとして発足し、音の細やかさ滑らかさで高い評価を得てきたが、製品にMM型を加え、改良されるにしたがって、音に厚味が加わり、力強く落着いた、完成度が高い音になってきたように感じる。
 FR1MK2は、粒立ちが細かく、滑らかに磨きこまれているために、透明度があり、柔らかく爽やかな音を聴かせる。低域のアタックは少し丸味があり、中低域は豊かでよく響くタイプである。表情はマイルドで、音にあまりコントラストをつけず、薄陽のさした風景のような感じのデリケートな滑らかさと、柔らかな響きの豊かさを兼備したクォリティの高さが魅力である。
 FR1MK3は、MK2にくらべ、中低域の響きはやや抑えられるが、音の芯が明瞭になり、軽くクリアーで爽やかな感じが出てきた。聴感上の帯域バランスは、MK2よりも一段とフラットに感じられ、低域はよくダンプされ、腰が強く明快であり、中高域から高域の粒立ちが微粒子型で芯がシッカリしており、音のディテールが見事に再生され、フレッシュで反応は早いタイプである。このタイプではとかく中域が薄くなりやすいが、MK3は中域が充実していることが大きなメリットである。表情はやや素気ない感じがあり、現代的なクールな感じと受け取れる。
 FR5Eは、全体に、音を美しくキメ細かく聴かせる特長がある。音の粒子は細かく滑らかで、音の細部を引き出して聴かせるところは、MC的なMM型といった印象がある。音像は小さくクッキリと立ち、フレッシュでイキイキとした表情がある。クォリティが高くキレイに音を表現するところは、やや女性的であり、高級コンポーネントシステムと組み合わせて使うと、見かけよりも芯がカッチリとし、鮮度が高いメリットが引き出されると思う。
 FR6SEは、FR5Eを女性的とすれば男性的な感じが強いカートリッジである。全体に、音の芯が強く線を太く表現し、適度の力感がこれをサポートし、安定感がある。低域は量感がありやや甘口だが、中低域は豊かでよく響くタイプである。音を外側からシッカりと掴み、細部にこだわらずまとめる性質は、FR5Eと対照的で面白い。
 FR101SEは、系統としてはFR6SE系の音である。低域のダンプは標準型で量感もあり、中低域に耳あたりよく響く豊かさがある。ヴォーカルは少しハスキー調となるが、まとまりはよく、現代的なクールさがある。反応は早いタイプで鮮度が高く、表情はFRのカートリッジ中もっとも若い感じだ。
 FR101は、低域は101SEより一段とソリッドになり、汚れがなく、全体に音を明快にカッチリと聴かせる。低域から中低域の腰が強く、しかも弾力性があり、エネルギー感が充分にある。とくに、この中低域は適度の甘さがあるのがよい。思い切りよくストレートな表現は、かなり魅力的である。

エクセル ES-70S/II, ES-70EX/II

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 ES70EX/IIは、単体の市販カートリッジとしてはローコストな、CD−4システムに使用可能な点が特長である。全体にこの種のワイドレンジタイプ共通の低域が甘口で、間接音成分をタップリとつけて鳴るが、粒立ちは細かく、汚れが少ないメリットをもっている。高域がアラくなりやすい普及型ブックシェルフスピーカーとの組合せで好結果が期待できそうだ。
 ES70S/II。低域は、ダンプされて締っており、70EX/IIとは対照的な低音である。スケール感は少なくなるが、音に活気かあり、早いテンポのプログラムソースにリズミックに乗れる点が好ましい。ヴォーカルはやや粗いが、音像がクッキリと前に出て浮かび上がり、コントラストが付くのは面白い。価格対クォリティの比も充分にある。

デンオン DL-107, DL-109R, DL-109D, DL103, DL103S

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 デンオンのカートリッジは、SPの頃から業務用として開発され、現在の主力製品であるDL103およびDL103Sも放送を中心とした業務用の使用がほとんどで、製品としての信頼度や安定度が高く、製品間のバラツキがないことがもっとも大きな特長である。
 DL103は、低出力MC型で、AU320トランスを使用する。このカートリッジは定評が高いモデルだけに、安定したオーソドックスな音をもっている。現在のワイドレンジ型カートリッジとくらべれば、やや音の粒子は粗く、聴感上のSN比が気になることもある。聴感上の帯域バランスはナチュラルで過不足がなく、カラリゼイションが少ないために、この音を聴くとやはり業務用の標準カートリッジらしい風格が感じられる。音の輪郭はクリアーだが、線は少し太いタイプである。性質はマジメ型で落着いた印象を受けるが、表情はやや抑えられるようだ。プログラムソースとの適応性が広く、広範囲の使用に安定した音を再生するところが、よくも悪くも特長である。
 DL103Sは、103とくらべて粒立ちが細かく、より色付けが少なく、ワイドレンジ型である。聴感上の帯域バランスは、低域が甘口で、中低域あたりにタップリと間接音成分があってよく響き、中域はやや薄めで、高域はナチュラルによく伸びている。ヴォーカルのニュアンスをよく引き出し、ピアノも少し軽い感じにはなるが、スケール感があってよく響く。音場感はDL103よりも左右に拡がり、前後方向のパースペクティブを聴かせるが、音像はさしてクッキリと前に立つタイプではない。滑らかで歪感が少ない音だが、力感や実在感は、むしろDL103のほうがよい。トランスを使わずヘッドアンプの良質なものを使ったほうが、音の密度が濃くなり、爽やかで鮮度が高い現代型の音になるようだ。最新録音のプログラムソースとワイドレンジ型スピーカーを使う場合には、DL103よりもこの103Sのほうがはるかに結果がよい。
 DL107は、主に業務用として開発されたMM型で、現在の109シリーズのベースとなったモデルである。低域はダンピングが甘く、高域が上昇しているようなバランスをもつために、音のコントラストがクッキリとつき、華やかな感じの音である。
 DL109Dは、4チャンネルシステムに使用するワイドレンジ型のモデルである。粒立ちが細かく滑らかであり、低域が少し甘口であるが、中高域に輝きがあり、ヴォーカルは細かくなるが音像がよく浮び上がり、ピアノはスケールは小さいがクリアーに響く。音場感は広い空間を感じさせるタイプで、音像はクッキリと前に立つ。全体の表情はおだやかで、クォリティもかなり高い音である。
 DL109Rは、109Dとくらべ、粒立ちは少し粗くなるが、低域の腰が強く、音に厚味があり、力強い特長がある。音の輪郭が明瞭で、クッキリと音像は前に立づ。表情が若く活気があるのは109Dより面白い。

コーラル 777E, 666EX

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 666EXは、中低域の量感が豊かで質感の表現が甘くなり、全体の印象はややウェットなタイプと感じられる。表情がおだやかなのは特長となるが、音楽がややムード的に流れる傾向があり、重い音を軽く表現する面がある。音場感はよく拡がるが、定位は明快なタイプではなく、広いホールのライブレコーディングを聴いているようだ。いま少し、アクティブな感じが欲しくなる音だ。
 777EはMC型で、T100トランスを使用した。この音は基本的にはウェット型だが、中域の粒立ちが少し粗いようで、ヴォーカルではややハスキー調となり、押出しがよく迫力がある。ただ、低域は表情が甘く、質感を重く聴かせるために、どうにも音が決まりづらい面があり、中域の特長が活かしきれないのが残念な点だ。

オーレックス C-550M, C-404X

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 C550Mは、中域の粒子が粗いようでちょっと聴きにはスッキリとした音とも受取れるが、聴感上のSN比が気になることもあり、ヴォーカルもニュアンスの再現が不足するようだ。これにくらべ、中低域あたりから低域はソフト型だが量感があって全体の音の表情を、おだやかで、耳ざわりのよいものとしている。
 C404Xは、エレクトレット・コンデンサータイプだが、低域が豊かでスケール感があり、全体の音のクォリティは高い。音の性質は素直で、プログラムソースにたいして軽くしなやかに反応を示し、表情は、しっとりとした滑らかさがあって、やや、広いホールの良い席で音楽を聴いているような印象がある。ヴォーカルは、あまり、子音を強調せず、軽くナチュラルな感じが好ましい。

オーディオクラフト AC-10E

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 オーディオクラフトのカートリッジAC10Eは、全体の音の傾向として、最近同社から発売されたコントロールアンプAC3001と似た音をもっている。
 聴感上の帯域バランスは、無理がなく自然にコントロールされ、歪感がなく、おだやかで、大人っぽい印象があるのが特長である。全体に音の粒立ちは細かいタイプで、滑らかな柔らかさがあり、艶やかさもあるために、表情はおだやかである。低域から中低域にかけての質感は甘く、軽い音であるために、ビートが効いたリズミックなプログラムソースではやや不満が残るが、逆に、適度に音場感を感じさせるような適度の間接音が全体の音をフワリと包んで響くあたりはメリットと思う。音と対決して聴き込むタイプではないがマイルドな性質は好ましい感じである。

オーディオテクニカ AT-11d, AT-13d, AT-14E, AT-14Sa, AT-15E, AT-15Sa, AT-20SLa

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 AT15Eは、ソリッドで力強く、クリアーな音である。粒立ちはこのクラスの標準だが、芯が強くシッカリしているのが目立つ。帯域バランスはナチュラルで、よくコントロールされ、とくに低域がよく伸ぴ、腰が強く引き締まったソリッドな音であることが、国内製品としては珍しい。中域もエネルギーがタップリとあり、薄くならず、高域も必要にして充分な伸びがあり、無理に伸ばした感じがない。表情は、国内製品としては大きくダイナミックであり、押出しがよい。音場感は左右に拡がるがパースペクティブな引きが少なく、音像は前に出てくるタイプだ。中低域の響きがよく、雰囲気もよく出すが、性質はややドライなタイプで、男性的な割り切った魅力がある。
 AT15Saは、15Eとは同系のモデルナンバーをもつが、音的にはまったく異なった製品である。粒立ちは細かく、表情はおだやかで大人っぽさがある。低域は甘口であり、中低域はまろやかに響き、豊かさがある。ヴォーカルは子音をやや強調するが、ソフトで耳あたりよく、ピアノは暖かみがあり、適度の間接音を伴って響く。音場感はスピーカー間の奥深く後に拡がるタイプで、ゆったりと聴くためには相応しい。性質は、15Eとは対照的に、ややウェット型である。
 AT14Eは、15Eよりも粒子は粗くなり、全体の印象では軽く反応が早いキビキビした表情があり、音の鮮度が高いメリットがある。低域は腰は強いが、やや15Eよりも柔らかく量感があり安定している。中域から中高域は、明快で音にコントラストを付け、硬質なストレートな魅力となっている。感覚的にフレッシュで、割り切った音は、力感もあり、リアルで楽しい。
 AT14Saは、粒子を細かくし、線が細くなったAT14Eといってよい。低域から中低域が豊かで柔らかく、中高域は輝く感じがあり、全体の印象はワイドレンジのハイファイ型である。
 AT13dは、15や14系とは異なった、中域を重視した安定感があるバランスの音である。音色の傾向はウォームトーン系で、低域には量感があり柔らかく、中低域も充分にあるため安定感がある。中域以上はやや粒立ちが粗く、高域は適度にコントロールして抑えてある。ヴォーカルはやや大柄になり、音像の立ちかたは平均的水準だろう。適度のスケール感をもち、マクロ的に音をまとめるため、小型スピーカーシステムには適していると思う。
 AT11dは、13dよりも中低域が軽く響き、全体は適度にメリハリが効いたウォームトーン系で、トータルバランスがよく汚れが少ないため、幅広いプログラムソースをこなす特長がある。強調感が少なく、音像はナチュラルに立つタイプだ。
 AT20SLaは、AT15Eのグレイドアップモデルといった音で、低域が締まり、音の芯が強く、充分に洗練された高いクォリティをもっている。音像はクリアーに立ち、音に透明感があり、爽やかで明るい。

パイオニア CS-616

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 ハイポリマーを使ったスピーカーシステムを発売するなど意欲的な製品開発をみせるパイオニアの新製品は、現代的な感覚のダイナミックで、歯切れがよく、パンチの効いた音をもつ、3ウェイスピーカーシステムCS−616である。
 スピーカーシステムでは、音色と出力音圧レベルは、密接な関係があり、一般的にダイナミックな音と感じるシステムは出力音圧レベルが高いことが多い。CS−616も、出力音圧レベルは93dBと高く、結果的な音とマッチした値と思われる。
 エンクロージュアは、円筒状のポートをもったバスレフ型で、最大許容入力100W、実質的には200Wに達する入力に耐えられるようにリジッドに作られている。
 ユニット構成は、30cmウーファーをベースとした3ウェイシステムである。ウーファーは、大型のダイキャストフレームを採用し、8本のネジでバッフルボードに取付けてある。コーン紙は、マルチコルゲーションが付き、材質にはカーボンファイバー混入したコーンに、広帯域にわたりスムーズなレスポンスを得るために、音響制動材をコーティングしたものだ。また、磁気回路は、第3次高調波歪を軽減するためとトランジェント特性を改善するために、銅キャップ付である。
 スコーカーは、10cmのコーン型で、フレームは強度が高く共振が少ないアルミダイキャスト製である。コーン紙は、質量が軽く、エッジワイズ巻ボイスコイルの採用で能率が高く、耐入力性が高いタイプである。トゥイーターも、スコーカーと同様にコーン型が採用されている。このユニットも、アルミダイキャストフレームを採用し、リニアリティをよくするために、エッジにはロール型クロスエッジを採用している。
 各ユニットは、いわゆる左右のスピーカーユニットの配置がシンメトリーになっている左右専用タイプで、各チャンネル専用のシステムがペアとなっている。
 CS−616は、3ウェイシステムらしい中域が充実した安定感のある音をもっている。音色は、やや明るいタイプで、中域がやや粗粒子型と受取れるが明快で力強さが感じられるのがメリットであろう。低域は、床から50cm程度離した状態がもっともよいようだ。これ以上、床に近づけると、低域が量的に増えて表情が鈍くなる傾向がある。最適位置でのこのシステムの低域は、量感があり、腰が強く押し出しがよいが、やや重いタイプである。
 ステレオフォニックな拡がりは、このクラスとしてはスタンダードで、前後のパースペクティブをとくに感じさせるタイプではない。音像定位は安定で、コントラストがクッキリと付いた2ウェイシステムと比較すると、シャープさはないが、むしろナチュラルな良さがあるように思われる。トータルなバランスがよく、安定して幅広いプログラムソースをこなすのが、このシステムの持味といってよい。

トリオ LS-77

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 このところ、2〜3万円クラスのスピーカーの新製品では、新材料や新デザインを導入した意欲的な製品が多い。
 トリオの新スピーカーシステムは、従来からも、ドロンコーンをもつバスレフ型のスピーカーシステムを開発してきたキャリアーをいかし、さらに、音像定位を明確化するために、例外的なコアキシャルユニットを採用した、注目すべき製品である。
 ブラック仕上げのエンクロージュアは、18mm厚の高密度ホモゲンでつくられ、エンクロージュア内の共振を分散するための補強がおこなわれている。
 使用ユニットは、ダイキャストフレームを採用した25cm口径のウーファーとラジアルホーン付のトゥイーターを同軸上に配置したコアキシャル2ウェイユニットと、同じフレームを使ったパッシブコーン、つまりドロンコーンが組み合わせである。
 マルチコルゲーションが付いたウーファーのコーン紙は、重量が8・3gと軽量であり、酸化チタンがコーティングされている。このコーンは、形状がほぼ、ストレートコーンともいえる、わずかにカーブをもっており、スムーズでキャラクターが少なく、伸びのある中音が得られるとのことである。
 トゥイーターは、振動板に、ルミナーにアルミ蒸着したものを採用し、ホーンはアルミダイキャスト、イコライザーは亜鉛ダイキャスト製で、ホーン鳴きを防止するために、ホーンの裏側にはゴム板を貼付けてダンプがしてある。
 パッシブコーンは、ウェイトを交換して低音をコントロールできるようになっている。標準としては、重量が30gあるウェイトが、コーン中央にネジ止めされているが、別売りのウェイト・オプションPW−77を使えば、低音不足を補う、20gのブースティング用ウェイト、低音が出すぎたり、中低音がカブル場合に使う、40gのダンピング用ウェイトが使用できる。
 標準ウェイトとウェイト・オプションは場合によれば、重ねて使用することも可能であるために、部屋の音響条件や、設置場所により、ウェイトを調整すれば、低音をかなりの幅でコントロールすることができる。一般に、この種のスピーカーシステムでは、部屋に応じて、最適の低音が得ることができれば、トータルなバランスは比較的にコントロールしやすいものである。ブックシェルフ型の特長である設置場所が自由に変えられるメリットに加わえて、パッシブコーンにより低音再生が調整可能な、このシステムは、良い低音再生をするために大きな可能性があると考えてよい。
 このシステムは、ホーン型トゥイーターを使った同軸型ユニットという特長があるために、クロスオーバー周波数が4kHzと高いことが音色にも影響しているようだ。バランス上では、中域が、やや薄く、声の子音や弦に独得のオーバートーンがつくが定位はシャープで、音色は明るい。

Lo-D HCA-8300

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 アンプの分野では、今年になって、目立つ傾向は、独立したコントロールアンプとパワーアンプを組み合わせて使う、いわゆるセパレート型アンプの発売が多くなってきたことである。
 この、HCA−8300は、ロー・ディー初のコントロールアンプで、高能率E級パワーアンプ、HMA−8300とペアになるモデルである。
 フロントパネルは、フラットフェイスのブラック仕上げで、オプションのキャリングハンドルを両側に取付けることができる。リアパネルは、入出力端子が傾斜した構造を採用し、入出力コードの接続が便利であり、入出力コードの保護を兼ねたコの字型アングルが両側にある。
 この製品は、価格としては、ローコストのモデルだが、機能、性能は、はるかに高価格なコントロールアンプに匹敵するものがある。まず、機能は、フル装備で、レベルつ調整可能なフォノ1入力、4連32接点ディテント型ボリュウム、左右チャンネル独立使用可能な高音と低音トーンコントロール、ヘッドフォン専用アンプ内蔵、それに、リードレール使用の電源ミューティングなどを備える。性能的には、初段FET差動3段直結7石構成のイコライザーは、400mVの許容入力と±0・2dB以内のRIAA偏差であり、トーン回路も初段FET差動3段直結アンプを採用した低歪、ローノイズ設計となっている。

ヤマハ NS-500

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 このシステムは、NS−1000M系のシリーズに属する製品である。エンクロージュアは、ブラック仕上げであるが、完全密閉型ではなく、円筒形のダクトをもったバスレフ型が採用してある。
 ユニット構成は、25cmウーファーをベースとした2ウェイシステムだが、トゥイーターに、ベリリュウムを使った2・3cm口径のドーム型が使ってある。
 ウーファーは、円形のアルミダイキャストフレーム付で、ノーメックスボビンと、専用に開発した軽く硬いコーン紙を使用し磁気回路は銅キャップ付のアルニコマグネットを使っていることに特長がある。
 トゥイーターは、20kHz以上までピストン領域をもつ、タンジェンシャルエッジ付ベリリュウム振動板に、エッジワイズ巻ボイスコイルを熱処理してダイレクトに接着したタイプで、17500ガウスの高磁束密度の磁気回路が組み合わせてある。
 ネットワークは、空芯コイルとMMタイプコンデンサーを使用し、ネットワークは樹脂モールドされ、振動の影響を防ぎ、磁気的な影響のない位置に取付けてある。

ヤマハ NS-690II

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 このシステムは、6万円台のスピーカーシステムとして代表的な存在であった、NS−690をベースとして改良が加えられた第2世代のスピーカーシステムである。
 外見上では、レベルコントロールの下にヤマハのバッジが付いた以外には、あまり変化はないが、各ユニットは、全面的に変更してあり、結果としては、モデルナンバーこそ、NS−690を受継いではいるがまったくの新製品といってもよいシステムである。
 ウーファーは、NS−1000系のマルチコルゲーション付コーンが採用してあるのが変った点である。サスペンションではエッジがウレタンロールエッジとなり、ダンパーの材質と含浸材が新タイプになった。また、ボイスコイルボビンは、220度の耐熱性をもつ米デュポン社製ノーメックスとなり、磁気回路では、低歪対策として、センターポールに銅キャップが付いた。
 スコーカーは、トゥイーターともども、新しい振動板塗布剤が採用され、ボイスコイル接着剤の耐熱性が改善されている。トゥイーターでは、ボイスコイルに熱処理が施され、スコーカー同様に耐熱性が高くなっている。
 エンクロージュアも、全面に高密度針葉樹系パーティクルボードを採用し、ウーファー背面にNS−10000同様の補強板を付けてあり、重量が単体で、NS−690にくらべ、36%重い、18・5kgになっている。
 NS−690IIの音は、基本的には、NS−690を受継いでいるが、低域が充実して、安定感を増したために、全体に、音の密度が濃くなり、ユニットの改善で、音伸びがよくなったために、トータルのグレイドは、かなり向上している。

オーレックス C-550M

井上卓也

ステレオサウンド 38号(1976年3月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 このカートリッジは、発電方式は、MM型であるが、振動系のカンチレバーにカーボンファイバーを採用している。カンチレバーは、グラスファイバーの0・37mm径のソリッド材を使用し、針先には、オーレックスで開発したエクステンド針を使っている。このタイプは、音溝との接触が、カッティングレースのカッター針に近い、ラインコンタクトタイプで、高域の分解能が優れ、接触面積が大きいために、針先、音溝両方の摩耗が少ない特長がある。この針は、ダイヤモンドと同等の硬度をもつコランダム結晶を研磨している。

サンスイ SR-323

井上卓也

ステレオサウンド 38号(1976年3月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 サンスイからの新しいプレーヤーシステムは、シンプルなデザインをもつ、ベルト・ドライブ方式の製品である。
 直径30.3cmのアルミ合金ダイキャスト製のターンテーブルは、重量が1.1kgあり、4極シンクロナスモーターで、ベルト・ドライブで駆動される。
 トーンアームは、実効長220mmのS字型ユニバーサル型であり、針圧は、メインウェイトを回転して印加する。トーンアームの付属機構は、ラテラルバランサーと、SMEタイプのインサイドフォースキャンセラーがある。回転軸受部分にSMEと逆方向に出たバーがバイアスカーソルで、0.5gステップで2gまで針圧対応でバイアスをかけることが可能である。付属カートリッジは、MM型で0.5ミル針付である。

デンオン SL-71D

井上卓也

ステレオサウンド 38号(1976年3月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 デンオンのフレーヤーシステムでは、DP−3700Fのように、モデルナンバーの頭文字がDPではじまる一連のシリーズが、よく知られているが、今回、発売された、新しいシステムは、モデルナンバーがSL−71Dと付けられていることからもわかるように、異なったシリーズであり、以前のベルトドライブ型プレーヤーMTP−701などの後継機種と考えられる。
 直径33・8cmのアルミダイキャスト製ターンテーブルは、その外周部分が一段落ちになっていて、この部分に、ストロボのパターンが刻まれ、プレーヤーベースの左手前にある大型のネオンランプで照明されるが回転数の確認は、容易なタイプである。
 トーンアームの下側のパネルには、操作部分が集中し、それぞれが単機能でコントロールされる方式である。実効長235mmのS字型のパイプをもつトーンアームは、スタティック・バランス型で、メインウェイトを回転して、0.1gステップで3gまで針圧を印加できる。アームに付属するアクセサリーは、インサイドフォース・キャンセラーとアームリフターがある。アームは、全体が黒で統一してあるために、カーボンファイバー製とも思いやすいが、充分な剛性を得るために、硬質アルマイト加工された結果である。付属カートリッジはJM−16は、MM型で、0.5ミル針付のものだ。
 DD方式のモーターには、アウターローター型、ACサーボモーターを使用しており、回転数の制御は、周波数検出型である。
 本機は、このクラスのプレーヤーとしては、これといって目立つ点が少なく、平均的な印象の製品だ。しかし、いわゆる音のよいプレーヤーという言葉があるが、結果として得られる音質は、かなり高級プレーヤーに匹敵するものがある。全体に、音が引締まり、力強く、とくに、中域の下から低域にかけてこのことが著しい。
 プレーヤーシステムの音の差は、よく問題にされるが、現実に機種間の差は、かなりあり、その程度は、少なくともアンプ以上である。選択にあたって、ヒアリングテストが不可欠である。

「柳沢氏の再生装置について」

井上卓也

ステレオサウンド 38号(1976年3月発行)
特集・「オーディオ評論家──そのサウンドとサウンドロジィ」より

 柳沢氏のスピーカーシステムは、マルチアンプでドライブされている。使用ユニットは、アルテックが中心で、ウーファーが38cm型の416A、スコーカーが804Aドライバーユニットと511Bセクトラルホーンのコンビ、トゥイーターはパイオニアのリボン型ユニットPT−R7である。
 ウーファーの416Aは、現在の416−8Aの前身で、ボイスコイルのインピーダンスが16Ωであることをのぞいて性能は変わらない。エンクロージュアは大型のバスレフ型620Aで、もともとアルテックの最新の同軸型全域ユニット604−8G用であるため、416Aの取付けはかなり苦労されたようだ。というのは、フレーム構造が、416Aはバッフル板の後から取付けるタイプであるが、604−8Gは前面から取付けるタイプと、異なっている。そこで、416A用ガスケットを利用して前面からの取付けを可能としたとのことだ。
 ドライバーユニットの804Aは耳慣れないモデルであるが、806Aの前身であり同等の性能をつものと考えられる。柳沢氏は、このユニットのダイアフラムを一度シンビオテック・タイプの16Ω特註品に交換し、さらに現用しているものは、高域レスポンスが改善された最新型の604−8Gに採用されているタイプに置き換えてある。
 セクトラルホーンの511Bは、現在ではマットブラック塗装に変わっているが、古くから愛用されているために、鮮やかなメタリック調のアルテックグリーンに塗られ、ホーン内部の仕上げも入念に工作がされていて、とても同じモデルとは思われないほどに印象がちがっている。このホーンは、視覚的な面とホーンの共鳴音を避けるために、木製のケースに入れてダンプしてある。
 アンプ系は、コントロールアンプがマランツの管球タイプ♯7である。チャンネルデバイダーはソニーTA−4300Fで、クロスオーバー周波数は8kHzと600Hz、スロープは18dB/oct.である。パワーアンプ群は、高音用がパイオニアEXCLUSIVE M4、中音用にマッキントッシュMC2105、低音用はモノ構成の管球タイプである♯9×2である。
 プレーヤーシステムは全部で3系統あるが、メインシステムにつながれるのはトーレンスTD124に柳沢氏自作のトーンアームとオルトフォンSPU−Aの組合せと、ガラード301にFR FR−54とオルトフォンSPU−Aのコンビの2台である。もう1系統はラックスPD121にFR FR−54とシュアーV15/IIIを取付けたシステムである。
 テープデッキはルボックスHS77、チューナーはマランツ♯10Bがメインだ。
 その他のアンプにはマッキントッシュC26、マランツ♯15、チューナーではマッキントッシュMR77と、パイオニアEXCLUSIVE F3がある。
 いずれ中音用アンプをマランツ♯15に置き換えて、マッキントッシュのラインナップを独立させ、ラックスのプレーヤーと組み合わせて、試聴用などのスピーカーをドライブするために使いたいとのことである。
 柳沢氏の音は、アルテックを使いながら、いわゆるアルテックサウンドは異なった音にまで発展させている点に特徴がある。

「山中氏の再生装置について」

井上卓也

ステレオサウンド 38号(1976年3月発行)
特集・「オーディオ評論家──そのサウンドとサウンドロジィ」より

 山中氏は、スピーカーシステムについてはつねに大型フロアーシステムを愛用される。現在は、エレクトロボイスのパトリシアン600だが、知られている限りにおいても、アルテックのA−5、ヴァイタヴォックス191コーナーエンクロージュア、JBLハーツフィールドがあり、アルテックとJBLは現在でも所有されている。
 パトリシアンは、エレクトロボイスのトップモデルとして、1940年代に発表されて以来、数次にわたる改良を加えられ、1963年発表の800を最後に生産は中止されたが、600は、パトリシアンシリーズがそのもっとも高い完成度を示した記念すべきモデルと思われる。エンクロージュアは、フロント・ホールデッドホーン方式としてクリプッシュのパテントによる、いわゆるクリプッシュKホーンで、その外径寸法は、96・5×148・6×76・2cm(W・H・D)、重量は、推定であるが140kgを軽くこすだろう。外径寸法を最終モデルとなった800と比較すると、幅12・7cm、高さ19・1cm、奥行5・7cm大きい。
 ユニット構成は、オールホーン型4ウェイ・5スピーカーシステムである。ウーファーはホーンロード用の46cm口径18WK、ミドル・バスが折返し型ホーンとドライバーユニットを組み合わせた828HFが2個、ミドル・ハイがT25Aドライバーユニットと6HDホーンのコンビ、トゥイーターはT350である。クロスオーバー周波数は200Hz、600Hz、3500Hzと発表されている。エレクトロボイスのドライバーユニットは、ダイアフラム材質が硬質のフェノールであることが特徴で、音色は、ウエスターン系の軽金属ダイアフラムとはかなり異なった、マイルドで弾やかである。
 アンプ系は、取材時には3種類のシステムが使われた。第一はマランツ♯7と♯2×2、第二はハドレー♯621とマランツ♯2×2、第三が米国の新進メーカーGASのテァドラとアンプジラである。
 山中氏のリスニングルームには、米国系を中心としたセパレートアンプ群が整然と置かれているが、そのいずれもが最新の製品のように美しくレイアウトされ、しかもスイッチ操作ですべてが動作する。つまり、これらのアンプ群はすべて現用機であり、生きていることに深い感銘を受けた。まさに驚異的とも思われる保守の見事さであり、想像を絶する努力の結果であることにほかならない。
 これはプレーヤーシステムでも同様で、完全に復元され動作するフィッシャーの両面を演奏可能なオートチェンジャーに代表されるように、かつての名声をほしいままにしたレクォカットやトーレンスのプレーヤーシステムが現用機として使われている。テープデッキはこれまた機種が多い。アンペックス300は、現在のAG440を電気機関車にたとえれば、まさしくSLといった存在で、そのダイナミックな音はすさまじいエネルギーを秘めている。棚に乗っているルボックスG36、サムソナイトのケースに入って目立たなく置かれたアンペックス600など、それぞれが一時期を画した名器だ。
 この部屋で聴く音楽は、スケールが大変に大きく、細やかであり、力強い。そのうえ、ステレオフォニックな音場は幅広く拡がり、奥行きは、部屋の壁をこえて彼方の空間につながっているように感じられた。

スペックス SD-909, SDT-77

井上卓也

ステレオサウンド 38号(1976年3月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 スペックスからは、MC型のSD−909である。このカートリッジは、共振を防ぐために、カートリッジのボディに、航空機用の軽合金を使い、共振点の異なる2つの材質が共振を打ち消す構造である。
 振動系は、78・5%PCパーマロイを使った巻枠に巻いたコイル、つまり発電系と、カンチレバーの振動支点が一致するワンポイント支持方式を採用し、温度変化にたいして一定のダンピング係数を保つために、異なった性質の材料を2枚合わせてプッシュプル方式を採用している。
 SD−909は、MC型で、精密な作業をおこなうために、少数生産でつくられ、一日に21個しかつくれないとのことだ。
 SD−909などの低出力MC型カートリッジの昇圧用トランスとして、スペックスでは、SDT−77が用意されている。このトランスは、SDT−180newのトランス本体をベースとし、より使いやすくよりスペースをとらない小型にするために、かずかずの改良が加えられている。
 この種の昇圧トランスは、入力インピーダンスのマッチングを、切替によっておこなうのが一般的であるが、ここでは、切替不要の独得のトランス設計により、2〜50Ωのインピーダンス範囲では、切替なしで使用できるとのことである。
 SD−909を、SDT−77をペアにして使ってみる。従来からも、スペックスのMC型カートリッジは、音色が明るく、力強い音を特長としていたが、SD−909は、この系統を受継ぎながら、さらに、音の密度が高くなり太い線も表現できるMC型としてユニークであると思う。

「長島氏の再生装置について」

井上卓也

ステレオサウンド 38号(1976年3月発行)
特集・「オーディオ評論家──そのサウンドとサウンドロジィ」より

 長島氏のスピーカーシステムは、大型のジェンセン・インペリアルシステムと呼ばれていたものだ。いまではジェンセンというブランドネームはポピュラーではないが、古くSP時代からLP全盛期にわたり、スピーカーユニットとしては国内でかなり愛好されていた。とくにSPの頃には、明快で歯切れのよいスピーカーとして定評があり、ローラ・セレッションの前身のローラのスピーカーユニットが柔らかく滑らかな音をもっていたのとよく比較されたものだ。
 インペリアルシステムは、83×140×70cm(W・H・D)の外径寸法と約95kgの重量をもつ大型システムだが、コーナー型エンクロージュアの後をカットしたようなセミコーナー型ともいえる形態をもち、そのうえ、シンプルなバックロードホーン型であるのが特徴である。このバックロードホーンは、一般的なエンクロージュアの天板部分に開口部があり、部屋のコーナーに置いて両側の壁面と天井をホーンの延長として使う場合と、全体を倒立させて両壁と床面をホーンの延長として使う方法の二種の使用が可能であるが、長島氏の場合は床側にホーン開口部を置く使い方である。
 使用ユニットは、ジェンセンのトライアクシァル型フルレンジユニットG610Bで、3ウェイ同軸型としては歴史が古く他に例のない存在である。このユニットの前身は、LP全盛期に最高のスピーカーユニットとして、高価のあまり買うという実感とはほど遠かったG610であり、変わったのは、コーン紙前面のブリッジ上にセットされたトゥイーターのホーンが、円型から矩型になったことくらいである。
 ウーファーは、ホーン型中音と高音ユニットの能率に合わせる目的で、おそろしく強力な磁気回路をもっていて、特性的には低域に向かってレスポンスが下がる典型的なオーバーダンプ型である。中音は、布目の細かいフェノール系のダイアフラムが特徴で、形状はウェスターンの555と同様な特殊なタイプである。ホーンはウーファーの磁気回路を貫通してウーファーコーン紙をホーンとして使っているのはタンノイと同じだが、磁気回路は独立しており単独に取外し可能な構造になっている。トゥイーターは、中音と同じくフェノール系のダイアフラムをもつホーン型で、かつての円型ホーンをもっていたユニットは、単体として、たしかPR302という型番で発売されていた。
 アンプ系は、マランツの管球タイプのシャープ7コントロールアンプと♯2×2の構成。プレーヤーシステムは、エンパイア598ニュートラバドールとオルトフォンSPU−A/Eのコンビ、テープデッキがルボックスのHS77、FMチューナーは珍しいルボックスFM−A76。
 長島氏のインペリアルシステムから出る音は、中音と高音のレベルセットが異例ともいえるMAXであるが、長島氏の長期間にわかるエージングの結果、ナチュラルなバランスであり、とくに低域が、バックローディングホーンにありがちな固有音がまったく感じられず、引締り重厚であるのが見事である。G610Bが同軸型であり、システムがコーナー型であることもあって、部屋のなかでの最良の聴取位置はピンポイントであり、そこでのみ音像が立ち並ぶ独得なステレオフォニックな音場空間が拡がる。

「岩崎氏の再生装置について」

井上卓也

ステレオサウンド 38号(1976年3月発行)
特集・「オーディオ評論家──そのサウンドとサウンドロジィ」より

 岩崎氏はふたつのリスニングルームを使いわけている。そのひとつは、JBLのパラゴンが置かれた部屋である。パラゴンの両翼には、アルテックの620Aエンクロージュアに入った604−8Gが乗せてあり、その両側にはJBLのハークネス、その対称面には、同じくJBLのベロナが置いてある。スピーカーユニットは、JBLのプロフェッショナル用をはじめ、アルテック、ボザークなどが転がっており、大型のセパレート型アンプや、プレーヤーシステムまでが山積みになっている。それらはエキゾチックな家具とともに、部屋の空間のなかを自由奔放に遊び回っている子供のように存在しているが、何とも絶妙なバランスを見せているのは不思議にさえ思われた。
 メインシステムであるJBLパラゴンは、低域までがフロントローディングホーンとなっている。いわゆるオールホーン型システムで、ステレオ用がひとつの素晴らしいデザインに収まっており、ユニークな円弧状の反射板をもっているために、独得なステレオのプレゼンスが得られる個性的なシステムだ。
 プレーヤーシステムは、いわゆるプレーヤーシステムの枠をこえた構造をもつマイクロのDDX−1000ターンテーブルと、MA−505の組合せであるが、その置かれている場所は、予想外にパラゴンの中央部の上である。ハイレベル再生では最右翼と思われる岩崎氏のリスニングルームであるだけに、いささか意外とも思われたが、この場所がこの部屋でもっともハウリングが少ない場所とのことである。
 アンプ系は、数あるアンプ群のなかからコントロールアンプには、本来はミキサーとして業務用に使われるクヮドエイトLM6200Rのフォノイコライザーを、パワーアンプには、パイオニアEXCLUSIVE M4のペアである。
 この部屋で聴くパラゴンは、聴き慣れたパラゴンとはまったく異なった音である。エネルギーが強烈であるだけに、使いこなしには苦労する375や075が、まろやかで艶めいて鳴り、洞窟のなかで轟くようにも思われる低音が、質感を明瞭に表現することに驚かされる。2、3種のカートリッジのなかでは、キース・ジャレットの「ケルン・コンサート」のレコードのときの、ノイマンDST62は、感銘の深い緻密な響きであった。パラゴン独得なステレオのエフェクトが、聴取位置が近いために効果的であったことも考えられるが、アンプの選択もかなり重要なファクターと思われる。やはり、このパラゴンの本質的な資質をいち早く感じとり、かつて本誌上でパラゴンを買う、と公表された岩崎氏ならではの見事な使いっぷりである。また、大音量の再生は「美しいローレベルの音を、よく聴きたいためにほかならない」との氏の回答も、オーディオの真髄をつくもである。
 いまひとつのリスニングルームは、アンティークなムードの漂う部屋で照明も仄かであり、マントルピースのサイドに置かれたエレクトロボイスのエアリーズは、煙に燻されて判別しがたいくらいである。マランツ♯1と♯2、♯7と♯16のあるこの空間は、古きジャズを愛する岩崎氏にとって、メインのリスニングよりもむしろ憩いの場であるのだろう。