カートリッジの最近のブログ記事

サテン M-18BX

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岩崎千明


週刊FM No.10(1976年発行)

「私の手にした新製品」より


 今まで、何回となく、こんなによくなった、というメーカーの言葉ほどには変わりばえのなかったサテンのMC型。扱いやすさの点で確かに11型になったとき格段の向上をみせて以来、もっとも大きく音の良さを獲得したのがこのM18ではないだろうか。

 少なくとも、豊かさという点で、どうしても突破れなかったサウンドはM17あたりから、かなりはっきりした変わり方で、今までにない「大らかさ」を音楽の中に加えてきている。そして、サテンでは初めてベリリウム・カンチレバーを作ったのがこのM18BX。もともと、くっきりした繊細感という点では、ひ弱な繊細感の多い国産品の中で目立った存在だったサテンだが、中域から低域にかけての力強さが、はっきりと感じられるようになったのははじめてだ。特にBXはその力強さの点では、かつてないほどの迫力を発揮してくれるのがいい。サテンの場合、針圧の許容範囲の点でクリティカルなのが弱点ともいえるが、それも次第に確実に改良されて向上を重ねてきたのも見逃せない。
 カートリッジ自体の重量の重いのは相変わらずだが、あまり極端な軽針圧用アームさえ避ければ十分に使える。ただこれに変えると必ずアームの水平バランスをとり直さねばならない手間が加わる。しかしMC型としては驚くほど出力が大きく、トランスやヘッド・アンプは不要なので手軽だ。
井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「読者の質問に沿って目的別のベストバイを選ぶより

 カートリッジは、コンポーネントシステムの音の入り口にあるため、トータルのシステムの音にかなりの変化を与えるものである。実際に複数個のカートリッジを用意し、聴いてみれば、容易にバランス、音色、表現などの変化を聴きとることができる。
 ここてテーマとなっている「グレイドアップのワンステップとして......」ということになると、そのベースとなるプレーヤーシステムがどのランクの製品であるかが最大の問題点である。単に、音色の変化などを楽しむということであれば、それなりの他紙の身は味わえるが、確実にグレイドアップをしただけのクォリティ的な改良が得られる、という条件にこだわると大変に難しい。それに、価格的制限が2万円までとなるとなおさらである。ここでは、プレーヤーシステムとして平均的と考えられる、4万円台から6万円台を対象としてみよう。
 カートリッジの価格を2万円までとすると、国内製品ではオーディオテクニカAT14E、FRのFR5E、グレースF8L10、少し範囲をこすか、テクニクス205CIISが考えられる。これらの製品は、発電方式がMM型で使いやすく、音色や表現力の変化というよりは、優れた物理特性をベースとした、付属カートリッジとは一線を画した純度の高い音が得られる。最近、とくに注目されているMC型では、デンオンDL103、サテンM117Eがあり、103はこの場合、最近のアンプには付属していることが多いMC型用ヘッドアンプを使うことになる。ともに、MC型らしい鮮鋭な音と明瞭な個性をもった定評あるモデルである。
 海外製品では、ADC・QLM36/II、AKG・P6E、エンパイア2000E/II、フィリップスGP401II、ピカリングXV15/750E、シュアーM95ED、スタントン600EEなどに注目したい。これらは、国内製品にくらべ個性が明瞭であり、クォリティというよりは音色、表現力の差を楽しむという使い方になる。海外製品には他にも同価格帯、それよりもかなり下の価格帯に興味深い製品があるが、使用するプレーヤーの基本性能、とくに安定にカートリッジを支持できるアームを使うことが前提となる。
 整理すると、素直にクォリティアップを望むなら国内製品のMM型、よりシャープで解像力の優れた音を求めれば、国内製品のMC型、音色の変化や音に対する反応や表現力の変化を期待すれば、海外製品ということになる。
 ここでは、表示価格を2万円までとしたが、実際に購入する価格として考えれば、対象となる製品の幅は飛躍的に広くなり、本格的なカートリッジによるトータルシステムのグレイドアップが可能になるはずだ。
菅野沖彦

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

明解で鮮やかな濁りのない音質が魅力の高級機。
菅野沖彦

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

レコードからレコードらしい音の魅力を拾い上げる製品。

オルトフォン FF15MKII

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菅野沖彦

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

いかなるレコードも着実に再生するお買得な製品。

ビクター X-1II

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菅野沖彦

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

基本設計を着実にリファインしつづけて得られた緻密で高品位の製品。

ソニー XL-45II

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菅野沖彦

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

きわめて高品質な製造仕上げによる高級感溢れるMM型カートリッジ。

シュアー M75ED TypeII

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菅野沖彦

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

絶対に信頼性を持ち得る高い実用性とバランスのよい音が魅力。

ピカリング XV15/625E

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菅野沖彦

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

美しいバランスで音の姿を忠実に再現する実用性の高いカートリッジ。

グレース F-10P

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菅野沖彦

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

カートリッジの長いキャリアを活かした堅実で妥当なバランスが魅力。

ピカリング XSV/3000

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菅野沖彦

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

繊細緻密な美しさと重厚なたくましさを両立させた高級機。

フィリップス GP412II

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菅野沖彦

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

輝かしく艶のある音色は音楽の質を効果的に盛り上げる。

アントレー EC-10

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菅野沖彦

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

MC型の陥りやすいクセをよくコントロールした味のある製品。

デンオン DL-103

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菅野沖彦

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

代表的製品としての風格をもつロングライフな標準機。

オルトフォン SPU-A/E

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菅野沖彦

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

重厚、華麗な生きたサウンドは設計の古さを超越した風格をもつ。

テクニクス 100C

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菅野沖彦

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

最高級品の面目躍如たる作りの高さと精緻な音質をもつMM型。
菅野沖彦

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

すべての音楽を生き生きと血の通った表現で聴かせる安定した製品。

エンパイア 4000D/III

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菅野沖彦

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

彫琢の深いブライトな力強い音質が魅力のカートリッジ。

シュアー V15 TypeIV

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菅野沖彦

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

専門メーカーらしいレコードヘの理解が生んだ最新の設計。
菅野沖彦

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

MC型の特徴を十分発揮した緻密でエネルギッシュな再生音をもつ。

オルトフォン MC20

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菅野沖彦

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

新しい時代の技術水準で伝統をリファインしたMCカートリッジ。

マイクロ SLC80WX

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井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

専門メーカーらしい実力とノウハウを結集したトップランクモデルだ。

スタントン 681SE

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井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

大人っぽい洗練さと力強い表現力をもつ現在では異例の音である。

AKG P6E

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井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

力強く明快で、適度に重厚な魅力をもったAKGらしい魅力である。

AKG P8ES

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井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

音の細部のデリケートさを見事に引き出す高品位で優雅な音が魅力だ。

エンパイア 2000Z

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井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

伸びやかで適度に活気があり、表情が明るい都会的な魅力。

フィリップス GP422II

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井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

軽くしなやかで、独特の艶やかな音は素晴らしい個性である。

ソニー XL-55pro

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井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

ユニークな発電機構を一体化シェルに組み込んだ業務用機器的な魅力。

デンオン DL-103S

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井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

現在の放送局用カートリッジとして抜群の安定度と信頼性の高さ。

グレース F-10L

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井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

バーサタイルに使えるMC型としてトータルバランスの高さが特徴。
井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

シェル一体型の繊細さのなかに暖かさがある新しい魅力がある。

ビクター MC-1

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井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

ダイレクトカップリングの魅力を感じさせる鮮明さが個性的である。

サテン M-18BX

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井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

驚くべき発電効率の高さと超精密工作を誇る芸術品的な貴重な存在。

アントレー EC-10

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井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

細やかなデリケートさとフレッシュさを併せた爽やかさが魅力的。

スタントン 881S

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井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

ラボラトリースタンダードの現在の基準となるスタントンらしい音だ。

デンオン DL-103

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井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

現在最高のロングセラーを誇るMC型の原点ともいえる傑作である。

オルトフォン SPU-A/E

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井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

伝統を感じさせる重厚で洗練された、これならではの貴重な音である。

EMT XSD15

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井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

ディスクの音ながらテープの感覚を感じさせる業務用独特の貫禄。

デッカ Mark V/ee

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井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

正統的なダイレクトカップリングの魅力を一段と洗練した個性派だ。

エンパイア 4000D/III

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井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

高級なブランデーに似た味わいをもったソフィスティケートな魅力。

シュアー V15 TypeIV

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井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

常に新しい話題を提供するシュアーらしさが十分にある製品である。
井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

MC型独特の繊細さに力強さを加えたFR最高の見事な製品。

オルトフォン MC20

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井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

現代的な物理特性のよさをもった新しいオルトフォンの魅力である。

グラド Signature II

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瀬川冬樹

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

高価だが素晴らしく滑らかで品位の高い艶のある音が聴き手を捉える。

オルトフォン SPU-GT/E

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瀬川冬樹

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

この渋い独特の厚みある音質はMC型の里程機として歴史に残る名作。

オルトフォン VMS20E/II

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瀬川冬樹

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

明らかにSPUの傾向を受け継ぐウォームな音質。使いやすい出力。

ピカリング XUV/4500Q

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瀬川冬樹

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

シャープでヴァイタリティに富んだみずみずしい解像力の良さが魅力。

スタントン 881S

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瀬川冬樹

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

4500Qの瑞々しさと400D/IIIのウェルバランスを兼ね備える。

デンオン DL-103D

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瀬川冬樹

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

単なる優等生の枠から脱して音質に十分の魅力も兼ね備えた注目作。

テクニクス 100C

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瀬川冬樹

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

おそろしく精密で手の込んだ使い方でMMの水準を大幅に引上げた。
瀬川冬樹

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

MM型の枠を一歩踏み越えて音楽の核心に迫る生命力に満ちた音質。

エンパイア 4000D/III

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瀬川冬樹

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

MM、MI系カートリッジの標準尺として使える完成度の高い音質。

オルトフォン MC20

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瀬川冬樹

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ'78ベストバイ・コンポーネントより

こんにちのMC型のひとつのスタンダードとなりうるバランスの良さ。

アントレー EC-30

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井上卓也

ステレオサウンド 58号(1981年3月発行)
「Best Products 話題の新製品を徹底解剖する」より

 ひとくちにMC型カートリッジといっても、設計ポリシーから分類すれば、インピーダンスを低く2〜3Ωにとり、出力電圧より出力電流を多く取り出すことを目的とした電力発電効率を重視したタイプ、インピーダンスを数10Ωと高くとり、出力電圧を多く出力電流を少くした、ややMM型などのハイインピーダンス型に近い電圧型のタイプ、その中間の数Ω〜20Ω程度の中間派と、ほぼ3種類が市販されているが、アントレーの製品はもっともMC型らしい低インピーダンス型である点に特長があり、本来は昇圧トランスを使って優れた性能を発揮するタイプだ。
 今回、トップモデルとして発売されたEC30は、アルミ合金シェル一体構造を採用し、ボロンカンチレバーとダイヤチップの銀ロウ接合、センダスト巻枠、パーメンダー削り出しヨークなどに特長がある。
 ET200トランスとの組み合わせた音は、力強くダイナミックな低域をベースとした鋭角的で見事な音を聴かせる。帯域はナチュラルなバランスを保ち、アコースティックな楽器のリアリティは特筆に値する。音の性質は、かなり正統派の優等生で抑制のきいた安定で真面目なタイプである。
井上卓也

ステレオサウンド 58号(1981年3月発行)
「Best Products 話題の新製品を徹底解剖する」より

 カッターヘッドと相似形動作を設計ポリシーとする独自のデュアル・ムービングコイル型カートリッジのトップモデル、AT34を改良発展した同社のトップモデルである。構造上はシェル一体型のインテグレーテッドタイプで、主な特長はカンチレバーに先端0・2mm、基部が0・3mmのテーパード形状のベリリウムのムク材を使い、表面には耐蝕と制動を目的として0・3μm厚の金を真空蒸着して使用している。スタイラスは0・07mm角ダイヤブロック使用でAT34の0・09mm角より一段と小型化された。カンチレバーとの接着部分は銀蒸着を施し、セラミック系接着剤で加熱溶着し剛性を高めている。コイル部分はアニール銀銅線をバナジウム・パーメンダーコアに巻き、磁気回路はバナジウム・パーメンダーヨークとサマリウムコバルト磁石で磁気エネルギーは従来より30%向上しているとのことだ。
 試聴はAT650との組合せで行なった。従来のAT34とくらべ、音の粒子が一段と細かくシャープになり、分解能が向上した点が大きい変化である。テクニカらしい安定したサウンドと、トップモデルらしい安定度をもつ優れた製品だ。

リン Asak

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井上卓也

ステレオサウンド 58号(1981年3月発行)
「Pick Up 注目の新製品ピックアップ」より

 ターンテーブルでの情報損失を重視した高性能33 1/3回転専用ベルトドライブ型ターンテーブル、LP12で特異な存在として知られる英国のスコットランドにあるリンから今回、同社初のMC型カートリッジ、リン・アサックが発売されることになった。
 この製品の特長は、カートリッジボディを剛体化し、トーンアームに強固に取り付ける目的で、可能なかぎり幅広いプロポーションを与えた点にある。これは、針先の振動がカンチレバーを介してボディや磁石を振動させる情報損失をトーンアームとターンテーブルのマスを利用して防止しようという構想に起因した必然的な結果らしい。
 発電メカニズムの詳細は不明だが、規格から推測すれば、コイル巻枠に磁性体を使った、いわゆるオルトフォンタイプのようで、インピーダンス3・5Ω、出力電圧0・2mVと発表されている。
 試聴はLP12とリン・イトックLVIIを組み合わせて行なった。スケールが大きく重厚な低域をベースに、適度に輝きがあり、コントラストがクッキリとついた中域から中高域が個性的である。ローエンドを適度にカットしたことによって得られる安定感が他にはない独特のポイントだ。

ADC Astrion

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井上卓也

ステレオサウンド 58号(1981年3月発行)
「Pick Up 注目の新製品ピックアップ」より

 現在の軽質量、軽針圧型カートリッジの原型とも考えられるADC1をステレオ初期に開発し、一躍注目を集めたADCから同社のトップモデルとしてASTRIONが新しく発売された。
 発電方式は、当然、振動系外部に固定された磁石で振動系のミューメタルを電磁誘導し磁化してMM型と同様な動作をさせる独自のIM(電磁誘導)型である。ASTRIONは、カンチレバー材料にレーザー加工で作られたサファイアシャフトを採用した点が同社初のチャレンジである。硬度が高く、制御が難しい宝石カンチレバーを使いこなすために、振動系支持機構に新しくOrbitalピボットを開発して採用している。IM型独特のカンチレバー重心位置を振動系支点とするためには支持機構が重要な部分だが、ここではミューメタルの精度加工とS9サスペンションブロックという構造で見事に解決を与えている。
 聴感上の帯域バランスは典型的な広帯域型で、伸びた重低音は印象的である。音は滑らかで細かく、余裕のある穏やかさが目立つ。また宝石カンチレバーに聴取れやすい固有音はほぼ完全に制御され、現在市販されている製品ではベストの完成度をもつ。

アントレー EC-20

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井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
「Pick Up 注目の新製品ピックアップ」より

 MCカートリッジ専門メーカーのアントレーからは、先号で紹介したシェル一体型のトップモデルEC30が発売されたが、これに続いてまたもや新製品EC20が発売になった。EC20のリポートの前に、EC30でその後わかった点を、この欄をかりて報告しておきたい。EC30は、MC型カートリッジが広帯域で繊細な音というイメージが強いなかに、力強く、パワフルな音をもつ製品として印象が強いが、力強く音をいきいきと聴かせる反面、MC型らしい彫りの深いシャープな分解能が不足気味であると思う。この点は、その後連続して使う間に、徐々に生硬さが解消して、フレキシビリティとシャープさが出てくるようだ。メーカーに問合せた結果でも、約10時間ほど使うとエージングができて本来の調子になるとのことで、EC30を使用中の読者は、しばらくエージングして使っていただきたい。MC型カートリッジのエージングの例は、お的フォンSPUシリーズなどではいわば常識化されている。最初は音が硬く荒々しいが、使う間にスムーズさが出てきてSPU独特の音になる。そして、絶好調の時期が来たら、そろそろ針交換の時期が来たなということでスペアを用意しておくというのが愛用者の共通パターンだ。
 さて、新製品のEC20は、アントレー初のカンチレバーにサファイアパイプを採用したモデルだ。ムクの棒に較べて50%軽いサファイアパイプカンチレバーは、剛性が高く、音の伝搬速度が速い利点をもつが反面、硬度が高いだけに狂信が発生しやすい欠点をもつ。これを解決するために、EC20ではアルミパイプをサファイアパイプの基部にインサートしステップド・テーパード状としてQダンプをおこない高域共振を抑え、この固有音がつきやすい宝石系カンチレバーのデメリットを解決している。
 磁気回路はサマリウム・コバルト磁石、コイル巻枠は2mm角スーパーパーマロイ使用で3Ω、0・25mVの高出力を得ている。
 EC20は、ナチュラルな帯域バランスと、明るくダイレクトな音が特長。宝石系カンチレバー特有の固有音の発生や逆に過制動の印象はなく、芯が強く活気があり、ダイナミックな音を聴かせる。針圧はアームにより微調整が必要。アームはオイルダンプ型より通常型が性質とマッチした。

オルトフォン SPU-Royal N

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菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

伝統的なSPUを最新の素材と設計でリファインしたカートリッジ。金と銀の混じった自然金にヒントを得たエレクトラム合金を採用し、これをコイルに使ったもの。柔軟なしなやかさと繊細感を持つSPUである。インテグラル・トーンアームでも使えるSPUで、その顔とも言える例のシェルには取り付けられていない。

オルトフォン MC Jubilee

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菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

デンマークのオルトフォンが発売した最新設計によるもので、素晴らしいパフォーマンスを持つ。高性能で高品位な傑作である。従来のオルトフォンとは違って音もより現代的で、すっきりしてしなやかだが、決して弱々しいものではない。意欲的な設計と精密な作りは、さすがにオルトフォン・カートリッジの名門の貫禄である。

イケダ Ikeda 9C V

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井上卓也

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

基本的な発電機構は同社トップモデルIkeda9 Supremoと変らない、ダイレクトカップリング方式の魅力を味わうための注目モデルである。組み合わせるトーンアームはダイナミックバランス型がマストな条件ではあるが、初期の調整をオーソドックスに行なえば、予想以上に安定度は高く、この音の魅力は大きい。

イケダ Ikeda 9 Supremo

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井上卓也

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

世界的に類例のない、針先が発電コイルをダイレクトに駆動する独自の発電構造を誇る同社のトップモデルだ。パーメンダー採用の磁気回路は効率が高く、磁気制動のバックアップで音溝の情報を確度高くピックアップしているような独自の音は、コンプライアンスのあるカンチレバー型と別次元の唯我独尊の世界である。

オルトフォン SPU Classic GE

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井上卓也

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

第1世代のオリジナルSPUを現代に蘇らせた復刻版と考えられるモデル。現代的な非磁性体巻枠を採用する、軽量振動系の同社純MC型も大変に魅力的ではあるが、ステレオ初期からのアナログファンに、ステレオLPを初めて聴いた当時の感激を蘇らすキッカケとして所有したいと思わせる、本機の原点復帰的意義は大きい。
井上卓也

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 FR1系の発電機構を採用した小型・軽量の空芯型MCカートリッジの新製品だ。振動系は軽量化され、インピーダンスは6Ωと低められているが、サマリウムコバルト磁石採用により発電効率が改善され、従来通りの出力電圧を得ている。ボディは金属製で振動防止設計である。

 FR2は音色が明るく、活気ある生き生きとした音を聴かせる。とかく繊細で、スタティックな表現になりやすいMC型のなかでは、注目したい新製品である。

テクニクス 101C

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井上卓也

ステレオサウンド 48号(1978年9月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 同社のトップランクカートリッジ100Cをベースに業務用の使用に耐える高安定型としたタイプが、この101Cである。業務用の過酷な使用条件に対応すべく、ダンパー材には温度変化に極めて強い新材料TTDDを採用。カンチレバーはチタニュウムナイトライドのテーパード型だ。100Cと相互の針先交換が可能であり、本体構造は同等と考えられる。

ビクター MC-2E

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井上卓也

ステレオサウンド 48号(1978年9月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 最近注目を集めているMC型カートリッジのなかでも、発現のメカニズムが大変ユニークな製品として高い評価を得ているMC1に続く、ビクター第2弾のMC型カートリッジの新モデルである。
 発電方式は、タテ型の磁気回路を採用し、カンチレバー先端のスタイラスに近接した位置に取付けられたマイクロコイルを使って発電するビクター独自のダイレクトカップル方式で、MC1で開発されたものだ。
 マイクロコイルは、IC製造技術を応用し、ウエハー(基板)上に蒸着された導体をフォトエッチングしコイル状としたもので、重量も200μgと巻線型コイルにくらべ数十分の一以下と超軽量であり、かつ空芯コイルであるため磁気歪とは関係がなくなる利点をもつ。この超軽量コイルの開発で、カンチレバー先端部にコイルを置くダイレクトカップル方式の採用が可能となったわけだ。この方式は、針先とコイルが近接しているため一体で振動し、特性がフラットで位相遅れが少なく、コイルが針先に近いため、カンチレバー、ダンパーの温度変化の影響が少なく安定した性能が得られる特長がある。
 磁気回路には、サマリュウムコバルト磁石と鉄・コバルト合金のパーメンジュールを使用し、高磁束密度を得ている。
 MC2Eは、周波数帯域を10〜25、000Hzに設定してあるため、針先は特殊ダ円針となっている。出力は0・2mV、針圧は1・5g。
井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「'81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 6万円以上の製品では、実質的には10万円がカートリッジとしての上限である。もちろん、それ以上の価格の製品も存在はするが、カンチレバー材料やボディ部分に、ダイヤモンドやサファイアなどの宝石材料を使用するスペシャリティな製品で、ベストバイの意味では、対象の範囲に入らぬ、特別な需要を満たすためのカートリッジといえるだろう。
 6〜10万円の価格帯では、国内・海外製品ともに、各社のトップモデルが置かれるところで、それぞれのメーカーのサウンドポリシーがもっとも強く現われているだけに、その選択は大変に興味深いものがある。何れを選択するにせよ性能が高いだけに、プレーヤーや、MC型では昇圧の方法など、使用するコンポーネントにより音質が大幅に変わるデリケートさをもっているために、各カートリッジに対する使いこなしはかなり時間をかけて取組まないと、せっかくの性能・音質が引出せない点に注意したい。
井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「'81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 4〜6万円の価格帯も、さらに5万円でボーダーラインを引きたい。5万円未満の価格帯は、特例を沿い手国内製品MC型実質的な高級モデルが数多く存在する。カートリッジは高級モデルになるに従い、軽量振動系を採用したワイドレンジタイプになるが、国内製品の高級MC型がほとんどこのタイプで、繊細さ分解能の高さを聴かせることに較べ、オルトフォン系は重針圧型のダ円針付、と好対照である。一方MM型は、海外製品の高級モデルのそれぞれ魅力的な個性が十分に楽しめる。
 5万円以上は事実上のカートリッジのトップモデルが顔を揃える価格帯である。MM型は海外製品が多く、軽質量振動系採用のワイドレンジ型であり、振動系のカンチレバー材料に宝石パイプ採用のモデルも登場しはじめる。MC型はトップモデルの置かれる価格帯で、このクラスとなれば、せびとも専用の昇圧トランスかヘッドアンプを組み合わせたい。
井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「'81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 スピーカーシステムのような外形寸法が大きく、重量もあるコンポーネントに比べ、カートリッジは小型軽量であるため、海外製品の実売価格が非常に低く、特例を除いてこの4万円未満で入手できるのが、特長であり、今回のような価格帯別のベストバイを考えるときに大きな問題点になってくる。従って、ここでは、国内製品を中心にして価格帯を考えてみよう。
 4万円未満でも2万円と3万円は、さらに、それぞれボーダーラインとなる。
 2万円未満はMM型も数あるが、狙うならMC型で古典型から現代型まで数機種が並ぶ。
 2〜3万円は高性能で信頼性の高いMM型とMC型の中級機種が存在する価格帯で、MM型の高性能化、MC型の実質的魅力かが選択のキーポイントになるだろう。
 3〜4万円は、実売価格が高いデッカ、オルトフォンの製品が存在し、これらは4万円以上と互角の魅力をもっている。

エンパイア 4000D/III LAC

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井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「'81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 カンチレバー内部に特殊構造を施した現在のダイナミック・インターフェース・シリーズはエンパイアの最新モデルであるが、スタンダードなカンチレバー採用の製品のトップモデルが、この4000DIII/LACである。ワイドレンジ型で、音の粒子が微粒子型であるため、ソフトでスムーズな音とシステムによっては誤解されるが、高度なシステムでは、非常にシャープで繊細な音でMC型以上となり、現在でもリファレンスの位置づけを持つ。

ヤマハ MC-5

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井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「'81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 現在、デッカのMarkV以外には実用化されていないタテ方向とヨコ方向の発電系をもち、マトリックス回路を通して45/45方式とする発電機構を世界最初のMC型に導入したMC7はユニークな存在であるが、このタイプの第二弾製品が、このMC5だ。超軽量級の振動系はカンチレバーに当然ベリリュウムパイプを使う。スッキリと伸びたレスポンスと音溝をダイレクトに拾うような鮮明でシャープな立上がりは、MC型で類例がない。

オーレックス C-400

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井上卓也

ステレオサウンド 42号(1977年3月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 オーレックスのエレクトレット・コンデンサーカートリッジには、CD4方式に対応できる、広帯域型のモデルとして、C404Xがあるが、今回の製品は、C404Xをベースに2チャンネル専用として開発された、C400である。
 振動系の重要な部分である、カンチレバーには、新素材のボロンが使われている。ボロンは、軽量であり剛性が高い特長をもち、カンチレバー材料としては注目されていたが、この種の新素材に共通な加工の困難さがあるため実用化できなかったが、この、C400には、ボロンを0・3mm直径の棒状に加工したものを採用している。また針先は、微小なチップで振動系の実効質量は非常に小さい。なお、C400は、アルミニュウムとマグネシュウム合金の一体成型のヘッドシェルが付属している。
井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 オーディオテクニカのVM型カートリッジは、発電方式としてはMM型であるが、V字型に配置された2個のマグネットをもつために、同社ではVM型と呼んでいる。このタイプは、1967年の開発以来、カッターヘッドと相似形の動作を理想として数多くの製品が開発され、発展してきたが、今回のニューGシリーズは、従来のモデルをベースとして蓄積された、細やかなノウハウを集めて、一段と完成度を高めたシェル付カートリッジでいずれもオーソドックスな2チャンネルステレオ専用のタイプである。ヘッドシェルは、音質追究の結果から採用されたマグネシュウム合金製のMG10型で、すでに音の良いヘッドシェルとして高い評価を得ているものである。なお、高級モデルのAT15にかぎり、ヘッドシェルなしのタイプも用意されている。
 AT15Ea/Gは、とくに、セレクトされたプレステージモデルであるAT20型を除けば、事実上のオーディオテクニカのトップモデルであり、ニューGシリーズでは最高級製品である。
 カートリッジボディは、軽合金のダイキャスト製で、従来のAT15型の金色から銀色に変わった。また、スタイラスホルダー部分は、ボディカラーの変更にともなって、インディゴブルーとなり、ボディ前面のテクニカのマークの色も同様に変わった。また、新しくスタイラスホルダーのプロテクターの部分に、型番が記されるようになったため、ヘッドシェル装着時にも型番の識別が容易になった。
 振動系は、大幅に改良が加えられているようだ。カンチレバーは、超硬質軽合金と発表されているが、表面の色が、従来のいわゆるアルミ色から、ちょっと見には鉄に見える色に変わっているが、明らかに非磁性体である。テーパード型カンチレバーは、新開発のツイステッドワイアーで支持されるが、ダンパーの色も従来とは異なっている。また、マグネットは、これも従来の円柱状から角柱状に変わっている。
 AT14Ea/Gは、AT15Ea/Gに準じたモデルである。変わっている点は、カンチレバーを支えるワイアーが、金メッキをしたピアノ線となったことと、コイルのインピーダンスが高く、AT15Ea/Gよりも、25%高い出力電圧を得ていることである。ボディフレームは、軽合金ダイキャストと同等なシールド効果をもち、強度を高める硬質メッキ処理が施されている。スタイラスホルダーの色は、エメラルドグリーンで、ボディのシルバーと鮮やかにコントラストをつくっている。
 ニューGシリーズは、振動系が大幅に改良されているために、音質的には、従来のトーンを一段とリファインし、さらに、力強く、粒立ちがカッチリとしたクリアーさが加わっているのが目立つ。音場感的にも、前後方向の奥行きが明瞭に再現され、音像定位が安定で、明快になっていると思う。

ビクター X-1II, X-1IIE

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井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 既に高い評価を得ているビクターのX1シリーズ・カートリッジが、パルストレイン法のコンピューター解析の導入により、発展・改良しX1IIシリーズとなった。
 このシリーズは、4モデルあるが、広帯域型で4チャンネル・2チャンネル共用のX1IIと、2チャンネル専用のX1IIEが基本モデルで、それぞれをシェルマウントしたのがX1II/D、X1IIE/Dである。
 X1IIの振動系は、カンチレバーにベリリウムパイプを採用し、針先は従来のシバタ針を改良し、さらにトレース能力を高めたシバタ針MKIIのブロックダイヤチップである。
 マグネットは、比重が小さく高エネルギー積のサマリュウムコバルト磁石で、振動系の支持は後端をテンションワイアーで固定するワンポイントサポート方式だ。
 カートリッジボディは、マグネシュウム合金製で、針先からの微振動を吸収し、混変調歪みを抑えるとともに、シールド効果も高い。磁気回路は、ラミネートコアで、超高域での微小な振動を正しく再生することが可能である。なお、シェルマウントタイプは、溶湯鋳造シェルにマウントしてある。
 X1IIEは、カートリッジボディはX1IIと同様で、振動系が異なったモデルである。変更点は、カンチレバーがテーパード型のチタンパイプ、針先は、0・3ミル×0・7ミル楕円ブロックダイヤチップであることだ。
 X1II/Dは、可聴周波数帯域全域にわたって粒立ちが細かく均一にコントロールされ、fレンジが爽やかに伸び切っている。
 このタイプの現代型のカートリッジは、とかく力不足となりやすいが、本機は充分な力感がある。音色は明るく、反応が早いために、表情が豊かで、音楽を気持よく聴かせる。海外高級カートリッジに互しても譲らぬだけの音の魅力があり、MKIIらしいグレイドアップが明瞭に聴きとれる。
 X1IIE/Dは、共通の音色をもつが、さすがに2チャンネル用カートリッジらしく、一段と力感が加わり、重心が低い安定な音が聴かれる。基本的なクォリティが高く、音の鮮度が高いため、2トラックテープの音に似たリアルさがある。

マイクロ LM-70W

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井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 磁気回路のコイルに、純銀線を2本より合わせた特殊線を採用した特長がある製品である。銀は比抵抗値が低く、微細な電流を扱うために好ましく、2本より合わせることにより表面積が増加し表皮効果を避けて磁気回路の高域特性を改善できる。振動系は、ベリリウムカンチレバーを一点支持方式でサポートするタイプである。
 2本より銀線を使う、この方式は、ツゥイステッド・シルバー・コイルを略してTSC方式と名付けられ、発言効率、過渡特性、周波数特性を改善でき、音の拡がり、定位の良さ、分離を大幅に向上している。

テクニクス 100C

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井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 アクティブに振動系の軽量化と新素材の導入に取り組んでいるテクニクスからカートリッジの原器をめざした高級MM型の製品が発売された。EPC100Cは、カートリッジとヘッドシェルが一体化した、いわばピックアップヘッドといった構造を採用している。振動系は、チタンと元素中もっとも非弾性係数が大きいボロンを高周波スパッタリングにより反応させたチタニウム・ボライドのテーパードカンチレバーを採用し、マグネットは円板状のサマリュウムコバルトである。なお、針先は0.1mm角ブロックダイヤチップである。
 磁気回路は、超高域までフラットな特性を得るために、初めてオールフェライト化され、さらにコイル配列は左右チャンネル完全分離対称配列である。また、このEPC100Cで際立った特長となっているは、コイルのインピーダンスとインダクタンスが驚異的に小さいことだ。発表値としては、それぞれ210Ω・33mHでMC型カートリッジと同等といってもよく、接続する負荷抵抗、負荷容量の影響をほとんど受けない。ちなみに、テクニクス205CIISは、3600Ω・560mH、同じく205CIILが250Ω・40mHである。ヘッドコネクター部分にオーバーハング調整と傾斜調整があり、大型プロテクターは、ワンタッチで上に跳ね上がるタイプである。

ソニー XL-55

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井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 ソニーのXLシリーズ・カートリッジは、炭素繊維のカンチレバーへの導入、新しいマグネットなどの、新素材や新技術を開発し、実用化してきたが、新しいムービングコイル型の製品XL55がシリーズに加わることになった。
 XL55は、振動系に磁性体を使用せず、コイル部分は独特な8の字型で、発電効率が高く、歪みが少ない特長がある。実際のコイルは、リング状の磁気ギャップの中に左右チャンネル用の8の字型コイルが直交して配置され四ツ葉のクローバー状に見える。8の字型コイルになった理由は、プッシュプル動作で発電するためだ。なお、巻枠は円形の非磁性体である。カンチレバーは、特殊軽合金の細いパイプの先端に針先が、後端にテンションワイアーが取り付けてあり、全長の半分から後ろ側には炭素繊維のパイプが、さらにその外側に先端を絞ったアルミパイプがある複合型である。
 磁気回路は、高エネルギー積の希土類マグネットを採用し小型で高能率化してある。
岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 まずシェルにカートリッジを取付け確かめる。次に、アームに着装する。水平バランスをとる。針圧を適正値に調整する。インサイドフォースをたしかめる。場合によって、ラテラルバランスをたしかめる。高さを調節して、カートリッジがレコード面に対し、正しく水平位置を保ち、針先の垂直角がほぼ適正状態にあることをたしかめる。
 以上の事をカートリッジひとつひとつ毎に適確に行わなければならない。少なくともこれだけの手順を、手ぬかりなく果さなければ、カートリッジの音質うんぬんすることはできないことになる。
 ざっと計算して、ひとつ当り3分間として123個、計369分つまり、音以外の純粋な付帯雑務時間をひきりなしに続けたとして、なんと6時間! つまり、隠れたる苦労が大きかった。

試聴に使用した装置
 プレーヤーとして、マイクロのDDX1000、それにアームが同じマイクロのダイナミックバランス型MA505、FRの同じダイナミックバランスの最新型FR64の組合せをメインとした。トーレンスの125と、オルトフォンのアームRMG212の組合せは初め使っていたが、どうも横ゆれに敏感で、ハウリングは少ないがかえって使いにくくて、途中から、さけることが多くなってしまった。ビクターのTT81をターンテーブルとしたプレーヤーはクィック・スタート、クィック・ストップができ驚く程便利であった。これは使ってみないとなかなかわかるものではないが、新しい現代的プレーヤーの持つべき条件だろう。クォーツ・ロックが内部的特長ならクィック・ストップは実用的外面要素だ。
 カートリッジと、それに組み合わせるべきアームの関係は、数多い問題を内蔵する。軽針圧カートリッジが軽針圧用アームに最適といわれてきた根拠も定かでないし、確かめにくい。少なくとも現代では、軽針圧カートリッジにもっとガッチリした、いわゆる汎用アームのほうが音質的にも、特に低音に対して好ましいというのが常識でさえある。もっとも、アームは水平方向も垂直方向もきわめて高感度であることは、最低条件として当然なことだが。ここで用いたアームは、そうした意味ですべて、アーム自体が堅固といえる程にガッチリしたものを選んだ。
 音質評価のきめ手の、特に重要な部分として「スピーカー」の選定は、難かしい。ここで用いたのは、普段そぱにおいて、使いなれ、よく知りつくしているのが理由だ。アルテックの604−8Gだ。620Aという大型の箱をあたえられて、低域をずっと伸ばし、音質チェックの上で一段とよくなっている。ドライブアンプは、マランツの510だ。理由はいまさら特にいうまでもないだろう。
 プリアンプとしては、クワドエイトのLM6200Rで、むろん、トーンコントロール、フィルター等のたぐいは一切ない。
 もうひとつのスピーカーシステムを、このラインナップに加えている。これは、ごく小さなブックシェルフ型の自作のシステムで、アルテックの12cmフルレンジ・405Aをたったひとつ収めたものだ。これは、至近距離1mほどにおいて、ステレオ音像のチェックに用いたものだ。いうなればヘッドフォン的使用方法だ。シングルコーンの405Aも、コアキシャル604−8Gもともに音源としてワンスポットなのでこの点からいえば大差ないはずともいえなくはないのだが、実際は好ましかるべきマルチセラーの高音輻射より405Aの方が音像をずっとはっきりと判断できるのは、多分、単一振動板だからだろう。単純なものは必ず純粋に「良い」のをここで知らされる。それにも拘らず604をメインとしたのは、音質判断上もっとも問題とされてしまう音色バランスの判断のためである。
 セカンドシステムは、まったく別の部屋にあって、メインシステムのように音をチェックするというのではなく、もっと総合的に、音楽を確めるといったかたちで、役立たせた。
 少なくとも、SPのリカット盤や、ステレオ初期の録音盤などでは、第一システムでたとえ評価が落ちたとしても、この第二システムでまったく逆にもっとも好ましい結果を得ることが常であった。評価が逆転するということは、ある面で不合理だが確かな事実だ。
 スピーカーは、JBLハーツフィールド、38cmの今はなきウーファー150−4Cと375+537−509(現在のHL89)との2ウェイで、低音域はホーンロードで今回の水準からすると決して広帯域ではないが、ブックシェルフにない、音の生命力が強く感じられる。ドライブアンプは、マランツのモデル2とマッキントッシュのMC30で、ともに管球アンプとしてHi-Fi初期の名うての高級品である。プリアンプは、マランツのこれも管球式のモデル7。
 プレーヤーには、第一システムと同じマイクロのDDX1000とFR64の組合せと、デンオンのDP5000Fシステムの2系統を使用した。
 このようにして、ふたつのまったく違った部屋で聴いたことには大きな意味があることを知って欲しい。その意味というのは、第一システムのラインナップと第二システムのラインナップの大きな違いにあり、ひとつはまったくのプロフェッショナル・モニター系のシステムであり、一方は、まったく家庭用のハイファイシステムであるという点だ。
 この場合、プレーヤーシステムを変えてしまっては音の判定がますます混乱することになるので、共通としたことはいうまでもない。ここで再びアームについて解説を加えると、今回使ったそのほとんどがダイナミックバランス型をとっていることだ。今日の実際的なレコードのコンディションを考えると、ダイナミックバランス型が良いと言い切ってもよい。ただし、こうしたテストの場合に考えられるいくつかの落し穴をカバーするために優れたスタティックバランス型アームをも2本使用している。

使用レコード
 今回の、この膨大な数にのぼるカートリッジのヒアリングテストに使われたレコードは、ジャズおよびロック系を中心としたもので、ジャズは、新しいものとステレオ初期とモノーラルの50年代初期のものと、さらに40年代以前の古い録音との4種類を選んだ。
 最新録音盤は、周波数特性とかスペクトラム的な判断に価値があったとしても、ステレオ感となるとかえって作為的で、良さの判断にはつながらず、苦労の種でしかない。ステレオ初期のレコードはこの点正直だ。50年代のジャズレコードのもつ特色は、そのまま「ジャズサウンドは、いかにあるべきか」を端的に示して、再生音楽におけるジャズ的視点を定めるのに好適といえる。古い録音のナローバンドのSN比の悪いSPリカット盤は、音楽以外の雑音や歪がどれだけ抑えられ、音楽を楽しむのに邪魔されずにすむか、を確かめるのに役立つ。現代的な意味で音の良いカートリッジが必ずしも雑音を抑えてくれるとは限らず歪も目立つ。
 ロックの場合、電気楽器の粘っこいサウンドが、大きいエネルギーで他の音を圧して中声域の混変調を起して歪のもととなりやすく、これは他の音楽にはないサウンド的な特徴で、それを確かめるのは今日の音楽ファンに対するせめてもの心がけといえようか。
 選ばれたレコードが物理的な意味で必ずしもベストのものでないことに、あるいは不満をいだく方もあろう。しかし音楽とは所詮物理的技術的結果ではなく純粋に芸術であり、それが再生音楽だとしても、受けとめているのは人間の芸術的感覚である。つまりレコードといえども厳然たる事実として「音楽」であることは誰しも認めるだろう。使ったレコードは以下の通り。
●パブロ(英国盤) エリントン/レイ・ブラウン 「ワン・フォー・ザ・デューク」
●ブルーノート(アメリカ盤) ヴィレッジヴァンガードのソニー・ロリンズ
●マーキュリー(アメリカ盤) クリフォード・ブラウン/マックス・ローチ 「イン・コンサート」
●アメリカ・コロムビア盤 チャーリー・クリスチャン 「ソロ・フライト」
●ローリングズトーン 「プルー&グレー」 ローリング・ストーンズ

サテン M-18E

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井上卓也

ステレオサウンド 38号(1976年3月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 サテンのカートリッジは、もっとも古いモノーラル用のモデルであるM−1以来、独自のポリシーのもとに、鉄芯を使用せず、ステップアップトランスも不要な、高出力MC型一途に、製品を送り出している。
 最近では、久しぶりに沈黙を破って、M−117を発表したが、今回の新製品、M−18は、M−117をベースとして発展させたモデルではなく、逆に、M−117のプロトタイプとして、M−117に先だって開発されたモデルである。
 サテンのムービングコイルは、三角形に巻かれているために、いわゆる、オムスビ型をしたスパイラル巻きであるが、M−18、M、117ともにダ円形のスパイラル巻に変更され、コイルが磁束を切る有効率が1/3から1/2に増し、M−117でも、質量は1/2と半減している。
 新シリーズは、カンチレバーの支持方法が、従来のテンションワイヤーによるものから、二枚の板バネとテンションワイヤーを組み合わせたタイプに変わり、カンチレバーは、二枚の板バネとテンションワイヤーの中心線の交点を支点として支持されるため支点は厳密に一点である。これにより、従来は不可避であったカンチレバーの軸方向まわりの回転運動がなくなったことが、新しい支持方式の大きなメリットである。また、コイルを保持し、カンチレバーの動きをコイルに伝えるアーマチュアも、大幅な改良が加えられ、50μの厚みのベリリュウム銅でつくったアーマチュアとコイルとの結合部がループ状になっており、電磁制動が有効に使えるタイプになっている。
 サテンのMC型は、針交換が可能なことも、忘れてはならない特長である。新シリーズは、交換針を本体に取付ける方法が、従来のバネによるものから、MC型が必要とする磁石の磁力によって交換針を保持する方式に変わった。
 M−18は、M−117の高級機であるために、精度が一段と高まり、ムービングコイルが、さらに軽量化されている。M−18シリーズは、4モデルあり、0.5ミル針付のM−18、ダ円針付のM−18E、0.1×2.5ミル・コニック針付のM−18Xと、コニック針付で、カンチレバーにベリリュウムを使ったM−18BXがある。
 試聴したのは、M−18シリーズのスタンダードとも考えられる、M−18Eである。MM型では、負荷抵抗による音の変化は、ほぼ、常識となっているが、MC型でも、変わり方が異なるとはいえ、負荷抵抗によって、音量が変化し、出力電圧も変化する。サテンでは、負荷抵抗として30Ω〜300Ωを推奨しているが、50kΩでも可とのこともあって試聴は、一般のカートリッジと同様に50kΩでおこなうことにした。
 M−18Eで、もっとも大きな特長は、聴感上のSN比がよく、スクラッチノイズが、他のカートリッジとくらべて、明らかに異なった性質のものであることだ。M−18の音は、文字で表現することは難しく、周波数帯域とか、バランスといった聴き方をするかぎり、ナチュラルであり、問題にすべき点は見出せない。ただ、いい方を変えれば、いわゆるレコードらしくない音であり、例えば、未処理のオリジナルテープの音と似ているといってもよい。他のカートリッジであれば、レコード以後のことだけを考えていればよいが、M−18Eでは、レコード以前の、いわば、オーディオファンにとっては見てはならぬ領域を見てしまったような錯覚をさえ感じる。この音は、誰しも、素晴らしい音として認めるが、使う人によって好むか好まざるかはわかれるだろう。
井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「'80ベストバイコンポ209選」より

 4万円以上の製品では、国内製品、海外製品のトップモデルがひしめいているのが特長だ。それぞれが高度な物理的特性を備え、しかも、トーンキャラクターは大幅に異なる点に注意したい。また、発電方式による音の差も少なく、新素材、新技術を投入したモデルが多く、現代の最先端をゆくトランスデューサーの魅力を充分に味わうことができる。ただし、それぞれのモデルの性能をフルに引出すためには、併用するプレーヤーシステムに、高度な性能が要求されるのは、当然と考えるべきである。
井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「'80ベストバイコンポ209選」より

 2〜4万円台の製品では、国内製品と海外製品が数量的には互角に競合する価格帯である。選択された製品は、2万円未満と同様にMC型が半数以上を占め、それも新製品が少ない。この価格帯は定評の高いメーカーの伝統のある製品、もしくは改良型を手堅く狙うのが、ひとつのポイントであろう。基本的には、新素材、新技術を全面的に導入した製品は、これ以上の高価格帯で選びたいものだ。常用カートリッジとして、この価格帯から発電方式の異なったものを複数個選んで使うのが、最も魅力的な使い方といえる。
井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「'80ベストバイコンポ209選」より

 2万円未満の製品は、選択された4機種中で、新製品はヤマハMC7のみであり、MC型が3機種あることは、カートリッジの分野でのMC型志向が強いことと、海外製品の販売価格の低さという特殊性がうかがえる。MC型は、ヘッドアンプで使用する場合には、インピーダンスが高いほうがアンプ側には条件がよく、高SN比が得られるため選択に注意したい。しかし、本格的に使うなら昇圧トランスを前提としたい。
井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「'80ベストバイコンポ209選」より

 天然ダイアモンドカンチレバー採用の世界最初のMC型である。クリアーで解像力のある音は独特の感覚である。

オルトフォン MC30

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井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「'80ベストバイコンポ209選」より

 同社初の軽量振動系を採用し、広帯域、高コンプライアンス化を達成した最高級機。いわば古典型から現代型に変った新しい魅力は抜群。

テクニクス 100C MK2

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井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「'80ベストバイコンポ209選」より

 現代のカートリッジに要求される軽量化、低インピーダンス化などの理想像に、現在もっとも近接した位置にある類例のない高性能機だ。

デンオン DL-305

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井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「'80ベストバイコンポ209選」より

 振動系にアモルファス構造のボロンカンチレバーを採用した純粋MC型の超軽質量タイプだ。色彩感をあざやかに、分離よく聴かせるのは見事。

エンパイア EDR.9

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井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「'80ベストバイコンポ209選」より

 振動系に特殊の高域共振打消し構造を採用したエンパイアの最高機種。シャープで、輪郭をクッキリとつけ、コントラストを明確につける。
井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「'80ベストバイコンポ209選」より

 プッシュプル発電方式を採用し、低インピーダンスで純粋MC型の電力発電効率を高めた設計が凄い。音は、まさしくMC型の味だ。
井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「'80ベストバイコンポ209選」より

 新シリーズのキメ細かく滑らかで、優れた解像力をもつフレッシュな魅力を聴くための典型的なモデルだ。

オルトフォン MC20MKII

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井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「'80ベストバイコンポ209選」より

 MC30に採用された三層構造のセレクティブダンピング方式を導入し、リファインした製品。伸びやかでスムーズな音が特長。

ピカリング XSV/4000

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井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「'80ベストバイコンポ209選」より

 3000をベースに振動子の軽量化、高コンプライアンス化をはかり、針先にステレオヒドロン型、稀土類磁石採用の注目の新製品だ。

B&O MMC20CLC

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井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「'80ベストバイコンポ209選」より

 いずれもダイレクト結合型の専用シェル付MMC20シリーズ4機種中のトップモデル。カンチレバーにサファイアを採用したのが特長。

ビクター MC-101E

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井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「'80ベストバイコンポ209選」より

 三層構造のマイクロコイルを針先位置に近接して取付けたダイレクトカップル方式の高出力MC。力強く、アクティブな音が楽しめる。

デンオン DL-303

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井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「'80ベストバイコンポ209選」より

 独自の十字型巻枠を非磁性体に変更し、純粋MC型とした最初のモデル。一聴してワイドレンジの現代型MCと感じられる音は、やはり純粋の一語で表現できる。

スタントン 881S

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井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「'80ベストバイコンポ209選」より

 米国では、リファレンス的に使われるといわれるスタントンのトップモデル。素直なレスポンスと色づけのないナチュラルな音は、さすがだ。

オルトフォン SPU-GT (E)

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井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「'80ベストバイコンポ209選」より

 SPU−Aの業務用に対し、コンシュマー用のGシェル組込み、トランス内蔵型の製品。重厚で安定した音は、製品の伝統を物語る。

エンパイア 4000D/III LAC

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井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「'80ベストバイコンポ209選」より

 ナチュラルで分解能が高い、高インピーダンス型の典型的存在だ。装置のグレードが上るほど、この音は冴え、MC型を凌ぐ。

シュアー V15 Type IV

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井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「'80ベストバイコンポ209選」より

 最新のHE針と安定度を向上させるダンプ機構組込みの特殊ブラシを採用し、従来より一段と重厚でリッチな音を聴かせる見事な製品。

サテン M-18BX

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井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「'80ベストバイコンポ209選」より

 オリジナルな高能率発電方式をミクロの芸術とも言える精緻な工作により実現した、サテン・カートリッジの最高機種。盤面の裏まで見えるような音は異例のものだ。
井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「'80ベストバイコンポ209選」より

 前シリーズの傑作モデルだ。スムーズなレスポンスと雰囲気の豊かな滑らかな音は多くのファンを魅了。

オルトフォン SPU-A (E)

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井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「'80ベストバイコンポ209選」より

 現役最古の業務用MC型。ダイナミックバランス型の専用アームと組合せたときの音は、軽量級の現代タイプとは一線を画した領域。

デッカ Mark V/ee

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井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「'80ベストバイコンポ209選」より

 現在、唯一の垂直系振動子とマトリックス合成で左右チャンネルを取出すデッカ方式の最高級器。非常に鮮鋭でダイレクトな音も異例の存在。
井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「'80ベストバイコンポ209選」より

 小型なメタルハウジングの内部に、電力発電効率を1・7倍とした軽量振動子と磁気回路を収めた製品。ダイレクトで豊かな音だ。

デンオン DL-103D

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井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「'80ベストバイコンポ209選」より

 103の現代タイプでありデンオンの標準モデルである。103Sよりもフラットなレスポンス、103より高いトレース能力の信頼感は高い。

シュアー V15 Type III-HE

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井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「'80ベストバイコンポ209選」より

 旧型の針先部を最新のハイパー・エリプティカルに変更した製品。音は一段と鮮明になり、シュアー独自の音の魅力が冴えわたる。

テクニクス 205C MK3

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井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「'80ベストバイコンポ209選」より

 3種類あったMK2の発展型。ピュアボロンのカンチレバーに代表される軽質量・高剛性により、音は一段と鮮明になり、分解能が高い。

ゴールドバグ Medusa

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井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「'80ベストバイコンポ209選」より

 新進メーカーの製品であるが、音質は充分にコントロールされ、その完成度は、大変に高く、経験の豊かなメーカーの製品の味がある。

シュアー M97HE

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井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「'80ベストバイコンポ209選」より

 新しいM97シリーズのトップモデルとして最近登場した製品。当然、針先はハイパー・エリプティカル型で、導電性ブラシが付属する。

オルトフォン MC10

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井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「'80ベストバイコンポ209選」より

 考え方によれば、SPUのイメージをもっとも現代に伝えているモデルだ。無理のない帯域感と自然な表現は電力発電効率の高さのあらわれだ。
井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「'80ベストバイコンポ209選」より

 AT15Eの後継機種でシェルが付属する。ベリリウムカンチレバー、パラトロイダルラミネートコア採用で、現代MMの標準機。
井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「'80ベストバイコンポ209選」より

 逆V字型デュアルコイル方式のMC型で、シェル一体型のAT34の単体カートリッジだ。広帯域型で、音の粒子が細かくシャープだ。

アントレー EC-10

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井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「'80ベストバイコンポ209選」より

 アントレー第2弾のMC型。スッキリとよく伸びたレスポンスと滑らかで繊細な音は、分離がよく、MC型ならではの緻密な高クォリティサウンドだ。

ヤマハ MC-7

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井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「'80ベストバイコンポ209選」より

 独特な垂直・水平発電系をもち、マトリックスにより出力を取出すユニークな構想によるMC型だ。力強く、ダイレクトな音は、このタイプ独特の魅力。

アントレー EC-15

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井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「'80ベストバイコンポ209選」より

 MC専門メーカーらしいアントレーのヤング向けモデル。活気のあるフレッシュな表情とMC型らしい分解能の高い音はバーサタイルに使える。

デンオン DL-103

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井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「'80ベストバイコンポ209選」より

 独自の十字型巻枠を採用したデンオンMC型の原型ともいえる製品。ナチュラルなレスポンスと安定感のある音は、現在でもリファレンス的だ。

グレース F-8L'10

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井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「'80ベストバイコンポ209選」より

 10年間のロングセラーを誇るF8Lに、F9で得た技術を導入した、いわば記念モデルである。針先はアドバンスド・ルミナルトレース型。

オルトフォン MC Jubilee

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菅野沖彦

ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング863選」より

80年代前半のCD登場以降、アナログディスクの生産規模縮小にあわせ、多くのカートリッジメーカーも開発をやめてしまったのが、デンマークのオルトフォン社は、その後も連綿と開発を続けてきた。その成果が確実に現われたのがこのモデルで、最新カートリッジとして素晴らしいトラッカビリティと素直な音を聴かせてくれる。
菅野沖彦

ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
「TEST REPORT 2001WINTER 話題の新製品を聴く」より

 デンマークのオルトフォンは元気である。カートリッジの新製品を2000年にも発売した。アナログファンにとって同社の健在ぶりは嬉しい。
 新しいカートリッジの名前はコントラプンクト(KONTRAPUNKT)と呼ばれる。英語ではカウンターポイント(COUNTERPOINT)つまり対位法の意味である。J.S.バッハの没後250周年を記念して命名されたものだそうである。
 1999年1月に発売されたMCジュビリー(JUBILEE)で開発された空芯リングマグネットによるクローズド・マグネティック・サーキットや6N銀線コイルを移植してはいるが、この製品では大幅なコストダウンが実現し、価格は約三分の一にも下がった。カンチレバーはアルミで針先形状はファインライン・スタイラスだが、音はMCジュビリーに比べて、さほど聴き劣りはしない。それどころか、音楽によってはこちらの方が、メリハリがあって力のある表現で好まれると思われるほどである。たしかにMCジュビリーの持つ品のいいしなやかさや空間の漂いの微妙なニュアンスは聴けないから、クラシックの弦楽合奏などでは一歩譲らざるを得ないところもあるが......、ジャズは100%この方がいいと思う。メリハリがあって力感もあるからだ。低音もこの方が張りと弾力性に富んでいる。
 筐体は材料に違いがあるのかもしれないが、見た目にはMCジュビリーと同じ型である。色には違いがあって、かたや黒なのにたいし、こちらはチタンカラーの渋いメタリックカラーである。針圧は2・5グラムで聴いたがトレースは安定していてトラッカビリティは大変に高い。45/45の溝の左右の壁面に刻まれた位相が不揃いな大振幅でも難なくトレースしてのけた。この辺りのトラッカビリティとS/Nの良さは、MCジュビリーでも感じたことではあるが、明らかに1980年代初頭のアナログ末期のカートリッジの物理特性を上回っていて、この20年近い間技術進歩がわかる現代カートリッジだという実感がある。あのままアナログ時代が続いたらカッティングもまだまだ進歩したと思われるし、総合的な音の良さや文化レベルは、今より向上したのではないか......などと考えさせられたものである。こういう製品が出るたびに棚のLPを引っ張り出して聴き直したくなるのは筆者だけではないであろう。

イケダ Ikeda9 Supremo

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井上卓也

ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング863選」より

フォノカートリッジの理想をMC型に集大成した世界に誇れる逸品カンチレバーレスで針先自体が発電コイルを動かす基本構造を熟成し、磁気回路を強化して発電効率と聴感上での高SN比を図ったアプローチは、オーソドックスな手法だ。魅力を引き出すためには、昇圧トランスの選択が重要。昇圧比には要注意である。

スペックス SD-909, SDT-77

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井上卓也

ステレオサウンド 38号(1976年3月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 スペックスからは、MC型のSD−909である。このカートリッジは、共振を防ぐために、カートリッジのボディに、航空機用の軽合金を使い、共振点の異なる2つの材質が共振を打ち消す構造である。
 振動系は、78・5%PCパーマロイを使った巻枠に巻いたコイル、つまり発電系と、カンチレバーの振動支点が一致するワンポイント支持方式を採用し、温度変化にたいして一定のダンピング係数を保つために、異なった性質の材料を2枚合わせてプッシュプル方式を採用している。
 SD−909は、MC型で、精密な作業をおこなうために、少数生産でつくられ、一日に21個しかつくれないとのことだ。
 SD−909などの低出力MC型カートリッジの昇圧用トランスとして、スペックスでは、SDT−77が用意されている。このトランスは、SDT−180newのトランス本体をベースとし、より使いやすくよりスペースをとらない小型にするために、かずかずの改良が加えられている。
 この種の昇圧トランスは、入力インピーダンスのマッチングを、切替によっておこなうのが一般的であるが、ここでは、切替不要の独得のトランス設計により、2〜50Ωのインピーダンス範囲では、切替なしで使用できるとのことである。
 SD−909を、SDT−77をペアにして使ってみる。従来からも、スペックスのMC型カートリッジは、音色が明るく、力強い音を特長としていたが、SD−909は、この系統を受継ぎながら、さらに、音の密度が高くなり太い線も表現できるMC型としてユニークであると思う。

オーレックス C-550M

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井上卓也

ステレオサウンド 38号(1976年3月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 このカートリッジは、発電方式は、MM型であるが、振動系のカンチレバーにカーボンファイバーを採用している。カンチレバーは、グラスファイバーの0・37mm径のソリッド材を使用し、針先には、オーレックスで開発したエクステンド針を使っている。このタイプは、音溝との接触が、カッティングレースのカッター針に近い、ラインコンタクトタイプで、高域の分解能が優れ、接触面積が大きいために、針先、音溝両方の摩耗が少ない特長がある。この針は、ダイヤモンドと同等の硬度をもつコランダム結晶を研磨している。
井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 ステレオ初期に、一点支持型トーンアームの先端にカートリッジを固定した、非常に未来志向型のステレオユニポイズを発表したピカリング社は、モノーラルLP時代からカートリッジの名門として高い評価が与えられた専門メーカーだ。そしてステレオLP時代となった'61年に、当時のピカリング社の社長であったW・O・スタントン氏が、同社のトップランクモデルに特別にスタントンのブランドを与えたことが、そもそものスタントン・ブランドの誕生である。同社カートリッジの発電方式は、MM型を中心にIM型も加えた、まさに適材適所の自由な設計が特徴だ。
 スタントンの評価を最初に高めたモデルが、'69年発売のIM型681EEで、その暖かみがありシャープな音は記憶に新しい。後に500、600シリーズが加わる。また、ディスクにブラシを接触させ、振動系の安定度を向上させるダスタマティックも注目された。
 '80年になると、MM型のコイルを極限まで減らしたローインピーダンス(3Ω)の製品980LZSを発表した。このタイプは、すでに業務用としてはグレース、オーディオテクニカで製品化されていたが、基本的にはヘッドアンプ専用でトランスにはマッチしない。これ以後は針先形状が問題とされた時代で、同社ではステレオヒドロンが、その回答だ。
 WOS100は、チタンコートのボディに設計者W・O・スタントンのシグネチュアを刻んだ同社技術の集大成モデル。ブラシ付3・3mV出力のエネルギッシュで力強く、繊細さも見事なモデルだ。
 681EEE MKIIIは、681系の最新版。チタンコートボディ、サファイアコート・カンチレバーに菱形形状チップを採用している。
 トラックマスターELは、逆回転の頭出しにも耐える振動系とスタイラスに蛍光塗料コート・ヘッドシェル一体型だ。

AKG P8ES

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井上卓也

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 AKGのカートリッジは、最近になってから開発された現在のシリーズが第二世代の製品である。このモデルは、AKGの最高級製品であり、現代的な高い性能をもつが、とくにヴォーカルでの、ナチュラルで、エレクトロニクスの介在を感じさせないような、濡れた、みずみずしさはかけがえのない魅力である。

オルトフォン SPU-G/E

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井上卓也

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 本来は業務用システムのプレイバック用に開発されたモデル。シェルと一体型で、AとGにわけられているのはこの背景を物語っている。本機がベースの改良モデルが常に存在しても未だ現役として充分の実力をもっているのは珍しい例で、今後いつまで残るかが、SPUファンとしては心配のたねである。

ピカリング XSV/3000

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井上卓也

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 モノーラル時代以来の古きカートリッジメーカーであるピカリングの製品は、CD−4方式対応型のXUV/4500Qで非常に高い評価を得たが、このXSV/3000は、レギュラーなステレオ用に開発されたトップモデルである。洗練され現代的になったとはいえ、腰が強くクッキリと粒立つピカリング伝統の音は、このモデルも充分に受け継いでおり、直線的に表現する独特の魅力は、他では求められない素晴らしさがある。

シュアー V15 Type III

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井上卓也

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 ステレオ初期以来、シュアーのカートリッジは、つねにその時代のオーディオファンの支持を得てきたが、とくに、このV15TYPEIIIほど数多くの愛用者をもつカートリッジは他にあるまい。パフォーマンスから考えても、発売時点でこそ、ラミネート型のポールピースの採用は注目を集めたが、現時点では、さらに優れた製品が存在しているはずである。それでも標準カートリッジ的に使われるのは信頼性の高さ、音の魅力であろう。
井上卓也

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 オーディオテクニカのカートリッジは、一連の数多くのモデルがあることに特長があるが、ローコストからトップモデルにいたる音的・性能的な分類とコントロールは、海外製品に勝るとも劣らぬ見事さが感じられるようになった。このAT−14Eは、同社の中心モデルともいえる存在であり、素直に色づけのない音を力強く聴かせてくれるのが大変に好ましい。トーンアームの組合せもクリティカルでなく、バーサタイルに使える製品だ。
井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 ピカリングは、1946年にニューヨークでノーマン・ピカリング氏が創立したカートリッジメーカーで、独自のマグネティック型発電方式で注目された。'58年にはそのステレオ版を発表し、その後、ダスタマティック・ブラシとアース付スタイラスアッセンブリーを開発。そしてMM型、MI型(可動鉄芯・マグネティック型)を加え、'73年には超高域再生特性が要求されるCD4用4チャンネルカートリッジを海外ではじめて発売するだけの、高度な針先形状と振動系などの技術を備えていたことで注目集めた。
 この成果により、針先形状の研究と振動系の軽量化、発電方式の新構造化が一段と図られ、以後の広帯域型への発展のベースとなった。
 注目したいことは、ターンテーブルの軸受部にドーナッツ型磁石を設け、この反発作用でターンテーブルをフローティングするジャイロポイズ方式の開発だ。これが'76年発売のプレーヤーシステムFA145Jに採用された。この発展型が国産のマグネフロートである。
 トーンアーム関係では、アーム支持部に水平回転軸のみを設け、先端部に上下方向にスイングするカートリッジ取付け部をもつユニークなタイプを開発。これはピカリング型と呼ばれ、LP時代にはオイルダンプ型と人気を二分する存在であったことを懐かしく思い出されるファンも少なくないだろう。独自のMI型ともども、国内にコピー・ピカリングが出現したことを考えても、同社技術の影響力は大きい。
 625E−S2は、同社の伝統を最も色濃く継承するMI型で、S2はヘッドシェル付。滑らかでウォームなサウンドはアメリカンポップスなどに最適。
 625DJは、デリケートな扱いが要求されるカートリッジを、強く逞しく、ノンブレーカブルに変身させた個性派。重針圧、耐逆回転性、蛍光ポイント付針先、針先保護Vガードと装備は抜群。
 150DJは出力8mV、円錐針、2〜4gの重針圧、信頼性と経済性の両面から、DJから最も信頼されている定番モデル。ジュークボックスでの成果の反映か。

エンパイア 4000D/III

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井上卓也

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 いわゆるベスト・バイの意味からは、価格的に逸脱するが、他では得られないトーンキャラクターをとれば、ベスト・バイともいってよいだろう。トータルのシステムのクォリティにより音が大幅に変化する傾向が著しい。このカートリッジが、シャープさと柔らかく陰影の色を濃く鳴らせば、かなりのシステムである。
井上卓也

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 繊細で細やかな音をもち、いかにも鉄芯がないMC型らしいカートリッジだったFR−1E以来、改良がくわえられるたびに、音の密度が濃くなっているのがわかる。おだやかで完成度が高く、風格のある音と思われやすいが、最新のヘッドアンプとの組合せでは、中域のエネルギーが強く、ダイナミックで鋭角的な音を聴かせ、このカートリッジがもっているパフォーマンスの奥深さを感じることができよう。趣味性の濃い製品だ。

デンオン DL-103S

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井上卓也

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 DL−103をベースに近代カートリッジらしい広帯域化をはかったこのモデルは、当初はネガティブな評価もあったが、ディスク側、アンプ、スピーカーなどクォリティが上昇するにつれて、本来の性能の高さが発揮されるようになった。いわゆるスタンダードカートリッジとしての信頼性の高さは、DL−103ゆずりで製品の安定度は抜群である。優れたヘッドアンプと組み合わせると、いかにも広帯域型で鮮度が高い音である。

グレース F-8L'10

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井上卓也

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 カートリッジ、トーンアームの老舗としての伝統を誇るグレースの象徴としての役割を果してきた、F−8L発売10周年を期して発売された珍しい製品である。これを意味して型番の末尾に10がつけられているが、さすがに現代カートリッジらしく、多くのF8シリーズとは一線を画した反応が速く、鮮度が高い音をもっている。とかく高価になりがちのカートリッジのなかでは、その価格もリーゾナブルであり信頼度も十分に高い。

オルトフォン MC20

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井上卓也

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 SPUシリーズをプロトタイプとして発展してきたオルトフォンの最新モデルである。構造面では、カンチレバーが二重構造の軽量型に変更され、専用のヘッドアンプをもつ点では、かなり現代的であり、音も、SPUの個性豊かなサウンドから、より現代的なスムーズなものに変わっている。
井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 この種のオーディオコンポーネントの試聴で問題になるのは、試聴テストの原点である、0dBをどこにセットするかである。基本的には、従来から私の個人的な孝えではあるが、試聴テストにはいわゆる使いこなしはしないこと、を条件にしてある。カートリッジをベースとして、そのカートリッジの最大限の性能を引き出すために、併用するプレーヤーシステム、もしくはトーンアームを選び出すことはもちろん可能ではあるが、すべてのカートリッジにたいして、同程度のウェイトをかけて使いこなすこと自体が難しいことである上に、これはいわゆる試聴テストの枠をこした、使いこなしの領域のものであると思う。試聴テストはあくまで同一の設定条件のなかで、各テスト製品がどのように変化をし、どのような音を聴かせてくれたかに徹すべきである。オーディオに限らず、すべてコンテスト的要素のあることは、同一舞台上での比較にすぎない。
 コンポーネントシステムのもっとも入口に位置するプレーヤーシステムのなかでは、カートリッジが、トランスデューサーとして音を決定する最大の要素であることに異論はない。しかし本来は、カートリッジとトーンアームが一体化しているピックアップアームを、バーサタイルな組合せが可能であるように、カートリッジとトーンアームに分割したのが現状であるだけに、カートリッジの試聴テストをおこなう場合には、どのプレーヤーシステム、もしくはトーンアームを使用するかが大きな問題点としてクローズアップされてくる。そのため、テストに先だって、現在市販されているプレーヤーシステムの代表的と思われるモデルを数多く集めて準備段階での試聴をおこなってみた。
 その結果は、経験を含めて予測されたように、各システム間の格差が大きく、音質的な違いがはなはだしく存在していることを再確認することができた。一方、単体で発売されているユニバーサル型のトーンアームは、現在かなりの機種があり、その性能も高くプレーヤーシステムに使用されているトーンアームよりも一般的に高性能なものが多い。

試聴に使用した装置
 そこで、まず、トーンアームの選択からはじめてみることにした。現在のプレーヤーシステムでは、数は少ないが2本もしくは2本以上のトーンアームが使えるモデルがある。そのなかから、3本のトーンアームが任意に取付可能なプレーヤーシステムとして、基本的な性能が高く、ユニークなデザインをもつマイクロのDDX1000を選ぴ、これにより、トーンアームの選択をおこなった。
 10種類程度の候補アームのなかから、このプレーヤーシステムに、アダプター形式で取付可能なものの試聴を繰り返し、最後に3機種のトーンアームが残った。それらは、重量級のアームとして、ダイナミックバランス型を採用した、FR FR64、軽量アームとして、ユニークなダンピング方式を採用した、デンオン DA307、それに中間的な存在である、ビクター UA7045である。マイクロ DDX1000に、これらの3本のアームをセットし、各種の性格が異なったカートリッジを組み合わせ試聴した結果、平均的に各種のカートリッジの個性を引き出した、ビクターUA7045を使うことに決定した。
 トーンアームの選択が終れば、次はフォノモーターの選択である。フォノモーターはトーンアームの選択に使ったマイクロDDX1000の使用も考えられるが、できたら、第3世代のDD型フォノモーターとして注目を集めているクリスタルロックのDD型を使うほうが、話題のフォノモーターであるだけに好ましく思われる。これで、かなり候補モデルは限定され、結果としては、今回の持廻り試聴のメリットである、各人各様の異なったシステムを使って、現在のカートリッジを試聴することの意味を含めて、幸いに、私の試聴予定が岡氏、岩崎氏の試聴後であり、使用されたプレーヤーシステムが判かっていたために、ほぼ自動的に、ビクター TT101を使用することになった。結果的には、トーンアーム、フォノモーターともに異なった条件で選択していったわけだが、同じビクターの組合せになったため、プレーヤーべースも、当然こうなればビクター製を使うことにしたほうが妥当と考え、TT101システムをカートリッジ試聴のベースとなるプレーヤーシステムとした。
 このプレーヤーシステムは、聴感上での帯域バランスが安定しており、周波数レンジでも、現在のカートリッジ試聴用として充分な広さがある。音の傾向は、低域の量と質のバランスが保たれ、安定した音であり、中域は充実しているが、中高域の一部にわずかながら輝きがあり、そのあたりでは、やや音の分離が他の帯域にくらべて気になる面が残る。高域は比較的に素直に伸びた感じがあり、強調感が少ないメリットがある。
 使用するアンプは、本誌臨増「世界のコントロールアンプ/パワーアンプ」での試聴結果をベースとして考えた結果、コントロールアンプ、パワーアンプともに、リファレンス用として使い、充分に性能を発揮した、マークレビンソン LNP2とマランツ モデル510Mを選ぶことにした。
 この組合せは、コントロールアンプ、パワーアンプともに現代のセパレート型アンプにふさわしい性能と音質を備えている。
 聴感上のSN比とクロストーク特性が優れ、パワーも、新しいレコードがもつピークを充分に再生できるだけの余裕がある。この組合せは、聴感上で、かなりワイドレンジ型の帯域バランスであり、低域、高域ともに、伸び切った音であるが、中域はやや薄い傾向がある。
 スピーカーシステムは、私の場合には、いつものように試聴場所をステレオサウンド試聴室としたために、JBL 4320を使うことにした。このスピーカーシステムは、このところレギュラーに本誌試聴室で使用しているために充分にエージングが済み、音が安定しているメリットがあることと、このシステムが中型フロアータイプともいえるブックシェルフ型と大型フロアー型との中間的存在であり、プレーヤーシステムの選択の一部条件としたテスター各氏の使用スピーカーシステムとコントラストをつける意味もある。
 JBL 4320は、このモデルをベースとして改良した4331と比較すると、やや聴感上の周波数帯域が狭く、帯域バランス上では、比較的に中域の量感があるのが特長である。低域は大型フロアーシステムのように伸ぴてはいないが、ブックシェルフ型やコンシュマー用の中型フロアーシステムよりは量感があり、高域も必要にして充分な伸びがあり緻密さがあるのが特長である。

使用レコード
 プログラムソースには、マイクロフォンからの信号をテープデッキを通さずに直接カッティングレースに送りこむ、ダイレクトカッティング盤を中心にして選ぶことにした。現在までに、ダイレクトカッティング盤として発売されたディスクのなかから、かつてコロムビアでカッティングした45回転のダイレクトカッティング盤を6枚、米シェフィールドレコードの第2集、第3集、それに最新盤を含めて3枚、その他に、日本フォノグラムから発売されている「ザ・スリー」を選んで今回のメインプログラムソースとした。
 合計123個のカートリッジは、編集部で各カートリッジメーカーに問い合せて決めたヘッドシェル、もしくは、もっとも相応しいと判断したヘッドシェルに取り付けてあり、各カートリッジの外形寸法的な違いからおきるオーバーハングの誤差は、取付時に調整してヘッドシェルのネック部分と針先位置間の寸法は一定にセットしてある。
 針圧は、カートリッジの試聴で、もっとも問題のある部分である。一般にカートリッジの針圧は、ある値からある値の間で指定してあることが多く、場合によれば、この他に標準的な針圧が発表されていることも多い。今回は、原則として指定針圧の幅のなかでの最大値にセットすることにした。この場合、最大値では、見かけ上で針先が沈み込み過ぎる状態になるときには試聴をおこないながら、ほぼ標準的と判断できる値にまで針圧を減らす方向でコントロールをすることにした。なおこの場合の針圧は、ビクター UA7045の針正目盛で読んでいるため、精密な針圧ゲージでの値とは、ある程度の誤差は生じていると思われるが、試聴結果に影響を及ぼすほどの誤差ではない。また、インサイドフォースキャンセラーは、今回は使用せず、常時、0位置にセットしてある。なお、当然のことながら標準としたプレーヤーシステムは、前後左右の水平度を確認し、できるだけニュートラルな状態として使用した。
 なお、低出力型のMCカートリッジには、昇圧用トランスが必要であるが、各モデルともに、メーカー、もしくは輸入代理店で指定したトランスを使用することを原則としており、一部の指定トランスがないモデルの場合には、ユニバーサル型の、昇圧トランスFR FRT4を使うことにした。
井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 合計123個の内外のカートリッジの試聴をおこなったが、もっとも重要なポイントとしてクローズアップされたことは、本質的な試聴を終えての感想ではなく、試聴以前のリハーサル的な試聴における、カートリッジとそれを組み合わせるトーンアーム、もしくはプレーヤーシステムとの間にある問題である。
 最近のプレーヤーシステムは、以前のような、プレーヤー構成部品であるカートリッジ、トーンアーム、フォノモーターを集めてプレーヤーべ-スに取り付けた、いわゆるアッセンブリー型プレーヤーが少なくなり、各構成部品がデザイン的にも、性能的にも有機的に結びついたプレーヤーシステムとしての完成度が高くなっている。
 それとは別に、DD型フォノモーターが商品化されて以来、プレーヤーシステムの焦点はフォノモーター中心に発展してきた。
 モーターの駆動力が、それまでのベルトを介さずに直接ターンテーブルをダイレクトに回転させる駆動方式の転換に主な意味があった第1世代のDD型から、ターンテーブルが1回転する間に回転数を制御するチェックアウトポイントの数を増加して、回転数をよりムラなくコントロールする、FGサーボに代表される第2世代のDD型。さらに、回転数の増減をプラス方向マイナス方向ともに制御可能であり、かつ、回転数の基準を正確なクリスタルを採用して規制をする現在の第3世代のDD型にまで発展してきた。
 たしかに、これらのターンテーブルの改良発展によって、結果的な音質が大幅に向上していることに異論はないが、プレーヤーシステムとしてトータルで考えると、ややトーンアームの問題が取り残されているように思われる。現在のプレーヤーシステム間の音の違いは、一般に考えられているよりははなはだしく大きく、同じカートリッジ同じディスクを使ってその差を比較すると、まさに驚くべき格差があり、少なくとも、現在すでに高水準にあるプリメインアンプと比較すると問題にならぬほど大きく、もっとも大きく音を支配するといわれるスピーカーシステムと比較しても、スピーカーシステムのように、設置場所によるコントロールが不可能に近いだけにこの差のもつ意味は、かなり大きいと受け取らなければならない。
 プレーヤーシステム間の音の差の原因として考えられるのは、その大半がトーンアームにあるようである。実際に、今回のカートリッジ試聴で最後までつねに問題として残ったのは、トーンアームの選択が妥当であったかどうかである。
 現在のカートリッジは、CD−4システムが発表されて以来、急速に性能が向上しているだけに、トーンアーム側はユニバーサル型を原則としている限り、大きなネックにさしかかっているようだ。ある意味では、広範囲なカートリッジの使用を前提とするユニバーサル型トーンアームは限界に達しているようである。トータルなシステムとして考えると、完成度が高まったとはいえ、なお、コンポーネントシステムのなかでは、プレーヤーシステムがもっとも多くの問題を残しており、音が良いプレーヤーシステムが出揃うまでにはかなりの時間が必要であろう。
 今回の試聴を終っての感想は、平均的にカートリッジの性能が高くなったという、月並みな結果であり毎度このような試聴をおこなうたびに感じることと同様な結果である。とくに、国内製品では、各メーカー間の個性が薄れて平均化しているのは、他のプリメインアンプやスピーカーシステムと同じ傾向であり、各メーカーの基本的な技術水準が向上して接近していることを物語るものであろう。このことは海外製品でも同様で、新しい製品は物理的な性能が高くなった反面に、音色的な個性は徐々に少なくなる傾向が感じられる。とくに、内外を問わず、CD−4システムに使用可能な高価格のモデルは、音が平均化する傾向が強いのは、大変に興味深い事実である。当然、コンポーネントシステムが高級なクォリティが高いものとなれば、平均化したなかでの差が大きな要素としてクローズアップされてくるが、平均的なコンポーネントシステムを使用するという条件があれば、その差はかなり縮まるはずである。
 今回の試聴では、テストの方法で書いたような条件を設定し、その場での音についてのリポートをすることにした。したがって、従来からの個人的な使用での先入観的な各カートリッジの音色は、まったく、今回の試聴リポートには関係なく、結果としては、経験上の音色とかなり異なったカートリッジも多い。おそらく、プログラムソース側でのディスク自体がかなり発展して質的な向上をしていることも原因であろうが、アンプ関係の性能向上も大きな要素となっていると思われる。また、今回の試聴により、従来から潜在的に、各カートリッジに感じていたことが、デメリット的に表面に問題として出てきた場合もあり、逆に、可能性としてメリットとなって、あらためて認識し、確認した例もある。やはり、カートリッジが、現在ではプレーヤーシステム、とくにトーンアームと分割されたひとつの部品として存在していることが、このように変化する要因であろうし、長期間使ってかなり判かっていたはずのカートリッジでさえも、的確に音が捕えきれない理由ではないかと思われる。
 今回の試聴で注意して聴いたポイントは、一般的なコンポーネントシステムに共通な、聴感上の周波数レンジ、周波数帯域内での量的と質的なバランス、ステレオフォニックな音場感、つまり、左右の拡がり、前後の奥行き、音像定位と音像の大きさなどがある。
 個人的な意見としては、コンポーネントシステムのなかではスピーカーシステムとアンプが基本であり、カートリッジを含めたプレーヤーシステムは、FMチューナーやテープデッキと同様にプログラムソースであると単純に考えるべきものと思う。現在のように任意にカートリッジが交換できるプレーヤーシステムでは、カートリッジはプログラムソースであるディスクとその内容によって決定するべきであろう。音的には現在のカートリッジはかなりの水準に達しているが、音楽を聴くことになれば、物理的な音としてのクォリティが高いとしても、それがすべてではない。例えば、多くの米国系のカートリッジでは、ドイツ系のオーケストラがもつ音色を充分に聴かせることが難しく、ドイツ系のカートリッジで、ロックやソウルのエネルギッシュでビートのあるリズムを聴くことは、どうにも場違いな感じが強い。しかし、このサイドに踏み込むと、用意するプログラムソースの幅が広くなり、細かく試聴を重ねていくだけの充分な時間も現実に不足するのは、試聴カートリッジの機種が多いだけに当然であろう。
 今回は、テスターが各人各様の試聴をする持廻り試聴でもあるために、基本となる音的な問題に限定して試聴をし、リポートをすることとし、音楽的な問題は、その、ほとんどを割愛することにした。
 試聴リポートに出てくる低域のダンピングという意味は、トーンアームを含んでの低域の量と質との兼ねあいに関係がある、感覚的なダンピングで、一般的なダンピングが効いた音などと表現されるものと同様に考えていただいてもよいと思う。また、聴感上のSN比とは、聴感上でのスクラッチノイズの性質に関係し、ノイズが分布する周波数帯域と、音に対してどのように影響を与えるかによって変化をする。物理的な量は同じようでも、音にあまり影響を与えないノイズと、音にからみついて聴きづらいタイプがあるようだ。また、高域のレスポンスがよく伸ぴ、音の粒子が細かいタイプのカートリッジのほうが、聴感上のSN比はよくなる傾向があった。
井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 スタントンは、米国系のカートリッジとしては、素直で標準的な音をもち、個性的な魅力を聴かせるタイプでないのが珍しい。
 681EEEは、音の粒子が細かくスッキリとして磨き込まれている。聴感上の帯域はフラットで爽やかによく伸びている。音に汚れがなく、滑らかで美しさがあるが、表情がおだやかで、やや控えめである。ヴォーカルは少し線が細く、キレイではあるが、力感が不足気味で実体感が薄らぎ、ピアノは澄んだ透明な感じが美しいが、迫力に乏しく、スケールが充分に感じられない。クォリティは充分に高く、音場感はホールトーン的によく拡がり、音像も平均的に立つ。このカートリッジは、力強い表現には向かないが、線が細くキレイな特長は、それなりにかなりの魅力があると思う。
 681EEは、EEEよりもスッキリとしてクリアーな音である。粒立ちはやや粗いが、SN比で気になることはない。帯域バランスはフラット型でカラリゼーションは少ないタイプである。低域は質感がよく音の変化がわかりやすい。ヴォーカルは、スッキリとして、ややハスキー調で子音を強調するが、バランスは崩れず、明るい感じがある。ピアノは、カッチリとした音で、響きも美しく、スケール感もある。細部のニュアンスを拾い出して美しく聴かせるところは、681EEEが優れるが、バーサタイルに使用する場合には、この681EEの方が、爽やかで明快な音をもち、音色が明るく開放感があって使いやすいと思う。
 680ELは、粒立ちが粗く、SN比が気になる。低域から中低域は腰が強く、エネルギーが充分にあって安定度は大きいが、中域以上は明快だが線が太く、しなやかに細部を拾い出して聴かせるわけにはいかない。
 680EEは、粒立ちは、681EEより粗くなり、SN比が少し気になる。帯域バランスはナチュラルで、全体の音はソリッドに引き締まり、適度に音にコントラストをつけて、フレッシュに聴かせる。低域は標準型で甘すぎず、安定しており、中域以上の音をよくサポートしている。ヴォーカルは、ストレートな感じで押し出しがよく、ピアノもカッチリとスケール感がある。
 600EEは、メリハリ型のクッキリとした音である。やや線が太く、骨組みがシッカリとして男性的な感じがあり、低域の腰が強く、エネルギーがタップリとあって堂々とした安定感のある音が特長である。ヴォーカルは子音を強調気味でハスキー調となるが、音像は大きく、前にグッと出て定位する。ピアノはアタックの力が強くダイナミックにスケール感があって、よく鳴る感じだ。トータルバランスはよく、安定した音をもつが、粒立ちは粗く、SN比が少し気になる。
 500AAは、全体に音にラフな感じがあり、充分の力感がないために、表面的に音にコントラストをつけて聴かせる傾向がある。中低域から低域は安定しているが、中域以上は粗く、やや硬調で、音の密度もあまり濃いタイプではない。

ソナス Red Label, Blue Label

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井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 ブルーラベルは、全体にサラリとしたストレートな現代的な音をもっている。聴感上の帯域は標準的なバランスをもつが、メリハリが効いているために、ややハイファイ調にいかにも音の分離がよいように聴こえるタイプである。低域は、最低域が重く感じられ、その上が少し弱く、結果としてやや抑えられたように感じることもある。中低域は質感が軽く響きはキレイだ。性質は少しドライで割切りのよい特長がある。
 レッドラベルは、コントラストが強い押出しのよい音をもっている。メリハリが効いた明快な感じは開放感があり、力強く男性的である。この音はややラフではあるが力感があるために、ストレートな、もって廻らぬ、一種の説得力があり、好みにより結果は大きく分かれるタイプであろう。
井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 シュアーは、当初からMM型の発電方式を採用したカートリッジをつくりつづけており、ステレオ初期以来、つねに新製品は、数々の話題を投じている。音色は、適度にコントラストがついた、耳あたりがよく活気がありキレイに音を聴かせる、いわば演出型の音が他にない個性となっている。
 V15/IIIは、粒立ちはまず標準的という感じで、最近の高級カートリッジと比較すると、さして細かさは感じられない。帯域バランスは、低域から中低域に独得なスケール感を感じさせる音があり、中域から中高域にも、やや硬調な効果的に輝く個性がある。ヴォーカルは、ちょっと聴きには、スッキリと抜けてニュアンスが充分にわかる感じがあり、音像がクッキリと立つタイプであるが、聴き込むと、キリッとした輪郭がなく、ピアノはスケール感はあるが低音が甘くベトつき気味である。プログラムソースにはフレキシブルに対応して気持よく聴かせる特長がある。高級コンポーネントシステムよりも、中級以下のシステムの場合に見事な音を聴かせる傾向があるが、システムのクォリティが高くなると、薄味の華やかさになり、音がベタツキ気味になるのが興味深い。
 M95EDは、柔らかく耳あたりがよい音をもっている。中低域に量感があって、軽くよく響くが、やや粘る感じもあって奇妙にスッキリと爽やかにならない面がある。ヴォーカルは表情が甘く、声量がなく、オンマイク録音のように細部を見せるが、表現が表面的で実体感が乏しいようだ。ピアノはソフトで適度に輝くが、クリアーにカッチリとした音にならない。
 M91GDは、低域のダンプが適度であり、音の粒子は上級モデルよりも粗くなり、聴感上のSN比がときおり気になることがある。音の傾向は、M95EDよりもクリアーでスッキリとした感じがあり、暖かみがあり、ベトツキがなくなっている。低域は、量感があって、少し甘く感じられるが、弾力性もあってリズミックな表現も充分にこなすだけの力量がある。ヴォーカルは、子音を強調気味でハスキー調となるが、適度にコントラストをつける効果があり、力感もあるために、スッキリとクリアーな印象がある。ピアノは、スケール感もかなりあって、響きが美しく明快である。トータルバランスはかなりコントロールされて巧みにとられているために、音の魅力ではM95EDを上廻り、活気があり、リズミックに音を楽しく聴かせるメリットが大きい。
 SC35Cは、帯域が狭く、線の太いマクロ的に音をまとめるタイプだ。粒立ちは粗くノイズが耳ざわりである。低域から中低域にかなりエネルギーが感じられる、腰が強いソリッドなメリットをもつが、全体に音が大味にすぎて、細部の表現がかなり不足する。
 M75G/2は、粒立ちは粗いタイプだが、あまり聴感上のSN比が劣化しない特長がある。帯域はナローレンジ型で、全体に音の傾向は甘く柔らかい。普及型システムと使うと、安定した面白味がある音になる。
井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 ピカリングは、LP時期からカートリッジメーカーとして有名で、ステレオになってからは、普及モデルから徐々に高級モデルに発展し、現在では一連のシリーズ製品として製品が多い。音色は、伝統的に明快で力強く、やや乾いたストレートな音を守っているのが特長である。
 XUV/4500Qは、音の粒子は、この種のタイプとしては、あまり微粒子型でなく芯がカッチリとした特長がある。帯域バランスは、かなりワイドレンジ型だが、低域は引き締まりソリッドで力強い。中低域は豊かさがあり響きもあるが、中域以上は、やや硬調で明快でスッキリとした魅力をもつが、乾いた感じがあり、艶が不足する場合もあろう。組み合わせるスピーカーシステムやアンプは、聴感上で、いかにもワイドレンジを感じさせる両サイドが上昇する傾向のタイプは避けるべきで、古いタイプのフロアー型や、両サイドが、ゆるやかに下降するレスポンスをもつAR的なブックシェルフ型スピーカーがよい。
 XV15/1200Eは、粒立ちは、XUVよりも粗いが充分なSN比はある。音の傾向は、ウォームトーン系で、低域から中低域の量感が豊かで拡がりを感じさせる響きがある。音色は明るく伸びやかさはあるが、表情がマイルドで、スッキリとした爽やかさが必要と感じる場合がある。全体に線を太く表現するため、音の輪郭はあまりクッキリとせず、音像も大きくなるタイプである。マクロ型に音をまとめ、安心して聴けるところが、このカートリッジの特長である。
 UV15/2000Qは、XUV/4500Qと同様にCD−4システムに使用できるモデルである。粒立ちは細かいタイプで、帯域バランス上、やや中域が薄い感じがある。低域はソフトで甘く、中域はやや硬く乾き気味である。ヴォーカルは落着いた感じだが、やや子音を強調気味でハスキー調となるがあまり気にはならない。全体に耳あたりがよく、おだやかであり、やや硬質の中域以上が適度のコントラストをつける良さがあるが、XUV/4500Qほどの力感が伴わないために表現不足となり、表面的になる傾向があり、抑揚が乏しく感じられる。音場感は、ホールトーン的な響きが拡がりを感じさせるが、音像はさほど明瞭に立つタイプではない。
 XV15/400Eは、上級モデルよりも粒立ちが粗くなり、ときには聴感上のSN比が気になることもある。低域のダンプは標準型か、少し甘いタイプである。聴感上の帯域は、このクラスとしてはよく伸びていて、低域の腰が強く中高域は明快で、やや乾いたピカリングトーンである。ヴォーカルは、子音を強調気味だがスッキリとした感じであり、ピアノは適度にスケール感があり響きもキレイである。低域に少し重い感じがあり、反応のテンポが遅く感じられる場合がある。
 V15MICROIV/ATは、粒立ちはラフで聴感上のSN比が気になるタイプである。線が太く、帯域が狭いバランスであるが、まとまりはよく安定感がある。価格からすれば力もあり、耳あたりがよく商品性は高い。
井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 SPU−A/Eは、指定されたSTA384トランスを使う。このトランスは、1・5Ω対20kΩの変成比をもつタイプだ。
 聴感上の帯域バランスは、低域から中低域にウェイトをおいた安定型であるが、音色はややウェットで重く、表情は控えめで、やや抑えられた感じがある。ヴォーカルは線が太くおだやかではあるが、中域の粒立ちが関係してハスキー調で子音を強調気味となり、力がなく音像が大柄になる。ピアノは、スケール感は充分にあり、ソリッドな感じがあるが、低域が甘く、ベタつき気味となり、表情が散漫になってリズムに乗らない面がある。音場感は、やや左右の拡がりが狭く、前後のパースペクティブも、さしてスッキリと表わせず音像がやや大きくなる。
 SPU−G/Eは、指定の1・5Ω対1・5kΩのSTA6600トランスを使う。A/Eよりも全体に音の輪郭がシャープとなり、音の彫りが深く緻密でクリアーである。聴感上では、低域が少し量的に多く、やや質感が甘い傾向があるが、中低域のエネルギー感がタップリあり、重厚で安定した、押出しの良い音である。音場感は、A/Eよりも、クリアーに拡がり、音像定位もシャープでクッキリと立つようになる。低域は、やや反応が遅く、ロックやソウル系の早いリズムには乗りにくいようだ。
 SPU−GT/Eは、低域のダンプが、SPUシリーズ中でももっとも甘口であり、聴感上のSN比も少し気になる。全体に線が太い音で、密度が不足し、表現が表面的になる傾向がある。低域は量感はあるが甘く、重い音で、ヴォーカルは、ハスキー調となり、やや、力感不足となる。
 SPUシリーズは、基本的構造が同じであり、音を大きく変える要素は、トランスである。指定トランスを使って聴いたが、今回は経験上での音と、かなり異なった音となった大半の原因は、このあたりにあると思う。
 SL15E MKIIは、STM72Qトランスを使った。全体に、やや硬調で、コントラストを付けて音を表現するが、適度に力があり、密度が濃いために安定した感じがある。ヴォーカルは、明快でハスキー調となり、ピアノは、硬調で輝やかしいタイプである。
 SL15Qは、粒立ちが細かく、軽く滑らかで現代的傾向が強い音だ。中低域は甘口で拡がりがあり、中高域は爽やかで柔らかさもある。ソフト型オルトフォンといった感じが強い。
 MC20は、最新モデルである。粒立ちは細かく、表情は、SL15Eよりも明るくゆとりがある。ヴォーカルは誇張感なくナチュラルでピアノもおだやかになる。全体にマイルドで汚れがなくキレイな音をもっている。
 M15E SUPERは、柔らかく豊かな音だが、中域から中高域は粒立ちがよくクりアーである。細部をよく引出し独得な甘く柔らかな雰囲気で聴かせる魅力は、大きい。
 VMS20Eは、M15Eよりも、全体にソフトな傾向が強く、力強い押し出しがなくムード的に音が流れやすく表情が甘い。

グラド FCE+, F-3E+, F-1+

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井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 グラドは、ステレオ初期に高出力型のMCカートリッジを出し、そのクォリティの高さにより、当時の高級ファンに愛用者が多かったが、最近では、マグネチックタイプの、いわゆるMI型の発電方式を採用した一連のシリーズのカートリッジで、安定した評価を得ている。
 F1+は、現在のグラドのトップモデルである。全体に歪感がなく、滑らかでソフトな音をもっているために、ちょっと聴きでは際立った印象を与えないが、クォリティは充分に高く、長期間にわたり聴き込んでいくと、だんだん魅力が出てくるタイプの音である。
 音の粒子は細かく、よく磨き込まれており、軽く滑らかで明るい音色をもっている。ヴォーカルは力強さを感じさせるタイプではないが、細かいニュアンスがわかり子音を強調せずにナチュラルである。ピアノはややスケールが小さくなる傾向をみせるが、ソフトで柔らかく、よく響き軽快に鳴るタイプである。
 ステレオフォニックな音場感はよく拡がり、前後のパースペクティブな感じもよく出すが、スピーカーとスピーカーの奥深く拡がるタイプである。音像は比較的クッキリと立ち、定位も安定している。
 F3E+は、中低域がかろやかで、よく響くところは、F1+と似ている。ただ、音の粒子は少し粗くなり、中域から中高域にかけて、わずかに強調感があるように感じる。全体の音の傾向は、明快でメリハリが効いた一種のリアルさがあり、F1+よりも音のコントラストがクッキリと付くが、中域が充実し低域がサポートをしているために安定感が感じられるのがよい。このクラスの製品としては力感があり、トータルバランスがよいが、低域はやや甘口である。
 FCE+は、海外製品としてはもっとも安いクラスの製品である。全体に中域を重視した比較的カマボコ型のレスポンスを感じさせる。低域はやや量的に抑えられており、締まったメリットがあるが、スケール感が小さくなるようだ。粒立ちは粗く、ヴォーカルはハスキー調となり、音像が大きくなる傾向がある。

ゴールドリング G900SE

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井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 ゴールドリンクは英国系の数少ないカートリッジメーカーとして貴重な存在である。
 G900SEは、キメの細かい軽やかな音をもっている。とくに、中低域が独得な軽い響きでフワーッと鳴るのが楽しい。ヴォーカルは、ソフトな感触でマイルドに耳あたりがよく、子音をスッキリと出す。おとなしいがそれでいて芯があり、響きが美しく柔らかにハモルのは魅力である。ピアノはさしてスケール感がないが暖かくよく響く。ステレオフォニックな音場はよく拡がり、前後方向のパースペクティブをナチュラルに表現し、音像定位がスッキリとしている。リアルな音ではないが、感覚派のオーディオファンに好まれるタイプで、クォリティは高い。表情はちょっとクールな感じがあり、リファインされた女性的な印象がある。

EMT XSD15

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井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 本来は業務用に開発されたEMTの製品は、コンシュマー用としては特殊な存在で、独得なキャラクターをもっている音は標準的な音とはいえないが、オーディオ的な魅力は充分に持っていると思う。
 XSD15は、アダプターを使わずに一般のアームに取付可能となった、TSD15の変種製品である。今回は出力電圧がかなりあるためトランスなしで使用することにした。このカートリッジは音の密度が高く、重厚で力強い音をもっている。全体の音の傾向は進歩がいちじるしい現代のカートリッジのなかにあると、やはり古典的で粒立ちが粗く、細やかな表現は不得手なタイプである。音の輪郭をクッキリとコントラストをつけて聴かせる点では比較するものがないが、表情が硬く弾力的ではないために、リズミックに音が決まらないもどかしさがある。
井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 エンパイアのカートリッジは、発電方式に独得なマグネチックタイプのMI型を採用していることが特長である。音の傾向は、普及モデルから、高級モデルまでかなりの変化を見せるが、トータルバランスが優れ、洗練された都会的な感覚が共通の魅力である。
 4000D/IIIは、粒立ちが滑らかで細かく、聴感上の周波数レスポンスが充分に伸び切っていながら、あまり中域の薄くならないのが特長である。音の傾向は、軽く艶やかで、陰影が色濃く、グラデーションの微妙な変化を見事に表現する。ヴォーカルはバックとのコントラストがナチュラルにつき、ピアノはまろやかで艶めいて響く。他のカートリッジよりも楽器の数が多くなったような多彩な音色があり、ハーモニーがとりわけて美しく感じられる。音場感は広い空間を感じさせるように拡がり、パースペクティブな感じや、音像の立ちかたが自然である。
 4000D/Iは、D/IIIよりもかなり粒立ちが粗く、SN比が気になる、音の傾向は、コントラストがついたメリハリ型で、線は太く、ちょっと聴きには粒立ちがよく聴けるタイプである。性質は、かなり、カラリと開放的だが適度の抑えがきいて、伸びやかな明るさがある。若い未完成の魅力があり、マクロ的に音をまとめるメリットをもつ。
 2000Zは、最新のモデルで、かつての1000ZE/Xを継ぐ位置にある製品と思われる。粒立ちは細かくシャープであり、クールな感じのストレートな音である。トータルなバランスや音色はエンパイアであるが、スッキリと切れ込む音に、フレッシュで爽やかな印象がある。帯域バランスはこのクラスとしては平均的と思うが、中域のエネルギーがかなり強く押出しはよいが、ドライな感じが特長である。音場感は、スッキリと拡がり、音像もシャープにクッキリと定位する。現代のカートリッジらしい割切った小気味がよい音だが、エンパイアの高級モデルにある独得な完成度が高く洗練された雰囲気や味わいは、かなり薄らいだようだ。2000シリーズの他のモデルとも異なった、新しい傾向の音であることが面白い。
 2000E/IIIは、落着いた、おだやかな感じの音をもっている。音の傾向はウォームトーン系で、帯域バランスはよくコントロールされていて、高域・低域ともに過不足はなく、両サイドはなだらかにレスポンスが下降しているように聴かれる。低域は甘口で柔らかく、中低域に間接音成分が多い豊かな響きがあり、中域以上はさして粒立ちの細やかさはないが、磨かれている感じがあり、ソフトで耳あたりがよく、カラリゼーションは少ないタイプである。ヴォーカルは大柄になり音像が大きく、表情は甘くなり、大味である。全体のまとまりは優れるが音の鮮度は落ちる。
 2000Eは、E/IIIよりも音色が軽く、やや乾いた感じがある。帯域バランスは低域がある程度のところからシャープにカットされた感じがあり、中低域は軽く響き、中域以上は粗粒子だが硬くはならない。価格を考えるとE/IIIよりも魅力的である。
井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 エレクトロ・アクースティックのカートリッジは、ステレオ用として初期から完成度が高いMM型の製品があり、米シュアーと双壁をなした存在であった。音色は、やや乾いたソりッドなものであるが、最近では、滑らかさ、柔らかさが加わり、現代的傾向が見られる。
 STS655D4は、CD−4システム用のモデルで、音の粒子が微粒子型で滑らかさがある。低域はソフトで甘く、中低域あたりに間接音成分がタップリとつき、厚味はあまりないが、薄くしなやかで強調感がないナチュラルな暖かみがある。
 STS555Eは、粒立ちが細かく、適度の帯域バランスが保たれた安定した音をもつが、低域が甘く、中域の密度が不足しがちで、音がピタリと決まらない面がある。表情はストレートで、やや素気なく、抑揚を抑える傾向がある。ヴォーカルは柔らかくゆとりはあるが、細身となり軽くなる。ピアノはキレイだが、やや実体感が乏しい。音場感は、柔らかな拡がりがあるが、音像定位はあまりクリアーではない。
 STS455Eは、全体に柔らかく、甘い響きがあって、ゆったりとした雰囲気があるが、低域は甘く、悪くするとベトつく感じとなる。ヴォーカルは、適度にリアルさがある落着いた印象で、ピアノはスケール感豊かに響くが、いま少し明快さがほしい感じだ。性質はウェット型で、おだやかな良さがあるが、積極的な働きかけが、やや足りぬようだ。
 STS355Eは、全体の音が引き締まり力強く明快に音を決めていく魅力がある。帯域バランスはよくコントロールされているが、上級モデルよりはレスポンスが狭い。粒立ちは粗いタイプだが適度に輝きがあり、破綻を示さずに音を鋭角的に処理をする。表現は線が太く骨太でラフな感じもあるが、力感があるため安定感につながるメリットがある。エレクトロ・アクースティックの製品中では、プログラムソースやコンポーネントシステムとの対応性の幅はもっとも広く、安心して使えるカートリッジである。
 STS255−17は、音の粒子が上級モデルよりも粗くなり、聴感上のSN比が気になる場合もある。聴感上の帯域バランスは中域が充実した安定型だが、レスポンスはあまりワイド型ではない。低域はソリッドで腰は強いが、あまり伸びがなく、中域から中高域がやや硬調で骨太な感じがあり、艶が不足し乾いた感じだ。全体の音は、明快型でクリアーなタイプだが、ヴォーカルは、やや大柄でハスキー調になる。ピアノは、力はあるが、スケールが小さく硬質に輝く。クォリティは、この価格の平均的で、355系のジュニアモデルといった印象が強い。
 STS155−17は、粒立ちはかなり粗く、粒子が大きいが、適度に磨かれた丸味があり刺激的にはならない。帯域バランスは、中低域にウェイトをおいたカマボコ型のレスポンスをもち、高域は低域よりも急峻に下がっているようだ。全体の音の響きに柔らかさがあり、豊かで柔らかい音に加え、スッキリした低音感も、高級品らしい。

デッカ Mark V, Mark V/ee

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井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 デッカのカートリッジは独得な垂直と水平系の発電方式を採用し、マトリックスを使ってステレオ再生をするために、現在のカートリッジのなかでも個性派の筆頭であろう。
 MARKVは、ソリッドで硬質な独得の魅力がある音だ。聴感上のバランスはオーソドックスで安定感があり、音の芯がしっかりとしているため聴きごたえがある。ヴォーカルは少し硬いが、ピアノは際立った音で素晴らしいのだが、さしてスケール感はない。スクラッチをやや強調しがちで、ときには独自の変調性ノイズが気になることもある。
 MARKVeeはVよりも粒立ちが細かく、音色も軽く明るい。低域はやや甘くなったが、全体の表情はやわらかくなった。Vにくらべてデッカらしさは薄らいだが、グレイドアップされたことは事実である。
井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 MMC6000は、5000とともに、CD−4システムにも使用可能なモデルである。低域のダンプは甘いタイプで、音の粒立ちはかなり細かい。低域は甘口で重いが、中低域はかなり厚味があり、中域はやや薄く、高域は素直に伸びているようだ。
 ヴォーカルは、オンマイク的だが、あまりカッチリとした感じとはならず、ピアノは滑らかさがあるスッキリとした音で、暖かみもある鳴り方である。全体に、ウォームトーン系のソフトな音で、明るさもあり、伸びやかさもあるが、音の密度が薄い傾向があり、リアルさが不足するようだ。
 MMC5000は、音の粒子はMMC6000よりは粗くなるが、SN比は充分にある。全体に、MMC6000にくらべると、タップリと感じられた間接音成分が抑えられ、クリアーで音の鮮度が高くなり、音の輪郭が明瞭で正確な感じとなった。ただ、比較上では、やや線が太くなり、帯域の広さは減っているが、トータルのバランスはむしろMMC5000が上である。低域はソリッドな締まりがあり、中低域のエネルギーが充分にあり、質感がよい。
 MMC4000は、軽く爽やかで、粒立ちが細かくクールな魅力をもった音である。
 低域のダンピングは適度であり、重量感があるタイプではないが、弾力的であり、姿・形がクリアーに再現できる良さがある。中域は、どちらかといえば僅かに薄いと思われるが、ナチュラルであり、高域も滑らかでよく伸びている。ヴォーカルはやや小柄になるが、細やかなニュアンスが感じられ、ピアノは軽くキラメキ、独得な音色が感じられる。音をリアルに表現するタイプではないが、クォリティが充分に高く洗練されたソフィスティケートな雰囲気は、他のカートリッジでは得られない小イキな魅力である。
 MMC3000は、粒立ちが少し粗く、聴感上のSN比が悪くなることもある。全体に音が明快で腰の強い音をもつが、表情が固く表面的な表現に留まる印象がある。

AKG P6R, P6E, P7E, P8E

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井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 従来のPU3E/4Eにくらべると、今回の一.連のシリーズ製品は、自社で充分に時間をかけて開発したオリジナルタイプであり、他社にない独得の渋い音をもっているのはAKG独得の個性と思われる。
 P8Eは、音の粒子が細かく芯がカッチリとしている。音色は、やや重いタイプで落着いた安定感があり、中高域に控え目な輝かしさがあるが、表面的にならないのがよい。音場感はこのクラスとしては平均的だが、音像はクッキリ型で前に立つタイプである。トータルのクォリティは高く、適度に硬質で冷たい輝きがある音が特長である。
 P7Eは、低域のダンプ、粒立ちともに標準型で安定感があり、トータルなバランスではP8Eを上廻るものがある。低域は重いタイプだが腰が強く、姿・形がよく、中低域も量・質ともに充分なものがある。中高域は、やや硬質だが浮き上がらず、適度な魅力となっている。性質は、ちょっと聴きにはマイルドに感じるが、かなりの自己主張を内側に持っているようだ。全体に、重さ・暗さがある音だが、暖かさ・力強さがあり、独得な個性的魅力をもっている。
 P6Eは、音の粒子がP7Eよりは粗くなり、ときおりSN比が気になることもある。低域は引締まり、全体の音はP8E/7Eよりも力感があり、腰が強くクールで押出しがよい。いわゆる明快でカッチリとした音であるが、安定感があり、表面的にならず、性質がおだやかであるために、渋い重厚さにつながった音と感じられる。
 ヴォーカルはP7Eよりも力強く、実体感があり中域が充実して、堂々と歌う感じがある。ピアノはスケール感が充分にあってクリアーに力強く響く。
 全体に、P8E、P7E、P6Eと音の粒子が段階的に粗くなってくるが、全体のまとまりと力強さは逆に増してくるようである。数少ないヨーロッパ系のカートリッジとしては、音の芯が強く、力感がある点では、最右翼に位置する製品だ。
 P6RはP6Eと似た面が多いが、全体にやや性質がおだやかであり、高域の伸びが少し押えられた感じがある、全体に少し線は太く、マクロ的に音をまとめる傾向があり、安定感があるのが、このカートリッジの特長である。
井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 ADCのカートリッジは、初期にはMM型の発電方式を採用したモデルがあったが、その後、発電方式をこの社独自に開発したIM型に変更し現在に至っている。度重なる改良で構造・内容は高度になり、完成度が高い一連のシリーズ製品に発展している。音色は滑らかで、落着いた陰影の色が濃く、大人っぽい、磨き込まれたという感じの魅力がある。
 SuperXLM MKIIは、ADC最初のCD−4システムに使用できるモデルであり、最新の製品である。音の傾向は、比較的にカラリゼーションが少ないワイドレンジ型で、XLM MKIIよりも全体に引き締まり、クリアーで抜けがよく、音の芯もシッカリとしている。低域は明快でソリッドな点は、VLM系の発展型という印象があるがスケール感はさほどでもなく、腰が甘いタイプである。ヴォーカルはスッキリとして細身になり、子音を強調する傾向があり、ピアノもXLMよりもメリハリが効いて輝かしい。音場感の拡がりは標準的で、音像は比較的クリアーに立つタイプである。
 XLM MKIIは、ウォームトーン系の音で、表情がおだやかで落着いている。中低域には独得な柔らかい滑らかな艶がある響きがあり、拡がりがある。低域はやや甘いが弾力があり、中域以上の粒立ちが滑らかで、ゆったりとくつろいだ雰囲気があり、ベルベットトーンと呼ぶに相応しい艶がある。音場感はホールトーン的な拡がりで、音像は少し大きくなるようだ。
 VLM MKIIは、粒立ちはXLMよりも僅かに粗いがSN比が気になるほどではない。音は寒色系のソリッドでクリアーなタイプで、表情はフレッシュで反応が早く、とくに低域の腰が強く、姿・形が明瞭なことは抜群で素晴らしい。音場感はスタジオ的にスッキリとし、音像がクッキリと立つ。ともかく、力強くエネルギッシュな音は一聴に値する。
 QLM36MKIIは、VLM系の音である。粒立ちはやや粗く、僅かだがSN比が気になるようだ。音の傾向は、やや乾いた明快型で帯域がVLMより狭く、低域の量・質ともに及ばぬため、スケールが小さく、硬調な音といってよい。音場感は、小さなスタジオ的で音像は立つが、拡がりは不足する。
 QLM32MKIIは、やはり、VLM系の音である。粒立ちは36よりも粗く、SN比が気になる。音の傾向は、明快で乾いた感じがあり、コントラストをつけたメリハリ型の表現である。ヴォーカルは、ドライでソリッドであり、ピアノは硬質でカッチリとしているがスケール感はあまりない。価格を考えれば、トータルな魅力は36より上だ。
 QLM30MKIIは、XLM系の音で低域から中低域が柔らかく量感があり、おだやかな印象がある。これにたいして、中域から中高域は、やや硬調で音の輪郭を浮彫りにする傾向があるが、サポートをする低域が安定しているために、あまりバランスを崩さず、適度に音にコントラストをつける効果として働いているようだ。帯域バランスはナローレンジ型だが、無理がなく好ましい感じである。
井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 QDC1eは、音の粒子が細かく磨き込まれていて、カラリゼーションが少なく、ストレートでクールな印象がある。聴感上の帯域バランスは巧みにコントロールされていてナチュラルであり、とかく欠陥を見せやすい中低域から低域の音の姿・形が大変に見事である。ヴォーカルは軽やかに、ナチュラルであり、伸びやかである。ピアノは表情が豊かによく弾んで鳴る。
 ステレオフォニックな音場感はタップリと広い空間を感じさせ、パースペクティブも充分に再現する。音像定位はクッキリとシャープだが、鋭角的に過ぎることはない。プログラムソースにたいする反応は早いタイプで、キビキビとしデリケートでもある。表情はフレッシュで、いきいきとし澄みきった朝の空のような印象がある。

ビクター Z-1E, Z-1, X-1

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井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 ビクターのカートリッジは、他のスピーカーシステムやアンプの音の傾向とはやや異なった、おとなしく柔らかな音であったが、X1の発売以来、音色が明るくなり、力強さが加わってきて、その内容は一段と向上して完成度が高くなっている。
 X1は、CD−4システム用のカートリッジだが、CD−4専用の枠をこえて、一般の2チャンネル用に充分使用できることを示した第一号機といってもよい製品である。低域のダンピングは適度で、粒立ちはやや細かいタイプである。音色は明るく、中低域がクリアーに拡がるため、全体の音がベトつかない特長がある。聴感上の帯域バランスはワイドレンジ型でよく伸びており、低域がこの種のカートリッジとしては質感がよく、姿・形がよいために、中高域の輝かしさが表面的にならず、クリアーで、クールな特長として活かされている。
 ヴォーカルは少し子音を強調気味で伸びやかさが欠ける面はあるが、ピアノはかなりスケールがあって鳴る。音の性質はアクティブで、ストレートな表現を得意とするが、これが、このカートリッジの特長である。音場はよく拡がるが、音像はあまり前に出てくるタイプではない。
 Z1は、X1にくらべると、やや硬質のメリハリの効いた音をもっている。
 聴感上の帯域バランスは、さしてワイドレンジとは感じさせない。低域にくらべ、中低域がやや甘口であり、中高域は少し粗い傾向がある。ヴォーカルは、アクセントをかなり付ける感じがあり、ドライな印象がある。ピアノは輝きはあるが、やや硬調である。音の腰が強いタイプで、力強さも感じられるのだが、どうも音がピタリと決まらず、表現が表面的になりやすい。このカートリッジは、コントラストをクッキリと付ける効果型の音であるために、性質がおとなしいソフトドーム系のブックシェルフ型スピーカーと上手に使うと、音の輪郭の明瞭な音が得られると思う。
 Z1Eは性質はZ1と似ている。アクティブに音を説明してくれるタイプの音で、演出はかなり効果的で面白い。
井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 205CIILは、低域のダンプが適度であり、音の粒子も滑らかで細かいタイプである。全体に、汚れがなく耳あたりがよいソフトで爽やかな音をもった、素直な性質のカートリッジという印象である。聴感上の帯域バランスは、ナチュラルさがあるワイドレンジ型で、低域はやや甘口、中低域あたりに柔らかく響く間接音成分が感じられて、トータルな音の表情をおだやかなものとしている。ヴォーカルは、声量が下がった感じとなり、おとなしく、子音を強調せずスッキリとしている。ピアノはクリアーだが甘い感じがあり、やや広いスタジオ録音的に響く。性質はおとなし素直で控えめである。
 205CIIHは、Lとくらべると全体に音がソリッドであり、温度が下がったような爽やかな感じとなる。ヴォーカルは、力があり線が少し太くなるが、音像はクッキリと前に立ち、子音を少し強調するが、実体感につながる良さと受け取ることができる。ブラスの輝き、ピアノの明快さ、スケール感も充分にあり、安定した音として聴かせる。音場感はLにくらべスタジオ的に明確に拡がり、定位する。細やかで柔らかいニュアンスを聴きとるためにはLがよいが、力強さをとればHの方が上だ。
 205CIISは、低域のダンプが少し甘いタイプである。帯域バランスは、やや中域が薄く、ソフトで豊かな中低域と、ややソリッドな中高域がバランスしている。ヴォーカルは、ハスキー調でやや硬く、オンマイク的な感じとなり、ピアノはスケールはあるが力がなく、ソフトな低音とカッチリとした中高音といったバランスになる。CD−4システムに使用するカートリッジとしては、中高域の音の芯が強いメリットがあるが、低域が甘く、反応が遅いのが気になる。このままでも、中域に厚味があれば、全体の音がクリアーに締り良い音になるのだろうが、ここがやや残念なところである。
 405Cは、歪感がなく、粒立ちが細かい滑らかな音をもっている。音の性質は、おとなしく、クォリティが高いが、やや音楽への働きかけがパッシブであり、控え目で美しいが、ヒッソリとした感じで活気に乏しいのが気になるようだ。聴感上の帯域バランスは、中域がやや薄く、低域もスンナリとして甘口であり、ちょっと聴きには、さしてワイドレンジ型とはわからない。ヴォーカルは、オンマイクにかなり細部を引き出して聴かせるキレイさがあるが、声量がない感じがあり、ピアノもスッキリとしているが実体感が薄れる。基本的には、汚れがなく美しい音をもつために、音量を上げて聴いたときのほうが、音に力がつき活気が出るタイプだ。
 270CIIは、低域のダンプがソフト型で甘口である。音の粒子は、他のテクニクスのカートリッジにくらべると粗く、SN比が気になることもある。低域が甘く、中域から中高域に輝きがあり、ヴォーカルはハスキー調となり、音像が前にセリ出してくる効果はあるが、力感が伴わないために、表面的な押し出しのよさになっている。

スペックス SD-909

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井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 スペックスのMC型カートリッジは、音の腰が強く、ストレートな男性的な力強い音をもっているのが特長である。
 SD909は、低出力型であり、SDT77トランスを使用する。このカートリッジは、中低域がしっかりしているために音に安定感があり、力感が充分に感じられる。ピアノはいかにもグランドピアノのようにスケール感があり、ヴォーカルはあまり子音を強調せず、押出しがよく迫力がある。ステレオフォニックな音場感は固い壁の小ホールで聴くような感じで、音像は少し大きくなる傾向があるが、音の腰が強くエネルギー感が充分にあり、低音の姿・形をクリアーに表現するのは大変に好ましい。音の性質が健康で明るく、ストレートに割切って音を聴かせる魅力がある。
井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 ソニーのカートリッジは、LP時期のコンデンサーピックアップ以来、時折高級モデルが発表される程度で、これがソニーのカートリッジだ、という認識にまでは至っていなかったが、最近のXLシリーズになって一躍完成度が高まり、モデルも増加して製品として充実したものになってきたように思われる。
 XL45は、粒立ちが細かく、低域のダンプは少しソフトと感じた。聴感上の帯域バランスは、中低域に量感があり、空間の広さを感じさせる響きがある。中域は僅かに薄い傾向をみせるが、高域は素直に伸びている。カラリゼーションが少なく、淡白でスンナリとしたナイーブ型の感じがあり、音の芯にカッチリとしたところはないが、滑らかなメリットがある。
 音場の拡がりは、ややホールトーン型で空間の広さか感じられ、音場はスピーカーの後に拡がるタイプで、音像が前に立つ傾向は少ない。現代型で品がよく、少しクールな大人っぽさが特長といえよう。
 XL35は、全体に音に活気があり、若々しい印象があり、音像がクッキリと立つ音をもっている。中低域のエネルギー感が充分にあり、安定しているために、クリアーな中域から中高域の音が適度のコントラストをつけて、ピアノも良い意味でのキラメキがある。また、ヴォーカルもリアルさがあり、あまりハスキー調にならぬ良さがある。音に力強さと厚みがあるために、現代的なストレートな表現が活かされて一種の個性になっているのがよい。
 XL25は、XL35と同系の音をもっている。粒立ちは少し粗い感じで、SN比が気になることもある。聴感上の帯域バランスはXL35より狭いが、全体に音が締まりソリッドな魅力がある。柔らかく響く中低域と、腰が強い低域をもつため、やや線は太いが安定感があり、力強く、性質はガラリとして男性的である。
 XL15は普及モデルで、粒立ちが粗く、XL25よりもSN比が悪くなる。トータルバランスは適度で、かなりコントラストの付いた表現をするが、大きな破綻はみせず、巧みにマクロ的に音をまとめるため、音には安心してきける良さがある。

ソノボックス SX-3E

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井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 ソノボックスはカートリッジ専業メーカーとしては歴史が古く、モノ当時から地味ではあるが、独得な構造のカートリッジを作りつづけている。
 SX3Eは低域から中低域にタップリとした量感があり、ウォームトーン系の柔らかくおっとりとした落着いた音をもっている。低域は量感があるため甘く感じられるが、スケール感は充分にある。ヴォーカルは少し大柄になり、安定感はあるが力感不足で、迫力に欠ける印象がある。音の性質はおだやかでマイルドな良さがあるが、エイトビートの曲のようにリズム感を要求する場合には、テンポが遅くなったように感じることがある。音に汚れがなく安定感があるために、クラシックのオーケストラなどを落着いて聴くような使い方がマッチしているようだ。
井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 サテンのカートリッジは、超精密工作をベースとした、高出力MC型であり、その構造・方式にオリジナルなものが多く採用してあり、その音も、他の製品とは一線を画した、ディスク再生の枠をこえたものとして定評がある。なお、サテン製品については、オプションのSR60ダンピング・アダプターを併用することにした。
 M18BXは、サテンの18シリーズのトップランクのモデルで、かつサテン最新の製品である。従来のスッキリと抜け切った色付けがないサテンの音から想像すると、この18BXは、ちょっと聴きには、素直でおとなしい音と受け取れるだろう。この音は、表情がおだやかで落着いており、素直でサラサラとしたナチュラルさがある。プログラムソースには、素直に反応を示し、その内容を拾い出すために、ダイレクトカッティング盤のメリットをもっともよく聴かせてくれたカートリッジである。組合せコンポーネントシステムのキャラクターをリアルに感じさせる面があり、このカートリッジの性能をフルに引き出すためには、かなりの経験とクォリティの高いシステムが要求されるように思われる。
 M18Xは、BXよりも、明快でスッキリとしたMC型らしい音である。表情がクールでストレートであり、コントラストが明瞭につき、低域にも力強さがあるために、充分に聴きごたえがするタイプの音だ。音場感はよく拡がり、音像がクッキリと前に立ち、空間の広がった感じがある。音楽への働きかけは18BXよりもアクティブで、一般的な使用では、むしろこの18Xのほうが大きな効果が期待できよう。
 M18Eは、18Xよりも、音に丸味があり、低域から中低域に量感があるため、マイルドな表情のMC型としての特長がある。中域から中高域はクリアーで抜けがよく、ヴォーカルはクッキリとアクセントがついて、ややハスキー調となり、オンマイク的な効果があるが、強調感というほどではない。音場感は18Xと同様によく拡がるが、18Xのスッキリとした広さにたいして、フワッと柔らかく拡がる感じである。
 M117Xは、全体に音のスケールを小さく表現する傾向がある。ヴォーカルは、ハスキー調で口先で歌う感じとなり、ピアノは右手がクリアー、左手がソフトでスケール感が充分に出ない。スッキリとした感じは、18シリーズほどではないにしても、充分にありながら、安定した音として決まらないのは低域から中低域の量と質の問題であろうか。
 M117Eは、音の粒子がサテンのモデル中では粗くなり、聴感上のSN比は一般的な感じである。全体に、音はクリアーで明快なタイプだが、聴感上の帯域バランスが充分にコントロールされ、とくに中域が充実している良さがある。低域から中低域に厚味があり、響きが豊かで安定感がある。ヴォーカルはハスキー調だが力があり、ピアノはキラメキ型だが甘さがあってよい。性質が素直で健康であり、表情もナチュラルな良さがある。
井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 PC1000/IIは、現代カートリッジの性格が強い製品である。聴感上の周波数帯域は広く、よく伸びており、低域の質感が甘く、ベタつかないよさがある。
 低域のダンプは標準的で、この種のカートリッジとしてはよくコントロールされている。音の粒子は細かく、よく磨かれているために、強調感がなく、滑らかで汚れがないメリットがある。ステレオフォニックな音場感はよく拡がるタイプで、空間の拡がりが充分感じられ、パースペクティブな感じもよい。ヴォーカルなどの音像は前にクッキリと立つタイプではないが、定位はナチュラルで安定している。
 性質はおだやかでゆとりがあり安定感があるが、やや表情を抑える傾向があって、大人っぽい落着きがこのモデルの特長である。
 PC550Eは、音の粒子はPC1000/IIのような微粒子型とくらべると粗いが、聴感上のSN比で問題になるほどのことはない。低域のダンピングは適度で甘くなりすぎず、中低域の量感があって、ゆったりと拡がる空間を感じさせる間接音が感じられる。この感じは、PC1000/IIとよく似た点だ。
 ヴォーカルは明快な感じでリアルさがあるが、子音を強調する傾向はなく、ピアノのスケール感もかなり感じさせる。
 全体に、性質はおだやかで、安定して幅広いプログラムソースをこなすのは、このカートリッジのメリットであるが、やや表情がおっとりとした面があって、エネルギッシュに音を決めてくるロック系やソウル系の音楽の場合には、やや物足りない感じがないでもない。ウォームトーン系で耳あたりがよく、キレイに響く音が特長である。
 PC330は、低域もよく締まリ、他の2モデルとくらべると、やや寒色系の音としてまとめてあるのが目立つ点だ。聴感上の周波数帯域はPC550Eより狭く感じるが、明快でクリアーな音色はストレートな良さがある。全体にソリッドな音であるために、音場感はややスタジオ的となり、エネルギー感はかなりある。低域の腰が強く安定した感じが好ましい。

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 OMC38−15BQは、低域のダンプが適度であり、音の粒子はやや粗く感じられるが、ヴォーカルの子音を強調せず、スッキリとクリアーにコントラストをつけて表現する、オーソドックスなMC型の魅力があり、個性が表面的にあらわれない立派な音である。やや、全体の表情がリズミックでない面もあるが性質は素直で、音場感は拡がりがあり、音像はクリアーに立つタイプである。
 OMC38−15AQは、15BQよりもおだやかなウォームトーン系の音である。中域はやや硬調で、ヴォーカルはハスキー調となりやすい。低域は15BQよりも量感があり豊かだが、密度は少し薄くなる。全体に音の輪郭はシャープではなく、線が太くなるが、純鉄がもつ独得の暖かさに似た印象があって落着いた雰囲気が感じられる。
井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 マイクロのカートリッジは、ステレオ初期のMM型1007シリーズを最初の製品として発売して以来、発電方式もMC型、VF型などのモデルがあったように、音色の傾向も、時期によりある幅で変化をしたが、最近の一連のシリーズではMM型を中心に完成度を高め、音色も落着いた大人っぽい印象が高級モデルに感じられるようになってきている。
 LM20は、MM系カートリッジのトップモデルである。中低域から低域はやや甘口ではあるが、質感もよく、ゆったりと余裕をもって響く特長がある。聴感上の周波数レスポンスは、とくにワイドレンジとは感じないが、トータルのバランスがよく安定感がある。粒立ちは全域にわたって細かいタイプで、クォリティは高い。
 ヴォーカルは素直で、細やかさがよく出て、あまり子音を強調する傾向はないのがよい。ピアノは響きが美しく、やや甘い感じにはなるが、スケール感も充分にある音だ。音の性質は、米国系のカートリッジにくらべれば淡白ではあるが、大人っぽいゆとりが感じられる。ステレオフォニックな音場はよく拡がるが、ややホールトーンのような響きがあり、音像は自然に定位している。この音は音と対決して聴くタイプではなく、ゆったりと落着いて音楽を聴くタイプで、プログラムソースの幅も広く、柔らかさ滑らかさが魅力である。
 LC40は、MC型で指定トランスがないため、FRのFRT4を3Ωにして使った。全体の印象はLM20よりも爽やかでクリアーな音であり、細部をよく表現するが、低域から中低域に豊かさがあるため安定感がある。粒立ちがよく、磨き込んであるために、適度の艶があり、汚れが少ない。ヴォーカルは、やや音像が大きいが誇張感がなく、らしさがあり、音場感はLM20同様によく拡がるタイプだ。クリアー志向が多いMC型のなかでは、マイルドな表情がメリットである。
 PLUS1は普及モデルだが、トータルバランスがよく上手にまとめられている。粒立ちは、やや粗く、聴感上のSN比が少し気になる。低域は量的に多く、甘口だが小型スピーカーには適度のバランスだ。

Lo-D MT-202E

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井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 MT202Eは、カンチレバーの支持機構に独得な宝石ピヴォット方式を採用しているのが特長である。マグネットには、サマリウム・コバルトを採用し、C型ヨークという新開発の磁気回路によるムービング・マグネット型のカートリッジである。
 聴感上の帯域バランスはかなりコントロールされているが、低域から中低域の質感が甘く、音の芯が弱いために、やや安定感を欠く傾向があるようだ。中域から中高域は粒子が少し粗い感じで、このクラスのカートリッジとしてはスクラッチノイズの質が問題になるかもしれない。ステレオフォニックな音場感は、壁の柔らかいホールで聴くように、拡がりはあるがベースやドラムスのような低音のエネルギーが多い楽器は距離感があり、ヴォーカルは、音像はクリアーに立つが、ハスキー調となり乾いた感じになるようだ。全体に、いま少し音に強さがあれば、フォーカスがピタリと決まりそうである。
井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 JT555は、ソフトで粒立ちが細かく滑らかな音である。全体に音を軽く柔らかく表現するために、汚れがなくキレイであるのはよいが、やや性質が消極的で実体感や力感不足の面があり、コントラストがつきにくいようだ。ヴォーカルはクッキリとは立たないがナチュラルな軽さがあり、プログラムソースの性質によっては誇張がないメリットにつながるようだ。
 JT333はJT555にくらべ、音に若さがあり、反応も早く、スッキリとストレートに音を出してくる良さがある。音の粒子は細かく、かなり磨かれており、柔らかで耳あたりがよく性質も素直である。バランスは、全域にわたりよくコントロールしてあるが、低域が少し甘く、いま少し腰が強い表現が欲しい印象である。
井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 F8Cは、数多くのF8シリーズのトップモデルと考えてよい製品である。低域のダンプはほぼ標準的で、粒立ちはやや細かい感じがある。全体に、クリアーで爽やかな音であり、軽快さを狙った音であろう。表情はスタティックで、スッキリとしているが、適度に甘さがあり、やせた音にならぬのがよい。
 F8Eは、低域が少し甘口で、粒立ちは細かく、Cよりも表情はマイルドである。中低域は豊かで響きがあり、スケール感はCよりも大きく、聴きやすく滑らかでゆったりとした雰囲気がある。性質は、かなりデリケートで細かい音をよく拾い、音像は小さくクリアーに立つタイプである。
 F8Mは、低域のダンプが甘口で、中低域が豊かに拡がる傾向はEと似ているが、中域以上の線が少し太く、音にコントラストをつけて表現するあたりが異なっている。帯域バランスは、中域が薄く、高域がやや上昇した感じがあり、再生音楽を効果的に聴く面白さがあるようだ。音の鮮度はかなり高く、スッキリとしている。
 F8Lは、粒立ちはやや粗く、聴感上のSN比が他のモデルよりも悪くなる。音は安定感があリ落着きがあるが、現在の水準ではややソフトフォーカス気味で、クリアーさ、細やかさが不足する。聴きやすく安定しているが、反面、フレッシュでイキイキした表情が欲しくなる感じだ。
 F8L10は、F8シリーズ発売10周年を期して、F8シリーズの成果を集大成したモデルとして発売されたカートリッジである。粒立ちは現代的に細かいタイプとなり、低域のダンプはLよりも甘口である。音色は明るくニュートラルであり安定感があるのが目立つ点だ。Lに少し感じられたベールがかった感じがスッキリと取れて、クリアーになり、表情が豊かで、新しい第2世代のF8Lとして、標準型で信頼感がある音である。クォリティが高く、トータルバランスが優れているのが、このモデルのメリットである。
 F9Eは、全体に細身でクリアーな音をもっている。低域は甘口で、中域以上がスッキリとしているが、スケール感が小さくなり、全体をサポートする力感不足で、表現が表面的に流れて音が安定しない面がある。
 F9Lは、落着いて安定感がある音をもっている。中低域はおだやかさがあり、拡がりがある。ヴォーカルは、子音を低い帯域で強調する傾向があるが、低域が安定し量感があるため、音の重心が低く、力強さが感じられる。ピアノはソフトにホールトーンを伴って鳴り、スケール感がある。音場感、音像定位は標準型と思われる。
 F9Uは、低域のダンプがLよりもソフトとなり、全体のおだやかな印象もさらに上廻っている。但し、中域以上の粒立ちはカッチリとして芯が強く、明快で線は太いが安定度は充分にあり、全域を通して汚れが少なく、耳あたりがよい。とくに、低域から中低域の腰が強く、力があるため、EやLよりも重心が低く、押出しがよい特長がある。
 F9Pは、やや、音の粒子は粗いが、芯が強くカッチリとした力強さがあり、これといった強調感がなく、色付けが少ないメリットをもつが、表情は抑え気味で、安定はしているものの反応の鋭さがほしい場合がある。聴感上の帯域バランスは、中域が充分にあるが、ややナローレンジ型である。
井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 FRは、磁芯を使わないMC型専門メーカーとして発足し、音の細やかさ滑らかさで高い評価を得てきたが、製品にMM型を加え、改良されるにしたがって、音に厚味が加わり、力強く落着いた、完成度が高い音になってきたように感じる。
 FR1MK2は、粒立ちが細かく、滑らかに磨きこまれているために、透明度があり、柔らかく爽やかな音を聴かせる。低域のアタックは少し丸味があり、中低域は豊かでよく響くタイプである。表情はマイルドで、音にあまりコントラストをつけず、薄陽のさした風景のような感じのデリケートな滑らかさと、柔らかな響きの豊かさを兼備したクォリティの高さが魅力である。
 FR1MK3は、MK2にくらべ、中低域の響きはやや抑えられるが、音の芯が明瞭になり、軽くクリアーで爽やかな感じが出てきた。聴感上の帯域バランスは、MK2よりも一段とフラットに感じられ、低域はよくダンプされ、腰が強く明快であり、中高域から高域の粒立ちが微粒子型で芯がシッカリしており、音のディテールが見事に再生され、フレッシュで反応は早いタイプである。このタイプではとかく中域が薄くなりやすいが、MK3は中域が充実していることが大きなメリットである。表情はやや素気ない感じがあり、現代的なクールな感じと受け取れる。
 FR5Eは、全体に、音を美しくキメ細かく聴かせる特長がある。音の粒子は細かく滑らかで、音の細部を引き出して聴かせるところは、MC的なMM型といった印象がある。音像は小さくクッキリと立ち、フレッシュでイキイキとした表情がある。クォリティが高くキレイに音を表現するところは、やや女性的であり、高級コンポーネントシステムと組み合わせて使うと、見かけよりも芯がカッチリとし、鮮度が高いメリットが引き出されると思う。
 FR6SEは、FR5Eを女性的とすれば男性的な感じが強いカートリッジである。全体に、音の芯が強く線を太く表現し、適度の力感がこれをサポートし、安定感がある。低域は量感がありやや甘口だが、中低域は豊かでよく響くタイプである。音を外側からシッカりと掴み、細部にこだわらずまとめる性質は、FR5Eと対照的で面白い。
 FR101SEは、系統としてはFR6SE系の音である。低域のダンプは標準型で量感もあり、中低域に耳あたりよく響く豊かさがある。ヴォーカルは少しハスキー調となるが、まとまりはよく、現代的なクールさがある。反応は早いタイプで鮮度が高く、表情はFRのカートリッジ中もっとも若い感じだ。
 FR101は、低域は101SEより一段とソリッドになり、汚れがなく、全体に音を明快にカッチリと聴かせる。低域から中低域の腰が強く、しかも弾力性があり、エネルギー感が充分にある。とくに、この中低域は適度の甘さがあるのがよい。思い切りよくストレートな表現は、かなり魅力的である。
井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 ES70EX/IIは、単体の市販カートリッジとしてはローコストな、CD−4システムに使用可能な点が特長である。全体にこの種のワイドレンジタイプ共通の低域が甘口で、間接音成分をタップリとつけて鳴るが、粒立ちは細かく、汚れが少ないメリットをもっている。高域がアラくなりやすい普及型ブックシェルフスピーカーとの組合せで好結果が期待できそうだ。
 ES70S/II。低域は、ダンプされて締っており、70EX/IIとは対照的な低音である。スケール感は少なくなるが、音に活気かあり、早いテンポのプログラムソースにリズミックに乗れる点が好ましい。ヴォーカルはやや粗いが、音像がクッキリと前に出て浮かび上がり、コントラストが付くのは面白い。価格対クォリティの比も充分にある。
井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 デンオンのカートリッジは、SPの頃から業務用として開発され、現在の主力製品であるDL103およびDL103Sも放送を中心とした業務用の使用がほとんどで、製品としての信頼度や安定度が高く、製品間のバラツキがないことがもっとも大きな特長である。
 DL103は、低出力MC型で、AU320トランスを使用する。このカートリッジは定評が高いモデルだけに、安定したオーソドックスな音をもっている。現在のワイドレンジ型カートリッジとくらべれば、やや音の粒子は粗く、聴感上のSN比が気になることもある。聴感上の帯域バランスはナチュラルで過不足がなく、カラリゼイションが少ないために、この音を聴くとやはり業務用の標準カートリッジらしい風格が感じられる。音の輪郭はクリアーだが、線は少し太いタイプである。性質はマジメ型で落着いた印象を受けるが、表情はやや抑えられるようだ。プログラムソースとの適応性が広く、広範囲の使用に安定した音を再生するところが、よくも悪くも特長である。
 DL103Sは、103とくらべて粒立ちが細かく、より色付けが少なく、ワイドレンジ型である。聴感上の帯域バランスは、低域が甘口で、中低域あたりにタップリと間接音成分があってよく響き、中域はやや薄めで、高域はナチュラルによく伸びている。ヴォーカルのニュアンスをよく引き出し、ピアノも少し軽い感じにはなるが、スケール感があってよく響く。音場感はDL103よりも左右に拡がり、前後方向のパースペクティブを聴かせるが、音像はさしてクッキリと前に立つタイプではない。滑らかで歪感が少ない音だが、力感や実在感は、むしろDL103のほうがよい。トランスを使わずヘッドアンプの良質なものを使ったほうが、音の密度が濃くなり、爽やかで鮮度が高い現代型の音になるようだ。最新録音のプログラムソースとワイドレンジ型スピーカーを使う場合には、DL103よりもこの103Sのほうがはるかに結果がよい。
 DL107は、主に業務用として開発されたMM型で、現在の109シリーズのベースとなったモデルである。低域はダンピングが甘く、高域が上昇しているようなバランスをもつために、音のコントラストがクッキリとつき、華やかな感じの音である。
 DL109Dは、4チャンネルシステムに使用するワイドレンジ型のモデルである。粒立ちが細かく滑らかであり、低域が少し甘口であるが、中高域に輝きがあり、ヴォーカルは細かくなるが音像がよく浮び上がり、ピアノはスケールは小さいがクリアーに響く。音場感は広い空間を感じさせるタイプで、音像はクッキリと前に立つ。全体の表情はおだやかで、クォリティもかなり高い音である。
 DL109Rは、109Dとくらべ、粒立ちは少し粗くなるが、低域の腰が強く、音に厚味があり、力強い特長がある。音の輪郭が明瞭で、クッキリと音像は前に立づ。表情が若く活気があるのは109Dより面白い。

コーラル 777E, 666EX

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井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 666EXは、中低域の量感が豊かで質感の表現が甘くなり、全体の印象はややウェットなタイプと感じられる。表情がおだやかなのは特長となるが、音楽がややムード的に流れる傾向があり、重い音を軽く表現する面がある。音場感はよく拡がるが、定位は明快なタイプではなく、広いホールのライブレコーディングを聴いているようだ。いま少し、アクティブな感じが欲しくなる音だ。
 777EはMC型で、T100トランスを使用した。この音は基本的にはウェット型だが、中域の粒立ちが少し粗いようで、ヴォーカルではややハスキー調となり、押出しがよく迫力がある。ただ、低域は表情が甘く、質感を重く聴かせるために、どうにも音が決まりづらい面があり、中域の特長が活かしきれないのが残念な点だ。
井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 C550Mは、中域の粒子が粗いようでちょっと聴きにはスッキリとした音とも受取れるが、聴感上のSN比が気になることもあり、ヴォーカルもニュアンスの再現が不足するようだ。これにくらべ、中低域あたりから低域はソフト型だが量感があって全体の音の表情を、おだやかで、耳ざわりのよいものとしている。
 C404Xは、エレクトレット・コンデンサータイプだが、低域が豊かでスケール感があり、全体の音のクォリティは高い。音の性質は素直で、プログラムソースにたいして軽くしなやかに反応を示し、表情は、しっとりとした滑らかさがあって、やや、広いホールの良い席で音楽を聴いているような印象がある。ヴォーカルは、あまり、子音を強調せず、軽くナチュラルな感じが好ましい。
井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 オーディオクラフトのカートリッジAC10Eは、全体の音の傾向として、最近同社から発売されたコントロールアンプAC3001と似た音をもっている。
 聴感上の帯域バランスは、無理がなく自然にコントロールされ、歪感がなく、おだやかで、大人っぽい印象があるのが特長である。全体に音の粒立ちは細かいタイプで、滑らかな柔らかさがあり、艶やかさもあるために、表情はおだやかである。低域から中低域にかけての質感は甘く、軽い音であるために、ビートが効いたリズミックなプログラムソースではやや不満が残るが、逆に、適度に音場感を感じさせるような適度の間接音が全体の音をフワリと包んで響くあたりはメリットと思う。音と対決して聴き込むタイプではないがマイルドな性質は好ましい感じである。
井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 AT15Eは、ソリッドで力強く、クリアーな音である。粒立ちはこのクラスの標準だが、芯が強くシッカリしているのが目立つ。帯域バランスはナチュラルで、よくコントロールされ、とくに低域がよく伸ぴ、腰が強く引き締まったソリッドな音であることが、国内製品としては珍しい。中域もエネルギーがタップリとあり、薄くならず、高域も必要にして充分な伸びがあり、無理に伸ばした感じがない。表情は、国内製品としては大きくダイナミックであり、押出しがよい。音場感は左右に拡がるがパースペクティブな引きが少なく、音像は前に出てくるタイプだ。中低域の響きがよく、雰囲気もよく出すが、性質はややドライなタイプで、男性的な割り切った魅力がある。
 AT15Saは、15Eとは同系のモデルナンバーをもつが、音的にはまったく異なった製品である。粒立ちは細かく、表情はおだやかで大人っぽさがある。低域は甘口であり、中低域はまろやかに響き、豊かさがある。ヴォーカルは子音をやや強調するが、ソフトで耳あたりよく、ピアノは暖かみがあり、適度の間接音を伴って響く。音場感はスピーカー間の奥深く後に拡がるタイプで、ゆったりと聴くためには相応しい。性質は、15Eとは対照的に、ややウェット型である。
 AT14Eは、15Eよりも粒子は粗くなり、全体の印象では軽く反応が早いキビキビした表情があり、音の鮮度が高いメリットがある。低域は腰は強いが、やや15Eよりも柔らかく量感があり安定している。中域から中高域は、明快で音にコントラストを付け、硬質なストレートな魅力となっている。感覚的にフレッシュで、割り切った音は、力感もあり、リアルで楽しい。
 AT14Saは、粒子を細かくし、線が細くなったAT14Eといってよい。低域から中低域が豊かで柔らかく、中高域は輝く感じがあり、全体の印象はワイドレンジのハイファイ型である。
 AT13dは、15や14系とは異なった、中域を重視した安定感があるバランスの音である。音色の傾向はウォームトーン系で、低域には量感があり柔らかく、中低域も充分にあるため安定感がある。中域以上はやや粒立ちが粗く、高域は適度にコントロールして抑えてある。ヴォーカルはやや大柄になり、音像の立ちかたは平均的水準だろう。適度のスケール感をもち、マクロ的に音をまとめるため、小型スピーカーシステムには適していると思う。
 AT11dは、13dよりも中低域が軽く響き、全体は適度にメリハリが効いたウォームトーン系で、トータルバランスがよく汚れが少ないため、幅広いプログラムソースをこなす特長がある。強調感が少なく、音像はナチュラルに立つタイプだ。
 AT20SLaは、AT15Eのグレイドアップモデルといった音で、低域が締まり、音の芯が強く、充分に洗練された高いクォリティをもっている。音像はクリアーに立ち、音に透明感があり、爽やかで明るい。

サテン M-18BX

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井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より

 すでに定評がある超精密工作を基盤としてつくられる純粋なMC型で、ダンパーにゴム材を使用していない特長がある。M18BXは、ベリリウムカンチレバー採用のトップモデルで、いわゆるカートリッジらしい音をこえた異次元の世界の音を聴かせる製品だ。

ソニー XL-55

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井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より

 ソニーには、従来もMC型の製品があったが、 XL55は自社開発の最新モデルである。発電方式は、コイルの巻枠に磁性体を使わないタイプで、コイルには独得な8字型をしたものが、左右チャンネル分として組合されている。カンチレバーは、軽金属パイプと炭素繊維の複合型で軽量化され、CD−4方式にも対応できる。針圧は、やや重いタイプで、音の重心が低く、安定した力強い音が特長。性能は現代的ながら音質的に表面にそれが出ないのが良い。
井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より

 巻枠に磁芯を使わない純粋のMC型カートリッジとして登場したFR1、それを改良したFR1MK2を経て、さらに一段と発展したFRのトップモデルがFR1MK3だ。
 発言方式は、かつての米フェアチャイルドやグラドの発展型ともいうべき、FRの独自のタイプである。柔らかく、粒立ちの細やかな音である。やや大人っぽい完成度の高さが魅力であるが、性質がニュートラルで、音の輪郭を正確に画き、素直に反応するスムーズさはこのカートリッジならではのものがある。

デンオン DL-103S

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井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より

 スピーカーシステムやアンプ関係では、海外製品と国内製品は価格的に格差があり、市場で対等に戦うことはないが、ことカートリッジについては、価格、性能ともにあまり差はなく、他の分野にくらべて海外製品がかなりの占有率をもっている、やや特殊なジャンルである。しかし、発電方式をMC型に限定すれば、海外製品は欧州系のオルトフォンとEMTのみで、現在はこの2社以外にMC型を生産しているメーカーはない。これに対して国内製品は、圧倒的に銘柄が多く、その機種が多く、世界でもっとも多くMC型を生産している。国内製品のMC型は、すでにかなり以前から海外の高級ファンの一部に愛用されている。
 デンオンのMC型は、十字型の独得な磁性体の巻枠を採用した、やや高いインピーダンスをもつタイプだ。発電方式そのものが明解であり、二重カンチレバーによる軽量化を最初から採用している。第一作のDL103は、NHKをはじめ放送業務用に採用され、製品が安定し、信頼度の高さでは群を抜いた、いわば標準カートリッジといえるモデルだ。
 DL103Sは、103を改良し超広帯域化した製品で、最近の質的に向上したディスク再生では、聴感上のSN比が優れた、いかにも近代的カートリッジらしいスッキリと洗練された音を聴くことができる。製品間の違いが少ないため、信頼度が高い新しい世代のカートリッジを代表する文字通りの一流品だ。

ピカリング XUV/4500Q

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井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より

 エンパイア 4000D/IIIと双璧をなす米国系のトップランクの製品である。聴感上の帯域は、いかにもワイドレンジ型らしく伸び切っており、粒立ちが細かく、鋭角的に切れ込みのよい音を聴かせる。とくに低音が力強く、ソリッドな点では抜群である。音質上で、エンパイア 4000D/IIIと好対照を示す一流晶中の一流品である。

ピカリング XSV/3000

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井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より

 ピカリング最新の2チャンネルカートリッジのトップモデルである。音質はXUV/4500Qよりも伝統的なピカリングらしさがある。音のコントラストをクッキリとつけ、力強く、エネルギー感のあふれた男性的な魅力があり、質的にも充分に磨かれているために、音の重心が低く、安定感がある。反応は、かなり早く、いかにも新しいカートリッジらしさがある。

シュアー V15 Type III

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井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より

 V15以来つねにシュアーのトップモデルの位置を占める定評の高い製品である。独得の表現は、いわば油絵的で、音楽を楽しく聴かせる演出力のあることでは、この製品の右に出るものはあるまい。普及型の装置でも素晴らしい効果があり、カートリッジを替えて音がこれほど変わるかと驚かされる。国内でも海外製品のベストセラーであり愛用者は抜群に多い。
井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より

 オーディオテクニカのカートリッジは、創業期のAT1からAT7にいたる第一世代の製品にくらべ、VM式と同社で呼ぶ2個のマグネットを2チャンネル方式の左右の音溝専用に使う、デュアルマグネット方式を採用したAT35以来、その市場を国内から世界に拡げ飛躍的に発展した。
 AT20SLaは、一時期、米エレクトロボイス社の最高級カートリッジを手がけた、国際的な実績をベースにしてつくり出された特選品という表現が応わしい同社のトップモデルである。基本的には、AT15Saの選別したタイプとして発表されているように、本来の意味での手工芸品的な魅力があり、精密工作を要求されるカートリッジならではの感覚的な付加価値が大変に大きい。

エンパイア 4000D/III

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井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より

 軽針圧、広帯域型に設計された、米エンパイア社のトップモデルである。4チャンネル方式のCD−4システムに対応可能だが、むしろ一般の2チャンネルシステム用として、米国系カートリッジのトップをゆくモデルであり、とくに高級ファンに愛用されている。聴感上では、粒立ちが細かく、滑らかに磨き込まれた音をもち、ちょっと聴きには、さしてワイドレンジ型を感じさせないが装置が高級になるほど真価を発揮するという面白い性質がある。音の陰影を色濃く聴かせ、都会的な洗練されたこの音は、他では得られぬ独得のソフィスティケートされた魅力である。

シュアー V15 Type IV

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黒田恭一

ステレオサウンド 48号(1978年9月発行)
特集・「音の良いプレーヤーシステムは何か プレーヤーシステムによって同じカートリッジの音がどのように変わったか」より

●シュアーV15/IVの基本的性格
 これまでのシュアーの音を頭においてきくと、シュアーもずいぶんかわったなとつぶやくことになるだろう。ひとことでいえば、きめがこまかくなった。それでいて、シュアー本来の──といっていいのうかどうか、つまり決してじめつかないで、生気にとんだところはのこされている。傾向としては、ひびきをくっきり示すタイプといえよう。ただ、特に低域の本当に腰のすわったエネルギー感とでもいうべきもの提示は、かならずしも得意ではないようだ。その点でことさらの不足を感じるということではないが、幾分表面的になる傾向がなくもない。すっきりさを志向したカートリッジと考えていいだろう。

デンオン DL-103S

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黒田恭一

ステレオサウンド 48号(1978年9月発行)
特集・「音の良いプレーヤーシステムは何か プレーヤーシステムによって同じカートリッジの音がどのように変わったか」より

●デンオンDL103Sの基本的性格
 味もそっけもない──という否定的ないい方も、多分、不可能ではないだろう。ことさらひびきの表情をきわだてるタイプのカートリッジではないからだ。ただ、このカートリッジのきかせる音は、いつでも、大変に折目正しい。いつまでたっても、足をくずさずに、正座しつづける男のようだ。しかし、語尾を笑いであいまいにしてしまう男のはなしより、しっかりした声でいうべきことを、しかも感情をおさえぎみにはなす男の方が信用できると思うこともなくはない。しっかりしていて、あいまいさを残さない。どちらかといえば寒色系の音で、ひびきの角をしっかり示す。見事なカートリッジだ。

オルトフォン MC20

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黒田恭一

ステレオサウンド 48号(1978年9月発行)
特集・「音の良いプレーヤーシステムは何か プレーヤーシステムによって同じカートリッジの音がどのように変わったか」より

●オルトフォンMC20の基本的性格
 非常にいいところをもっているカートリッジだが、そのよさをいかすのには、なかなかむずかしいところがありそうだ。プレーヤーシステムによっては、音像が肥大することがある。それはおそらく、このカートリッジの持味のひとつであるひびきのなめらかさと無関係ではない。したがってこのカートリッジにおけるなめらかさは、諸刃の剣というべきかもしれない。暖色系の音で、なめらかで、まろやかで、だから、そのよさがそのまま示されたときにはいいが、音像を肥大させる方向に働くと、ひびきは、メリハリがたたなくなり、あつくるしくなる。よさをひきだすには、充分に慎重に使うべきだろう。
菅野沖彦

ステレオサウンド 58号(1981年3月発行)
特集・「第3回《THE STATE OF THE ART 至上のコンポーネント》賞選定」より

 FR7fというカートリッジは、いうまでもなく、前作FR7の姉妹機で、いわばそのMKIIではないからこそ、fという別名を与えたというだろうが......FR7でもそうだったのだが、このカートリッジは、現在のカートリッジのコンセプトへの真向からの挑戦ととれるもので、構造的にも音的にも実にユニークなオリジナリティとフィロソフィの明確な作品であって、「そういってはなんだが、どんぐりの背比べよろしく、ムービング・マスや自重の軽量化や、軽針圧の限界競争などにうつつをぬかしている、そこらへんのありふれたカートリッジとはわけが違うぞ!!」とでもいいたげな内容と外観をもっている。たしかに、このカートリッジは、並のカートリッジとは一味も二味もちがった、コニサー好みの魅力的なものなのだ。推測だが、このカートリッジは、とても商品として量産のきくものとは思えず、一つ一つが丹念につくられた精密機器だけがもつ風格をもっている。血の通った名器と四分にふさわしい。7fの基本構造は、前作7と同じで、2マグネット4極構成の磁気回路によるプッシュプル発言方式。可動コイルは、カンチレバーに直接取り付けられ、鉄芯はもちろん、巻枠さえ持たない完全空芯タイプというユニークなものである。インピーダンスは2Ωという低いもので、出力電圧は0・15mV〜0・2mVである。その他数え上げれば、数々の特長を上げることができるが、いたずらに新素材を使ったり、スペックをよくすることを目的としたテクノロジーのスタンドプレイは、ここには見当らない。カートリッジとレコードを愛し、見つめ、いじり、考えに考えた一人の人間の眼と耳が、練達の技を通して具現化した執念の作品がこれなのだ。これほど主張の強いオーディオ製品はそうざらにはあるまい。特に、昨今のデータ競争によって平均化され、無個性化される傾向の強い環境の中では、一際目立った個性的な存在なのである。音を聴けばこのことがさらに、さらによく理解できるであろう。こんな音が? と驚くほど、かつて聴き得なかった音までを、レコード溝の奥深くから、さらって聴かせるといった雰囲気で、出てくる音の輪郭の明確さ、音像の実在感の確かさ、曖昧さのない張りのある質感は、少々圧迫感があり過ぎるほど、あくまで力強く、濃厚である。血の通った音という表現は私好みだが、まさにこのカートリッジにこそ、この表現はふさわしい。それも熱い血潮だ。かつてオルトフォンのSPU全盛の時代にあって、今はなくなった音を、レコード・オーディオ通の諸兄ならご記憶であろう。そう、同好の士なら解っていただけるであろう、あのレコード独特の聴き応えのたしかな音の質感である。あれが、このところスピーカーから聴こえてこなくなって久しいとは思われないだろうか? その代りに、繊細、透明、軟らかく、軽やかな、さわやかな音は豊富に聴けるようになったと思う。艶も輝きも聴こえないといったらうそになる。
 しかし、あの弾力性のある真の艶と輝きの実感、厚い音の温度は、今聴くことは難しい。それがあるのだ。それを聴かせてくれるのが、このカートリッジなのだ。前作7が出た時、私は、この音を聴き得て飛び上ったが、惜しむらくは、トレース能力に難があったことも確かである。7fはこれが向上し、たいていのレコードはOKとなった。自重30gの重量級カートリッジだからこそ、2〜3gの針圧だからこそといった音がする。これは、今の軽量級支持者がもっともっと考えるべき問題提起なのである。いいことばかりではない。こうした構造をとれば、よくもあしくも特長が現われ、それが個性となる。要は、この個性を好むか否かであろう。角度を変えて欠点をほじり出せばきりがない。勇気のある製品なのだ。だからこそ、ステート・オブ・ジ・アートに選ばれるにふさわしい。

EMT TSD15

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菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「'81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 このカートリッジでは、EMT独自のコネクター規格によるものだから、一般のトーンアームには取付けて使うことが出来ない。その場合にはXSD15を選ぶようになっている。同社のトーンアーム929か997と共に使うカートリッジだ。豊潤剛健な音質で、バランスは重厚で安定したものだ。デリカシーや透明度といった、軽量のコンプライアンス型では得られない充実したサウンドが好みの分れるところだろう。高貴な風格だ。

EMT XSD15

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瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「'81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 EMTのカートリッジTSDシリーズは、ほんらい、同社のプレーヤーデッキに組合わされるいわばプレーヤーシステムの系の中のパーツであり、単売のカートリッジだと考えないほうがいいが、それでもTSDの魅力の半面なりを味わいたいという向きのために、オルトフォン/SME型のコネクターに代えたXSDが用意されている。この音の魅力を生かすには、アームやプレーヤーシステムの選び方が相当に制限される。

デンオン DL-303

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瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「'81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 永く続いた103シリーズのあと、最近のカートリッジ設計の主流ともいえるローマス化をはかって企画されたのが303のシリーズで、現在、301、303、305の三機種が揃っているが、DL−301はヤング層の好みをことさら意識しすぎ、DL−305は303の繊細さに何とか力を加えようと力みすぎ、、みたいに(私には)思えて、ことさらの音作り意識の加わっていないDL−303が、やはり最良の出来栄えだと思う。国産MCのベストに推す。

デンオン DL-103

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瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「'81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 おそらくオルトフォンのSPUに次いで寿命の長いカートリッジだろうか。永いあいだ1万6千円、その後1万9千円に改訂されたものの、FM放送用として入念に設計され、長期間作り続けられた安定性と信頼性は、その後数多く出現したいわゆる1万9千円MCカートリッジの攻勢を寄せつけない。最新型と比較すれば、音がやや太く重いが、MCとしては出力が大きく扱いやすく、良いアームと組合せれば、この音は立派にひとつの個性だ。
瀬川冬樹

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

1 SME型コネクターの普及が、
カートリッジの交換を容易にした

 一昨年の秋、イギリスのSME社を訪問した際、創設者であり原設計者であるA・ロバートソン・エイクマンに、私はひとつの質問を用意して行った。
「あなたは現在、シュアーのカートリッジの愛用者らしいが、SME創設当時はオルトフオンSPU−Gタイプを使っていたはずですね」
 それを言ったら、お前はどうしてそんなことを知っているのか、とびっくりしていた。まさに図星だったのである。
 SMEは、一九五九年に最初の製品を市販している。ステレオディスクが発売された早くも翌年だから、ステレオ用の高級アームとしてはきわめて早い。その初期のモデルには、いまと違ってオルトフォン製の黒いプラスチックのG型シェル(旧Gシェル)が標準装備になっていたし、後部のバランスウェイトもSPU−G/T(ヘッドシェルとカートリッジで、トランスを含めて約32グラム)をカバーするだけの重量級がついていた。おそらくエイクマンは、オルトフォンSPU−Gを完壁に生かすために、あの精密なアームを考案したにちがいないと、だから私は想像していたので、右の質問をしてみたわけだ。
 いまではもう、SMEタイプ、とさえ呼ばれるようになったあの4端子プラグインタイプのヘッドシェル・コネクターは、もとをただせばデンマーク・オルトフォンがG型およびA型のヘッドシェル交換のために作ったものだ。これと寸法的には類似するのが、ドイツ・ノイマンおよびEMTのスタジオ用プレーヤーのヘッドシェル・コネクターで、オルトフォンとドイツ・プロ規格とは、端子配列が45度傾いていることとロッキングナットで締めつけるコネクターのピンが上向きと下向きのちがいがあるだけだ。
 SMEは、最初のモデル発売までにいろいろなプロトタイプを試作した形跡があるが、精密機械工作によるモデル製作工場の経営者でありオーディオマニアであったエイクマンが、はじめはアマチュアの立場でいろいろなアームを作ってはこわし、失敗を重ねながら少しずつ今日のSMEを完成に近づけていったであろうことは想像するまでもない。そしてその頃の彼の愛用カートリッジが、オルトフォンのSPU−Gタイプであったことから、彼は最初おそらく何気なく、ただ、交換に便利だという程度の理由からSPU−Gのコネクターをそのまま踏襲したのに違いない。当のエイクマン自身は、これがきっかけになってこのコネクターが日本のアームの大半に採用され、そのことからやがて世界じゅうのプレーヤーあるいはアームにまで大きな影響を及ぼすであろうことなど、予想してもみなかっただろう。
 ともかくSMEは、ほかのどの国よりもまず日本のアームに多大の影響を与えた。ステレオディスク出現の初期に、設計の理論的な拠りどころとしても、また、精密高級アームのデザインや表面処理の模範としても、SMEは絶大な存在だった。何か目標がなくてはものを開発・発展させられない、しかもイミテーション上手という、日本人のあまり名誉でない特性がアーム作りに見事に発揮されて、ひと頃は、SMEの動作を少しも理解しない外観だけのしかもきわめてまずいイミテーションまで出現したが、怪しげな製品の淘汰された後に残ったSMEの置き土産が、オルトフォン型の4端子プラグインヘッドだった、ということになる。こんにち日本で製造されるヘッドシェル交換式のパイプアームのおそらく90%以上が、このオルトフォン/SMEタイプに共通の構造を採用しているはずである。そのおかげで、日本ほどカートリッジ交換の互換性に富んだ国はほかにないというような状況になっている。
 意外に知られていないことだが、このオルトフォン/SME型のコネクターは、日本以外の欧米では、そんなに普及しているわけではない。日本と違って、オートマチックのレコードプレーヤーまたはチェンジャーの普及率がきわめて高い。しかもそれらオートマチックプレーヤーやチェンジャーのメーカーは、ヘッドシェルの交換に各社全く独自の構造を採用しているために、カートリッジの交換はSME方式ほど容易ではない。しかもメーカー相互の互換性は全くない。したがって欧米では、日本のオーディオファンのように自由にたくさんのカートリッジを交換するという楽しみを最近まで持っていなかった。カートリッジ交換によるデリケートな音質の変化を、日本人ほど敏感には受けとらないという国民性の問題も無関係とはいえない。
 ところが最近になって異変が生じてきた。日本独自の開発によるダイレクトドライブ・ターンテーブルが、欧米のオーディオ界で高い評価を与えられはじめたのである。そうなると、永いことはオートマチック全盛だった欧米のレコードプレーヤーのシェアに、オートマチックは普及品で、ダイレクトドライブ式のマニュアルプレーヤーこそ今後の高級機、というような風潮が、生まれはじめたのだそうだ。たとえばここ一〜二年のあいだ、イギリスやパリで開催されるオーディオショーには、SMEが、日本のDDモーターにSMEを組み合わせたプレーヤーを積極的に展示している。当社の高級アームは、こういうふうに使ってくれ、という意味である。そうなると、モーター単体ではなく、国産のDDタイプのマニュアルプレーヤーまでが一躍脚光を浴びはじめる。言うまでもなくそれらのプレーヤーについているアームのほとんどは、SMEと互換性のあるヘッドシェル・コネクターを備えている。そのことから最近の欧米では、このコネクターのカートリッジ交換の容易さや互換性に富んだ合理性などが、改めて評価されはじめたらしい。このコネクターを普及させれば、新しくカートリッジを追加購入するユーザーも増えるとにらんだ欧米のカートリッジメーカーの商魂までからんで、SMEコネクターは、むしろこれからますます普及しそうな気配なのである。日本ではすでに、このコネクターを普及させてしまったためにアーム設計に大きな制約が生じていることを嘆く声も出はじめているというのに、この分では、むしろこれから当分、SMEコネクターは増加の一途をたどるにちがいない。ただ私自身は、アームの設計の多少の制約よりも、ヘッド交換のこの合理性ゆえにここまで普及してしまったSMEコネクターが、当分消えるはずがないし、またこの便利な方式を消すべきではないとも考えているが......。
 ──とまあ、SMEコネクターの説明で前置きがひどく長くなってしまったが、こんないきさつから、日本のオーディオファンが世界でいちばん、カートリッジ交換の容易さとその楽しみに恵まれている、という次第なのである。

2 理想のカートリッジとはどういうものか......

 この号でテストするカートリッジの一覧表をみせてもらったら、約一二〇個がリストアップされている。これでも現役製品の約2/3だというから、実際には二〇〇近い製品が市販されていることになる。ただ、カートリッジの場合には、特性上にほんのわずかの差をつけただけで外観も中身もほとんど変えずに価格の差をつけて多機種をとり揃える、という方法で機種を増やすケースが多いので、スピーカーやアンプの機種の多いこととは少し意味合いが違うから、実質的な製品の数はこの1/3以下、つまり五〜六〇機種がいいところだろうが、そう考えてもまだ決して少ない数とはいえない。
 たしかに、アンプやスピーカーにくらべてカートリッジの交換は楽にできるために、誰もが手軽にもう一個......と追加しやすい。しかしそれにしても、レコードの溝から音を拾い上げるというひとつの目的のために、どうしてこれほど多くのカートリッジが作られているのだろうか。どうも少々イージーに機種を増やしすぎるのじゃないか、という疑問を消すことができない。ただ、そういう疑問を持つからには、カートリッジのあるべき姿について、何らかの定義をしておかなくてはならないだろう。単に、目先の変わった音を鳴らし分けて楽しむというのであれば、いくらでも新種が作られてかまわないわけだから。
 最も素朴なところから考えてゆくと、カートリッジは発電機と同じだ(*註)。レコードには、現実の音や音楽の複雑きわまりない音が、一本の溝の凹凸やうねりの形に姿を変えて刻み込まれている。ピックアップの針先がその溝をたどってゆくときに、針先は音溝のうねりのとおりに動かされ、ピックアップの内部で、その針先の運動に正しく比例した電流が発生すれば、カートリッジはその目的を達したことになる。言いかえれば、レコードの音溝に刻まれた音を、そっくりそのまま、何の変形も加えずに拾い上げる(ピックアップする)ことが、カートリッジの理想である。もしもこの理想が100%かなえられれば、異なった二種類のカートリッジを交換しても、音質の差は生じないことになる。ところが現実には、同じメーカーのカートリッジでさえ、二種類を聴き比べれば音質が違う。ということは、現実の製品には、右の理想を満たすものがまだない、ということになる。
 そうした観点から、理想に近いカートリッジを探そうと、マスターテープとの比較試聴というようなテストを行なう場合がある。こまかく言えばいくつかの方法があるが、大要は次のような形をとる。
 まず、レコードにカッティングするもとであるカッティング用マスターテープを用意する。曲あるいは演奏は、音質の判定をしやすいものを任意に選ぶ。このテープをもとにして、ラッカー盤にカッティングしてテスト用レコードを作る。カッティングの際には、テープに録音された音そのままを溝に刻むために、イクォライゼイションその他の加工を一切加えない。
 こうして作られたレコードを各種のカートリッジで再生し、同時にカッティングのもとになったマスターテープをプレイバックして両者の音を聴きくらべて、テープの音に少しでも近いカートリッジが、すなわちレコードに刻まれた音を正しく再生する理想に近いカートリッジだと定義する、という方法である。
 このやりかたは、レコードやカッティングについての正しい知識のない人には、実に公正で正確無比なテストのように思えるだろう。ところがこの方法には実に多くの問題点があるのだ。ひとつひとつあげて解説するだけでも与えられた枚数を超過してしまうので要点のみ箇条書きにしてみる。
(1)テープから加工せずにカッティングするといっても、カッターヘッド自体にもカートリッジと同様あるいはそれ以上の音質の差がある。(レコードメーカーが、新型カッターでカッティングし直して音質が向上することを宣伝文句にうたっているように、カッティングシステム自体が──カッターヘッドばかりでなく、ヘッドをドライブするアンプも含めて──特定の音色を持っている)
(2)テープをプレイバックする際、テープデッキにも固有の音色がある。アンペックス、スカリー、3M、スチューダー、ノイマンその他、同一のテープでもプレイバックデッキによって音質が異なる。同じ銘柄のデッキでも、2台を比較すれば音色が異なる。プレイバックカーブに0.2dB程度以上の偏差が生じれば、それでもマスターテープの音が変わる。
(3)比較のためのカートリッジは、どういうヘッドシェル、どういうアーム、どういうプレーヤーシステムを使うのか。同一のカートリッジでも、ヘッドシェルやアームを変えれば音が変わることはすでに常識化している。また、右のようなテストをするときには、カートリッジ自体の周波数特性のくせを、一台一台調整して合わせたイクォライザーでフラットに補正すべきではないのか。それとも、RIAAカーブで補正するだけで、カートリッジ自体の周波数特性は放っておいてよいものか。ハイインピーダンス型の場合は負荷抵抗や負荷容量を変えても音は相当に変わる。シールドコードの影響や、温度、湿度の影響も無視できない。
 ──細かく言い出せばキリがないが、テストというものは、厳密に行なおうとすればするほど、右のような細かなエラーを無視したのでは無意味になる。どのみち、レコードに刻まれた音はカートリッジで拾って聴いてみないかぎりわからない道理なので、これはカートリッジに限らない、アンプでもスピーカーでも、現在の技術のレベルでは、どのパーツが最も正しい音を再生するのか、という証明は、論理的に不可能なのだ。
 不可能ではあるにしても、しかし再びカートリッジに話を限るとして、レコードに刻まれた音を、大幅に歪めたり、刻まれた音を明らかに拾い落したりはしないように、というひとつの目標について、異論を唱える人はいないだろう。その同じ目標に向って多くのメーカーが、地道な研究の積み重ねによって着実に前進していることもまた確かである。それでありながら、一〇〇個のカートリッジが微妙とはいっても一〇〇通りの異なった音色で鳴る。そこに好みや主観という要素が入りこみ、さらに価格とのバランスとか使いやすさとか、針交換のしやすさとかトレースの安定度など、人さまざまに重点の置き方が異なって、選ばれるカートリッジも人さまざま、という結果になってくる。ただ、10年前にくらべると、明らかに飛び抜けて音色の違うというようなカートリッジは少なくなった。それだけ技術のレベルが揃っているという証明にもなるし、レコードからできるだけ正しい音を拾い出すという目標に大局的には接近しているという証拠にもなる。

(*注)MM−IM、MC......等、電磁型、動電型のカートリッジ、および圧電型のカートリッジに限って、発電機の同類といえるが、コンデンサー型、光電型、半導体型などは正確には発電機ではなく、別に用意された電源から供給されるバイアス電流を、音溝のうねりで変調して音声電流に変換する。

3 カートリッジを選ぶ根拠は何か?
MM型、MC型......というタイプの違いか、
価格の違いか、メーカーか......

 同じ目的のために作られるカートリッジに、なぜ、MM型、MC型......というようなタイプの違いが生じるのだろう。それは、アンプの場合ならトランジスターと管球式、あるいは同じトランジスター型でも直流アンプというように、またスピーカーならコーン型とホーン型あるいはドーム型......というように、メーカーの技術力や得手不得手、方法論のちがい、等の理由によって、それぞれのメーカーが自社の主張に応じて異なった構造を採用するのだ。どんなタイプにも、メリットがあれば、その反面に必ずデメリットがつきまとう。うまいことだらけ、というような話はありえない。ただ、メーカーはつねにメリットの方を宣伝材料に使って、デメリットについては触れたがらない。もしも客観的にみて、誰が見ても誰が考えても唯一最良の方式というのがあれば、世界じゅうのカートリッジがそのひとつのタイプで作られるはずだ。そうならないで各社各様のタイプを押しているという現実が、すでに、メリットの反面にデメリットのあるという事実を裏書きしているようなものだ。
 では現実にカートリッジを探し、選ぶ段になったとき、いったいどういう問題点を根拠にしたらいいのだろうか。MM、MCというようなタイプの違いか。ブランド名か、あるいは国籍か。それとも価格や使用条件によって何か大きな違いがあるのか。カタログデータ上で何か拠りどころになる数字や項目があるのか──。以下にいくつかの項目をあげながら考えてみよう。

■原盤試聴用あるいは放送局用など、プロ用の特殊なカートリッジがあるか?
 レコード会社がカッティングしたラッカー盤やメタル(マザー)盤をチェックするときに、どんなカートリッジを使っているのだろうか。
 ノイマンのカッティングシステムでは、オルトフォン(SPUまたはSL)、シュアー(V15/III)、またはエラック(STS555E)などが標準装備となっているし、他のカッティングシステムやレコード会社によっては、EMT、デッカ、ピカリングまたはスタントン、ADC、エンパイア、その他、要するに私たちに馴染みの深い製品が適宜選ばれていて、どこにも特殊なカートリッジの使われている例はない。ことにメタル盤の検聴の際は、針の磨耗がおそろしく早いことと、メッキの素材であるニッケルが磁石の強いカートリッジを引きつけてしまうなどのやや特異な条件から、MMまたはIM系の、むしろあまり高価でないカートリッジの針をどんどん使い捨てるケースが多い。
 放送の場合はどうか。日本では、NHKおよびFM東京などFM局で、DENONのDL103が標準カートリッジに採用されていることはすでによく知られているが、これとてアマチュアにとって別に珍しい製品ではなく自由に入手できる。AMの民放局ではこれ以外にも主に国産品が適宜使われる。海外の放送局となるともう全く自由で、それにしても私たちに縁の遠いカートリッジというのはまず使われていないといってよい。
 スピーカーの場合は、本誌36号の「現代スピーカーを展望する」で詳述したように、シアター用など広い場所で強力な音声をサービスするものと、比較的狭いモニタールームで検聴用に使うスピーカーと一般家庭用とでは、用とによってその構成も規模も音幅に違う場合が多い。けれどカートリッジの場合は、対象がレコードの溝一本だから、目的とか用途による違いというのは、スピーカーのように別々にはならない。
 もうひとつ、スピーカーの場合には、少数とはいえ十年前十数年前の製品がいわゆる名器として残っている例があるが、カートリッジの方は、ほんのわずかの例外を別にすれば、原則として、旧製品は消えてゆかざるを得ない宿命を負っている。それはカートリッジが、レコードにカッティングされた音溝を忠実にたどるという目的を持っているからで、カッティングシステムの改良にともなって、より振幅の大きな、より複雑な音溝が刻まれるようになると、旧型の設計のカートリッジでは、その振幅を正しくトレースしてゆくことができなくなってしまうからで、スピーカーの方は、アンプから送り込まれた音が出てこないだけだから故障などの実害のないのにくらべると、カートリッジの旧型はレコードの溝を正しくたどりきれずに溝をいためてしまうという害が生じる。したがって、少数の例外を除いて、カートリッジは新型・新型と移り変わってゆかざるをえない宿命にある。

■タイプによる違いと、国籍やブランドによる違いと、どちらの差が大きいか
 ムービングコイル型(MC型)は音のキメがこまかい、とか、ムービングマグネット(MM)型は音が柔らかい、などと、タイプによる音の違いが言われている。たしかに、タイプによって本質的に持っている音というのはある。
 しかしその反面、カートリッジの音質の違いはタイプじゃない、要するにブランドによる違いであり機種による違いなのだから、タイプにこだわらずに音を聴いて決めるべきだ、という意見もある。
 そうした、一見相反する意見があるということは、そのどちらが正しいのでもなく、どちらも半面の真理を言っているのだ。メーカーあるいは国籍による個性、そして素材とその料理法によって、さらには同じメーカーの製品ならば価格の高低によって、それぞれ微妙に音の差があって、それが一見、タイプとは無関係のようにさえ思えるが、しかし本質的にはやはり、タイプによって基本的に決まる音の傾向がなくなりはしない。たとえばMC型の音のこまかな切れこみは、他のタイプから聴くことは無理だし、MM型の、音ぜんたいを柔らかく包みこむような鳴り方をMC型は概して聴かせてくれない。そういう基本的な性格の上に、ブランドやランクや素材などのさまざまの要因が加わって、1個のカートリッジの音の性格ができ上がっている。だから、タイプ論もブランド論も、それぞれ半面の説明はしていることになる。ただ、タイプがすべてを支配するというようなことは起りえないし、さきほどのくりかえしになるが、客観的に唯一最良のタイプがもしもあるのなら、世界中のカートリッジが同じひとつのタイプを採用するはずだ。
 そういう話を前提にしておいて、そこであえて私個人のカートリッジ選びの基準をいえば、第一にタイプ、第二に国籍またはメーカーの個性、第三に同一のメーカーの製品体系の中でのランクづけ、の三つの面から考える。言いかえればこれらの要素が、カートリッジのできばえにそれぞれかなり大きな影響を及ぼしていると、私が感じているからだ。そのことをもう少し掘り下げて考えてみよう。

■MMグループとMCグループ
 こまかなことを言う前にまず、私自身のカートリッジの使い分けをふりかえってみると、レコードを真剣に聴くときはMC型、くつろいだり聴き流したりするときはMM型、という聴き方がわりあい多い。読書しながら、あるいはお茶や酒を飲みながら聴き流すとき、針交換のめんどうなMC型を使うのは何となくもったいない気がするし、それよりもMC型の音はどこかこちらをくつろがせにくい、聴き手を音楽の方にひきずりこんでしまうような雰囲気を持っている。レコードに入っている音をどこまでも細かく細かく拾ってくる感じが、つい、音楽を一生けんめい聴く姿勢にさせてしまうのではないだろうか。
 一旦MC型の良い製品を良いコンディションで聴いた直後、同じレコードをMM型で再生してみると、MM型はMC型にくらべて、何か大切な情報量を掴み落してくるのではないだろうかといった気持になる。くどいようだが、さきにも書いたようにタイプですべてがきまるわけではないから、MCの中にも不出来な製品が少なからずあることは断わっておくが、MC型の方が明らかに同じレコードからより豊富に音を拾い出してくる。そのことが、逆に聴き手をくつろがせにくい、あるいは聴き流しできないような気分にさせてしまうのかもしれない。そこでつい身を乗り出して、音楽にのめり込んで聴き入ってしまう結果になる。
 ただしかし、聴き手の主観以外にも問題がないわけではない。第一に、レコード自体にMC型の解像力に見合うだけの豊かな情報量が入っているかどうか。演奏の良否から録音・盤質まで含めて、優れたレコードであるかどうか。第二に、アンプやスピーカーが、その豊富な情報量を十分に再現できるだけの能力を具えているかどうか。
 正直をいって私自身は、MC型を嫌う人の音の受けとめ方が全く理解できない。しかし一方で、MCでは鳴りにくい音のあることだけはわかる。それだから、自分でもMC一辺倒でなく、MM系(IM型も含めて)を使っている。たとえばジャズの場合──。
 バリトンあるいはテナーサックスの、あのふてぶてしい、太い真鍮の管が共鳴して豊かに唱うあの鳴り方が、MC型では私には十分満足できない。管の太さ、みたいな感じが、IM系のカートリッジでなくてはよく鳴らないように思える。あるいはスネアドラムのスキンのよく張った乾いた音。......そう、この乾いた感じというのが、MC型ではどうも出にくく思えるのだ。MC型の音はどこか音をひきずるように、いくぶんウェットに、ふてぶてしい音さえもどこか品良く、繊細な艶を乗せて鳴らす。もっとカラッとしていなくてはジャズではない、そういういら立ちさえ感じさせる。ジャズばかりではない。アメリカの現代のさまざまのポップミュージック──ロックやソウルやフォークやウェスタンなどの、新しい流れのポップミュージック──の、ことにリズムセクションの、ストッ! と切れる感じの、重量感がありながら粘らない、あの一種爽やかな迫力を、私の知るかぎりのMCは鳴らしてくれない。そういう音を聴かせてくれるのは、IM型の、それも特に断わっておかなくてはならないことは、それがアメリカの東海岸(イーストコースト)系のカートリッジにほとんど限られるのだ。
 そう。私は再ぴここで、音響パーツを生み・育てた風土の問題にぶつかった。同じような構造の、似たようなカートリッジが、イギリスで、ドイツで、あるいは日本で作られると、なぜ、イーストコーストのあの、乾いた気持のいい音が鳴らないのか。そしてまたイーストコーストのカートリッジには、どうして、ヨーロッパ製のそれから聴くことのできる繊細でややウェットな余韻の美しさが欠けているのか──。

■同じMM型でも風土が違えば音質も変わる──エラックとシュアーの例──
 たしかに、カートリッジの音はそれぞれに違う。同じメーカーの、同じタイプの製品でも、価格のランクによって音が変る。だから、カートリッジの音のちがいを、タイプだの風土だのでいうのはまちがっているという意見もある。が私は、それは音をあまりこまかく見すぎてもっと大掴みな重要な違いを聴き落していると思う。
 そういう違いを聴きわける最も良いサンプルはアメリカ・シュアーと西独エラックだ。余談になるが、エラックという商標を日本では使えないで、エレクトロアクースティックという名で呼んでいる。日本のある商社がむかしエラックを輸入していたころ、勝手に Elac の商標を登録して日本ではその商社を通さなくては使えないようにしてしまった、というのが真相だ。日本だけのばかげた現象で、何とも腹の立つ話だ。もうひとつ、日本では最も普及しているMM型は、もともとシュアーとエラックが共同で特許を所有しているもので、欧米ではこの二社以外はこの構造のMM型を作っていないし、日本でもオーディオテクニカのような独自の構造以外の製品は、特許料を払わないと海外に輸出できない。
 シュアーとエラックをくらべてみるとよくわかるが、この二社の製品は、右のような理由から、基本的にはよく似た構造をとっている。もしも構造(タイプ)が音質を支配するというのなら、シュアーとエラックはよく似た音がするはずだ。だが試みに、シュアーのV15/IIIとエラックのSTS555Eを聴きくらべてみるといい。もしもできれば、エラックのSTS155までの一連の製品を聴き、シュアーのM75やM91のシリーズをひと通り聴いてみるといい。エラックの製品だけでも、155と255、355、455......みな少しずつ音が違う。シュアーもまた、75Gと91EDとV15/IIIとでは当然音が違う。けれど、エラックとシュアーをまとめて聴いてみれば、エラックの中でどれほど違う音でもそれは決してシュアーの方に似てはいないし、シュアーのどの製品をとっても、シュアーよりはエラックに近いなどという音はしない。明らかにシュアーはシュアー、エラックはエラックの音がするのである。
 そのことを単にメーカーの個性とみるのは自由だが、私はそこに、カートリッジの音をコントロールしてゆく人間の音感を、そういう音感の人間を生み・育てた風土の問題を考えずにいられない。そしてメーカーが最もそのメーカーらしい、言いかえればメーカーの主張を最も端的に表現するのは、同じ機種の中の最高のランクの製品である。シュアーならV15/III、エラックならSTS555Eまたは655D4である。それで私は、自分でカートリッジを買うときは、まずそのメーカーの最高のランクの製品を聴いてみる。一方そのシリーズの最低と中間とを同時に比較すれば、そのメーカーの主張はおおかた理解できる。
 カタログの項目で参考になるのは、出力電圧とインピーダンスと、針圧とコンプライアンス。前者はアンプまたはトランスとのマッチングをとるために、後者はアームとの組合せを考えるために、つまり使いこなしの際に必要な数字であって、カートリッジを選ぶ段にはたいして役に立たない。周波数特性をこまかく比較する人があるが、ばからしいからおやめなさい。同じ機種で安いのから高いのまで、五千円きざみにとり揃えているようなメーカーの製品の周波数特性を見くらべてみれば、価格のランクにともなって、少しずつ特性が良くなるように書いてある。これなどは、この前の製品で10Hzから3,0000Hzと書いてしまったから、今度のは8Hzから32,000Hzにしておこうか、というようなアホらしい操作を、メーカーの方がしているだけの話だ。

■優れたカートリッジほど音楽に血を通わせ生き生きと蘇らせる。
そして、レコードを、音楽を、次々と聴きたい気持をふくらませてくれる
 菅野沖彦氏がおもしろい指摘をしておられる。内外の軽針圧型のカートリッジが、概して針先にまつわりつくゴミやホコリに弱く、レコード一面をかけ通さないうちに音がビリついたり、針先が浮いてしまったりするのが多い。しかし、EMTやオルトフォンSPUのような3g前後の針圧を要するものは別としても、軽針圧型であってもたとえばエラックやシュアーなどは、よほどのことがないかぎりレコードの一面ぐらい、何の苦もなくトレースする、というのである。
 そう言われて考えてみると、私は右のようなトラブルにあまり遭遇していない。しかしそれには注釈が必要なので、ふりかえってみて私の場合、いくつかの例外を除けば一個のカートリッジでレコードを何枚も続けざまに聴くということを、おそらくほとんどしていない。テストの際にはレコードの特定のある部分だけを鳴らしながら次々とレコードを換えてゆく。そのたびごとに針先のゴミを払う。そういう扱い方をしているかぎり、菅野氏の指摘されるような現象は発見できない道理だ。
 ということは、私のカートリッジ・テスト法がもしかすると杜撰であるのかもしれないが、しかしレコード一枚さえ通して聴かないとあえて書くのは、私にとって、レコード一枚、いや片面だけでさえも、始めから終わりまで通して聴き込む気持を持続させてくれるカートリッジが、きわめて少なかったと言いたいためだ。新しいカートリッジを入手すると、最初にアイドリング(エイジングともいう。いわゆる馴らし運転)のために、オートマチックのプレーヤーにとりつけて、馴らし運転専用の(傷んでも惜しくない)レコードをざっと十数時間トレースさせる。このときは音をきかない。エイジングが済むと、あらかじめ選んである何枚かの、それぞれ音楽のジャンルも楽器構成も異なるレコードの特定の部分を次々とかけてヒアリングテストする。針圧を変えてみたり、ヘッドシェルやアームをとり換えたり、むろん負荷の条件も変えてみる。これでカートリッジの素姓はまず90%掴むことができる。
 こうしてテストした結果、これはもう少し時間をかけて聴き込んでみたいという気持を誘発させてくれるほどのカートリッジなら、一応、相当の水準にあるといえる。そういう製品は、テスト用とは別に気分のおもむくままに、楽しみながら聴き込んでみる。良いカートリッジは、そうして聴くうちに次々と、そうだ、こんどはあれを聴いてみよう、という具合に、次にかけたいレコードを思いつかせてくれる。つまりレコードを楽しむ気持をふくらませてくれる。同じことを私は、本誌36号のスピーカーテスト後記で書いた(36号119ページ)アンプでもカートリッジでも、この点は同じだ。
 ところが、たいていのカートリッジが、テストレコードが一面の終わりまで行かないうちに、いや、ミルシュテインのグヮルネリの中音はもっと線の太い一種ふくみ声のような音色で鳴らなくてはおかしいはずだ、とか、このバルバラの声には人生の厚みが感じられない、とか、菅野氏のこの録音はもっと楽器の鮮度が高く聴こえるはずだ......というような不満が生じたり、なんだこの程度の音かとがっかりしたり腹が立ってきたり、そうでなくとも、ことさら指摘できるような弱点がないにもかかわらずどういうわけか聴き馴れたレコードがとてもよそよそしく聴こえたりして白けた気持になったりして、途中で聴くのをやめてしまうことが多い。
 こんなはずはないのにと思って、ヘッドシェルをかえてみる。アームをかえてみる。プレーヤーシステムをかえる。針圧や負荷を再調整する。別のレコードをかける......。要するに相当にこまかく条件をかえ、日をかえて気分を新たにして聴き直してみたりもする、こんなテストをして生き残った製品が、ここ一年あまりでいえば、オルトフォンVMS20E、エラックSTS455E、ゴールドリングG900SE、エンパイア4000D/III、ピカリングXUV4500Q等であった。これ以外にも、レコードの内容や、その日の気分や、組み合わせる装置のちがいによっては鳴らす機会のあるのが、シュアーのM75シリーズやスタントン681シリーズ、ADCのスーパーXLM/II、それにAKG、B&O、DECCAなどである。右にあげたのはしかし私にとってあくまでもサブ用、あるいはその時点での水準を知るための参考比較用であって、常用はEMTとオルトフォンである。つい最近では、国産の一〜二の製品が、もうしばらく聴いてみたいグループに加わっている。あと数ヵ月しないと本当の結論は出ないだろう。カートリッジの素性を正確に掴むには、それぐらい時間と手間がかかる。

4 カートリッジの鳴らす音色とその背景に横たわる風土との関係を
もう少し個々に論じてみると......

 シュアーとエラックが、似たような構造でありながらそれぞれに異なった個性で鳴ることをすでに書いたように、むろんカートリッジの鳴らす音に限らずスピーカーにもアンプにもレコードにも楽器にもあるいはその奏法にも、民族性や国柄や風土が映し出される。その点を解明することがここ数年来の私の興味の中心になっている。では、カートリッジの場合、それがどういう音のちがいになってあらわれてくるのか。それを国別に少し細かく調べてみよう。

■日本のカートリッジは歪みをおさえた色づけの少ない音がする
 たとえば欧米のカートリッジの一部には、トータルの音のバランスは悪くないが細部あるいは弱音部でのデリカシーを欠いて、いかにも音の粒の粗いものがある。その点国産のカートリッジは、たとえローコストの中にも、歪みっぽい音や粗い音を鳴らす製品はほとんどないと言い切ってもいいだろう。聴感上の音の粗さや歪みっぽさを注意深くおさえて、強音でも圧迫感のない、すっきりとおとなしい、節度のある音を聴かせる。
 歪みあるいは音のバランス上明らかなピーク性のクセ、ないしはトレースの不良......などの客観的な欠点や弱点を、ひとつひとつ取り除いて製品を仕上げてゆく能力にかけては、日本人のこまやかな神経は世界一といっていい。カートリッジばかりではない。国産のワインが渋味や酸味を注意深く除いて作ること、同じく国産のウィスキーがたとえ安物であってもアルコール臭や醸成の若さ・鋭さをよく抑えること、時計の進み、おくれを嫌うこと、日本人の国民性はこうした面に発揮される。
 こうした作り方が長所として実った製品も数少ないながら数えあげることができるが、ただ、一部の製品の中に、やや消極的というのか行儀がよすぎるというのか、どこか静的で平面的で、音の表情をおさえすぎたり、音の肉乗りの薄いあるいはコクのない、ボディーの厚みのない音に聴こえるのがある。
 もうひとつこれは別の機会にも書いたことだが、西欧の音楽が低音の豊かなメロディーの上に構築されているのに対して日本の音楽は、伝統的に低音はリズム楽器で支えられてメロディーそのものは高音の、しかも原則としてモノディとして成立していた。こうした歴史の流れの中で、日本人の耳が低音の音の厚みや中〜低音のハーモニィの複雑な音色を聴き分けることに往々にして弱点をみせる反面、中〜高音域での音色や音の美しさをデリケートに聴き分ける能力の鋭敏なこともまた、世界に誇れる。このことが、カートリッジにかぎったことではないが音の仕上げに影響を及ぼすことが少なくないように思う。
 その特質がおそらく、国産カートリッジの多くを、実におとなしくきれいな音に仕上げるのだろう。けれど次のようなことはある。
 たとえばソロ楽器、あるいはコンボ、クラシックの場合なら室内楽かせいぜい室内オーケストラ程度、要するに小編成の曲を鳴らすかぎり、おおかたの国産カートリッジの音はたいへんバランスも良く、キメのこまかな美しい描写をする。ところが大編成のオーケストラがトゥッティで鳴ったほんの一瞬、音のバランスが中〜高域に片寄るように、低域の厚みのある支えを欠いて、キャンつきはしないがやや薄手の音を鳴らすカートリッジが、一部とはいえ無視できない程度の数はある。たとえば最近の本誌でテストレコードとして使われる機会の多い、クラウディオ・アバド指揮/ウィーン・フィルの『悲愴』(独グラモフォン2530350)。その第一楽章の中間部でクラリネットからファゴットのピアニシモで消えた次の一瞬、フルオーケストラがフォルティシモで鳴りはじめるあの部分。そこがジャン! と鳴ったほんの一瞬で、聴きなれてくるとカートリッジの低音から高音までのエネルギーのバランスを瞬間的に聴きとることができる。ある製品は低音が重く鳴る。別の製品は高域の上の方でキラッと光る音を鳴らす。しかし私が最も低い点をつけるのは、キャン! という感じで低音の厚みがなくなってしかも中高域の一部分にエネルギーが固まる感じの音。カートリッジにかぎらず、アーム、ゴムシート、プレーヤーシステム全体からさらにアンプ、スピーカーまでこのテストは最も短時間に音のバランスのダイナミックなテストができる。
 もうひとつはMCとMMの項で書いたようなジャズあるいは新しいポップスの、一種ふてぶてしい、あるいは音が粘らないでスカッと切れる乾いた爽やかさ、などの感じがどれほど鳴らせるか。そしてその反対に、クラシックの弦や木管のたおやかなやさしさ、そしてヴォーカルの声帯の湿った温かさがどれほど聴けるか......。カートリッジの音の判定はとても難しい。
 国産のカートリッジの話のはずがつい脱線して、カートリッジのテスト法になってしまった。そこで話をもとに戻して、仮に一部とはいっても国産のカートリッジの中に、もっと低音の豊かな弾み、ことにオーケストラのトゥッティでの豊かさと音楽の表情、そして音にもう少し脂気あるいは艶が乗ってきたら、全体の水準はグンと上がるのに──と、まあえてして身内にはきぴしくなりがちだというが、これが日本人である私の願いである。

■イギリスの音はどうして細い感じで鳴るのだろうか......
 イギリスという国は、ずいぶん古くからカートリッジを作っているが、わずかにデッカ一社を除いては、国際的に通用する名品は、最近では全くといってよいほど生れなかった。つい先ごろ、古いメーカーのゴールドリングが久々の新製品として発表したG900SEがもしもたいした製品でなかったら、カートリッジの話の中でイギリスを独立した項目にたてることもなかったかもしれない。
 デッカ(MKV)とゴールドリンク(900SE)のふたつは、スピーカーの場合にも説明したイギリスの古いジェネレイションと新しいジェネレイション(本誌36号参照)の音の違いを端的に代表している。スピーカーでいえばタンノイやリークの鳴らすやや硬質の艶で聴かせるのがデッカなら、その音をもう少し柔らかくまろやかにしたのがゴールドリングで、それをスピーカーでいえばスペンドールBCII(本誌36号P317参照)を思わせるバランスのよさとクセのなさを持っている。デッカの中〜高域の、黒田恭一さん流にいえばコリッとした感じのタッチ。その輪郭をくまどる線は鮮明だがいかにも細い。イギリスの音はスピーカーでもそうだが概して中低域に肉がつくことを、音がぼてっと厚くなることを嫌って、痩せぎすに仕上げる。デッカの音はときとして少し骨ばって聴こえ、ゴールドリンクはその骨をあからさまには感じさせない程度に耳あたりを良く、そしてイギリス製にしては──というより以前の800シリーズからみたら──総体にフラットに、バランス的に過不足なしに仕上げているがしかし、やや細い感じであることに変わりはない。
 その意味ではデッカの音もゴールドリングの音も、国産のカートリッジの中によく似た音があるように思えるし、いま書いたような範囲では似ている製品も事実ある。ただし国産とイギリスとがやや違っている点は、しっとりと脂の乗った、そして中低域が薄いために一聴すると低域が弱いように思えるがよく聴くと、ローエンド(低域端)での音はたっぷりと量感を持っていて、細いけれどつくべき肉はちゃんとついているし、ボディーに厚みも奥行きもあることがわかる。そして音楽のこまやかな表情の変化に、実にしなやかに寄り添ってゆく。
 ただしかし、概してイギリスの音はスケールがあまり大きくない。スピーカーでもタンノイのオートグラフ(すでに製造中止)とヴァイタヴオックスのCN191はむしろ例外的な存在で、アンプでもプレーヤーでも、繊細な神経でこまかく仕上げてゆく反面、それが大がかりになることを好まない傾向がある。それが音にもあらわれている。

■ドイツの音はいっそうBODYが厚く、そして音のけじめがはっきりしている
 イギリスの持っている音の艶、それもデッカ型のやや硬質の艶にさらに脂を乗せて、中低域での音の細い部分の弱点をなくしたような音──ドイツの音を、大掴みなバランスからいえばこういう感じになる。
 ここでもまた、ドイツのスピーカーの鳴らす音や、ドイツのオーケストラの音、さらにはドイツの工業製品、たとえばカメラや自動車の操作性にも一脈通じるフィーリング、そういう感じがカートリッジの場合でも例外ではないことをまず言っておきたい。むろんドイツの音といっても、オーケストラの音を思い起こすまでもなくそれを一括して言うのは乱暴すぎるが、カートリッジでいえば、現時点ではEMTとエラックの二種類に代表させればよいので、話は比較的簡単だ。
 たとえばブラウンのスピーカー。音のけじめのはっきりした、明瞭かつ鮮明な感じの音のくまどり。大まかに言えばエラックにもEMTにもその感じが共通している。
 もうひとつ、ベンツやBMWに乗ってみると(私は運転ができないので、友人たちに乗せてもらうだけだが)、アメリカや日本の車よりもクッションが固い感じが第一印象として際立っている。スポーツタイプでないふつうのセダンで、坐った尻の下のクッションの感じが、ブラウンやヘコーのあのけじめのはっきりした硬質の音に似ている。これでは走り出したらいかにも固くて疲れるのじゃないだろうか、と思っているとその予想は裏切られる。固くてやわらかいとでもいったらいいのか、明晰さで包まれた豊かさ、とでもいうべきなのか、それは固い一方でなく、というより第一印象で固いと感じたのは実はほんとうに固いのではなく、馴れるにつれてそれがドイツ車の──いや、ドイツの音の表現の基本になっていることに気付かされる。道路の小石を踏んだことさえ乗り手に鋭敏に伝えながらしかもドライバーを疲れさせないどこか柔らかで豊かなあの感じを、EMTのカートリッジの鳴らす音に聴くことができる。
 エラックの音も基本的には同じだ。ただ、これがおそらくMCとMMのちがいなのだろう。EMTのおそろしいほどの解像力に裏づけられた豊かな情報量にくらべると、エラックの音はもう少し甘い表現になる。EMTとエラックをくらべればそうだが、そのエラックをシュアーとくらべると......それはさっき書いたとおりだ。

■北欧が生んだ名作オルトフォン。そして同じ国のB&O
 デンマークは、オルトフォンやB&O、それにカートリッジではないがオーディオ用測定器として世界じゅうで標準原器のように使われているブリューエル&ケア(B&K)を生んでいて、北欧諸国、というよりヨーロッパ諸国の中でも、オーディオの面でかなり大きな存在である。特にオルトフォンは、レコーディング用のカッターヘッド等も作ってプロフェッショナルの分野でも高く評価されて、中でもSPUシリーズのMC型カートリッジは、その基本構造がドイツのEMT、日本のデンオン、FR、マイクロ、スペックス、オンライフ等に影響を及ぼしている優れた発想によって、独自の地位を築いている(もっともEMTのカートリッジは、TSD15の旧型時代はオルトフオンで作っていた)。SPUだけが聴かせる音の自然で厚みのある、一見反応が鈍いようでいて実はおそろしく緻密でコクのある音は、すでに十余年を経ても一向に古くならない。はじめの方で、カートリッジの世界に旧製品は通用しにくいことを書いたが、その例外的存在がオルトフオンSPUでありEMTである。オルトフォン製時代のEMTは、SPUとくらべるともう少しナイーヴな柔らかさの中に、実に繊細な解像力を持っていた。ドイツで作るようになってからは、基本構造にはほとんど変化がないのに、もっと鋭角的で明晰な、近代的で緻密な音質に変わっている。こういうところにも、タイプの分類からは説明しきれない国柄や風土の問題を聴きとることができる。
 オルトフォン自体も、初期のSPUと現在のとくらべると、音の解像力が一層向上し、歪みも減少している。反面、旧型のもう少しおっとりしたあたたかな肌ざわりを懐かしむ声もないではない。とくにSPU以後、SLシリーズという別の音──もっと現代的な、シャープな解像力を加味したクールで細身の音──が生れているのだから、SPU自体は、できれば旧EMTのような、繊細な柔らかさとあたたかみの方向でまとめてくれてもよいのではないかと、これは私個人の勝手な希望を持っている。しかしそれにしても、SPUシリーズの厚みとコクのある音は、いまや貴重な存在で、数年前すでに書いたことだが、こういう音はもはやオルトフォンという一メーカーの製品であることを越えて、ひとつの文化ともいえる存在になっていると私は思う。この音は絶対になくしてはならないと思う。EMTもまた同様である。
 製造に手間のかかるMC型を嫌って、オルトフォンはその後IM型に手を出した。初期の製品は、SPUやSLシリーズのあの秀才型の音にくらべてあまりにもでくのぼう然とした鈍い音がして私は好きになれなかったが、VMS20E以降は、SPUタイプの音をIMで仕上げたとでもいったニュアンスが聴こえはじめて、SPU−G/Tの重量(約31〜32g。市販のアームでは使えないものが多い。)やSPU−Gのトランスの問題などでためらう人には、ぜひとも奨めたいカートリッジのひとつになっている。
 オルトフォンについて少しばかり書きすぎてしまったかもしれないが、B&Oもまた特異な存在といえる。旧SPシリーズの頃から、腰の坐った強靱な、しかしナイーヴな音の魅力で愛用していた。いまSP15を経て、MMC3000、4000、6000等の新しい製品が揃ったが、新しい製品になるにつれて、強い個性がおさえられ、ナチュラルな音質に仕上がってきている。ある意味ではSP15を含めて旧製品の方が、類形のない特徴のある音に魅力があったともいえるが、しかしそうした強いキャラクターをおさえて自然な音に変わってゆくのは、なにもB&Oだけのことではなく、世界的なオーディオの傾向に違いない。そしてB&Oの音が自然と書いたけれど、やはりそれを他の国のカートリッジの中に混ぜて聴くと、北欧の空のあのいくらか暗いクールな感じが、たしかにB&Oやオルトフォンからは聴きとれる。それがオルトフォンのSLシリーズやB&OのSP15のように、高域のやや上昇ぎみの、ふつうならキラキラと華やぐ傾向になりがちの部分でさえも、北欧の冬の太陽のあの白っぽい光のようで、まぶしくなく、エキサイトした感じにならず、しかもイギリスや日本のような線の細いところがなく、ドイツのあの透明で硬質な光沢とも違う。やはり生れた国の音はあると思う。

■アメリカ。なぜ西海岸にはカートリッジメーカーが出てこないのだろう?
 東海岸(イーストコースト)のカートリッジの音の大まかな特徴は前にも書いてしまったが、いうまでもなくその音は、ARやKLHや、アドベントやボーズやボザークなどのスピーカーの鳴らす音と本質において全くおなじだ。スピーカーの音の特徴については、本誌36号(「現代スピーカーを展望する」)にくわしく書いたが、世界的にみてアメリカ東海岸は、高域の、ことにハイエンド高域のごく上の方)の強調感をことに嫌う。たとえばKLHの新しいスピーカー "Classic four" の背面にトゥイーターレベルを二段に切替えるスイッチがついている。そして一方にFLAT、他方にNORMALと書いてある。測定しても聴いてみても、この "NORMAL" ポジションは高音をいくぶん下降させている。日本人やヨーロッパ人の感覚なら、そしておそらく同じアメリカでも中央部から西海岸にかけてなら、FLATのところが即NORMALであるはずだ。ところが東海岸では、FLATをNORMALとは感じない。前記36号ですでに紹介ずみの話だが、この一例は東海岸の音の感覚を実にみごとに説明してくれる。
 ADCやエンパイアの、それもADCなら現在のXLM以前の、エンパイアなら1000ZE/Xまでの各モデルの音に、私がどうしても馴染めなかったのは、なにしろ高音域が全然延ぴていないようなナロウレインジに聴こえたからだ。実際に測定してみると特性はむしろフラットなのだが、特性とは別に聴感上は高域が落ちて聴こえる。やはり東海岸の製品なのだなあと、つくづく感じさせる。
 ADCがスーパーXLM/IIになり、エンパイアが4000D/IIIになって、周波数特性上は目立った変化はないのに、聴感上は、はるかに高域が延びてきた。私の耳にもそれで一応なじめるようになって、以前よザはずっと本気で聴き込みはじあた。すると、前にも書いたような、ジャズやアメりカンポップスのある部分──ヨーロッパや日本のカートリッジではウェットになったり柔らかくなりすぎたり、妙に音をこまかく鳴らしすぎたりして不満のある部分──が、ADCやエンパイアやスタントンだとうまくゆくことが少しずつ理解できはじめた。
 しかし、そうだということは、裏がえしていえばアメリカ東海岸のカートリッジの鳴らす音が、ヨーロッパや日本のカートリッジとくらべると、それほど違うという説明になる。明るく乾いた肌ざわりで音を細かく拾うよりはもっと大きく掴んで、音を輪郭で描くよりもっと即物的に鳴らしてゆく。これは私の個人的な偏見として頂いてかまわないが、アメリカ東海岸の鳴らす音は、いまや世界的なオーディオの流れの中でむしろ特異な存在だと、私には感じられる。二〜三の例外的なメーカーの製品を除いて、そう思える。
 例外的な存在をカートリッジに限って探してみれば、最近のピカリングのXUV4500Qなどはどうだろう。このカートリッジは、東海岸にはめずらしく、高域に硬質で線の細い強調感があって、それはドイツの音に一脈通じるかのようでさえあるが、ただしかし本質的に音の乾いている点は明らかにイーストコーストの音だ。だが少なくとも音のバランスと輪郭の面で、ヨーロッパや日本のある種の製品が鳴らすようなシャープな切れ味を持っている点がこれまでの東海岸の音と違っている。
 それにしても、ADC、エンパイア、ピカリング、スタントン等の製品のどれをとっても、私にはクラシックを鳴らせるカートリッジだという実感は湧いてこない。クラシックを鳴らすためには、音が乾いていては困るのだ。こう見事に余韻のこまやかさを断ち切ってしまっては困るのだ。その裏返しの意味で、ジャズやポップスを鳴らすとき、かけがえのないカートリッジとしてイーストコーストの中から私は選ぶのである。
          ※
 同じアメリカでもシュアーとなると話は少し違ってくる。いや違っていたと言うべきだろう。シュアーはイリノイ州にある。大まかにいえばエレクトロボイスや3Mと同じくミシガン湖をはさんだアメリカ中央部である。スピーカーでいえば、東海岸が高域の強調を嫌うのに対して西海岸側ではむしろ逆に、しかも新しい製品になるにつれて高域を延ばしあるいは強調する作り方をしている。その両極にはさまれてE−V(エレクトロボイス)は、昔から最も穏健な音を鳴らしていた。
 シュアーの音にもそういう面があった。M3からV15のタイプIIにいたるシュアーの歩みは、アメリカの中ではむしろヨーロッパ的とでもいいたいような、ことさら際立った特徴もないかわりに極端に走らない良識に裏づけられた音の良さがあった。しかしV15はIII型になってから、すこし音の方向を変えたように思える。
 V15/IIIの音を研究してみると実に興味深いことがわかってくる。シュアーはおそらくこれを計画するにあたって、現時点で世界的に普及しているブックシェルフ型のスピーカーを中心としてアンプその他の周辺機器を、かなり正確に調査しその性能を見きわめたのではないだろうか。というのは、V15/IIIをそういうクラスの装置に組み合わせると、解像力の良い鮮度の高い音で、なまじの高級カートリッジからグンとかけはなれたグレイドで装置を生かす。それは繰り返しになるが、シュアーが、カートリッジ単体として性能を向上したのではなく、現代のオーディオ再生の平均水準を確かに掴んで、そのトータルとしてのカートリッジの設計に成功したからだと思う。その点に私は、V15/IIIの人気の秘密があると思う。いわゆる商品計画のうまさを、これくらい見せつけられる製品は少ないと思う。
 ただ、私個人はタイプIIIを常用カートリッジの中には加えていない。私の装置は、本誌38号にも紹介されたようにスピーカーがJBL#4341。プリアンプがマーク・レビンソンLNP−2。パワーアンプはその後SAE#2500に変わっている。という具合で標準にはならないからこれは全く私個人の主観であることをお断りしておくが、たとえば弦や木管や女性ヴォーカルの、ふくよかさ、しっとりした艶、あるいは余韻の消えてゆくときのデリケートなニュアンスを、EMTとオルトフォンSPUは別として同格のMM、IM系でも、オルトフォンVMS20EやエラックSTS455EやB&Oやデッカの方がつややかに、潤いをもって鳴らす。逆にジャズやポピュラーのドラムス、パーカッションそして金管やヴァイブやベースの、太い響き、乾いた躍動感、切れ味の鋭さなどなら、エンパイアやADCやスタントンやピカリングが、それぞれにうまく鳴らしてくれる。
 概してヨーロッパのカートリッジが弦やヴォーカルそしてクラシック全般を、そして東海岸(イーストコースト)が金管や打楽器を中心にポピュラー系を、それぞれ最善に鳴らす反面、互いにその逆の傾向の音楽には弱みをみせる。
 そういう意味では、シュアーというカートリッジはV15にかぎらず一貫して、音楽のジャンルの区別なしに、どの傾向の音楽でもどんな編成でも、それなりにうまく鳴らすことを目標にしていると思う。これは正道であり立派なことだ。ただ、現在の私の装置では、右に書いた各種のカートリッジがそれぞれに適所を得て最高の能力を発揮したときの最良の音に、シュアーの平均的再生能力ははるかに及ばないように、私は思うのであえてV15/IIIを鳴らす必要を感じないのだ。ある意味ではタイプIIや、それ以前のつまり最初のV15の方が、弱点もあったが音の品位や魅力では一段上だったように、私には思える。
          ※
 アメリカのカートリッジを語る上では、ここでどうしても西海岸に目を──といいたいところだが、なぜか西海岸には、アンプやスピーカーの名器はいくつもあるのに、カートリッジのメーカーが全くない。これは私にとって大きな謎のひとつだ。西海岸の連中がレコードを聴かないわけではない。レコード会社だってないわけではない。どうしてカートリッジが生れないのだろうか。
 現実には、西海岸のオーディオマニアは、アメリカや日本の、すでにあげた製品をそれぞれに選んでいる。おもしろいことに、スタックスやスペックスの評判がかなり高い。オルトフォンやEMTといっても名前さえ知らない連中が多い。ヨーロッパの製品はアメリカ西海岸までは出回りにくいことを知らされて意外に感じる。それにしても、なぜ、カートリッジができないのだろう。JBLみたいな音のカートリッジが、一個ぐらい生まれないものだろうか。

5 結局、一個または少数のカートリッジに惚れこんで
それを徹底的に生かすくふうをすることではないか......

 どう論じようと現実に、カートリッジを二個聴きくらべれば音色が微妙に変わる。買いかえやすいパーツであるだけに、ほとんど誰もが、最初の一個に間もなくもう一個を加える。聴き馴れたレコードの音が微妙にあるいは相当大幅に変化し、カートリッジの交換だけで自分のアンプやスピーカーの別の面が抽き出されまことに驚き、やがて次々とカートリッジを買い足すことになる。私自身もそうして年月を重ねて、いま、モノーラル時代のそれを別としてテスレオ用になってからでも、正確に数えてないが百五〇〜六〇個以上のカートリッジのほとんどが、いつでも鳴らせるようにヘッドシェルにつけられ待機している。始めに書いたオルトフォン/SME型コネクターの普及によって、どのカートリッジでも、いつでも差し換えて鳴らせる。中にはもう数年以上鳴らさないで、コネクターの接点の錆ぴついているのがあるが......。
 しかし私の性分をいえば、カートリッジやアンプやスピーカーは、仕事でテストするときを除いてはできるかぎり切換えたくない。少なくともレコードを楽しみはじめたら、このレコードはどのカートリッジ、どのアンプ......などと切換えることを考えていると、せっかくの音楽もたのしめなくなって、結局音の方ばかり気になってしまう。だから私は、自分の楽しみのときにはカートリッジをやたらに交換するのは嫌いだ。レコードジャケットの裏に、このレコードは何のカートリッジ......とメモを書いていろいろ交換する、という人の話を聞いたことがあるが、私にはそういう趣味がない。
 何度も書いたように、私の常用は数年前からほとんどEMTとオルトフォンSPUだが、EMTのファンとして、蛇足を承知でどうしてもつけ加えておきたいことがひとつある。最近ではいくつかの機会に測定データが公表されて知られているように、EMT・TSD(およびXSD)15の周波数特性は、10kHz近辺から高域にかけてかなり目立った上昇をして、20kHzでは6ないし8dB以上の増加を示す。したがってこれを、ふつうのRIAAのカーブでイクォライズしたままでは、高域端の過剰な、弦のオーヴァートーンや子音に金属質の強調感のある、またシンバルの高音の妙にささくれ立った、不自然でクセの強い音に聴こえがちだ。しかしTSD15を、同社のスタジオプレーヤーシステム#930または#927シリーズに内蔵されている#155stイクォライザーを通して測定すると、高域はほぼ完全に、ほんとうの意味でイクォライズされて、20kHzまで±2dB程度に(カートリッジ自体にバラツキがあるので)収まった平坦な特性になって出てくる。私がEMTの音......と言うのはこの専用イクォライザーを(といってもこれ自体では使えないので、結局930または927プレーヤーシステムを)通した音のことであって、TSD/XSD15を裸のまま特性で使わざるをえないときは、アンプの方で高域をわずかに下降させたり、トゥイーターのレベルセッティングをやり直す必要さえ生じることがある。むろんこれはEMTだけの特例ではなくて、どんなカートリッジであっても、このように特性上の補正を加えて聴くのが理想なのだ。
 かつてステレオの初期の時代に作られたアンプは、その大半が入力にTAPE・HEADというポジションがあった。一九六〇年代半ば頃までのアンプをお持ちなら、入力セレクターにその表示があるはずだ。当時はテープデッキの再生ヘッドを、そのままアンプの入力に接続することを考えていた。
 ところが、テープヘッドはデッキによってその特性がバラついていて、とても一本の再生補正特性ではイクォライズできないことから、次第に、デッキ側にヘッド特性を含めて補正するイクォライザーを組み込むことが常識になった。
 カートリッジの周波数特性は、テープヘッドよりは相互の偏差は少ない。ましてテープスピードに応じてイクォライザーの特性を変えるなどの問題がない。しかし現在のように、RIAAのイクォライザー特性の偏差を0.1dBのオーダーで論じるような精度になってきてみると、それにくらべてカートリッジ側の2ないし6dB以上、ときに10dB以上にも達する特性の偏差は、とうてい無視できない大きなバラつきといえるのではないだろうか。そういうオーダーでものを考えてみると、本当は、レコードプレーヤーの内部にイクォライザーアンプが組み込まれて、それにはカートリッジの特性の偏差を補正できるようなトリミング調整回路がもうけられていて、カートリッジの特性込みでRIAAに対してフラットに補正してAUXライン相当のレベルで送り出してくれる(EMTのスタジオプレーヤーがそうなっているが)ようになることが好ましいという理くつになる。
 そうはいっても、現在世界的に普及してしまったシステム──カートリッジの出力はレコードプレーヤーから送り出されてアンプに内蔵されたRIAAの(カートリッジの特性に無関係の)イクォライザーで再生する、というこの方式を、急に変えることは事実上困難をきわめる。それならせめて、これからのアンプのイクォライザー回路に、カートリッジの特性偏差に対するトリミングコントロールが組み込まれることが望ましい。
 そんなことを考えてゆくと、こんにちのように、カートリッジがきわめて自由に、がつ容易に、交換できるようになってしまったこと自体にも、一端の問題があるように思えてくる。そしてその原因となったのが、はじめに書いたオルトフォン/SMEのこの便利なコネクターの普及であったというのは、何とも皮肉な現象だ。
 ──とここまて書いてきて、おや、私はカートリッジの交換を暗に否定するような話をしているのかな、と気がついた。そうではない。カートリッジを交換して音が変わるのは、実に楽しい。私だって、新しいカートリッジが発表されるたびに、こんどはどうか、こんどこそきっと......という気持で買ってくるじゃないか。やっぱり、新しいカートリッジを加えることは楽しいことなのだ。けれど、その交換の手軽さに寄りかかるあまり、カートリッジ一個、十分にその本質を抽き出さないで捨ててしまうことがあるのじゃないか。そのことを云いたくて、イクォライザーの問題点に、最後にちょっと触れておきたかったのだ。
岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 カートリッジの音色の違いと簡単にいわれているその「差」は、いろいろな角度からとらえられねばならない。一般的に「高域がよく出る」とか「低音感がある」という表現で伝えられる音の違いは、文字通り音域内でのスペクトラム・バランスによる違いで、全音域中のある特定周波数を中心に特定範囲のレスポンス反応が他より高いために、その帯域の音が目立って強く感じることによる音の差だ。これは再生系のどのパートにも起り得る判りやすい現象でもある。アンプの中のイコライザー回路やトーンコントロール回路がこれであるし、さらにイコライザー偏差により、同じRIAA補正されるべきはずでも、音の違いが出てしまうというのもこのスペクトラム・バランスを具体的な形で表現した周波数レスポンスの違いによるものだ。
 しかし、スピーカーとかカートリッジのような音響電気変換器においては、この周波数特性はアンプのように定規で引いた如く平坦では決してない。これら変換器が特定のレスポンスを示している。というのは、その内側に起因となるべき、音響的、機械的共振が発生している、ということを意味する。そして、この共振という言葉のもつ意味、本来音の出るべきでない部分が、微かな衝撃とか振動によって勝手に特定振動を始めて、それが全体の音に影響してしまう----という故に共振があることは、それだけで音を損うと速断されてしまう。現実には、音響電気変換器のカートリッジにおいても共振を利用し、活用することによって、高域の広帯域化を具体化しているわけだ。共振をいかに処理し、いかに生かしあるいはおさえるか、技術的経験に基づくバランス感覚をどう技術として生かすかによっている。「共振があるからだめ」でもなく「まったく押えたからいい」でもないのであって、その判断は、まさにスペクトラム・バランスそのもので、全体としてとらえねばならない問題だ。
 ただ、はっきりいえることはカートリッジの音色の違いの、大きなファクターが、まず周波数レスポンスによって表れるほんの僅かな、太い線で記入されたら差がなくなってしまうほどの僅かな凸起や凹みにある。それは範囲が広ければ、つまり「範囲」と「差」の相対関係で、共振のQ次第で音の違いとして感じ取れるし、その裏側には必ず共振現象が存在するということだ。
 共振があるから音が違う、という表現は間違いではないにしろ、決して正しくない。共振の処理次第でそれはあくまで音が変わるのだ。
 カートリッジの音色の違いは、しかし今まで述べた周波数レスポンスによる差、たとえ内側に共振現象を秘めてあるにしろ、そうしたスペクトラム・バランスによる差は質的な違いから比べれば大した問題ではない。
 もっと基本的なのは、その音の質的な差で、これはどうも今日の技術的表現、例えば周波数特性とか歪率カーブでは表わせるものではない。これはスピーカーとて同じことだが。例えば矩形波の再現能力などでそれを示そうという試みはあるが、その程度ではまったく根拠にならないほどの違いがはっきりと感じられる。ただむずかしいのはこうした場合、周波数レスポンスの上にも差が出ることが多いため、それによる音の差と混同してしまいがちになる点だ。だが、明らかに周波数レスポンスの違いどころではない根本的な音の差がある。例えばMM型において、いくらMC動作を模して尽せどMC型との間にはっきりした差がある、というのがこの一例だ。
 例えば音のひとつひとつの内側が極く緻密である、というのがこれだ。あるいは粒立ちの良さという表現にもある部分で共通しよう。しかし「緻密さ」「充実感」「立上りの良さ」「積極的」といった判りやすい表現をつきつめていくとこの音質的な違いにぶつかり、それはいわゆる周波数レスポンスとはまったく無関係のものということも気付くはずだ。
 カートリッジにおいては特に重要なポイントというべき点であると指摘しておこう。
 音色の差という表現では扱えないのが「ステレオ音像の再現性」で、これは少々やっかいだ。小形のシングルコーンでそれを確かめないとしっかりした判断をし難い。大形システム、それもユニットの数が多いほど他の要素、スピーカー自体の付帯要素が重畳してしまって判断を狂わすからだ。この場合、再生帯域の広さよりも音響輻射そのものができるだけ不自然でなく、人工的でないことを重視しなければならない。あらゆる周波数範囲で同じ輻射条件が欲しい。アンプの位相特性も重要だ。そうした再生系が整って始めて、カートリッジの音像再現性がうんぬんできる条件となるわけだ。
 ステレオ音像については多く語る必要はあるまい。レコードにより、部屋を含む聴取環境とスピーカーの位置を決められると、再生音量はおそらくぴたりとある一点に決められ、調節点は各個人差はあるにせよはっきり指定されるはずだ。その時の音像の確かさ。音楽の中のピアニシモからフォルテに至るあらゆる部分でこのステレオ音像は変動したりくずれたりしてはマイナスだ。もっとも低域に関してはアームの優劣が音色的差の場合より強く影響し、カートリッジ単独でこの問題を論じることは少しばかり無理なところがあるのではないか。MM型にくらべればMC型の方が一般的に好ましい。英国デッカの場合では他とは発電機構の違いから特殊ケースとなる。
 ステレオ音像から得られる判断に際して、ピアニシモ、フォルティシモのローレベル時とハイレベル時の差はスピーカーが原因となっている点にも留意し、確かめなければならぬのは勿論。
 最後にトレース性能だ。創始期のADC社によって提唱され、シェアー社が確立したトラッカビリティ最優先論は、カートリッジがレコードの音溝をたどるという基本的動作上至極当然だが、ステレオ初期にはこの着眼点のすばらしさに驚いたものだ。今それは当りまえになっているか、というと必ずしもそうとは限らぬのではないだろうか。例えば、再生上好ましい音のカートリッジが、意外にも針鳴きが大きい、つまりカンチレバーの機械的共振を押えることをせず、従ってレコードへの追従性は特性周波数帯で悪化している可能性が少なからず、といえる「優秀製品」がないわけではなく、それは世界中から再生品質の良さを認められている。こうしたものが現実にいくつも出てきている。むろん建て前としては、針鳴きのない静かなトレースのカートリッジならトレース性能もいいだろうし、そのレスポンスもフラットに近いものに違いない。しかし、どうもそれだけで決めてしまい難いファクターがまだあるのではないか、ということだ。
 カートリッジを「製品」として技術的な面からも捉えることにより、それが音質へどうはねかえるか、それをいかに判断したか、ということを本来論じられるべきかも知れぬ。しかしここではあえて一ユーザーの立場、音楽ファンからの視点によってのみ論じ、結果としての音そのものを今回どの角度からどう捉えて判断したかを述べた。
 できることなら諸兄もここで述べた判断方法を、自らの部屋で確かめられることを望むものだ。音の捉え方はもっと深く広い。ただほんの象の脚をなでた程度かも知れないが、それを許していただきたい。
 再生系の音の入口にあって、機械振動を電気信号に変換するカートリッジを、単に音の面から捉えようと試みるのは、聴覚と、それに繋がるセンスだけを軸にして推し進めることになり、それと交叉すべきいくつかの方向、路線から押えるということになってくる。むろんそのための路線はいくつもあるが、それを感覚的に捉えられるかどうかは、試みる側の能力次第にかかる。判るものにとっては容易だが、共通の言葉がなければすれ違いになるし、判りようがない。
 しかしここにあげたそのうちのいくつかのポイントは、読者にとって無論把握しておられる方もいようし、またそれを意識して試みようとすれば容易のはずだ。
 ただ「音から捉える」ということの難しさは、音がカートリッジによって変るのは確かであるが、そうと判断し受け取るのは、あくまでその当事者自身であり、音の差はカートリッジをばい体とした当事者の判断そのものということをはっきりと認識しなければならない。

EMT XSD15

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菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 オルトフォンと並んで、MC型カートリッジとして、音楽の豊かな表情を、味わいをもって再現することで人気のあるEMTの製品。もともとプロフェッショナルな機器で、特性もよく、それでいて単なる物理特性の信頼性以上の充実さを聴くものに感じさせるのが外国一流品の底力のようだ。

オルトフォン SPU-GT/E

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菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 オルトフォンの伝統的なSPUシリーズは、MC型の標準的製品として長い間君臨していたが、今となってはむしろ、独特な雰囲気をもつ存在となってきた。真に血の通った重厚なサウンドは、物理特性的な古さを超えた、美の存在が多くの人に認められている。Gシェル、トランスつきで、自重は重いが傑作だ。

サテン M-18BX

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菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 サテンは日本のカートリッジの専門メーカーとして、いかにも専門家らしい行き方をしてきたメーカーだ。信じるコンセプションを一貫し、独自の構造を磨き上げ、本当に一品一品作るクラフトマンシップをもつ。MC型だが高出力で、振動系に不用意にイージーな弾性体を使うことを避け、明解きわまりない音を出す。
菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 エレクトロ・アクースティック社の最高機種である。この上にSTS655D4という高価格品があるが、これはCD−4用のワイドレンジヴァージョンで、2チャンネルレコード用としては、555Eのほうがバランスがよく、事実上は、これが最高のカートリッジとなる。455の豊かさに高域の繊細なのびが加わる。

オルトフォン SPU-G/E

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菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 オルトフォンのMC型としてステレオ初期の開発製品であるから、寿命は長い。日本には、このカートリッジのファンが多く、オルトフォンは、手間のかかることを覚悟で、あえてカタログに残してくれている。現在のMC型のSLシリーズやMC20もいいカートリッジだが、この製品には独特の重厚な魅力がある。

オルトフォン SPU-G

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菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 オルトフォンのMC型カートリッジとしてきわめて寿命の長いSPU−Gシリーズには、楕円針つきのSPU−G/Eとコニカル針つきのSPU−Gの二種類あり、それぞれトランス内蔵のモデルもある。このSPUシリーズは、現在でも日本のオーディオファンに親しまれている魅力あるカートリッジである。

アントレー EC-1

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菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 国産の新しいメーカーで、デビューしたての製品である。発電方式はMC型で、音質は、外国製カートリッジのようなニュアンスをもったバランスのよいもの。物理特性の誇示だけが表へ出てこないで、音楽に必要なバランスコントロールがおこなわれている。ただ、デザインや仕上りが内容に追いつかず物足りない。
菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 オーディオクラフトのシェルつきカートリッジで、発電方式はMM型である。このカートリッジの音は、国産には珍しい味わいをもっていて、いたずらに周波数レンジの広さの誇示が感じられず、充実したサウンドである。高域に肉付があり、無機的な音の多い国産品の中では、ユニークな存在としてあげられる。

シュアー M75G TypeII

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菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 シュアーの製品の中で、この75シリーズの寿命は、もうかなり長い。その価格からしても、シュアーとしては普及品の上ぐらいにランクされる製品だが、シュアーらしいバランスのよさと、どこか、感覚に快感として感じられる巧みな魅力のポイントを持たせた好製品である。トレース能力も高く、安心して使える。
菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 155−17の上級機で、可聴帯域のバランスは155同様、きわめてバランスのとれたものだ。特性的には155と大きな違いはないが、こちらのほうが一段とニュアンスの再生に繊細さを持っている。そして、柔らかい、プレゼンスの豊かさが加わって、一つ透明感でも上の製品であることがわかる。手堅い中級品。
菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 エレクトロアクースティックのシリーズ中で最下位にあるのがこの製品だが、さすがにMM型の元祖だけあって、実にまとまりのいい音を出し、トレース能力も、決して安物のそれではない。さすがに、高域ののびや繊細感は無理だが、音楽に必要な帯域でのクォリティは高い。品位の高い普及品である。
菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 オーディオテクニカのモノーラル専用カートリッジで、モノーラル用のカートリッジが少ない現在、貴重な存在なので取上げた。オーソドックスなMM型で、ステレオカートリッジのモノーラルレコード再生では得られない安定した音質が得られる。モノーラルレコード愛好者は是非一個揃えられるとよい。

ピカリング XSV/3000

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菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 アメリカ・ピカリング社は、カートリッジ専門メーカーとして、長い経験と、かなり大きなスケールのメーカーだ。発売機種もかなり多く、シュアーと並んで、アメリカの代表的カートリッジである。この製品は、ワイドレンジ・シリーズの2チャンネルヴァージョンで、CD−4用の高域特性のワイド化の技術を、一般ステレオレコードにフィードバックしたもので、さすがに再生音の美しさを感じる。一味魅力をもった優秀品。

パイオニア PC-1000/II

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菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 ベリリウムカンチレバーで話題を呼んだ製品。きわめてクリアーな再生音を特長とする。透明な、明確な音像の輪郭がすがすがしい。しかし反面、暗い陰影のニュアンスを明るく、厳格なきつい線で再現してしまう嫌いもある。これは、このカートリッジの個性であるから、音の好み、音楽の特質に合わせて使いこなすと、抜群の解像力をもったリアリティ豊かな音の世界が拡がる。あいまいさが全くないのだ。
菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 テクニカのVM型カートリッジは、カッティングヘッドのムーヴメントと再生のそれを基本的に一致させることによって、忠実なリプロダクションを得ようとするアイデアによる。時間をかけてリファインされてきた新しいシリーズは、VM型のよさである明解なセパレーションと、明確な音像の定位感は、今や、位相差や残響時間による、ほのかなプレゼンスの味わいも再生できるまでになった。

テクニクス 100C

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菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 技術的に攻め抜いた製品でその作りの緻密さも恐ろしく手がこんでいる。HPFのヨーク一つの加工を見ても超精密加工の極みといってよい。音質の聴感的コントロールは、意識的に排除されているようだが、ここまでくると、両者の一致点らしきものが見え、従来のテクニクスのカートリッジより音楽の生命感がある。
菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 MC型の中でも純粋にコイルによる発電で、磁気歪を徹底的に排除したピューリタン。FRのデビューが、このFR1で、その後、時代とともにリファインが続けられ、現在のMK3になったものだ。そのリファインの方向は、高域の周波数特性の改善にもっとも顕著に現われ、MK3のバランスは、やや高域偏重に感じられるほどに、すっきりとのびきっているのである。あまりに純度が高いので、他のパーツの品位が重要である。
菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 西独エレクトロアクースティック社のシリーズ中、最もコンベンショナルな安定性と高い特性とがバランスしたカートリッジがこのSTS455Eだ。豊かな中低域は、いかにもドイツ人好みの音のバランスで、音楽のあるべき姿を、がっしりと安定して支える再生音である。音の質感も、弾みと立体感がよく、決して平板な印象にならない。デリケートなニュアンスから、大振幅へのトレーシングの安定性さが抜群の信頼性を持つ。

デンオン DL-103S

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菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 国産のMC型カートリッジとして最も伝統のあるデンオンのDL103がリファインされたモデルである。ケースの色も黒から白に変り、振動系のハイコンプライアンス化が進められ、より軽針圧が指定される。帯域は、103より拡がり、音質的には軽いタッチを増した。プレゼンスの再現では、103Sのほうが上である。しかし、音像のマッシヴな充実感では103に歩がある。いずれにしても国産の第一級である。

オルトフォン MC20

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菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 MC型カートリッジの魅力を知らせてくれたオルトフォンが、現時点で再び開発に力を入れて発表した新しいMC20は、その後、エキセントリックにMCのMCらしさを追求した他メーカーによるものと違い、きわめてオーソドックスなバランスのいい音を聴かせてくれる傑作である。音楽が生き生きとよみがえり、造形も表現も確かな再生音である。

EMT XSD15

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瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 TSDでさえ、勝手なアダプターを作って適当なアームやトランスと組み合わせてかえって誤解をまき散らしているというのに、SMEと互換性を持たせたXSDなど作るものだから、心ない人の非難をいっそう浴びる結果になってしまった。EMTに惚れ込んだ一人として、こうした見当外れの誤解はとても残念だ。

EMT TSD15

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瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 ずいぶん誤解されているらしいので愛用者のひとりとしてぜとひも弁護したいが、だいたいTSD15というのは、EMTのスタジオプレーヤー930または928stのパーツの一部、みたいな存在で、本当は、プレーヤー内蔵のヘッドアンプを通したライン送りの音になったものを評価すべきものなのだ。

ピカリング XUV/4500Q

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瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 かつてモノ時代の名門だったピカリングは、永いこと、チェンジャー用のローコストモデルの生産に力を入れて高級品に見向きもしなかったが、久々に放った4500Qは、4ch用だがむしろふつうのステレオの再生に、尖鋭かつ鮮烈な音の魅力を聴かせるクリーンヒットで、ピカリング健在なりの認識を改めた。

オルトフォン SPU-GT/E

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瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 馴染み深い割には、本当に使いこなしている人が意外に少ないのではないか。第一に、頑丈な重量級のアームで、3gまたは以上の針圧をかけることが必要だ。軽量アームでは、針圧だけかけてもトレース不良でビリつきが起る。最新の良いヘッドアンプが入手できれば、トランス内蔵でない方も使ってみたい。

AKG P8ES

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瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 PU4までのAKGのカートリッジは、設計がAKG、製造がアメリカ・グラドという混血だったが、P6、7、8の新シリーズでは、構造も音質も一新された。P7Eのクリアーでキリッと粒立ちの良い音も魅力だが、大型装置なら、より自然で誇張感のないP8ESの方がいっそう優れていることが聴きとれる。

サテン M-18BX

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瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 型番は同じでもBXだけは別シリーズ、とサテンで言うように、18EやXとはひとつ次元の違う全く独特のリアル感のある音場を展開する。ただしヘッドシェルやアームの組合せが多少難しい。アンプやスピーカーも解像力の良いものでないと生かし切れない。ややデリケートで扱いに細心の注意が要る。

オルトフォン SPU-A/E

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瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 Aシェル入りのSPUは、Gタイプとは少しニュアンスの異なる、より緻密で無駄のない、少し古めかしいが暖かく厚みのある表現が貴重だ。できればRMA309のような専用アームが欲しいが、無理であればFR64なども一応使える。適性針圧にはややバラつきがあるが、概して3g以上かけた方がいい。

ゴールドリング G900SE

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瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 とても耳当りの良いソフトなバランスに仕上っていて、品の良い、おだやかな音ですべての音楽を表現する。音の余韻の響きが美しい。華やかさとか輝きといった要素のないかわりに、やさしさ、しなやかさがあって、弦の室内楽などには、他に得がたい独自の世界を展開して聴かせる。針圧の変化には敏感なほう。
瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 一個だけでいろいろな種類の音楽(楽器または編成のちがい、音楽ジャンルのちがい)を鳴らし分けるなら455Eの方が一般性が強いが、555Eはより繊細でデリケートな音質で、対象をやや選ぶにしてもこの独特の色彩感は、他に類のないおもしろさだ。ただ、針圧の変化にかなり敏感で、アームが難しい。

B&O MMC6000

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瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 これも本来は4ch用とうたっているが、ふつうのステレオ再生に使ってもかえって良い結果の得られるカートリッジ。概して4ch用というのは、高域の特性を延ばす必要もあるかわりにその特性をよくコントロールしなくてはならないために、高域の音に繊細なキメの細かさが加わって、好ましいケースが多い。

スタントン 681EEE

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瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 ダブルE(EE)までのスタントンの音は、腰が強いのがとりえの反面やや鈍いところがあったが、トリプルE(EEE)になってカンチレバーが細く軽量になってからは、現代の繊細なレコーディングにも適応し、本来の腰の強いしっかりした音がひとつの特徴として生かされはじめた。ポップス系に一聴の価値。

オルトフォン VMS20E

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瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 オルトフォンがMC型以外で最も成功した製品。専用のM型シェルと組み合わせるのが最もよいようだが、中〜低域の独特の厚みと、高域の適度の艶がうまくバランスして、ややくすんだ色調の渋い音質は魅力的だ。針圧の変化にややデリケートで、1g近辺で多少の調整が必要。出力が大きい点は使いやすく便利。

グレース SF-90

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瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 F9シリーズの単売品の音には、どこかひよわな頼りなさがあったが、SF90になってからは音像にしっかりした芯が加わって、国産カートリッジに共通したやや薄味ながらひずみ感の少ない美しい音質が楽しめるようになった。RとLの接続がSME式と逆なので、共用する場合には左右を逆に接ぎかえる。

B&O MMC4000

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瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 ひとつ前のSP15の方が、クセもあったかわりに、あの高域の冷たい艶はゾクッとくるほどの魅力だった。MMCシリーズになってからは、周波数特性をフラットにつくるテクニックを確立したらしく、却って凡庸な印象になっているが、しかし渋いながら良い味わいを持っているところがさすが。

サテン M-117X

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瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 117シリーズの最高機種で、もともとは4ch用だが、ふつうのステレオ再生にも、ワイドレンジ型ならではの繊細な音質が生かせる。共振の少ない剛性の高いヘッドシェルにとりつけ、軽くオイルダンプしたアームで、うまく調整すると、高域の華やかさが抑えられ、切れこみの良いクリアーな音が楽しめる。

デンオン DL-103

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瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 FM局その他のプロ関係で多数採用されている著名なカートリッジ。もともとはオルトフォン型をデンオン流にアレンジした構造のMC型だが、出力が割合に大きいため、最近のSN比のよいアンプなら、トランスやヘッドアンプなしで実用的な音量まで出せるところが使いやすい。針圧は2・5gぐらいかける。
瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 テクニカ独自のVMカートリッジも、いまや一連の製品が勢揃いして全く自家薬籠中のものになった印象だが、中で価格と音質のバランスのよいのはこの14Eaあたりのようだ。シュアー型のMMとはひと味違う切れ込みの良い華やかな音質が独特。マグネシウム合金製のMGシェルつきで使いやすい。
瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 国産のカートリッジが、概して中〜高域にエネルギーバランスが集まりがちで、言いかえればオーケストラのトゥッティ等でやや派手やかすぎのカン高い音を鳴らす中で、オーディオクラフトのカートリッジは、中〜高域をむしろおさえこんで、低域に厚みを持たせた、国産には得がたいバランスで聴かせる。

シュアー M75G TypeII

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瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 このもうひとつ下にM75Bというのがあるが、B型の音はかなりラフで反応が鈍いのに対して、75Gになると音は一変してやわらかくよく広がる雰囲気を鳴らしはじめる。その意味でこれをベストバイとするわけ。次の針交換の際に、交換針の変更で最高クラスの75EDIIに生れ変らせることができる点も楽しみ。
瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 STS155−17にくらべると、高域の音色がコントロールされて、音のバランスがずいぶん違ってきこえる。この差は好みの問題、あるいは主として鳴らす音楽のジャンルの問題だが、255の方がややクラシック向きに高域に艶を乗せて鳴らす。ただし、輸入品でこの価格では、品位を論じるのはまだ無理。
瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 輸入カートリッジで8700円というウソのような価格。むろんこういう廉価版だけに、音に繊細さや品位を高望みしても無理だが、国産ではなかなか得がたいヴァイタリティある線の太い、大づかみなバランスの良い鳴り方は、もっと注目を集めていい特徴。ローコストプレーヤーに加えてみると面白い。
瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 いまや数少ないモノーラルLP専用のカートリッジとして貴重な存在。針先がステレオの音溝を傷めないよう水平垂直、360度方向にコンプライアンスを持っているので、ステレオレコードをモノ再生するにもいい。音質も音楽性に富む優秀なもの。SP用の交換針に差しかえられる点も点も周到な配慮だ。

テクニクス 100C

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瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 モノ時代からMMカートリッジの研究を続けてきたテクニクスが、いわば集大成の形で世に問う高精度のMM型。実に歪感の少ないクリアーな音。トレーシングも全く安定。交換針を完全にボディにネジ止めし、ヘッドシェルと一体化するという理想的な構造の実現で、従来のMMの枠を大きく超えた高品位の音質だ。

デッカ Mark V/ee

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瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より

 デッカのVL型は、1958年のステレオ発売以前からの長い歴史を持っているが、その基本を変えずに少しずつ軽針圧化してMKVに至っている。eeモデルの音は、独特の線の細い、しかし脆弱さのない芯のかっちりした艶のある音が、一種の華やかさをともなって鳴るところが他におよそ類のない特長。

エンパイア 4000D/III

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)

特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より


 旧型は別として1000ZE/Xあたりまでの製品は、個人的にはいまひとつピンとこなかったが、4000D/IIIの音を聴くに及んで、その解像力とバランスの良い明るい音は、ひとつの魅力として理解できるようになった。ただ本質的には乾いた音で、クラシックには使わない。ハム対策に多少のコツが必要。

瀬川冬樹


ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)

特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より


 この独特の音質をなんと形容したらいいのだろうか。たとえばシンフォニーのトゥッティでも、2g以上の針圧をかけるかぎり、粗野な音や荒々しい歪っぽい音を全くといっていいほど出さないで、あくまでもやさしく繊細に鳴らす。油絵よりも淡彩のさらりとした味わいだが、この音は一度耳にしたら好き嫌いを別として忘れられない。出力がきわめて低いので、良質なトランスかヘッドアンプを組み合わせることが必要条件。

瀬川冬樹


ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)

特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より


 ナマの楽器の持っている艶やかな色っぽさを、むしろ実物以上といった感じで美化して鳴らす。こういう鳴らし方を国産品は絶対にしない。レコードの音すべてにやや脂っこい磨きをかけて、そこにSTS455Eでなくては聴けない独特の世界を展開する。555Eのオはもっと繊細だが、455Eの独特の音の厚みと力づよさの方が、あらゆる音楽ジャンルによく合う。1・3グラム以上の針圧でトレースが安定する。

デンオン DL-103S

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)

特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より


 MC型のカートリッジとしては内外を問わず最も周波数特性のよくコントロールされた製品といってよいだろう。それだけに、いかにも色づけの少ない、しかし103と違って明らかにワイドレンジ型ならではのデリケートで軽快な音質は、質の高い優秀なもの。ただ、ヘッドアンプまたはトランスによって、少々素気なさすぎる音になってしまうことがある。これで音楽を鑑賞するというよりも、どうも研究分析用といった趣がある。

グレース F-8L'10

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)

特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より


 国産のMMカートリッジでは最も歴史の古いメーカーのひとつだが、F8シリーズは同社の看板製品。その発売10周年を記念して開発したのがこのカートリッジというわけだが、さすがロングセラーを現代の技術で改良しただけのことはあって、中庸を得た安定な音質が、とくに好みに片寄りのない良さ。

オルトフォン MC20

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)

特集・「評論家の選ぶ '77ベストバイ・コンポーネント」より


 MCA76またレビンソンJC1ACといった、最近の優秀なヘッドアンプの出現とタイミングが合ったことがいっそう得をしたように思うが、しかしMC20を単独でみても、リファレンスカートリッジとして使えるほどよくコントロールされていながら、あらゆるレコードを実に音楽的に再現して聴かせるところは、さすが老舗だけのことはある。

オルトフォン MC20

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岩崎千明 

週刊FM No.19(1976年発行)
「私の手にした新製品」より

 オルトフォンが、久方ぶりにMC型カートリッジの製品を出した。SL−15という傑作をデヴューさせてから何年になるだろうかその名もずぱり、「MC−20」と新しいネーミングで、いかにも自信のほどを、その名前からもうかがえる。MC−20は、まるでラピラズリーのような濃いブルーのボディで、よく見る今までのSL−15と外形は寸法までもまったく同じのようだ。しかし、その針先のカンチレバーは、今でより一段と細く小さい。
 MC−20は、まさに現代の技術によって、現代の音を背景として「オルトフォン」によって作られたムーヴィングコイル型カートリッジだ。その音の力強さの中に、オルトフォン直系の姿勢を感じとる事ができる。でも、この驚くほどの広帯域、分解能力は、まさに今日のハイファイの技術と、それによって来たるサウンドとを知らされるだろう。
 確かに、MC型は、MM型とは本質的な音の中味の違いを持っていることを、つくづく知らせてくれる。MC−20は、こうした点でもっともMC型らしさを持っているカートリッジだが、これは、もっとも老練なMC型メーカー、オルトフォンが作る製品であることを知れば当然だ。世界に、これ程MC型のノウハウを、長年蓄積してきたメーカーはないのだから。といっても、いまやMC型を作るメーカーは、はたして世界に何社あるだろうか。そこまで考えれば、MC−20の存在価値と、高価格の意義もおのずから定まるといえよう。
岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 想像し難い一風変った発電メカニズムでこれを技術的オリジナリティとしているこのミクロアコースティックQDC1eは、今日的な標準からいかにしても長いカンチレバーに前時代的な印象を受けてしまうが、その割には針鳴きも大したことなく、大へん不思議な振動系だ。どういう振動工学上の根拠にあるのか定かではないが、出てきた音を聴く限り新鮮でかなり強いイメージを受ける。つまり、ストレートにパンチをくらったような直接的なサウンドで明快な鮮かさと、クリアーな分解能とで音像の確かなところも好印象。低域は力強く、迫力も量感も十分あり、それもシャープなアタックの感じは、ホーン型低音のようなイメージで、しかもこれがローエンドまで延びているのもすばらしい。低域から中域での鮮明でち密な粒立ち、さらに高域へかけて引きしまっている。ただこの辺は少々うるさくなる感じがなきにしもあらずだが、高音の輝きに耳を奪われてしまうのは惜しい。

ビクター Z-1E, Z-1, X-1

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岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 かのフロアー型バックローディングホーンスピーカーFB5の発表で口火を切って以来、独特なスタイリングをもったセパレートアンプ、デジタルカウンターをもったクォーツロック・ダイレクトドライブターンテーブルなど、最近のオーディオ界の中でビクターの名が話題に昇ることは非常に多い。つまり製品開発の成果が、それだけ成功をおさめているともいえるのだ。その成功の中にあるビクターの最新型カートリッジは、驚異的な新技術こそもたないのは当然ながら、新型アームとともに、音を追求する高級オーディオマニアにとっては注目に値する製品だということができる。つまり新型アーム、新型カートリッジの機構そのものが、とくに良いということよりも、実際に音を出したときに、その良さを知ることができる。こうした音の良さは、最終的にターンテーブルやトーンアームを実際にアッセンブルしたときに気がつくことであり、コンビネーションの良さということができよう。
 Z1Eは、まずその力強さをもった明るい音色で、圧倒的な迫力を感じさせてくれる。ダイレクトカッティングの明解さを充分に感じさせてくれる音だが、細部の再現性については、いくらか不満が残る。ステレオ感も全体的に表現して、細かな定位感については聴きとりにくいのが欠点といえる。
 Z1は、1Eでの問題点が大幅に改善され聴感上、相当な広帯域感が得られる。左右前後の広がりも大幅に改善され、音像の再現性は1Eよりもかなり良くなっている。全体の音色は、やはり1Eに似ているが高域でのクォリティは、こちらの方が数段向上している。雑音に対しては1Eよりも気になる傾向があり、針圧の可変範囲もよりシビアになる。
 ビクターの最高級モデルであるX1は、まず音の立上りの良さが一番の特徴だ。ダイレクトカッティングの良さと、スクラッチの抜けの良さは、とくに感じられた長所といえる。全帯域にわたって鮮明で明解な音を聴かせるが、ピアニシモにおける音のディテールの再現においてやや誇張される傾向があることに気がつく。ステレオ感の再現、定位の確さは、さすがに高級カートリッジらしい良さだ。
岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 日本のダイレクトドライブターンテーブルのパイオニアとして、テクニクスの海外での人気は、非常に高く、国内においてもSP10MkIIの発表以来、他のDDターンテーブルにまた一段と差をつけた感がある。こうした技術指向の非常に高いテクニクスは、カートリッジにおいても、新素材・新技術に積極的にとり組んだ製品が数多く、他社との製品の差もそこにあるのが大きな特徴だ。
 テクニクスのカートリッジは、昭和43年に発表されたテクニクス200C以来、独特の円盤状マグネットとワンポイント・サスペンション方式が採用されている。マグネットはエネルギー積の大きいサマリウムコバルトが使われている。テクニクスのカートリッジといえば、205C/IIシリーズに代表されるといってもよいかもしれない。205C/IIシリーズは、最近ローインピーダンス型(250Ω・1kHz)の205C/IILと、高出力型(7mV・1kHz、5cm/sec)の205C/IIHとが加わった。さらに、205C/IIもマイナーチェンジされて205C/IISに発展している。
 270Cは、テクニクスカートリッジの中でも、もっとも普及型といえる価格で、耳あたりの良い好ましいバランスをもったものだ。高域での微妙な音のニュアンスは、普及型とはいえ充分に再現してくれる点が魅力といえる。ただし、低域の量感やエネルギー感は残念ながら今ひとつ物足りなさを感じてしまう。
 405Cは、チタンカンチレバーを採用したテクニクスの高級仕様を狙った意欲作といえるものだ。全体に強く抑え込んだフラットレスポンスの特性が頭に浮かぶような、ワイドレンジ感をもたせる音だ。ただし高域にいくにしたがってエネルギー感が増し、結果として低域の量感の乏しさを感じさせてしまう。こうした印象は、どうもテクニクスのカートリッジ全般について感じられてしまう大きな特徴のようだ。この405Cのもっているそうした音の印象は、音楽を無機的な表現にしてしまい、聴き手との間に距離感をもたせることになってしまう。音楽の中に飛び込んでいくような音というよりも、融け込むことを拒否するような印象を受けてしまう傾向がありはしないだろうか。
 205C/IISは、405の実用機種ともいうべき性質で出されたカートリッジ。実用的な意味での使いやすさから出力も標準的なもので405Cに比べて、その音はいくらかおとなしいといえる。405Cが音質チェック向きとすれば、こちらの方が一般的といえそうだ。
 205C/IILは、テクニクスの中でも405Cともっとも似た性質をもち、フラットな広帯域感が強く感じられる。405Cよりもいくらかナチュラルで無機的な印象は多少是正されている。205C/IIHは、本質的な音は、これまでのテクニクスと変らないが、中域から低域にかけての音が充実し、ソロ楽器も比較的よく出る。ステレオ感も充分だ。

スペックス SD-909

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岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 スペックスは、古くからMC型のみを製品化してきたという長いキャリアをもちながらも、その名は一部のマニアだけに知られている程度であった。その生産数もメジャーにくらべると日産にして数十個と少ない。もっともスペックスは海外での人気の方が高く、特にアメリカでは、このところMC型カートリッジがもてはやされているようだが、その先鞭をつけたのは、ほかならぬこのスペックスだ。
 SD909は、一言でいうとオルトフォンばりの低音感、高音のブライトネスをもつといえよう。全体に昔のオルトフォンのイメージに似た力強さも感じさせてくれる。しかも帯域は、比較的広くとられ、スクラッチも少ない点で良いといえる。音像の定位は良いのだが、左右、前後の音の拡がりは普通だ。
 MM型のように、周波数によってあやふやな表現をすることがなく、いかにも高級品らしさをもっている。日本製品には珍しく音の特徴をはっきりともち、海外製品と間違えるようなキャラクターをもっている。それだけに嫌われる要素ともなるかもしれない。
岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 一口に言ってハイエンドもローエンドもいかにもよく伸びた印象を与える。オーディオ界の中でもとくに現代指向の強いもので、それがわりあい明るいサウンドであるところにソニーらしい、若いファンを充分に意識している姿勢を感じ取ることができよう。
 XL45は、ラインコンタクト針、45Eは楕円針で、それぞれきわめて安定したトレース特性は国産カートリッジの中でも最上のひとつだ。あまりデリケートな扱いをしなくても、かなり優れたトレースを安定にやってのける。鮮明というほど鮮やかというわけではないが、音のディテールはかなり良くとらえて、しかもその内側の緻密さや力感も不足なく出してくる。ステレオ音像のたたずまいも、その後のバックグラウンドの部分もそれなりに感じさせてくれる。広がりの安定性もしっかりしていて安心させてくれる。
 XL35は、充分な力感をもち、明るいサウンドが身上といえる。くっきりとした音の表現は全体のバランスからみても、相当高いクォリティをもっている感じがある。XL45に比べるとまとまりとしては、この35の方にも充分良さをもっていることがわかる。ソニーの中では、このXL35がもっとも売れる製品なのではないかとさえ思わせる。
 XL25は、もっとも最近になってから出された機種ともいえるので、音はどちらかといえば、ソニーの、この一連のXLシリーズの特長でもある明るいパステルカラーのような音を再現してくれる。それほど広帯域をカバーしているわけではないが、中域にエネルギーをもったサウンドは全体のまとまりを良く感じさせる。
 XL15は、ソニーの中でのもっとも普及価格の商品として、決して単なるローコスト商品に終らぬ良さをもったカートリッジといえる。なによりも音楽のメリハリを充分に出してくれる点は、このクラスのカートリッジにとっては重要なことだ。音のクォリティよりも、初心者にとって大切な音楽の表情をそれなりに表現するのがよい。

ソノボックス SX-3E

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岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 ソノボックスは、モノーラル時代からのオーディオファンならば、一度はその名を聞いたことのある永いキャリアと名声をもつメーカーだといえる。かつてはMC型に主力をそそいでいた感じだったが、このSX3EはMM型のカートリッジだ。マグネットは一般的な棒状ではなく、同社が日、米に特許をもつ球状のもので、エネルギー積の大きいサマリウムコバルト・マグネットを採用している。
 このSX3Eは、いかにも現代的な、広帯域カートリッジを目指している。サウンドイメージの上では、バランスもよく、聴きやすい感じをもたせている。このカートリッジの魅力は、小編成器楽曲などの中低域が充実していて不要成分を抑えたと思える聴きやすさにあるといえる。つまり全体的にはナローレンジの感じを聴く者に与えるのだが、その帯域内の音の充実さという点で良い。
 ステレオ音場の広がりは、あまり良くないのだが、自然な感じは損なわれず、他のカートリッジにはない独得なステレオ音像を再現してくれる点は、さすがにキャリアを感じさせる。
岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 ムービング・コイル型としてはほかにない針先交換可能という、オリジナル指向をそなえたサテンの製品は、現在M117シリーズとM18シリーズの2系列にまとめられている。そして、これらの全製品は、振動系支点を明確にするために、板バネ2枚とテンションワイヤー1本とにより、厳密に一点化する機構が採用されている。この技術は明らかに音の上にも感じられ、MC型特有の、ごく澄んだ力強い音色で、密度の濃さからは独特の気品高い雰囲気に包まれる。
 それは、まさに優雅というにふさわしく、すき透った薄衣をまとったような品の良さをかもし出している。サテンというブランド名はそのまま高級な布地のきぬずれを思わせる。このサテンのピックアップの歴史は、かなり古く、モノーラル時代からのメーカーだが、Mシリーズの一連のMC型カートリッジにより、振動系の中からゴムを追放するという大きな技術テーマに取組み、現在では、その技術指向もいきつくところまで行ってしまった感さえある。こうした独特の技術指向を、おそらく気の遠くなるほど永い期間追い求めていく姿勢は、日本ではまったく珍しいといえるだろうし、現実に、研究の成果は着々と実を結んでいるといってよいだろう。
 M117Eは、まずこれまでのサテンにあったような針先のきゃしゃな感じがなくなり、扱いやすくなっているのが特徴だ。音も若いファンを意識した、立上りの良い鮮やかな音に仕上げている。色彩感も強く出し、ときとして高域のどぎつささえも感じられる。ただ、今までのもっていたサテンの一種の派手さとは種類が違って、図太いと感じさせる一面も持っている。117Xは、全体のバランスとしては、Eと驚くほどの差はないが、Eタイプで時々気になる高域の色づけが、抑えられていることが大きなメリットといえるだろう。
 M18シリーズは、ダイナミックレンジのきわめて広いレコードに対しても、そのディテールの再現性において優れ、デリケートな音に対しては絶妙にレスポンスすることができる特徴が大きくクローズアップされてくる。
 このM18シリーズの中でも、もっとも価格の安いM18Eは、全体におとなしくまとめられてはいるが、力強さに欠けるところもあり、全体に音の厚みが不足しているのが気になる。どうも、もうひとつサウンドイメージがひ弱になってしまうのだ。それに比べてM18Xは中域の厚みが増し、これまでのサテンになかったエネルギー感をもった音を再現する。ステレオ感の再現にしても好ましい音像をつくり、前後感も充分に再現しているところは、やはり高級機らしい。ただし高域については、ブラスがやや必要以上に輝くのが気になるところだ。
 ベリリュウムカンチレバーを採用したM18BXは、サテンのこれまでの技術的キャリアを一度に昇華させた意欲作といえるが、とにかく驚くべきことは、これまでのどのタイプの、どのメーカーのカートリッジにもなかった再生音を聴かせ、その音は、まさに超高忠実度再生といえるものであることに異論を唱える者はおそらく非常に少ないだろう。何といっても、そのダイナミックレンジは、これまでの数倍はあるように感じられ、それが再生音であることを忘れさせてしまうかのようだ。ただ、それがいかにもダイナミックレンジの良さを感じさせ、周波数帯域の広さ、を感じさせてしまい、結局、音楽を聴くことに集中できない人も出てくるようなことが起る可能性は十分にあるところだけが気になる。
岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 オーディオの総合的メーカーとしてのパイオニアは、この十数年来、プレーヤーにおいても見事な腕前をふるってきた。本来の専門分野でないのに定評ある企画力のうまさは、プレーヤーシステムでも個々の製品に発揮されてきた。
 ただ、この場合、不思議なことに、プレーヤーのもっとも重要パーツともいえるカートリッジには、良いものはまったくなかったのだ。これは驚くべき事実といえよう。ただのひとつでも評判を得たことはないのに、プレーヤーは売れ続けていたのだから。
 しかし、地道だが試行錯誤のあと、昨年PC1000が発表された。このカートリッジは、メーカーにとって待望のものだったに違いない。パイオニアのカートリッジが初めて絶賛を博したのだ。
 ベリリウム・テーパードパイプという、まだ当時どこのメーカーもなし得なかった技術によるが故に、量産は決して容易なことではなく、だからその良さは、必ずしも多く知られていたわけではないが、このカートリッジに接した者の間で深く静かに評価されているといった風である。
 このPC1000も発表以来一年を経て早くもII型にマイナーチェンジされた。
 鮮やか過ぎるといわれることのあったサウンドイメージをすっかり改め、暖かみさえも感じられるほどで、たとえばヴォーカルの自然な響きに飛躍的な向上を知らされる。一般にこの種の新素材を用いた新しい製品では、新しいサウンド志向を示して、鮮明なクリアーな積極的な音を特徴とする。このPC1000/IIも例外ではなく、そうした傾向のサウンドには違いないが、ごく高い品質レベルでそれらが達成されており、いかにも高級品たる深い陰影を伴っているのがすばらしい。
 PC550/IIは、PC1000/IIをそのままスケールダウンしたような音で、妙にこせこせとしたところがなく、ステレオ感の再現性も充分にもつ。各部分の細かなニュアンスはトップ機種にゆずるが、落ちついた音を感じさせる。
 PC330/IIは、とくにハイファイと感じさせない自然な感じをもたせているが、その低域については好感がもてる。ステレオ音像の再現も極端にくずれることがなく、入門者には使い易い。
岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 オンライフは、オリジナリティを充分にもった管球式セパレートアンプや、最近発表したセンセーショナルな近代的トーンアームなど、新しい技術をもった日本には珍しいオリジナリティを大切にするメーカーだ。
 オンライフのカートリッジは、すべてMC型で、OMC38ダイナベクターシリーズとして、15A、15AQ、15B、15BQの四つの製品がある。ボディは赤い透明なプラスティック製で、内部構造の様子が伺い知ることができるのが特長だ。MC型ながらMM型とほとんど変わらぬ高出力で使いやすさを大切にしているのは、マニアにとってはありがたい。
 今回試聴した製品は、全体に緻密な音で、エネルギー感も充分にもち、とくに打楽器に対してはMC型の中でも群を抜く再生をする。もちろんトレース能力も安定している。ベリリウムカンチレバーをもったOMC38/15BQは、ときとしてデリケートな音の再現で、オーバーに感じられることがあるのだが、15AQは、BQに比べるとソフトな聴き易さをもち、より自然だ。一般的なMC型に比べれば、鮮明度は充分高い。
岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 カートリッジメーカーの老舗として、まじめなオーディオマニアにとって人気のあるマイクロは、最近こそターンテーブルとアームによってその名を高めているが、VF型を始めとするカートリッジの分野では、非常に長いキャリアをもっている。現在のところ、カートリッジは機種数こそ少ないが、いかにも正直な商品だけを作り続けるまじめなメーカーとしての姿勢は、非常に好感がもてる。事実、その製品によって裏切られることも少なく、信頼度という点からも充分に満足が得られる商品をもっているのもうれしい。
 マイクロのカートリッジは、そうしたいかにもまじめな姿勢が感じられる色づけの少なさが特徴といえるだろう。単独商品としてもっとも安価のひとつが、このプラス1である。またその反面商品の中で高価かつMM型でありながら受注生産品というLM20およびMC型のLC40と、こうみると、超高級マニアと初級ファンの両極に意欲的な姿勢を、マイクロの中に見ることができよう。かつては、永い期間、プレーヤーの重要パーツとしてのカートリッジを作ってきたキャリアがあるマイクロが、技術蓄積を活かして、普及品でもバラツキを抑えた高級仕様を推進している。受注の数少ない高級品は、仕様も規格も他社より格段に厳格であることはいうまでもない。
 プラス1は、その力強く弾むようなサウンドと低域での量感とが大きな特徴だ。高出力で使いやすく、ステレオ感も適度に広く、高域のレンジもやたらに伸ばすことをせず適度な拡がりをもち、いかにも入門者向きの製品だ。価格からすれば、このトレース能力の安定感も抜群で、針圧の許容範囲も大きく扱いやすい。針先の動きが中域で充分ではないのが普及品の共通点だが、このプラス1ではそれも巧みに収めてある。
 LM20の方は、より軽針圧を目指した手作りの高級品であり、個々の特性がついている。MM型カートリッジが次々と出る中にあって、このLM20はかなり保守的な姿勢で作られている。サウンドは、全体に静かで、くせをまったく感じさせない。品の良さが少々過ぎるかと思えるほどだ。沈みがちの音であるが全体にスッキリしすぎて、そっ気ないくらいである点が判断の別れ目になりそうだ。LC40は、MC型としてはトレース能力が良く、全体にMC型特有のともすれば骨太になる音を、見事に抑えた素直な音をもっている。ステレオ感も端正で広がりもよい。

Lo-D MT-202E

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岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 ギャザードエッジスピーカーやダイナハーモニーという、新技術指向の非常に強い、そしてその成果が充分に認められつつあるLo-Dから出されているのが、このMT202Eだ。いかにも高級カートリッジらしい広帯域感が強く感じられ、全体の周波数特性の抑えがよく利いている印象を受ける。
 こうした高級カートリッジのもっとも大きな特徴である、スクラッチを充分に抑えた感じや、周波数特性をフラットにした感じを充分にもっている反面、高域の再生においてとぎすまされたような冷たさを感じさせるところもある。全体にやや無機的な音になる点も気になるところだ。ステレオ音場の再現性は良く、針圧印加の許容範囲も比較的良いといえる。使いやすく、性能的には文句ないところだが、いかにも高価格だ。
岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 ジュエルトーンは、一般的にはこれまでその名をあまり聞かなかった新しいブランド名だが、そのキャリアは、比較的永い。
 ここでとり挙げているJT333、JT555は、ともにソリッドブラックと呼ばれるカーボン繊維を使用したカンチレバーが使われているのが特徴だ。
 このふたつのカートリッジに共通していえることは、全体的に広帯域を目指しているのだが、中域のある部分で機械的な共振と思われる部分があるという点だ。
 音の傾向として、JT555はウォームトーンであり、音像はふやけ気味な点が気になるところといえよう。それに対してJT333は、クリヤートーンといえる。両者とも全体に広帯域であるという感じはするが、高域に少々ヒステリックな一面をもつ。
岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 この数年来、F8シリーズの大ヒットで、他社を寄せつけなかったほどの成果を上げてきた。F8Lから始まって、ごく最近製品のF8L'10によっても判る通り、今もこのF8シリーズはグレースの主力製品といえる。こうした同一製品に対して、交換針だけでそのサウンド指向を多数そろえるという今日的な商品構成法も、実はこのグレースのF8シリーズがその源となったわけだ。
 F8シリーズは全体に繊細感がその品位の高さを示し、その上、高帯域かつ透明なすがすがしさを強く印象づけられる。F8シリーズF8Lはそのすなおさがもっともはっきりと感じられる。
 F8Mは高出力型で力強さと高域・低域での充実感においてもはっきりと違い、広帯域感はおさえエネルギー感を考慮したのが特長で、小編成器楽曲にはむいている。
 F8CはF8ボディの特選ボディと特殊針先との組合せで、素直さにもっとも品のよい緻密なサウンドを得ている。きわ立ちのよい輝やかしい音。ステレオの音像の確かさと拡がりも、このF8シリーズ中もっともよい。
 F8Eは、ラインコンタクト型の針をつけた高級仕様といえるが、出力はやや低目でその代りに大へん広いハイエンドを感じさせ、新しいレコードでは針音(スクラッチ)が一段と耳ざわりにならぬが逆にイージーなレコードではチリチリと目立ってくる感じ。
 F8L'10は、この一年来、めっきり多くなったライバルを意識しての改良型としてデビュー。出力をやや大きくして、中域から低域へかけての充実感、器楽曲で今までF8にはなかった躍動感が付いてきた。
 F9シリーズはF8から飛躍して一層の軽針圧化と、今までの高域での細身なサウンドを突破ろうと試みた音作りへ積極的姿勢をはっきりと感じる。しかし、そのためのよりフラットレスポンスへの技術を、音へ移すのにあまりストレートであったためか、音のデリケートなニュアンスの違いを表現すべきところまでつぶしてしまったようだ。
 F9Uは最新作で、広汎な用途に適すると思われ、F9シリーズ中の標準品。もっともスッキリした音と広帯域感。ややおとなしく、中域の充実感はこのUよりもLが強く感じられる。針圧の融通性も高く使いやすい。
 F9Lは価格的に前者よりやや高価だが、音の方は中域から高域でやや派手なイメージを抱くのが意外。こちらの方が一年ほどデビューが早い。
 F9Pは円錐針の中針圧型。他の2倍といっても2・5g。さすが針圧は3gでもまた2gでもトレースOKで使いやすい。ステレオ感はやや狭まるが音像の安定はごく優れ、トーレス性も抜群。低音のどっしりした安定感が大きな魅力。
 F9Eはごく高価だが、広帯域感の十分なスッキリした自然さ。ステレオの拡がりの良さ。少々デリケートな針圧とゴミなどのついているのに対してトレースは不安定。
岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 高級カートリッジを唱えてスタートしたFRは、国内カートリッジメーカーの中でも、もっとも密度の濃い製品を作り、オリジナル技術を常に目指す意欲的なメーカーだ。あらゆる面で製品は、必ず他社にさきがけ、あるいは、他社をよけつけぬオリジナリティをもつ。それはMC型カートリッジにしても、あるいはライバルの多いMM型にしても、はっきりした特徴をもっている。最近の製品FR101は高品質低価格を目指した意欲的製品だ。この小さな専門メーカーが品質と量産とをいかに妥協するかが101の見どころだが、音の上からは確めにくい。やや中域のはなやかさと、積極的な音というのが第一印象だが、細かくつき正すと、結構広帯域かつ緻密な音だが、これに低域のひきしまった量感が加われば申し分ない。高出力であるのも、低価格であるとともに、ビギナーにすすめたくなる大きな理由だ。一段と高級な101SEは、音の分解能の点で一段と向上してアンサンブルの中の楽器の音像のきわだちが感じられる。FR5Eは、このメーカーの最初のMM型だ。トレースの安定性に、ちょっとばかり不足をかこってはいるが、それにしても、FRの透明なサウンドの特徴がはっきり出ていて、やや冷いその音は小編成の器楽曲やジャズには特にいい。
 FR6SEはFR6の向上型だが初期から格段に進歩して、もはや初期のおもかげがないくらいに現代的な傑作となっている。FRのいかにも透明なサウンドに、ますます磨きがかかり、その上、力強さも一層加わって、MM型ながらMC型に近いということば通りに器楽曲で、アタックや響きが鮮やかだ。歌やステージの歌劇など、つまり自然な発声とアリア風な発声の両面の歌に対して、大へんナチュラルな響きを感じとる。
 FRのMM型はただひとつのウィークポイントがあるようだ。それはトレースの対許容性ともいえるもので針圧にクリティカルな面がある。それもトレースそのものはかなり適応性があって20%やそこらの±に対しても、一向に差支えないのだが、針先の傷み方、あるいは針先がもぐってしまうトラブルを、過針圧によって起しやすい、といったらよいだろう。
 MM型でもトレーシングの優れているといわれるものにしばしばみられるこの現象にFRファンも気をつけねばなるまい。音の素質自体がよいだけに、愛用者からの忠告でもある。
 FR1はFRのオリジナル技術ともいえるMC型カートリッジの第一号製品だ。初期製品に比べてトレース力は抜群に向上し、針先も頑丈になり、音もずっとすなおに、しかもクリアーさも失わず、音の方は力強くなった。MK2は特にトレース特性が向上して、針先の損傷も今までの心配がうそのようだ。ただMC型特有の力強さがFRのMCにはなかったが、最近のMK3に至って静かななかに力強さもはっきりと感じられる。
 透明ということばに冷たさがつきまとうがMK3は冷たくなくて、かえって暖かみがある。節度のある折目正しい音という品位の高い、仕上し尽くされた感じの音だ。時々オーケストラなどにおいて、ふと、キャシャなもろさが出ることがなければ世界でも一級だ。
岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 市販品中でもっとも安い価格のカートリッジを作るメーカーとして、エクセルの名はとくに初級者にとって親しみがあるかもしれない。プレーヤーを単体で買ったユーザーは、おそらく最初にカートリッジを買うときにこうしたクラスを狙うであろうし、そうしたときに、少なくとも支払った金額だけのバランスだけはかなり良いが、とくに広帯域ということでもなく、中級ないしは普及製品にあるような音の細やかな変化が、そのまま表現できないというところがいつわらざるところだ。
 ちょっと聴いて、くっきりしているようなイメージを受けるが、それはあくまで音溝の音に比例しているわけではなく、とりこぼしがあるのは、高級カートリッジをつければわかる。高域での帯域をやや伸ばしたEXはCD−4対応型だが、出力がへって高域のかがやきがかえって薄くなりシンバルのあつみも物足りない。
岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 放送局のレコード再生システムを多く作る専門的業務用機のメーカー、デンオンのブランドをそのまま冠して、同じく業務用に開発されたカートリッジを基本として、市販品を作ってキャリアの長いメーカーだ。その質は、悪かろうわけがない。
 デンオンの場合、たいへんに明確で、はいっている音をくまなく拾いだすというピックアップ本来の働きを音のイメージとしてもっている。やや骨太のところもなきにしもあらずだが、高域のキラキラした鮮やかさが、全体の音のバランスに有効に作用して、デンオンならではのすばらしい音の世界を作る。MC型独特の美しさと共に、ステレオ音像のすばらしく整った様も大いに称賛できる。音質チェック用として、多くの現場でもつかわれており、その用途のために信頼性も高い。つまりデンオンのカートリッジのバラつきの少ないのはおおいに注目すべき特徴だ。
 DL107は、MM型カートリッジとしてデンオンが初めて、安定性と使い易さとを、価格をおさえた形で実現した製品。更にそれがDL109に発展して、帯域は驚く程拡大されて、現代風になった。一般にこうした改良にともなって、出力の低下をきたすのが普通だが、109の場合は逆に出力向上を得ているが改良というよりも、まったくの新種といえるだろう。さらに新しい傾向に即して針圧をやや軽くしたことによって、今まで市販品の平均水準より重い傾向であったのを、補うことになった。107にくらべ幾分か繊細感が加わって全体にフラットレスポンスをはっきり感じさせる。とくに唄において、この109Rの再現性は、国産カートリッジ中でも、もっとも優れたひとつであることをつけ加えておこう。針先を円錐から特殊楕円にした109Dは、帯域を5万HzまでのばしてCD−4対応型としたものだが、超高音はかえってうすい感じとなっている。中域もやや希薄に受けとれるのが少しばかり気になる。
 DL103はデンオンの最も初期からある代表的MCカートリッジだ。やや武骨な、ガッチリした音が、いかにも業務用というイメージを作り、それが103の個性として、多くの人に受けとられている。103の再生水準に関して、それを認めたとしてもこの骨太な音を好みに合わないと思うファンもいるだろう。DL103Sは、103の軽針圧、広帯域型として誕生した。価格的に一躍20%以上上昇だが、再生帯域の方は、かなり伸びているし、それも6万HzというMC型には信じられない広帯域であって、単なる楕円針の成果ではない。聴感的なワイドレンジ化よりも、全帯域をおさえこんでしまったという感じが強くて、特に中音域での、デンオン独特の充実感を少々うすめすぎたのではないかと思われる点が残念である。低域での量感もやや力を欠いて聴えるのはなぜか。どうやらステレオ音像の定位の良さからいうと、103Sも103同様に大変リアルな、きわめて明確かつ率直で、あらゆる音域において高い次元にあるといえよう。ただ、103の演奏楽器のスケール感が乏しい。

コーラル 777E, 666EX

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岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 スピーカーの専門メーカーのコーラルのことだ。スピーカーと同じようにコイルと振動系からなる同じような変換器を作るのだから、当然優れたものが出てくるだろうと判断するわけだ。事実MC型の777Eにおいて、少々粗いが力強さも量感もあるサウンドが、かなり良く出ていて、いかにもMC型らしい内容の濃さを思わせる。しかも、これだけのカートリッジが、今までMC型はおろかカートリッジの経験がないのだから。
 価格を考えれば決して高くはないにしても、これだけの名のあるメーカーなら、もう少し品の良さが音の中にあっても、と思う。MM型の666EXの方は、これもCD−4対応ということが建前のためであろう。本当はもう少し価格を下げても良かったのではないか。せっかくの高域の冴えも、少々浮足立っている感じ。
岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 オーレックスのカートリッジは、現在エレクトレットコンデンサー型とムーヴィング・マグネット型の2系列の製品構成だ。特にエレクトレットコンデンサー型は世界でも珍しい存在といえる。
 大変真面目な姿勢で、音に立向っているのは大企業らしく、カートリッジのような、ちょっと考えるとこの企業規模から、想像できない小粒の製品に、これほどの力をそそぐのが不思議なほど。その大きな成果がエレクトレットコンデンサー・カートリッジであるのは瞭然だが、そのあとのMM型でも結構、小さな専門メーカーなみのきめのこまかさを感じる。
 やや、無機的な感じのそっ気ない音は、大へん高い水準だが、少々スッキリしすぎて、豊かさはまったく感じられず、骨だけですけすけなほどの、肉不足の傾向だ。広帯域、かつフラットレスポンスはよいが、楽しさを音楽の中から引出してくれない。MM型の550Mでも幾分、こうした冷たさがおさえられているとはいえ、基本的に同じような音の姿勢である。音像の定位は小レベルまでも大へん良い。
岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 オーディオクラフトは、オイルダンプ型トーンアームで一躍脚光を浴びたメーカーだが、最近ではフラットタイプのシンプルなプリアンプAC3001を発表した。
 アームをスタート台にした、このもっとも新しいブランドのカートリッジは、新進メーカーらしく、新しい音を狙っている事はよく理解できる。決して単なる広帯域再生だけを求めず、バランスの良さの中に、音楽性を少しでもあざやかに盛り込もうと考えている。しかし力強さが音域の中の高域に片寄っているためか、演奏曲によってはそれが少しばかり気になって低域での充実感が欲しくなってくる。歌の声の乾いた感じも少し気になる。楽器なら輝やきというプラスも声ではそうではなくなってきてしまうのが残念だ。ステレオ感の再現性についても、かなり自然さをもっていて無理がないのだが、しっかりとした安定感をもう少し望みたいと思わせるところがあり、今ひとつ決らないもどかしさが感じられてしまう。つまり、ダイレクトカッティングの良さが別な意味で、その良さを薄くしてしまうのが残念だ。
岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 同じムービング・マグネット型でも、はっきりした特徴をVM型なりに音の上に示す。高出力かつ緻密な音色は、VM型の技術による確かな結果といえよう。初期の製品において充分に感じられなかった高域の繊細感も新製品では、他社の製品をしのぐほどにもなった。
 AT11dは、8千円という普及価格なのに、堅固なシェルをつけて、使いやすい高出力で、実用上針圧に対してもラフな使い方が許され、まさに一般初心者のすべてに気楽にすすめられる。しかし、全体から受ける印象として帯域の物足りなさ、音の大づかみなところが、高級カートリッジとしての条件に欠ける理由だ。力があって、出力も高いのは、いかにもこのメーカーの特徴を端的に示している。むろん単独商品の価値は充分だ。
 AT13dは、シバタ針をつけて前者を向上させたものだ。しかし針先の変化そのものが、音そのものに強く反映するとは、とても信じられないぐらい変ってしまった。単純に力まかせという感があった11dに比べ、音のメリハリというか、節度がはっきりとそなわって、まるで一桁も二桁も上のクラスのような明解さをもつ。さらに、今までやや不鮮明だったステレオ感もきわだって良くなったのも見逃せない。この価格帯の推選品。
 AT14シリーズは、テクニカがはっきりとその方向を新しい音の路線に求めることを意識したシリーズのように思われる。一口でいうならば、今までのどちらかというとくっきりした音から、もっと耳当りの良さを追うことを考えたのではあるまいか。このシリーズだけがおっとりとした甘さ、ないしは暖かさに通じる、といえばいい過ぎか。ただ高域に関しては広帯域感はかなり強くなる反面、低域の力強い量感が抑えられている。
 AT14Eは、楕円針の標準の状態で出力もやや大きく誰にでも使える良さをもっている。
 シバタ針つきのAT14Saはやや高域のすみきった感じが出てきた。ステレオ用にも良いが、CD−4にも対応できる割安な製品。
 AT15シリーズは、テクニカの目下の高級グループで、15Saは、針を下すやそのスクラッチの静けさと、その広帯域感からいかにも高水準をねらった音がする。非常に細かな繊細感が音楽の中のひとつひとつの音をはっきりと聴かせてくれるのが大きな特徴。
 しかも、こうしたカートリッジがしばしば音のひ弱さと言われてしまうのにテクニカではこれがない。AT15Eは音の鮮明さということばどおりの輝きを保ちながら、つめたくならないのも良くさすがに高級品というイメージをもった音だ。
 AT20SLaは、さすがに高級機種らしく超高域でのステレオ感を安定し、スクラッチの質もよく、音楽のジャマをしないのはさすがだ。
岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 スタントン・マグネディックスは、アメリカ・オーディオ界のボス的存在として知られるフォルダー・O・スタントンを社長とするピカリングと同系の会社である。本来業務用のみのカートリッジをつくる専門的なプロユースのメーカーだが、そのブランドイメージが高くなったことから高級オーディオマニアから注目を浴び、コンシュマーの手にも入ることになったという。ピカリングの技術を土台とした、安定志向の兄弟ブランドといえる。
 スタントン500AAは、このメーカーの中では低価格のクラスに属する手頃な製品といえる。出力は、聴感上非常に高く感じるが、とくに広帯域化を狙った音ではなく、力強い中低域をもつ安定した響きをもつ。左右に大きく拡がるタイプではなく、適度な音響をつくるが、全体に聴き手に近づく音だ。
 600EEは、500シリーズと同じブロードキャスト・スタンダードシリーズに入る。
 その音は、周波数バランスはかなりナローレンジと感じさせるが、帯域内でのピーク・ディップがあまり感じられず、聴きやすい音だ。音のクォリティそのものは相当高く、中域での音離れも良いので、比較的リズミックな表現は得意だ。
 680シリーズに入る680ELと、ハイファイ志向の680EEとがある。680ELは、まさに放送局用ともいえる音を再生し、帯域内での音の緻密さを充分にもってバランスは悪くない。ステレオ音像の広がりも、カベをつき抜けるような空間の広さは感じられないが、音楽の確かさを充分に感じさせる。それに対して680EEは、家庭再生用としての音のバランス、やはり中域の確かさをもちながらも、広帯域感は充分にもち、トレース能力もきわめて良いのが特徴といえる。このシリーズは、まさにスタントンの本領を出しているが、次に出る681シリーズは、現在のスタントンの2チャンネル専用のトップモデルにふさわしいクォリティを聴かせてくれた。
 681EEは、比較的オーソドックスなサウンドイメージをもちながらも、他のアメリカ・カートリッジとは多少違ったハイグレードな再生音が得られる。渋さを感じさせる落着いた中低域と、鮮やかすぎない適度なブライトネスを持った高域をもつ。全体にスタントン・カートリッジは、広帯域感が過剰にならないのが特徴となっているが、この681EEの場合は、それにもまして音の粒立ちをみがき上げている点で、ハイクォリティ・サウンドということができる。ステレオ感も、これまでになく、安定して拡がりが得られる。
 681トリプルEは、681EEのグレードアップ版といえる高性能タイプだ。スタントン・ニューキャリブレーション・スタンダードシリーズと呼ばれる。この音は、まさに大人の音を感じさせる。どのプログラムソースに対しても高級品のイメージをくずすことなく、まったく音楽を安心して楽しむことができる点で、他のメーカーのトップ機種に通じている。ステレオ感の安定した再生ぶりは、もちろん優れているが、それ以上にレコードにおさめられているスペクトラムの再生はシュアーV15に対しても、一歩もひけをとらない。トレース能力も一段と安定して、スタントンのキャリアを充分に感じさせてくれる。

ソナス Red Label, Blue Label

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岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 アメリカの軽針圧カートリッジの旗手として有名なP・E・プリチャードが新しく起したカートリッジ専門メーカーがソナースだ。彼はインデュースド・マグネット方式の発電機構を考案した。ソナースというブランド名をそのまま型名とし、針先の交換により三種類のバリエーションをもっている。サウンドイメージは、やはりADC・Qシリーズにつながる明るい音だ。
 最高価格のブルーラベルは、積極的な音をもち、リズミックに弾む低域は力強さも充分にもつ。中域から高域にかけては、緻密な粒立ちのよい音を聴かせ、全体にフラットだがより現代的な音楽再生に向いている。
 レッドラベルは、聴いていて耳当りのよいソフトな再生音が得られる。音楽ジャンルにとらわれない特徴はこの二機種に共通した良さといえるが、レッドラベルの場合、音像もソフトに表現する。
岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 シュアーは、今やマイクメーカーというよりも米国を代表するもっとも高名な、そして高級なカートリッジの量産メーカーだ。
 ステレオの初期において、他社にさきがけてMM型の実用的な高級品を完成した。アメリカ国内のライバルメーカーが追いつくまでに、音溝の追従性を技術的テーマとしてカートリッジを軽針圧化したのが、今日のシュアーの礎だ。
 今日のすべてのムービング・マグネット型カートリッジが、このシュアーの影響を受け、おそらくすべての技術の源であるといって差しつかえあるまい。
 約十年前に、すでにV15を完成し、それは今、第三世代になっている。
 シュアーV15タイプIIIは、おそらく誰でも一度は手にしているだろう。高級ファンにとって、このカートリッジは少なくともひとつの基準ないしは、信頼の源点にあるはずだ。
 タイプIIIになって確かに伸びた高域は、低域からまるで定規でひいたようにフラットそのものの特性をもつ。これは驚き以外の何ものでもない。しかも、この特性が世界的に売られる量産品に保たれていることこそ、注目しなければならない。
 やや甘いローエンドも、ちょっとばかり細身な中低域も代々のV15の個性でもあり、特徴でもあった。それが気にくわなければ、タイプIIIとは妥協できない。何はともあれ、これが音楽再生の基準として、もっとも広く使われている事実。これだけで、このカートリッジの価値は、あらゆるファンにとって必要であろう。ステレオ音像の無類の広がりも、トップモデルにふさわしい。
 M95EDは、V15タイプIIIの実用型ともいうべきモデルといえるが、単に実用型にとどまらず低域の充実感がプラスされたことによって、音が積極的な面をもつに至っている。
 ヴォーカルが聴き手の間近に再現され、小編成器楽曲が迫力をもって再現されるので若いファンにとっては喜ばれよう。無論、相対的に中高域がややおとなしいという傾向をもち、それがクラシックの、とくに弦楽器の再生において好ましいともいえる。ステレオ音像は、ふやけることもなく、適度な広がりをもたせ、さすがにシュアーのキャリアを物語っている製品といえる。
 SC35Cは、一般マニア向けというよりもディスコテックなどの業務用であり、針圧指定値が、5gということからも、まさにヘヴィーデューティであることがわかる。そのごついカンチレバーを通して出る音は、まさにナローレンジには違いないが、まったく確実な情報を伝えてくれるのがもっとも大きな特徴ということができる。
 M91GDは、シュアーの特徴ともいうべきウェルバランスの再生音が得られ、決して単なる普及機に終らない良さをもつ。音楽再生のカンどころをおさえた周波数バランスをもち、シュアーのもうひとつの特徴でもある針圧に対する印加幅の広いことも、この機種についていえる。トレース能力も実用上かなり高く、そうした点も高く評価したい。
 M75Gタイプ2は、ローコスト機種ながら、音楽再生上、一般マニア向けというよりもより音楽を大切にするファンに推められよう。それほど広帯域とは思えない再生音は、音楽ジャンルを問わず素直なバランスを聴かせてくれる。
岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 全米一のキャリアを誇るピカリングは、もっとも知れわたったカートリッジの量産メーカーだ。
 製品は充実し、その品種は多い。しかし、はっきりとその品種はランク分けしてあるので、製品をいかに選ぶかはユーザーの志向さえ定まっていれば容易だ。丸針つきのローコスト機はオートチェンジャーやイージープレイ用として有効で高出力かつ音量が十分に感じられるスペクトラムバランスをもち、高級品ほど広帯域で、最高級品種はCD−4対応の高性能品だ。
 V15マイクロIV/ATは、オートチェンジャー用とされる高出力型で、価格的にも国内にある海外製品中でも最低価格品だ。中域のガッツある力強いサウンドと弾力的で量感のある低音がリズムをよく再現してくれる。高出力かつ安定なトレース性能は大変ゆとりがあり、針圧の範囲もごく大きい。ステレオ感は広く音像が大きくなりがちだが間近に迫る感じだ。
 XV15/400Eは、新シリーズ中の普及価格の実用機種になるが、これはピカリングらしくないウォームトーンの広帯域型だ。といってもハイエンドは高級品なみとはいかないが、ピカリングとしては珍しくおとなしい処理で、しかもきびきびした高域から中域の表情ゆえに甘さはない。低域での弾むような腰の強いエネルギー感は、ここでも幾分かひかえ目なバランスを保つ。
 XV15/1200Eは、ピカリングの中で、手頃な高級品をひとつ選ぶとしたら、この広帯域型だ。それはいかにも力のある音の粒立ちをもち、甘くはならないが、そうかといって鮮明に過ぎるということもないピカリングの良識をはっきりと感じさせる。低音は量的には多いが決して音像がふやけるということもない。やや華やかな中域から高域にかけてのきらめきも潤いがあるので、音像を乱すことはなく、雰囲気のある音場を再現する。音像の定位は、きわめて良く、ちょっと聴いた感じではそれほど高域が伸びているとは思えないのに、ステレオの広がりから判断するハイエンドは、バランスよく保たれている。ヴォーカルが比較的間近かに、確かな音像をつくるのも、若いファンには向いているといえよう。
 UV15/2000Qは、1200のジュニア版ともいえるモデルだが、この種のカートリッジにありがちな音の薄くなるようなことがそれほど感じられず、ピカリングの特徴は充分にもっている。ピカリングからのCD−4対応型の中では比較的安価なモデルだが、4チャンネル再生に、アメリカンサウンドを得ようとした場合には、充分期待にこたえてくれよう。
 XUV/4500Qは、このカートリッジが出た当時、ピカリングの製品ということがとても信じられなかったくらいで、今までになくおとなしい、ひかえめな音だ。一聴してハイエンド、ローエンドを充分に伸ばした超広帯域型だということを知らされるが、聴き込むにつれてそのハイクォリティな音を感じとることができる。
 CD−4対応型として出されたのは無論だが、それ以上にピカリングの製品の中でも、最高クラスに位置するという、いわば技術的レベルを示すイメージ製品としての価値も大きい。
岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 デンマークは陸続きのいわゆるヨーロッパ大陸の典型的オーディオメーカーといえる体質で、そのサウンドには、低音の力強い量感と、その上に支えられた厚い中音部、さらに高域の輝やきがバランス良く音楽再生を構築する。それに現代オーディオの基本姿勢ともいえるワイドレンジ、フラットレスポンスをいかなる形で融け込ませるか、がMC型新種のテーマで、何度目かのアプローチの結果がSL15の成功だ。MC20はさらに低音の引き締ったエネルギーとフラット特性の熟成である。SPU−G/E以後、永くMCのみだったオルトフォンもM15以来、いくつかのMI型にも積極的で、昨年始め以来広帯域型ともいえるVMS20がその最新モデルとなっている。
 SPU−G/Eは、いかにも豊かな低音ここにありといった厚さと量感がたっぷりしているが、これは少々質的にふくらみすぎ、引き締った筋肉質ではない。だからローレベルでの低域は、どうしてもホールの響きのようにいつまでもつきまとって、今日的な意味で冴えているとはいえない。
 この低音の厚さにバランスして高音の輝やきがまたきらびやかである。中低域から中域はソフトながら芯の強さがあって内部の充実を感じさせるが、これも分解能力の点では物足りない。
 SPU−GT/Eになってトランスを内蔵する場合、使用上便利この上なく、リーケージによるハムも心配ないのも凝り性の初心者向きといわれる理由だ。しかし低音は一層ゆたかでまさにふやけてしまう。またハイエンドとローエンドでの伸びが抑えられたので、一聴すると苦情は出ないが、トランスを外して確かめれば2度とトランスをつけたくなくなるほどだ。当然ヘッドアンプを欲しくなりSPU−G/Eが主体となってくるに違いない。
 SPU−A/EはAシェルに入っただけではない。明かにカートリッジの差があって低域は伸びていないがずっとおさえられ、全体にそっ気ない音になっている。むろん細部を聴けばオルトフォンの中域であり、低域でありバランスではあるが。でもステレオ音像の確かさからSPU−Aの良さはもっともはっきり確かめられよう。拡がりは十分ではないが、音像の定位はピシリと決ってくる。
 SL15MKIIは、かなりワイドレンジ化を進めた製品だ。SPUとは全然質の違う低音はよくのびてゆったりしているが、量感はおさえられている。ハイエンドもよくのび静かさが強く出てきて、現代志向が強い。きめの細かさは粒立ちの粒子が一段とミクロ化して、分解能力が格段だ。ヴォーカルのソフトな再現性は迫るほどであるが、少々作り物といった感じもある。
 SL15QはCD−4対応型で、高域のレンジの拡大がはかられているが質的にはSL15MKIIの高級品といったイメージ。
 MC20が今回の大きなポイントだが引きしまった力強い低音と緻密な中域が見事だ。ハイエンドの伸びも注目できよう。トレース能力も見事。
 VMS20Eは、SL15のMI型とでもいえるサウンドで、低域がややソフトで耳当りよいが、オーバーではない。オルトフォン全製品中、全体に広帯域感がもっとも強い。
 M15EスーパーはSPUのスペクトラムバランスをサウンドに秘めたMI型でトレース性能の点でもシュアーV15を凌ぐほどの実用性能である。

グラド FCE+, F-3E+, F-1+

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岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 発売以来、実用性能一点ばりのためか、外観的な面では、何か時代のずれがあって、センスの良さが少しもないが、逆にこのごつい形が、実用的なオリジナリティを創っているともいえる。
 音の方は、外観のひどさにはほど遠く、かつての音楽的センスがフルに生かされて、きわめて好ましい力のある帯域内のバランスを作っている。中域ではややソフトというか耳当りの良さを持ち、いわゆる疲れることのない、接しやすい音だ。この中域を中心に、粒立ちの良さを作る中高域の明るく引きしまったサウンド、さらにそれ以上ではどぎつくならない程度の、さわやかに輝く高域、加えて低音は決してローエンドまで延びていないが量感と力強さとがバランスしている。
 こうしたサウンドは、どちらかというと米国のメーカーよりもヨーロッパのそれに多いので、米国製カートリッジとしてはかなり強い特長として受けとられているだろう。
 FCE+は海外製品の日本市場価格としてはもっとも低価格であり、それでさえはっきりとグラド特有のサウンドを示しているが、中域での甘さはおさえられ力強さを感じさせる。ステレオ音場としてはあまり拡がりはないが、音像の定位はきわめて確かで、低音に至るまであらゆるレベルでふらつくことはない。ただスクラッチが目立つのが残念だが価格から考えれば無理か。
 F3E+は一万円を超える価格で、国内製品と実際価格としても変ることなく、しかも1gの針圧でトレースは確かであるし、高音域の延びはずっと拡大され、広帯域指向を狙っている。やや高域で独得の輝きがあるが、決してうるさくはならず、再生上きらめくような音楽的な鳴り方を示してくれる。中域の耳当りの良さはここではグラド本来のもので、FCシリーズのような力強さはなく、バランスもゆったりした低音感の豊かさに支えられて聴きやすい。ステレオ音像ほ、高域まで拡がりよい空間にソロの音像が、少々小さめに定位し、高級カートリッジなみにその確かさを感じる。
 F1+はグラドの高級品種で、さすがにハイエンドの十分な延びが、全体の音を静かにし、品の良さをプラスするのに有効だ。スクラッチの静けさも特筆できる。

ゴールドリング G900SE

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岩崎千明


ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)

特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より


 英国のオーディオ機器には、かなりはっきりしたサウンド志向が共通的にみられる。それは昔からのスピーカーにズバリと出ているのだが、ローエンドにあまり延びていない低音の弾むようなエネルギー感、中低域のねばるような甘さ、中高域は一転して華麗さを強め、さらに高域でハイエンドにすっきりと延ばしつつ、きらめきを加える、といったスペクトラム・バランスをもっている。ゴールドリングという英国で数少いカートリッジもまったくその通りであった。それが今回大幅の改良を受けて新製品となったが今までとはまったく違ってしまった。G900SEは、今までのどぎつさが全然おさえられて、極めて高い品質を感じさせて、驚異的な向上を音の上で感じさせる。フラットレスポンスとワイドレンジ化への志向をこのカートリッジも持ったのである。しかも中域での心地よいあまさは質を高めてそのまま受け継がれており、高域のクリアーな品の良さと加えて実に優雅なサウンドイメージを作る。高価になったがそれに見合う向上だ。

EMT XSD15

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岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 現代の高級カートリッジのおびただしい優秀品の中にあって、このEMTのプロ用に日本のファンが目をつけた理由は何なのだろう。おそらくその根底にオルトフォンSPUへのノスタルジックな要望と軽針圧カートリッジとの融合があるのだろうと思われる。事実、XSD15は、アームとのコネクター以外プロフェッショナル型のTSDと変らず、その音はどっしりして力強い低音に支えられた中低域の厚さと中域以上でのすばらしい例えようのないきめのこまかさと鮮鋭な分解能力とにあろう。それはまるで西独の観光用カラー写真にでもみられるようなすみずみまであくまで克明な本物以上のスーパーリアリズムにある。だからリアルを通り越して悪いというのはないし、この超現実感の魅力は一度接したが最後、ふり切ることはできなくなる、妖しい魅力でもある。ステレオ音像の驚くべき確かさ、やや中央に集りがちなスケール感さえも再生音楽をいっそう本物らしくしてしまうのだ。

岩崎千明


ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)

特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より


 エンパイアは米国の電気音響部門中心の大規模な総合オーディオメーカーで、主力はスピーカーとプレーヤー・カートリッジなど変換機器を中心としたメーカーだ。カートリッジもMMではなくムービングアイアン方式の音質的にも技術的にも他社とは違った所に位置していて、サウンドの面から強いオリジナリティを持っている。つまり、どちらかというと、米国系の一般的大メーカーの平均的傾向でもある繊細だがデリケートな音とは違ってヨーロッパ系に似た力のこもった張りのある力強い弾力的な音が本来の姿勢であった。ところがこの数年来、力強さを押さえ、品の良さを表面に打出してシュアーと争ってきた。その最終的な製品が1000Zであった。一昨年から再び、かつての力強いサウンドが製品によみがえってきて、その意欲作4000の大成功がこれに自信を与えることになって、今年はすべて主力製品は4000を受けついだ2000Eを加えたニューラインアップだ。

 その音は、広帯域かつ、中低域から低域にかけて力強く、張りのある音だ。しかもハイエンドは十分に延びてスッキリしており、輝きも適度に持って明快なサウンドを特長としている。

 エンパイアの4000以後のもっとも大きな特長は針圧の許容範囲が、適正値を中心にプラス・マイナス100%ぐらいの大幅な点であろう。4000以前の軽針圧高級品1000Zでは、この点がとかくいわれて、ほんの少しでも重すぎると針先がもぐってカートリッジのボディの下を盤面でこすってしまうという初歩的なトラブルが多くあった。かといって時代の至上命令、軽針圧化のためにはカンチレバー支持をできるだけやわらかくしなければならず、この辺がエンパイアの新型全般の最大の利点をなしている。

 2000Eは、もっともポピュラーなタイプで昔からのエンパイアの伝統的路線でもあるメリハリの効いた明快なサウンドを持つ。聴感上、レンジは広くないが、歌などの間近な再現性、楽器のパンチあるサウンド。誰にも使いやすく気軽に音を楽しめるカートリッジである。その上、音場の拡がりは十分でないがステレオ音像の明確な定位もすばらしい。

 2000E/IIIは、2000とはまったく違って、これは4000D/IIIの普及型といった方が近いだろう。レンジは、4000ほどではないにしろ、すばらしく広帯域かつ、その高域は決して薄くなく輝きがあり、中域の充実感と低域のよく延びた量感とバランスよい再生ぶりだ。やや中域での力強さが控え目で歌などでそれを良く感じられる。

 4000D/IIIは、価格からは他社のトップクラスに相当するわけで価格からすればこれは良くても当り前ということになる。だがそれにしてもエンパイア、シュアーやADCとはまったく違った路線から推めて、極点に達すると、他社の最高価格品と結果的に同じ方向へひたはしり、ということになるのだろう。だから4000は低音感にパンチがあり、力強さを音の芯に持っているという点以外は、米国他社一流品と似ているといえよう。4000D/IIIはこうした僅かの差がもっとはっきりした形で感じられ、ステレオ音像のすばらしい確かさが違いとなっていることが特長だ。むろん高価だがこの差は数字として性能的、技術的な差なのだ。

 2000Zは1000Zの改良型でこれのみが広帯域型で、かなり控え目な細身のサウンドで、針圧のクリティカルな点も旧シリーズ直系だ。

岩崎千明


ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)

特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より


 西独のもっとも伝統を誇る音響メーカー・エラックはハイファイ初期以前から専門の音響電機変換器の名うてのメーカー。日本市場で名を知られてきたのは比較的新しいが全ヨーロッパのこの分野での草分けでもある技術技術力を背景とした優秀なカートリッジは文字通り世界トップクラスだ。全体にバランスの良い音と中声域でのソフトながら充実した鳴り方が、他の米国製品などにない魅力的要素として重要なポイントだ。一般にMM型の中音域はMC型にくらべてどうも希薄になりがちなものだが。

 STS155−17は最下クラスである。この上の品種STS255−17と共に円錐針で、針圧もこの2種がやや大きい。一万円台の前後にあるこの2種は共に高出力MM型でサウンド的にもよく似ていて安定した低音と、バランスの良い帯域が特徴。155の方がいく分低音での力強さを持ってより若いファンを意識したものといえる。あまりこまかな表情は望むのが無理だが、大づかみに捉えて音楽の楽しさをよく出してくれる。高域での鮮かさもほどほどにおさえていて、安物というイメージは全然ない。

 STS355Eは一段と軽針圧のSTS455Eと並んで楕円針つきの主力品種だ。きわめて広い帯域特性は、音溝に針先の入ったときのスクラッチの音の静けさからも判断できる。このクラスになるとソフトな感触ながらも音の粒立ちの良さが出てきて、クッキリとした音のディテールが中域から高域にかけて一段と加わる。歌などでこれが、美しい生々しさを作る。重低音域での豊かさは455系で、音をマクロ的にまとめる。

 ステレオ感の自然で、拡がりの良いのもこのクラスの大きな特長だ。エラックサウンドの特長ともいうべき豊かな音の厚さは、ステレオ感の十分なる拡がりが大きな貢献をしていよう。低域で音がゆったりしていながらその音場がふやけたりくずれないのも、エラックのMMの良さの重要なポイントだ。こうした特長はエラック共通のものだが普及クラスではそれが十分に出てこないが。中級品でははっきりと音像のスケ−ル感と定位の良さを誰しも認めることができよう。

 STS455Eでは355よりさらに暖かさとか自然感が増して、一層聴きやすいが、粒立ちはさらにこまやかで、分解能力も一層向上している。

 STS455のさらに上級機種がSTS555Eである。高域の拡張が一段と増し、音域全体にわたってサウンドとしてもスッキリとしたイメージだ。低音域も高音域もよく延びているが、力強さという点はずっと押えて、きめのこまかい音だ。楽器の多い時にその細部まで十分にクローズアップさせるほどに、粒立ちがこまかい。しかも全体の厚さも出せる。ただ、中声域のゆたかさ、あるいは厚さとなると455に一歩をゆずる。

 STS555Eをより広帯域化させた上、その針先をシバタ針にしたSTS655D4は、CD−4対応型だ。超高域でのカッチリとしたきめこまかさを一段と充実させた音でその違いは確められるが、ステレオ時の音の厚さとかゆたかさが少々物足りなくなるようだ。

岩崎千明


ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)

特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より


 デンマークといえばオルトフォンで他の名のイメージはどうも影がうすれてしまう。B&Oの場合、決してただカートリッジのみを作るメーカーではなくて総合的なオーディオメーカーであり、特にこの数年来、B&Oのオートマチック・プレーヤーで日本でもすっかり注目株になってしまった。当然、そのカートリッジに対しての関心が高くなり、これがまた意外にいい。オルトフォンと同じ国だからサウンドイメージとしては似ていたところで不思議はなく、オルトフォン本来のサウンドとは同じ源から端を発しているのではなかろうか。つまり、決して広帯域ではなくかなりはっきりした低音と高音での強調が、全体のサウンドの基礎をなしている。B&Oではオルトフォンよりそれが一段と強く、B&O独特といわれる鮮烈なサウンドを形成してきたようだ。新型ではそれを脱しつつあるとはいえ基本的にはそうした路線は今も続いているといってよかろう。高級品ほどそれは大幅に改められて今日的な広帯域フラットを求める方向にある。

 MMC3000は、昔ながらの低音強調的、力強いサウンド。中域は厚く、中味の濃いという感じで、ちょっと聴くと粒立ちは良いが、実際に永く聴くと地が出てしまう感じ。しかし安定した再現性と高音の輝きもあるバランスの良さで、初級ファンには推められる。

 MMC4000は、格段と本格派で、広帯域感もずっとそなわり、高域のスッキリした延びが、これ以上の上級機の共通的特長だ。中域での充実感も一段と増し、それもはるかにち密になって細やかな表情の再現性が、歌などによく表れる。低音の力強さも、一段と引締った充実感として感じられる。高音域の輝きは意識的な面がなく品位も高い。概して、3000の高級化というより別種の感じだ。

 MMC5000は中域の充実感がますます加わり、ぐっとクリアーだ。低域の力強さも中味のずっしりつまった厚さとして感じられる。高域の輝かしさを加え、全体にバランスのとれた高品位の鮮明で的確な音。

 MMC6000は、MMC4000に一段と品の良さを加えたイメージで受けとれる。こまかい表現力の拡大とより広帯域化を図りゆったりした低音と、刺戟的でない中音を与え、大人の音楽ファンに向けたものだろう。

デッカ Mark V, Mark V/ee

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岩崎千明


ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)

特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より


 MKVは、従来の路線上にあって、独得の力強くダイナミックな迫力を特長としている。あくまでめりはりが効いて、音の立上りを強調しながら表現してしまうため、ピアノとか打楽器では、思わず息を止めてしまうほど鮮やかできれいだ。その反面、歌になるとどうしてもサシスセソが目立ってきて、それが気になってどうしようもなくなってしまうほど。単独の楽器のスケール感はよく出てるが、オーケストラや、ステージ感となると不足気味。

 Veeは楕円針付なのだが、音はかなり違って、大へん広帯域感が強く、全体のイメージとしてスッキリした音となって感じられる。音の粒立ちはV同様たいへん優れているが、Veeの方がはるかに細かい粒子を思わせて、歌などの子音の強調感がずっと押えられている。オーケストラの楽器の分解能力もよりこまやかで、スケール感も出てきている。定位は抜群によく、安定した再生音を聴かせてくれる。

AKG P6R, P6E, P7E, P8E

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岩崎千明


ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)

特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より


 すでに市場にあったシリーズを一新して、今までのゴツイ外観を改め、従来より格段に聴きやすい音となった。ヨーロッパの音響製品に共通の、きわめてち密なサウンドと、低域、高域の力強く張りのある充実感がAKGのカートリッジにもみられる。

 P6Rは、もっとも普及価格のもので、名前から円錐針のついたものと判断される。この品種のみが、やや重い針圧を要求されていて、サウンドの上でも他とは少々違ったイメージを受ける。つまり力強さの外側に厚い衣をかぶらせたような、従って耳当りの良い暖かさ、まろやかさを感じさせ、加えて低音域でのどっしりした重量感が音全体のイメージを大きく変えてしまっている。あまり細かい表現は不適だが、全体を大づかみに捉えて聴きやすく再生する、といった風で、歌なども聴きやすい。バランスの良さがこうしたサウンドの魅力の根底を作っているのだろう。

 P7Eは、P6Eとよく似ているがP6Eのような力強さが、いく分おとなしくなっている。P6Eではくっきりしたクリアーな力と感じられるイメージがあったが、それに対してP7Eでは、もっとさわやかな新鮮さとなって、力強さもないわけではないが品があり、ヨーロッパ製ならではのソフトな耳ざわりを醸し出している。高域でのスッキリした冴えた響きも意識的でなく、品位が高い。ステレオ音像も、十分な拡がりの中に安定な確かさで定位する。ステージ感も要求されれば、最高の水準で再現してくれるし、歌などでは、きわめてリアルで自然な形で音像が浮かび出す。

 P8Eは、最高ランクだけにまるで拡大鏡でのぞくようなミクロ的な分解能力が何より見事だ。くっきりと、こまやかな音の表現をやってのける。ただその反面、少々鮮かすぎて、ソフトフォーカスのニュアンスにかけ、雰囲気のある再生には不向き。力強くスッキリした低音、キラキラした鮮明な高音域、加えて新シリーズ中もっとも充実感のある中声域。ステレオの拡がりも極めて大きく、定位の良さも抜群で、音楽の中に踏み込みたいという聴き手の要求をあらわに反映してくれる。

岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 Qシリーズは、これまでのADCの行き方とは違う路線の新シリーズのカートリッジであった。それまでのデリケートで繊細なる音から方向転換して、大胆な変身を遂げ、明るく健康そのものの音になった。それまでの息をひそめるような音にくらべいく分かラフな所があるが、逆に気楽に音楽を楽しめる、ともいえる。Qシリーズでは、若いファンを考慮しているに違いないから、こうした新傾向は当然すぎる変化といえる。
 針圧の点でも、それまでの、極めて入念な調節を必要とするクリティカルな傾向から一転して、適正値がかなり幅をもったラフな調節ができるようなものとなった。つまりQシリーズとなり体質的にすべてが変ったのである。
 QLM30MKIIは、Qシリーズの中でもっとも安価なクラスである。Qシリーズとしての共通的なローエンドまで延びているわけではないが弾力ある低音は30MKIIでは、ひときわ力強いが、かなり意識的な低音感で、必ずしも、入力に忠実というわけではない。中声部はややソフトで聴きやすいが、これも細やかな表現を薄めてしまう結果となっている。中音域全体にソフトな快よさがあるが特にこの30MKIIでは、中域である特定の周波数成分の華かさがある。これは、器楽曲では豊かさをもたらして有効だが、ヴォーカルでは音程を高めるような傾向を作ってしまう上、音像にも不自然さを感じさせる。
 QLM32MKIIは、Qシリーズの中級機で、中域におけるくせはずっと薄らぎ、Qシリーズ本来の耳当りのよい中声域がはっきりと感じられる。低音域での力強さが豊かさを加えて、力まかせの30MKIIにくらべてずっと質を高めている。
 QLM36MKIIは、XLMとは明らかに一線を画してはいるものの、帯域をひときわ拡大して、全体に明るく、刺戟のない快よい音を感じさせる。しかも粒立ちはくっきりとしているので分解能力もあり、音のディテールもよく表現する。ただ、あまりこまやかな表現は十分でなく、そこに適度のあまさがあって、それがソフトな聴き安さとなり、それなりの魅力となっている、といえよう。針圧に対する許容幅のゆとりある所はこの上級機も変りなく、針圧を倍にしてもトレースは安定で使いやすい。ステレオ感はこの36MKIIではずっと拡がりもよく、音像の定位もはるかに自然になって、30MKIIのような不安定な所がない。Qシリーズは、やはり価格に相当して初級ほどはっきり質の向上が確かめられ、分解能力、特に音の粒立ちのこまかさは、価格に比例しているといえる。
 XLM MKIIはADCのオリジナル高級製品10E直系の最高品種だ。かつては針圧のあまりにデリケートな点を指摘されたものだが、現機種ではそれもずっと改められている。とはいうものの針圧はかなり正確に適正値を保たねばならぬ。軽針圧用として使用上当然で、1gを切る針圧でも正確なトレースを果してくれる数少い実用的な高級品だ。きわめて広い広帯域感は、よく延びきったハイエンドとローエンドから感じられ、線の細いスッキリしたサウンドイメージが品の良さをもたらす。フワッとした低域は力強さこそないが、さわやかな豊かさにおいて、独特の魅力を作っている。
 VLMは、XLMよりいく分か針圧を要求されるが、トレースの安定性がかえって向上しているほどで、低音感がいく分どっしりしている。
 シバタ針つきのスーパーXLMは、高域で一段と輝きを増し、XLM/IIより高音に緻密さが加わっている。

グラド Signature I

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菅野沖彦


ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)

特集・「世界の一流品」より


 グラドというブランド名は、日本ではそれほどポピュラーではないが、かなり古くからトーンアームやカートリッジの分野で実績をもつ、ニューヨーク市ブルックリンにある会社である。

 この会社の最新型であり、最高級のカートリッジがこのシグナチェア1だ。このカートリッジは、ずば抜けた特性をもつ手づくりの製品で、ジョセフ・グラドというこの会社の社長であり、エンジニアである人が、一途に情熱をかたむけてつくりあげた製品である。このカートリッジの前面には、社長のイニシャルであるJFというマークが刻印され、このモデルの由緒正しさを表わしていると同時に、ハイクォリティ・カートリッジであることを示唆しているようだ。

 MI型のカートリッジであるこのシグナチェア1は、商品づくりという域を脱した手仕事から生まれ、それに見合った性能の良さ、音質の良さが感じられる。一流品に価するカートリッジである。

菅野沖彦


ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)

特集・「世界の一流品」より


 ドイツのエレクトロ・アクースティック社は、最も早くからMM型ステレオカートリッジを開発したという実績をもつメーカーである。この455Eは、そのメーカーの最新モデルの一つだが、最も音のバランスのよいカートリッジとして一流品に挙げたい。

テクニクス 100C

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瀬川冬樹

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 振動系のミクロ化と高精度化、発電系の再検討とローインピーダンス化、交換針ブロックを単純な差し込みでなくネジ止めすること、そしてカートリッジとヘッドシェルの一体化......。テクニクス100Cが製品化したこれらは、はからずも私自身の数年来の主張でもあった。MMもここまで鳴るのか、と驚きを新たにせずにいられない磨き抜かれた美しい音。いくぶん薄味ながら素直な音質でトレーシングもすばらしく安定している。200C以来の永年の積み重ねの上に見事に花が開いたという実感が湧く。

バーコEMT HSD6

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井上卓也


ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)

特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より


 シェル一体型の業務用MC型TSD15をコンシュマー用に単体化した製品。ボディはアルミのムク材を加工し自重12gとしている。鉄芯に20Ωのコイルを巻いた発電系は1mVの高い出力電圧を得ており、直接MM用EQで使用可能。高能率型ならではのパワフルでダイナミックな音は異質な魅力として心に刻まれるようだ。

イケダ Ikeda 9 Rex

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井上卓也


ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)

特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より


 カンチレバーレスの空芯純ムービングコイル型という究極のメカニズムを開発し、次第に完成度を高め、パーメンダーを使う強力磁気回路と組み合わせたトップモデルがRex。アームの高さ調整とインサイドフォースキャンセラー値が使用上の要点となるが、針先自体が直接コイルを駆動する音は未体験の領域。

井上卓也


ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)

特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より


 ダイレクトカップリング方式可動鉄片型の発電方式は、ステレオ初期に英デッカが提唱したタテ/ヨコ型として開発した構造で、ウエストレックスの45/45方式対応のためマトリックス接続により45/45化したもの。甦ったデッカである本機は垂直系のカンチレバー採用が特徴で、いかにも針先が音溝を直接拾う音はスリリングだ。

井上卓也


ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)

「エキサイティングコンポーネント」より


 オルトフォンといえば、まずSPUを想像しないオーディオファイルはいないであろう。
 ステレオLPが登場した翌年の'59年にステレオ・ピックアップの頭文字をモデルナンバーとして開発されたこのカートリッジは、正方形の鉄心に井桁状にコイルを巻いた発電系と、この巻枠の中心に完全な振動系支点を設け、ゴムダンパーと金属線で支持系とする構造である。これは現在においても、いわゆるオルトフォン型として数多くのカートリッジメーカーに採用されているように、ステレオMC型の究極の発電機構といっても過言ではない。オーディオの歴史に残る素晴らしい大発明であろう。
 以後、37年を経過した現在のディジタル・プログラムソース時代になっても、SPUの王座はいささかの揺るぎもなく、初期のSPUを現在聴いても、その音は歳月を超えて実に素晴らしいものなのである。
 現在に至るSPUの歴史は、その後SPUなるモデルナンバーが付けられた各種の製品が続々と開発されたため、オルトフォン・ファンにとっても確実にモデルナンバーと、その音を整理して認識している人は、さほど多くないであろう。
 今回発表されたSPUの新製品、マイスター・シルヴァーは、SPUの開発者ロバート・グッドマンセンが在籍50年の表彰と、デンマーク王国文化功労賞の受賞を機に原点に戻り、SPUを超えるSPUとして開発した'92年のマイスターをさらに超える、SPUの究極モデルとして作られた製品である。
 最大のポイントは、同和鉱業・中央研究所が世界で初めて開発した純度99・9999%以上の超高純度銀線をコイルに採用したことで、オルトフォンとしては昨年のMCローマンに次ぐ超高純度銀線採用のモデルだ。ちなみに銀というと、JISの2種銀地金で99・95%、1種で主に感光材料に使用する銀で99・99%であり、銅線ではタフピッチ銅と同程度の純度しかない、とのことだ。
 コイル線以外にも磁気回路、振動系は全面的に見直され、1・5Ωで0・32mVという高効率を得ている。
 R・グッドマンセンが、「これこそ我が生涯最高のSPUと躊躇なく言える」と自ら語った、と云われるマイスター・シルヴァーは、SPUの雰囲気を残しながら前人未到のMC型の音を実感させられる絶妙な音である。

デンオン DL-103FL

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菅野沖彦


オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド別冊・1994年春発行)

「世界の一流品 アナログプレーヤー/カートリッジ/トーンアーム篇」より


 デンオン・ブランドは、いまでこそ日本コロムビアのオーディオ機器やレコードのブランドとして広く普及したが、もともとプロ用機器の専業メーカーで、日本コロムビア傘下ではあったが独立企業体であった。DL103というカートリッジは、そのデンオンがスタジオユースとして開発したもので、各放送局やスタジオ、カッティングしたラッカーマスターの検聴用などにもっぱら使われていた製品であった。これが一般にも普及し、日本のMCカートリッジの代表的な製品として広く認められて三十年にもなろうか。その間、多くのタイプがヴァリエーションとして登場したが、このFLが最新のDL103である。現代のモデルとして素材に最新のものを使い、オリジナルDL103とは異なった味わいと共通した性格を併せ持たせている点が感心させられる。基本設計を踏襲しながら、線材や本体に新素材を使ったことが、音にそっくり現われているのであろう。

菅野沖彦


オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド別冊・1994年春発行)

「世界の一流品 アナログプレーヤー/カートリッジ/トーンアーム篇」より


 デンマークのオルトフォンは名実ともに、カートリッジの一流品である。アナログカートリッジを現役で生産続行してくれていることは、極めて意義深い。この製品は、そうした名門の作る数多くの逸品の中でもとくに光り輝く存在といってよい現行製品である。同社のSPUシリーズといえばアナログディスク再生に君臨した傑作だが、この製品の開発者であるロバート・グッドマンセン氏の在職50周年とデンマーク女王からの叙勲を記念して作られたものが本機。基本的にはSPUそのものだが、30年以上前に設計したSPUを現代ならどうするかが、設計者自身によって実現されたのが興味深い。Gシェル付きとAシェル付きの2種類が用意されている。オルトフォンという会社はアナログディスクの歴史とともに歩み、歴史を作ったメーカーで、アナログディスクの生産システムのメーカーでもあった。まさに、その生き証人がグッドマンセン氏であるからファンの思い入れも一入だ。

井上卓也


オルトフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1994年2月発行)

「オルトフォンカートリッジが聴かせる素晴らしきアナログワールド」より


 SPU系とは異なり、現代タイプのMC型カートリッジを目指して開発されたシリーズが、MC10/20/30の3モデルで構成する2桁ナンバーのMCシリーズで、オルトフォンMC型の中核をなす存在である。世界的な市場では、このシリーズがオルトフォンの代表機種とされているようである。
 本シリーズの中堅モデルMC20サプリームの原型は、1976年に誕生したMC20とされている。しかしそれ以前にも、巻枠形状はMC20とは異なるが、S15、SL15などのSPU系とは異なった製品が開発されており、マクロ的に考えれば、これらのモデル開発での成果がMC20に活かされていると考えることもできるだろう。
 MC20の登場以来、すでに18年の歳月が経過し、その間に数度のモデルチェンジが重ねられている。今回のサプリームタイプは第5世代目となるが、MC2000に始まったトップモデル開発での成果は、実に見事にこのシリーズに反映され、前作のスーパーIIで驚かされた確実なグレードアップは今回でも変らず、MC20サプリームが前作の上級モデルMC30スーパーIIをも超すパフォーマンスを備えていることは、このシリーズに賭けるオルトフォンの並々ならぬ意気込みを示す証である。
 振動系の発電コイル巻枠に十文字状の磁性体を使う設計は、DL103の開発でデンオンが初めて採用した構造と同じであり、パイプカンチレバーとともに、前作のスーパーIIを受け継いだ特徴である。磁気回路は、現時点で最強の磁気エネルギーをもつネオジウム・マグネットを中心に、回路全体の設計を一新し、いっぽう、発電用コイルには7N銅線を新しく採用するとともに、インピーダンスを3Ωから5Ωとし、コイルの巻数を増加させて、出力電圧を0・2mVから、高出力MC型のHMCシリーズと同じ0・5mVにまで高めている点に注目したい。
 その他、サプリームシリーズ共通の特徴には、ヘッドシェルとボディの全面接触をあえて避け、針先側1個、端子側2個の突起によって3点で接触するユニークな取付け方法「3点支持マウンティング」の新採用があり、さらに、マウントを一段と安定させ振動を除去するために、取付け穴にネジを切って、ビス/ナット方式と比べて、一段とボディとヘッドシェルの一体化を高める構造としたことが、これに加わる。
 またボディのディスクと接する部分には、静電気対策のクリック/ポップノイズ・デイスチャージャーを備えていることも、このシリーズの特徴である。
 サプリームシリーズ3モデル間の基本的な違いは針先形状にある。
 MC10サブリームは8×18μm超楕円針、MC20サプリームは8×40μm超楕円ファインライン型、MC30サプリームは従来の18×40μmレプリカント・スタイラスチップに代えて、6×80μmという超楕円状の新開発スーパーファインライン・スタイラスチップを採用。針先形状の違いで、周波数特性、チャンネルセパレーションなどで差が生じてくる。
 サプリームシリーズの発売にあたり、昇圧トランスT30も内容を一新し、発展改良されT30MKIIとなった。試聴にはこのトランスを使用した。

MC10 Superme
 MC10サプリームはこのシリーズのベーシックモデルで、価格対満足度の高さで際立った製品である。
 針圧は前作の適正針圧1・8gから2gに変ったため、試聴は針圧/インサイドフォースともに2gからスタートする。
 豊かで安定感のある低域をベースとした、ややナローレンジ型の帯域レスポンスをもち、中高域から高域は抑え気味の印象があり、やや線の太い安定度重視型の音である。
 バランス的にはわずかに低域型で、小型から中型のスピーカーシステムにマッチしそうな音だ。中域がしっかりとしたエネルギーをもち、新旧ディスクの特徴を巧みに捉えて聴かせるコントロ−ルの巧みさは、さすがに伝統あるオルトフォンならではの味わいが感じられる。
 音の分離は標準的ではあるが、もう少しクリアーさが加われば、このマクロ的な音のまとまりは解消されるだろう。
 針圧とインサイドフォースを2・25gに上げると、音に鮮度感が加わり、帯域バランスは一段とナチュラルな方向に変る。音場感情報も増えて、見通しの良さが聴きとれるようになる。また、中域から中高域には安定感が一段と加わり、ほどよい輝かしさがあり、低域と巧みにバランスする。
 低域の力強さ、豊かさを活かして、小型スピーカーと組み合わせて使う時に、もっとも魅力が引き出せるMC型カートリッジである。

MC20 Superme
 MC20サプリームの試聴モデルは適度に使用されたカートリッジのようで、針圧とインサイドフォースは適正値の2gで音がピタッと決まり、トータルバランスが見事にとれた、ほどよい鮮度感がある、反応のシャープな音を聴かせてくれる。このナチュラルさは大変に魅力的である。
 聴感上での帯域レスポンスは必要にして十分なものがあり、低域から高域にわたる音色も均一にコントロールされ、古いディスクで気になりやすいヴァイオリンの強調感が皆無に近く、スムーズである。古いディスクを古さを感じさせずに聴くことができるのは、アナログディスクファンにとって大変に好ましいメリットである。
 音の表情は全体に若々しく、一種ケロッとした爽やかさが好ましい。音場感は十分に拡がり、奥行きもほどよく聴かせてくれる。
 音場感的プレゼンスと音の表情を、インサイドフォース量でかなりコントロールできるのも、このモデルの特徴である。
 新しいディスクに対しては、音のディテールよりも、滑らかさ、しなやかさで、新しいディスクならではの聴感上のSN比の良さや、音場感を雰囲気よく聴かせる傾向がある。
 音場感情報は標準よりやや上のレベルで、音場はソフトにまとまり、適度に距離感をもって拡がるタイプだ。
 針圧とインサイドフォースを2・25gに上げると、音のエッジが滑らかに磨かれたイメージとなり、低域の安定度が一段と向上した内容の濃い音に変る。これは、かなり大人っぼい安定したクォリティの高い音で、反応は緩やかだが、落ち着いて各種のプログラムソースを長時間聴きたい時に好適である。針圧とインサイドフォースのコントロールで、爽やかでフレッシュな音から安定感のあるマイルドな音まで使いこなしができることは、このモデルの基本性能の見事さを示すものだ。

MC30 Superme
 MC30サプリームの試聴モデルは、針先が完全に新しい状態にあるようで、わずかな針圧変化に過敏なほどに反応するシャープさをもつ。
 適正値の針圧/インサイドフォース2gでは、音にコントラストがクッキリとついた、かなり広帯域型バランスの音ではあるが、シャープさが不満である。2・2gより少しアンダー(2・15g位)では少しシャープさが加わると同時に安定度が増し、2・25gでは音のコントラストは少し抑えられるが、しなやかな表現力と柔らかさ、豊かさが聴かれるようになり、全体のまとまりは2g時と比べ大幅に向上する。
 この2・2gアンダー時と2・25g時の音の変化は大きく、使いごたえのあるMC型カートトッジである。
 新旧ディスクには、わずかの針圧変化で見事な対応を示し、各時代別のディスクの特徴を見事に引き出してくれるのは楽しい。
 音場感情報はさすがに豊かで、聴感上のSN比もトップモデルだけにシリーズ中トップにランクされる。トータルなパフォーマンスも前作比で確実に1ランク向上しており、基本的に安定度の高い音だけに、使いこなせば想像を超えた次元の音が楽しめよう。

井上卓也


オルトフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1994年2月発行)

「オルトフォンカートリッジが聴かせる素晴らしきアナログワールド」より


 Stereo Pick Upの頭文字をとったSPUは、記録によれば1959年発売とある、オルトフォン・ブランド初のステレオ・カートリッジだが、それ以前にもアメリカでESLというブランドとして売られていた、C99、C100というモデルがあった。SPUが登場し、素晴らしい成功を収めたのはその後のことである。
 したがって、SPUは、オルトフォンのステレオカートリッジとしては、第3弾の製品にあたる。前2作は、オルトフォンのLP用モノーラルカートリッジの発電系を2個組み合わせた構造であったが、SPUは、左右チャンネルの発電用コイルを4角の薄い磁性体巻枠に井桁状に巻き、一体化したことと、カンチレバー後端を細いピアノ線で支えるサスペンション機構をもつことの2点が、まさに画期的な設計であった。その後、各種の発電メカニズムをもつステレオMC型カートリッジが開発されたが、急速な技術革新の時代に現在にいたるまで生き残る、いわゆるオルトフォン型の発電メカニズムの驚異的な基本設計の見事さは、スピーカーユニットでのダイナミックコーン型の存在に匹敵するといっても過言ではない。
 また、当初から業務用途として開発されたため、カートリッジとヘッドシェルを一体化して販売され、ヘッドシェルに、業務用のAシェルとコンシューマー用のGシェルの2種類が用意されていることも、異例なことである。さらには、一時期、Gシェルの内部に超小型昇庄トランスを組み込んだSPU−GTがあったことも、オルトフォンならではのフレキシビリティのある製品開発である。
 現在のSPUは、バリエーションモデルが基本的に3種類あり、それぞれに、AシェルとGシェルの2種類のヘッドシェルが用意される。ベーシックモデルのクラシックシリーズには円針と楕円針が用意されている。トータルのモデル数の多さは、選択に迷うほどの豊富さである。
 SPUは、製造された時期により、細部の仕様に違いがあるが、もっとも重要な点は、井桁状にコイルを巻いた磁性体巻枠とサスペンションワイア一間の相対的な位置変化である。最初期型は、カンチレバー横方向から見て磁性体巻枠の厚みの中心からサスペンションワイアーが引き出されていたが、ある時期以後、磁性体巻枠の針先から見て後端から引き出されるようになった。
 オルトフォン方式の発電メカニズムは、SPUの初期型では、振動支点を中心に磁性体巻枠は回転運動をして、磁性体巻枠内を流れる磁束が交替する。しかし、それ以後のタイプでは、磁性体巻枠は、回転運動と首振り運動を併せて行なうことになり、当然、結果として音が変る。短絡的に表現すれば、前者は分解能が優れたミクロ型、後者は、トータルバランスの優れたマクロ型といった違いである。初期型の一部には、サスペンションワイアーが磁性体巻枠の厚みの中心部で一段と細く削ってあるタイプを見聞きしたことがあるが、ESL/C100で驚異的な超小型ユニバーサルジョイントを採用した、オルトフォンならではの精密加工の証であるように思う。
 ちなみに、最近のSPUでは、初期タイプに近い振動支点にあらためられた、とのことだ。

SPU Classic
 SPUクラシックは、世界のMC型カートリッジの原器である、1959年発売当時のSPUを現在に甦らせることを目的として、素材、製造工程、加工用治具にいたるまで、開発当時のものを、可能なかぎり集め、再現してつくられたモデルである。SPUの忠実な復元モデルであるが、ベークライト製Gシェルの復元は不可能であったようで、メタル製になっている。針先は円針と楕円針の2種類、ヘッドシェルがGシェルとAシェルの2種類、合計4モデルが、そのラインナップである。ただし、ヘッドシェル込みの重量はGシェル、Aシェルともに当初の31gに調整され、同社のダイナミックバランス型トーンアーム、RMG/RMA309に無調整で取り付けられることはいうまでもない。
 試聴をしたSPUクラシックは、楕円針付のGEタイプで、トーンアームはSME3012Rプロ、昇圧トランスにSPU−T1を組み合わせて使うが、本来ならアームは、オルトフォンRMG309がベストだろう。
 針圧3g、インサイドフォース3gで聴く。中高域が少し浮いた印象があるが、ほどよい量感と質感をもつ低域に支えられ、安定したバランスの音である。針先がいまだ新しく音溝に馴染まない印象があり、針圧、インサイドフォースともに、0・25gステップでプラス方向にふり、3・5gにするとほどよくエッジが張った音となり、表情が活き活きとしてくる。
 新旧ディスクにもバランスを崩さず、しなやかな対応を示し、音場感情報も標準的で、スクラッチノイズの質、量とも問題はなく、リズミカルな反応にも、予想以上に対応を示すのは、低域の量感が過剰とならず適度なレベルに保たれているメリットである。
 かつてのSPUと比べ反応が速く、低域過剰気味とならぬ点は、使いやすく、幅広いジャンルの音楽に対応できる。復元モデルとはいえ、現代カートリッジらしさも備えている。メタル製Gシェルの効果も多大であろう。
 音場はほどよい距離感があり、音のハーモニーを色濃く、光と影の対比をしなやかに再現する。中庸を心得た、安心して音楽が聴ける独自の魅力があり、SPUの設計の見事さを如実に知ることのできる、価格対満足度の素晴らしいモデルだ。

SPU Reference
 SPUリファレンスは、SPUの振動系を改良したモデルで、GシェルとAシェルの2モデルがある。針先は、カッター針と近似形状のレプリカント100型チップ、発電コイルには、6N銅線が採用され、コイルインピーダンスは2Ω、重量は32gである。
 SPUリファレンスGと昇圧トランスSPU−T1を組み合わせ、針圧、インサイドフォースともに適正の3gから聴くが、針先は完全に新しい状態のようで3・25gに上げる。活気は出てくるも安定感がなく、さらに針圧を上げ、3・5g弱にすると、中域に独特のエネルギー感のある、クッキリと音を描く、やや硬質な見事な音が聴かれる。
 いかにも、アナログディスクの音らしく、克明に音溝の情報を針先が正確になぞっていく印象である。表情にみずみずしさがあり、巧みにデフォルメされた、これならではの世界は、原音と比べたとしても、むしろ魅惑的に感じられる何かがあるようだ。やや硬い表情が垣間見られるが、針先が新しいためであろう。やや硬質で寒色系の音として聴かせるが、リズミックな反応は苦しい面があり、とくに低域は、やや重く、鈍い面を見せる。しかし、クラシック系のプログラムでの個性的な音を思えば、思い切りよく割り切るべき点であろう。

SPU Meister
 SPUマイスターは、SPUの設計者ロバート・グッドマンセン氏の在籍50周年記念とデンマークの文化功労章受章を記念して、SPUを超えるSPUとして製作された、究極モデルである。
 ネオジウム磁石採用の磁気回路、7N銅線コイル採用で、すべてを原点から考え直してつくられたこのモデルは、GEとAEの2モデルがあり、各1000個の限定生産。昇圧トランスSPU−T1も同時発売された。
 針圧、インサイドフォース量は3gにする。十分に伸びた帯域レスポンスをもち、すばらしく安定感のある音である。重厚な低域と、ほどよくきらめく中高域から高域がバランスし、オリジナルモデルからの進化のほどは歴然とわかるが、それでも非常にSPUらしいイメージがある。豊かな音場感情報量に裏付けられた、力強く表情の活き活きした音は、クラシック系に、これ以上は望めない抜群のリアリティである。

井上卓也


オルトフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1994年2月発行)

「オルトフォンカートリッジが聴かせる素晴らしきアナログワールド」より


 オルトフォンのMC1000番シリーズは、それぞれの発表時点での最先端技術と素材を集約して開発された、文字どおり世界のMC型カートリッジの頂点を極めたモデルで形成されたシリーズである。
 1982年発表のMC2000が、その第一弾製品で、続いて1987年のMC3000、1989年のMC2000MKII、1990年のMC5000が発表され、昨年のオルトフォン創立75周年を記念したMC7500というのが、そのラインナップである。
 MC7500は、オルトフォンがステート・オブ・ジ・アートモデルとして自信をもって開発しただけに、SPUに始まる各MC型はもとより、MM型を含む、オルトフォン全製品の内容を一点に凝縮した成果であり、最新のMC型カートリッジの究極モデルといっても過言ではない稀有なモデルだ。
 振動系は、SPU以来のオルトフォンタイプではあるが、MC1000番シリーズ共通の特徴は、コイル巻枠が、オルトフォンの特徴でもある伝統的な磁性体巻枠を廃し、非磁性体巻枠採用の、いわゆる空芯型MCに発展させたことである。
 MC7500では、巻枠には、MC5000同様のカーボンファイバーが使われ、コイル線材は、究極の純度をもつ8NCu30μm径被覆ワイアー、カンチレバーはテーパードアルミパイプである。針先は、前作は2つの楕円面を組み合わせたレプリカント型だったが、ここでは、新開発の4・5×100μmの超偏平形状のオルトライン型に変った点に注目したい。
 サスペンション系は、MC2000で開発された、2個の厚いゴムリングの間に白金ワッシャーをサンドイッチ構造としたダンパーとSPU以来の伝統をもつニッケルメッキ・ピアノ線の組合せである。
 磁気回路は、ネオジウムマグネットを軸に、磁気ギャップ内の磁界分布を滑らかにしたポール形状の組合せで、コイル部分を純粋MC型とした相乗効果により、リニアリティが一段と改善された、とのことだ。
 ボディシェルは、軽質量、高剛性であり耐蝕性に優れた非磁性体のチタンを初めて採用し、それをブロックから削りだし、表面仕上げはダイアモンド研磨、銘板はレーザーカット、ヘッドシェルとの接合部は、MCサプリームシリーズ同様の3点支持方式が採用されている。
 MC5000の振動系は、十文字型カーボンファイバー巻枠と7NCuワイァーの組合せ、カンチレバーは、0・3mm径ソリッドサファイア、針先は、カッター針と同形状のスイス・フリッツガイガ一社と共同開発のレプリカント100タイプである。ネオジウムマグネットを使った磁気回路を備える。なお、ハウジングはセラミックである。
 MC2000MKIIは、MC2000をベースに、その後の技術的発展と素材選択などの成果を最大限に集約し内容を高め、しかもリーズナブルな価格を実現した注目に値するモデルである。
 モデルナンバーは、MC2000を受け継いではいるが、内容的にはだいぶ異なっている。
 振動系はアルミパイプカンチレバーとフリッツガイガー90タイプスタイラスチップ、十文字カーボンファイバー巻枠と6NCuワイアーの組合せ、サスペンション系はシリーズ共通のワイドレンジダンピング方式とニッケルメッキピアノ線を使うタイプである。ボディシェルは、MC5000と同じセラミック製だが、色調は異なる。

MC7500
 MC7500に、T7500/T7000昇圧トランスを組み合わせて音を聴く。針圧、インサイドフォースキャンセラーは、適正値である2・5gである。
 広帯域型のレスポンスと粒立ちがよく、クッキリと音の細部までを鮮明に見せる音だ。大変にクォリティが高く、音の鮮度の高さも、さすがにステート・オブ・ジ・アートとオルトフォンが自負するだけに見事ではあるが、本誌新製品テストで聴いたときの、音楽の感動がひしひしと心にせまる、これならではの音ではないのだ。
 試聴に先立ち、編集部でも約2時間ほどの時間をかけ調整をしたが、どこか思わしくないと言っていたが、それが納得できる音である。一般的にオーディオ機器は、その性能が向上するにつれ最適な使用条件の幅が狭く、寛容さを失いがちとなるデメリットが共存するため、条件設定は、かなりのシビアーさが要求されるものである。とくにカートリッジの音は、まさに一期一会そのもので、まったく同じ音は2度と聴けないことを知るべきである。
 しかし、部屋の吸音、反射条件などを含め約2時間ほど追い込んで、ほぼ同じ印象の音が得られた。
 試聴したMC7500は、ある程度使われていたようだが、針圧は少し重い方向で、最適値が得られた。針圧は2・5gプラス0・1gあたりが最適値。インサイドフォースキャンセルは、2・5gとしたが、この調整でも音が大幅に変るのは、アナログオーディオの常である。
 古いディスクにおいても、音の芯のシッカリとした特徴とほどよくメタリックな印象を、巧みに引き出して聴かせるが、低域は軟調、高域は硬調が基調で、古い録音のディスクにたいしては、同じオルトフォンでもやはりSPUのテリトリーであろう。
 新しいディスクには、その真価を発揮し、スクラッチノイズの質は軽く、ソフトで楽音に無関係で非常に見事だ。帯域レスポンスはナチュラルに伸びきり、音場感情報は豊かで、パースペクティヴな再現性は奥にも深々と引きがあり、聴感上での高いSN比をもつため、CDでは得られないホールの空間を聴かせるプレゼンスの豊かさは圧巻である。
 音のディテールを克明に引き出しながら全体のまとまりは崩れず、ピークでの音の伸び方に誇張感がなく、ナチュラルに無限の空間に際限なく伸びる印象すらある。
 音の表情は生気があり活き活きとした鮮度感が小気味よく、とくにコーラスなどのピークでも各パートがクリアーに分離され、いかにも、その演奏会場にいるかのようなリアリティのあるプレゼンスが聴かれる。
 ポップス系にもフレキシブルな対応を示し、抜けのよいパーカッションはリズミカルで反応に富み、混濁感皆無のハイレベル再生能力は、アナログディスクの極限をいくものだ。
 ストレートでパワフルな音は、いまひとつの不満が残るが、ヘッドシェルやトーンアームの選択でクリアーできるであろう。
 まさしく、MC7500は、カンチレバータイプで前人未到の領域に入った記念すべきMC型カートリッジである。

MC5000
 MC5000は、T7500と組み合わせて聴いてみよう。針圧とインサイドフォースキャンセラーは、適正値2・5gから始める。
 充分に伸びた帯域レスポンスと、音の粒立ちがよく、芯のクッキリとした安定度の高い音であり、細部をほどよく聴かせる一種の曖昧さは使いやすさにつながる長所であろう。針圧変化に対する音の変化は、MC7500よりマイルドで、2・6gプラスとすると彫りの深さが加わり、表情も活気づき、アナログのよさが実感できる好ましい音だ。
 新旧ディスクとの対応も良く、どちらかといえば、自己の個性を通して聴かせるタイプで、ポップス系も巧みにこなし、ほどよい強調感が快適で、リズミックな反応もよい。MC1000番シリーズでは個性派の音で、いかにもアナログディスクを聴いている独自のリアリティは、このモデルならではの魅力だ。

MC2000MKII
 MC2000MKIIは、シリーズの特徴を集約した音である。ほどよい鮮度感をもち、しなやかでスッキリした音は心地よい。やや受け身型の性質だが、ナイーヴさは独自の味だ。

私とオルトフォン

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井上卓也


オルトフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1994年2月発行)

「私とオルトフォン」より


 非常に個人的な独断と偏見で言えば、オルトフォンはSPUであり、それ以外の何物でもない。
 Stereo Pick Upという単純明解なモデルナンバーがつけられたこのモデルは、記録によれば、1959年の開発とのことであるが、最近のように世界の情報が瞬時に日本でも知れる時代と異なる当時では、非常に貴重な情報源であった内外のオーディオ誌で見たことはあっても、それが何であるかは皆目わからず、現実に聴くことができたのは、'60年代に入って数年後であったと思う。
 そのころ一部の国内のハイエンドマニアのなかにデンマークにオルトフォンありきとのニュースが伝わり、台湾のハイエンドマニアから、書籍の内部をくりぬいてSPUを収め、密かに輸入する人が現われ、それが想像を超えて驚異的に素晴らしいという。そして、当時の田村町(現在は西新橋と地名が変ったが)の一隅にあった、YL音響の吉村氏の事務所において、SPUと初めて出合ったのである。
 吉村氏は幻のホーンドライバー、ウェスタン555を復元しコンシューマー用としてYL555を開発した方で、モノーラル時代に夢の高域ユニットであったYLのH18を使って以来の知り合いである。そこで聴いた、中域以上を3〜4ウェイ構成とするスピーカーシステムとSPUの組合せは、じつに単純な記憶ではあるが、いっさいのビリツキなくレコードを再生するSPUのトレース能力の偉大さに驚嘆し、アッ気にとられたこと以外には、おぼろげな音の姿、形しかおぼえていない。そのときの昇庄トランスは、2次巻線のインピーダンスが、200Ω〜200kΩまで数種用意されており、スタンダードの20kΩで聴いた。また、昇圧比の低い200Ωに最大の魅力があり、200kΩにCR素子を組み合せAUX入力にダイレクトにつなぐ使い方も興味深いという話も聞かされた。
 オーソドックスなクォリティ最優先の使い方では、200Ω型の昇圧トランスは最適にちがいないが、当時のステレオプリアンプのSN比では実用にならず、このあたりを軽くクリアーしたのは、マランツ♯7が入手手きるようになってからのことである。
 いずれにせよ、現実に入手できるような価格でもなく、プログラムソースのステレオLPさえ買うことが容易ではない時代のことで、まさしく夢のカートリッジSPUであった。
 SPUの詳細を自分なりに納得のいくレベルで知ったのは、偶然のことから、当時代々木上原の近くにあったオーディオテクニカの試聴室の仕事をしてからのことである。
 そこでは、SPU・G、RMG309、20kΩ型昇圧トランスをリファレンスシステムとして、マランツ♯7プリアンプと組み合わせ、パワーアンプは、サンスイQ35−35、これに加藤研究所の糸ドライブターンテーブルと3ウェイホーン型スピーカー、サブにダイヤトーン2S208というラインナップで、当然、オーディオテクニカの各種製品は常時試聴できるようになっていた。ここで約3年間、SPUにつきあっている間に、SPUタイプのカートリッジをつくったり、この発展型にトライ、さらに、カンチレバーレスMC型へアブローチしてみたり、また逆に、MM、MI型の一種独特の心地よい曖昧さのある音にも魅惑され、しばらくは、ある種のクラシック系の音楽専用にしか、SPUを使わない時期がかなり長くあったように思う。
 SPUはたしかに独特の魅力的な音をもっているものの、当時の製品は、カンチレバーとスタイラス接合部の工作精度が悪く、いわばカンチレバーにスタイラスチップが串刺し状に取りつけられ、そのうえ取りつけ角度がまちまちで、少なくとも、数個のSPUからルーペで確認して選択しなければならなかった。しかも選択したモデルであっても、使い始めは音が固く、かなり使いこんでよく鳴りだしたら短時間に劣化する傾向があるため、よく鳴りだしたらつぎのSPUを購入し、エージングしておく必要があるという、いまや伝説的となった、SPUファンならではの悩みをもっていた。このことは、趣味としてはかけがえのない魅力でもあるが、この安定度のなさは、ストレスにもなり、SPUアレルギーにもなる原因で、個人的にもSPUをメインに使わなくなった最大の原因である。
 ちなみに、1987年のオルトフォンジャパン設立以後は、この部分の工作精度は格段に改善され、最近ではルーペでチェックする必要もなくなった。
 一時期は、工作精度と使い難さに加えて、SPU独特の曖昧さのある音が、トランスデューサーとしてふさわしからぬものと感じられ、それもSPUと疎遠になった要因であった。しかし、圧倒的な物理特性を誇るCDでも、音楽を楽しむためのプログラムソースとして、いまだ未完の状態であることを経験すると、アナログディスクの、音溝とスタイラスチップの奇妙で不思議なフレキシビリティのある接触からくる、大変に心地よい一種のゆらぎ感や、エンベロープをほどよく描きながら一種の曖昧さで内容を色濃く伝え、音楽を安心して聴けるところが、また一段と楽しいものとなった。それを究極的に伝えてくれるのがSPUで、ふたたびSPUを使う頻度は、格段に多くなっている。この、ある種の輪廻的な感覚は、かなり興味深い。アナログディスクの、聴感上のSN比が高く、音楽にまとわりつかぬノイズの質のよさは、非常にオーディオ的な世界なのである。
 SPU系の項点には、開発者ロバート・グッドマンセン氏が、生涯最高の傑作と自負するSPUマイスターが限定発売され、たしかに納得させられるだけの見事な基本状態と音を聴かせてくれるが、個人的には、もっともクラシカルでプリミティヴな、SPUクラシックに心ひかれる昨今である。

オルトフォン論

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菅野沖彦


オルトフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1994年2月発行)

「信頼と憧憬 オルトフォン論」より

 オルトフォンといえば、カートリッジの代名詞といってよいぐらい人口に膾炙している名ブランドネームである。とくに我が国においては神格化されるほど、この名前はオーラを放つ。しかも、それは、1950年代にまで遡って、多くの人々の絶大な信頼と憧憬の対象となってきたのであった。ご承知のように、LPレコードの45/45のステレオ方式が実用化したのが1957〜58年のことであるが、この方式が世界規格として普及し始めたと同時に、オルトフォンはSPUシリーズのカートリッジを開発し発売したのであった。以来35年を経た今日まで、このSPUシリーズの人気は衰えることなく、92年に発売されたSPUマイスターにいたるまで同シリーズはたえず改善に改善を重ね、驚異的なロングランを続けているのである。オルトフォンのステレオカートリッジとしては、このSPUの他にSLシリーズ、VMSシリーズ(M、MF、F型など)、MCシリーズなど、それぞれ構造の異なるシリーズが存在することもいまさらいうまでもないことだが、SPUシリーズの日本での存在感の大きさは特異といってよいもので、日本のオーディオ文化のひとつの象徴として捉え、考慮するのに値する現象だと思うのである。
 本書の発刊にあたり、その巻頭のオルトフォン論を書くように命じられたわけだが、僕としては、このSPU現象を自身のオーディオ歴を通して振り返りながら、その私的考慮をもって代弁させていただこうと思うのだ。
 SPレコード時代からオーディオマニアでもあった僕の装置は、ステレオ実用化の成った1958年当時は当然モノーラルであって、それは、かなりの大がかりなものであったため、おいそれとステレオ化する気持ちも、また財力も持ち合わせなかった。なにしろ、中学生時代から、高校〜大学を通して、自作システムでレコードを聴くことに最大の楽しみを見出していたオーディオマニアであったから、そのころには一応、自分としては終着に近い満足出来る再生装置になっていたのである。記憶をたどって大ざっばにそのラインナップを記そう。スピーカーシステムは12インチ口径のフリーエッジコーン型ウーファーで、磁気回路はフィールド型だ。ダイナックス(不二音響製)FD12というユニットで、これを自分で図面を書いて近所の家具屋さんに注文して作ってもらったコーナ型の密閉箱に収めたものだ。この低音部にコーラル(福洋音響製)D650、6・5インチユニットを3個をスコーカーとして使ったが、これはウーファーエンクロージュアの上部に平面バッフルを使って、3方向に振って固定した。そしてトゥイーターは東亜特殊電器製のHW7+AL1(ホーン+ディフユーザー)を使い、3ウェイシステムを構成したものだ。アンプは、プリ/パワー/電源と分離した。いまでいうセパレート型で、もちろん、管球式の自作だ。プリが12AX7を2本使ったCR型イコライザーで、当時のLPレコードの録音特性に5種類のカーブで対応させたマニアックなもの。RIAA、AES、CBS、NAB、FFRRという5種の異なったイコライザー特性に対応させたものだ。しかもロールオフとターンオーバーは別々の独立した多接点ロータリースイッチによるもの。パワーアンプの初段は6SJ7、位相反転に6SN7(1/2)もう1/2はパワー管のスクリーングリッドの定電圧用。終段のパワーは5932×2のプッシュプルでオートフォーマーは日本フェランティ製だった。電源部はアンプ用とスピーカーのマグネット励磁用とあって、整流にはアンプ用に5V4、スピーカー用にKX80を使ったと思う。肝心のプレーヤーシステムだが、これが一番思い出せないので困っている。ターンテーブルは、はじめは不二音響製のP6というリムドライブ型を使い、トーンアームがグレースのオイルダンプ(アメリカのグレイの製品のデッドコピーで、カートリッジも同じグレースのF2かF3(アメリカのピッカリングのコピー)だったと思う。しかし、この当時から、この道の先達が、オルトフォンのカートリッジについて技術雑誌にかかれていたのを見たりしてすでにこのブランドは知っていた。しかし、とてもとても身近に感じられるはずもなく、外国製のコピー段階にしかなかったが、国産のグレース製品の高性能で満足していたのだった。
         ●
 こんな装置であったから、ステレオのレコードが登場したからといって、このアンプ系とスピーカー系を2チャネルにすることは夢の夢。ここまでくるにも、〝ひいひい〟言いながら工面したお金であるから、とても無理な話。意地を張って、モノーラルで十分、否、モノーラルのほうが音の密度が高く、リアリティがあって、フワフワしたステレオ感や、左右への拡がりなどの効果に堕するステレオなんか......と頑張っていた。事実、どこでステレオを聴かせてもらっても、自宅のシステムを2倍にして対応したレベルのものがなく、カートリッジやトーンアームも45/45システムに経験が不足するせいか、実体感のないエフェクト走りの音が多かった。スタート時のことだから録音もステレオ効果の演出に気をとられたものが多かったように思う。
 しかし、レコードは新しいものが、どんどんステレオで発売され、それらの演奏を聴きたいとなると、プレーヤーからステレオ化を始め、L+Rのモノーラルで聴くのがよいと思い始めるようになるのである。この辺からが、プレーヤーの記憶が混乱し始めるのであって、スピーカーシステムやアンプ群は明確に記憶しているわりには、プレーヤーシステムのそれがあやふやなのである。
 ところが、いつかは、はっきりしないけれど、オルトフォンのSPU−GTカートリッジを買った記憶は実に鮮明なのである。たぶん、'63〜'64年ぐらいの時期だと思う。トーンアームは少し後になるがRMG212を買った。ガラードのターンテーブル401と一緒だったと記憶する。
 なにしろ、このオルトフォンのSPU−GTを店のショウケースの中で眺めること数ヵ月以上......たぶん、半年ぐらいは経過したと思うが......僕にとってそれは、そこに部品として置かれている存在を超えて、まるで、完成した機能をもつ腕時計のように見えていた。つまり、あのGシェルのふっくらとした豊満な容姿のように、豊かで滑らかで、重厚で、輝かしい音そのものとイコールに感じられることに、なんの疑いも持たなかった。その時、このカートリッジを買っても、僕の装置はステレオで鳴ってはくれない。第一、オイルダンプのトーンアームには取付けられないのである。まず、トーンアームを変えてからでなければ使えないことは百も承知であった。オルトフォンかSMEか、あるいは、ようやく出はじめた国産の4ピンコネクターのユニバーサルタイプかを用意する以外に、このカートリッジの音は聴けないのだ。しかし、それでもいい。あの赤い小箱に入った黒光りのGシェルにとりつけられたSPUが欲しい! オーディオ雑誌の誌上でSPU−GとGTの比較試聴記も読んだ。Gはトランスがないから、別に用意する必要がある。インピーダンスの低いSPUの真価を引き出すトランスとなると容易ではないそうだ。GTだと、そのGシェルの中にトランスが組み込まれ、そのままMM並みに使えるという。たぶん、亡くなられた岡先生だと思うが、下手な別付トランスよりも、GTの内蔵トランスのほうがオルトフォンのSPUらしい音がすると述べておられた。自重は当然重いが、トータルウェイトが大きく、高感度なピックアップのほうが実用上、安定していて音も好ましい......と、どの先生の影響か知らないが、僕はそう考え納得していた。SPU−GTが欲しい。大好きで、大切なレコードの溝に食い込んで、無限の美的情報を引き也し、生き生きと音楽を表現してくれる魔法のジュエリー......それがSPU−GTであった。
 もう、このころには国産のステレオカートリッジもクリスタル型、MM型、MC型などが多くのメーカーから発売されはじめていたし、海外製品もアメリカのシュアー、ドイツのエラックなども入っていたと思うのだが、「オルトフォン神話」は我が国のオーディオ界に布教され始めていたのである。その熱心な信者の一人が僕であって、来る日も来る日も、銀座のヤマハへ通い、その御神体を拝んでいたのである。当時、僕の仕事場は有楽町にあったから、スタジオのスケジュールの合間にはいつも、西銀座アーケードの中のテレビ音響か、6丁目か7丁目にあった老舗の井上商会、あるいはヤマハ銀座店などを廻っていたのである。レコードは、ヤマハ銀座店のほか、山野楽器、イエナ、ハルモニアなどがなつかしい......。
 とにかく、こんな状況でこの御神体を拝んでいた僕だったから、たとえトーンアームがなくても、アンプやスピーカーシステム系がモノーラルでもよかったのであろう。買ったのだ。トーンアームまで買うお金がなかったから、とりあえず、カートリッジを手に入れ、ためつすがめつ、この尊い御神体を赤箱から出したり入れたりしていたのであった。また、あらためて、オルトフォンに関する記事の出ていた雑誌を記憶をたどってさがしては、何度も何度も読みふけるという楽しい一時を持ったものだ。こういう時の幸せなこと! Gシェルにはワックスまでかけてしまった......。メイド・イン・デンマーク。デンマークという国に大変興味をもった初めである。その後、この国は、僕にとって大変、縁の深い国になるのだが、当時は、ただただ、レコード音楽を愛し、オーディオ好きで、録音制作を仕事とする人間の掌にのせることの出来る宝物であったのだ。この後、急速にプレーヤーの改良が進み、プレーヤーシステムだけがステレオ化されるのであるが、このあたりの下りは、あまりにも長くなるので割愛させていただく。しかし、この時以来、僕にとって、オルトフォンのSPUシリーズとSLシリーズ、MCシリーズとは、切っても切れない結びつきとなり、いまだにSPUマイスターを最高のカートリッジのひとつだと思っている。もちろん、最新のMC7500もだ。
         ●
 SPU−GTという御神体を拝受してから、およそ10年の年月を経たころ、僕は生れて初めてデンマークという国を訪れる機会を得た。しかも、まったくのプライヴェート旅行として、仕事の終わったスケジュールを延期してコペンハーゲンのカストラップ空港へ降りたのである。目的はパイプであった。スモーキング・パイプである。これも話し出したら、とてもとても与えられた字数の中では述べられないストーリーであって、僕にとっては運命的というほかにない因縁だ。しかしここでは、僕の客観的なこの国への礼賛だけを述べさせていただくに止めざるを得ない。
 東京の人口の半分にも満たない小さな国、デンマーク。しかし、この国の素晴らしさについて述べるとなると、これまた大変だ。酪農国としての基礎を確保しながら、現代的な科学技術や芸術の水準がきわめて高い。例えばお比Dオではこのオルトフォンのほか、B&O、B&Kなど世界の一流ブランドが少なくない。マニアにとっては、小さな専門メーカーもお馴染だろう。プライマーやグリフォン、ダリ、そして、多くのスピーカーユニットなど、とても人口500万人の国のオーディオ産業とは思えない。モダンアート、ポスト・モダンアートの世界でも有数の実績をもつ。世界初の発明も少なくない。ロケットのフォン・ブラウンもデンマーク人だ。そして、世界初のトーキーシステムもこの国の発明。システム・ピーターセン・ポールセンという名称のサウンドフィルムがそれで、1923年10月12日にコペンハーゲンのパレスシアターで上映された。そして、のピーターセンとポールセンの2人こそがオルトフォンの創業者なのである。本誌には詳しい同社の歴史が掲載されるであろうから是非参照されたいが、オルトフォンの前身であるエレクトリカル・フォノフィルムA/Sは、この2人によって1918年10月創立されている。そして、オルトフォンのレコード再生技術の優秀性をもっとも説得力強く裏付けるのが、この社が1940年代から20年以上にわたって、レコード製造機器の総合メーカーとして数々の優れた機器とシステムを世界中のレコードメーカーに提供してきた事実である。カッティングシステムから原盤製造システム、そしてプレス機にいたるまで製造してきたメーカーなのである。SPUシリーズカートリッジの開発者として、最近では在職50周年で、デンマークの女王から勲章を授与されたことを記念して開発したSPUマイスターカートリッジで有名な、ロバート・グットマンセン氏も、カッティングヘッドとの密接な関連において再生カートリッジを設計したメリットを認めている。
 現社長のエリック・ローマン氏が、今日のアナログ機器の縮少した現状の中でその灯を絶やすことなく、カートリッジ製造に執念を燃やしているが、こうした名門の誇りを継承する情熱があればこそ可能なことであって、ただ、ビジネスとしてだけで経営を続けることは不可能に近いであろう。オルトフォン社の新しい開発が、ただたんに古い製品のリメイクに終止することがなく、かといって、アナログ末期に日本のメーカーが陥った、ムーヴィングマスの軽量化や、それに伴うハイコンプライアンス化、軽針圧トレース競争のような馬鹿げた偏向的技術開発に走らず、真に実技的な安定性を重視しながら、新素材による新技術開発で、アップトゥデイトな新製品としての魅力を創造している姿勢こそ、尊いものだ思うのである。
 オルトフォンがもっともアナログに精通しているメーカーであることは十分ご理解願えるであろうし、何故に我が国において、とくに評価が高く、神話化されるまでにいたったかという理由も垣間見ていただけたら幸いだ。アナログレコードの歴史を作り続け、歩み続け、カートリッジやトーンアームという再生機器を、レコード製造機を作るメーカーとしての技術思想の対として生み出したところが肝心なのである。そして、その原点を伝統とする姿勢を維持し続けている精神も立派なものであるが、それは、日本のユーザーの支持なくしては難しかったかもしれない。明確な数字は知らないが、アメリカやヨーロッパ諸国における愛好者、支持者の数に勝る日本のユーザーがいるのではなかろうか。1950年代以来のオルトフォンの布教活動に殉じた日本のオーディオ界の先達や、それを引き継いできたという実感を持つ僕のような信奉者達、そして、それを理解する高い感性と知性の持主である日本のオルトフォン愛好家諸氏の力、このオーディオ文化を生み、育んだ日本という国の独特のカルチュアにあらためて興味が湧いてくる。オーディオ業界の不況の中にあっても、僕の実感では、オルトフォンファンに代表されるようなアナログディスク愛好家や、ハイエンドオーディオ・エンスージアストの情熱にはまったく衰えが感じられないのである。今世紀に確立したこのレコード音楽とオーディオによる新しい音楽のカテゴリーは、純粋に音だけによる無限の音の美の追求を核として、今後、より高い価値感で認識されるようになるだろう。
 オルトフォンとは「純粋な音」というギリシャ語だ。

オルトフォン SPU Classic AE

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菅野沖彦


オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)

「世界の一流品 アナログプレーヤー/カートリッジ/トーンアーム/その他篇」より


 同社がカートリッジメーカーとして王者の地位を不動のものにしたのは、何といってもSPUシリーズだといえるだろう。ステレオレコードが発売された1950年代の後期に発表されたSPUは、MC型カートリッジの評価を確固たるものにしたのである。SPU−AとSPU−Gシリーズがシェルの形状の違いによって作られ、Gシェルは卵型のふっくらとしたシェイプで魅力的なアピールをしたし、AシェルはRをもった角型で、よりプロフェッショナルなイメージが強かった。さらに楕円針が登場してからGE、AEという末尾にEのついたモデルナンバーが登場したが、この製品はそのAEのレプリカといえるものである。もちろん、SPU−CLASSIC−GEもあるし、丸針仕様のGとAもある。いずれにしても違いは針先チップ形状とシェルの形状であり、基本的にはオリジナルSPUシリーズの忠実なリモデリングである。SPUシリーズの豊潤な音はアナログディスクの情感的魅力の再現に最もふさわしい音といえるだろう。その濃密な陰影、艶のある高域と力強い低域の再現する独特の質感は脂肪ののったバタ臭さとでもいえるであろうか。欧米の音楽の素材としての音の質感として大変魅力的なものである。

オルトフォン MC5000

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菅野沖彦


オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)

「世界の一流品 アナログプレーヤー/カートリッジ/トーンアーム/その他篇」より


 オルトフォン社はデンマークで1918年に創立されたメーカーだから歴史と伝統は古い。レコード産業機器の総合メーカーとしてプレス機からカッティングマシーンとヘッド、そしてそのアンプなど一貫したプラントメーカーとしての全盛時代が懐しい。オーディオ再生の分野では何といってもMC型のカートリッジとトーンアームのメーカーとしての印象が際立っている。このMC5000は、そのオルトフォンの最新最高のカートリッジであるが、その本機がトレース針圧を最適値2・5gと定めているのが興味深い。線材からマグネット、カンチレバー、針先チップ、筐体のすべてを現代のハイテクでつめた最新のMC5000の素晴らしさは数々あるが、それらを2・5gを標準とする針圧でトータルバランスさせたところが、いかにも老舗らしい回答ではないか。発電系を含め、トーンアームやディスク溝の実情、さらに家庭での実用性のトータルから決定されるべき適正針圧は2〜3gというのが正しいことを示した一流メーカーと一流品の見識というべきだろう。アナログ機器を今も作り続けるオルトフォンこそ、やはり最後までカートリッジの専門メーカーであり純粋なオーディオメーカーだった。

EMT TSD15, XSD15

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瀬川冬樹

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 オルトフォンSPUの音の渋い豊かさに加えて、レコードの溝のすみずみまで拾い起こすようなシャープな解像力の良さ、音の艶と立体感の表現力の幅の広さ、これ以上のカートリッジは他にない。TSDはEMTのプレーヤー専用で、日本で広く普及しているSME型コネクターつきのアームにとりつけられるようにしたものがXSDだが、そのことでEMTの真価を誤解する人もまた増えてしまった。このカートリッジは昨今の一般的水準の製品よりもコンプライアンスが低いため、アームを極度に選ぶし、高域にかけて上昇気味の特性は、下手に使うと手ひどい音を聴かせる。トランスやプリアンプを選ばないと、その表現力の深さが全く聴きとれない。難しい製品だ。

グレース F-9E

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岩崎千明


スイングジャーナル 7月号(1975年6月発行)

「ベスト・バイ・コンポーネントとステレオ・システム紹介」より


 グレースはグレース・ケリーのグレースと同じ綴り、などというと年が判っちゃうかな?。グレースのグレースは高尚とかいうが、実はグレイからもじられたグレースというのが多分本当だろう。
 グレイというのは、昨年来、日本市場にも再度10何年ぶりにお目見えした超豪華プレイヤーについていたアームのブランド名だ。しかし再度と知っているオールド・マニアにとっては、グレイはオイルダンプド・アームの本家としてモノーラル時代に世界を圧した業務用アームの老舗である。この誇りあるのれんの重さは当時にあっては並ぶべきものが全くなかったほどだった。
 やがてステレオ期になって、軽針圧カートリッジ時代に入るとぷっつりと姿を消して、その名も絶えてしまったのが本家の米国グレイ社であった。マイクロトラックというブランド名の重量級プレイヤーについている武骨なオイルダンプ・アームは、まぎれもなくグレイ社の製品であったのを懐かしむ者もいたはずだ。本家のグレイが落ちぶれたのに対して日本のグレースは、ステレオになるやMM型カートリッジの秀作F5、F6とヒットを送りさらに400シリーズから発展した500シリーズの軽量級パイプ・アームが市場を長い期間独占していた。
 こうした成功は決して僥倖によるものではなくて、ひとつの製品を土台にしてその改良を絶えず行ない、さらにその集積を次の新製品とする、という偉大なる努力を間断なく続けてきた結果のF9シリーズは、それらの技術的姿勢の賜物というべきだろう。だからこのF9も決して他社のように新製品のための新型ではない。技術の積み重ねが得た止むに止まれずに出てきた新製品なのである。
 F9はMM型メカニズムとして従来のF8と全く異るというわけではないが、その磁気回路とコイルとの組合せによって成立する構造は従来のF8には盛り切れなくなって達した新機構ということができる。それは、しばしばいわれるように、シュアーV15がタイプIIIになって新らたなるメカとなったことと共通しているといえようか。だから wv9は、よくシュアーのV15IIIと比較されることもあるが、その違いはF9の基本的特性が素晴らしくのび切ったハイエンドを秘めているのに対してV15タイプIIIは必ずしも数万ヘルツまで帯域が確保されているとはいい難い。それどころか最近多くなったCD4ディスクへの対応という点ではV15タイプIIIはもっとも弱い立場にあるともいわれる。F9のデーターにみるフラットな再生ぶりは、類がないものだ。

プロ志向に徹したマニア・ライクなシステム
 こうした技術データーの優秀性はそのまま音の上にもはっきりと感じとることができ、澄み切った音は今までになく透明で、しかも従来のような線の細さがF9になってすっかり改められ、力強さを加えていることだ。これは中高域における1dB以内とはいえレベル・ダウンがなくなったことが大きなプラスとなっているのだろう。つまり、解像度はよいが繊細すぎるといわれた点の改善である。
 こうした音色上の改良点は、そのまま再生上の水準を大きく引き上げることとなりF9になって海外製品との比較や組合せが、心おきなく可能となったのは大きな収穫だろう。
 このF9を生かすべき組合せは、この透明感と無個性といいたくなるほどのクセのない再生ぶりを生かすことだ。そのために選んだのが、これまた音の直接音表現で名をはせるテクニクスのアンプである。
 テクニクスはこうした面での再生を高いポテンシャルで実現する点、国産高級アンプ中でも無類の製品だ。かつてはSU3500で価格の割高なことがマイナスとならなかったロングセラー・アンプであることは有名だ。日進月歩の今日3500は3年を迎えて、今でも第一級なのだから。この3500以来テクニクスのアンプの優秀性はひとつの伝鋭となったくらいで、その最新作9200セパレート型アンプ、 引き続いての9400プリメイン・アンプと、どれをとっても透明そのものの再生ぶりがメカニックなプロフェッショナル・デザインと共にユーザーに強い印象を与え、多くのテクニクス・アンプの支持者を生むことになったのだ。
 プロ志向にあこがれるのはベテラン・マニアだけでなく若いファンとて同じなのだ。
 さて、このF9プラス、テクニクス・アンプとプロフェッショナル志向の強くなった組合せは、プレイヤーにデンオンの新型、コストパーフォーマンスの高いDP1700を選ぶのは妥当だろう。このアームはデンオンのプロ用直系で、F9にとってグレース・ブランドのオリジナルと同様好ましい動作が期待できよう。
 またスピーカー・システムに関してもプロフェッショナル志向という点で、サンスイのモニター・シリーズを選ぶのはごく自然な成り行き、結着といえるだろう。ここではモニター2115、つまりLE8Tのプロ用ユニットを収めたやや小型のブックシェルフ型だ。さらに大型の10インチ2120も考えられる。しかし、ただ一本でできるだけ良質の再生ということからは、この2115こそもっとも妥当なセレクトといってよい。
 このシステムで再生したラフ・テスト盤のフォノグラムの最新作「ザ・ドラム・セッション」の端正きわまりない再生ぶり、底知れぬ力に満ちたドラムのアタックと4人の個性的なサウンドと、その奏法のおりなす生々しい展開は試聴室をスタジオの現場と化してしまうほどであった。そのスケール感と定位の良きは、F9の基本的性能の良さを立証するものに他ならないといえよう。
 このシステムから流れ出るサウンドは.なぜか聴き手を引き込むようなサウンドであり、しばらくはSJ試聴室でだだただ興奮!

オルトフォン SL15MKII

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岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 名作SPUをより広帯域化、フラットな周波数特性を、はっきり意図した現代版MC型。デリケートな表現力と、豊かな低域の響きとで今やオルトフォンMC型の主力製品だ。

AKG PU3E

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 この上のPU4Eがあるが、中~高域がおとなしいよりもかすかに鈍い、あるいは曇った印象で、少しクセはあっても3Eの切れこみの良さの方が、総合的にみて好きだ。

オルトフォン SPU-GT/E

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 製品のバラつきも少ないとは言えず、むかしのSPUと最近のとではずいぶん音質も変っているが、それにしてもこの音はほかのカートリッジからは絶対に聴くことができない。

オルトフォン SL15Q

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 SL15がマークIIに変った当初は、変に高域のギスギスと骨ばった音で驚いたが、最近の製品は音のバランスも改善され、歪感の少ない細身の音質でSPUと別の魅力を聴かせる。

シュアー M75ED TypeII

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 楕円針がついたことと、振動系の調整が少し違うことでM75Gよりも音のキメの細かさが増している。製造中止になった旧型V15/IIのニュアンスをわずかに残している。

シュアー M75G TypeII

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 改まった鑑賞用というよりむしろイージーリスニング用として、トレースの良いこと、音のバランスの良いこと、価格にくらべて音に適度の魅力もあることなどを評価する。

EMT TSD15

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 このカートリッジの音質を本当に生かすには、専用のアームとトランスをなるべく併用することが望ましい。一方では、スピーカーのレベル調整さえ、やり直す必要がある。

瀬川冬樹


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 以前のシリーズよりも音色はやや冷たく硬質な方向になり、この音を金属的と形容する人もある。万能型ではない。この上に555、655とあるが455の方が使いやすく安定。

B&O MMC4000

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 SP15の高域の冷気を感じさせる味わいも捨て難いが、総合的な音のバランスで、やはり新型のMMC4000の方が優れている。実に自然でくせのない音質。

デッカ Mark V/e

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 高域の線の細く鋭い音色はB&OのSP15と一脈通じる部分もあるが、華やかさと渋さの入り混じった独特の音質は他のカートリッジからは聴けない個性だろう。

EMT XSD15

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 日本で普及しているSME型のコネクターに合うよう供給された製品だが、SMEを含む軽質量アームを避けて、ダイナミックバランスやオイルダンプと組み合わせること。

オルトフォン VMS20E

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 余韻を大切にしたやわらかい雰囲気の再現はあきらかにオルトフォンの血統を感じさせる。ただ、高域の妙に鋭い製品をほかのところで聴いたことがあるので少し気になる。

エンパイア 4000D/III

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 欧州系の音に共通のウェットな、余韻の美しい鳴り方に対して、乾いた質感、直接的かつ即物的な表現で、ジャズやポピュラー全般、あるいは打楽器系に絶対の強みを聴かせる。

瀬川冬樹


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 温度や湿度の多少によって、同じ製品の音質やトレース能力が大幅に変化するということは、カートリッジの判定のむずかしい面である。加えて、トレースするレコードのメーカーによって、またカッティングやプレスや盤質によっても評価が変わる。ヘッドシェルやアームとの組合せでも変わる。したがって、ある饋還手もとに置いて、思いつくままにあらゆる条件のレコードをまんべんなくかけて、総合的な判断を下さなくてはならない。そうしているうちにどこか欠陥のあるカートリッジはいつのまにか脱落してゆく。

ビクター X-1

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岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 ベリリュウム・カンチレバーは、従来のビクターのカートリッジ共通の華やかだが芯のない音とは一変して、ガッツを感じさせる音だ。ただ交換針の高いのは外国製品なみ。

オルトフォン SPU-GT

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岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 Gシェルの中にミニトランスを組込んで使いよさを向上した標準製品。シェル内部という優れた格納スペースは秀逸な着想で、出力はMM型より大きい。本体が重いので注意。

岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 世界にその優秀性をうたわれるテクニカの最高級新型は、クリアな透明感に力強さも感じさせ、今まで以上の優れた安定したつい銃声をもち、高級品たる資格にふさわしい。

オルトフォン M15E Super

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岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


必ずしも優れた周波数特性ではないにしろ、この豊かな低域と力強い輝きある中域は、まぎれもなくオルトフォン直系の色を濃くもっている点で、私を含め愛用者は少なくない。

オルトフォン M15 Super

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岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 丸針付のM15は使いやすさで一段と一般向けといえる。安定した音とトレース性能、とくに針圧の大幅な許容範囲が特長で、それがオルトフォン愛用志向の初心者用製品。

オルトフォン SPU-G

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岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 いわずと知れたオルトフォンのMC型オリジナルだ。低域から中域にかけての力強さ高域の輝かしさが、たとえようもなく音楽を豊かにする。誰しもが一個は持ちたいと思う名作だ。

エンパイア 4000D/I

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岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 シュアーを目標とした新技術の成果は4000に至って為し遂げられたとみてよい質とサウンドをもつ。世界的なネームバリューに劣るとはいえ、目下急追中の高品質推薦品だ。

ピカリング XV15/1200E

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岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 ピカリングの最高級品種は、広帯域の中にクリアな高域と力強い低域を加えたともいえる再生ぶりに、ピカリング中最軽針圧動作で高級品らしい製品だ。特にハードロック向き。

シュアー V15 TypeIII

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岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 シュアーブランドの日本におけるめざましい進出の尖兵がV15であった。世界のすべてのメーカーの目標とされる高品質も誇りも少々ありふれてきたが、傑作には違いない。

デッカ Mark V

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岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 丸針によって音の安定度は格段に増し、力強さもガッシリとした感じが加わり、一般的な使い方ができよう。激しい立上りもいくぶんなめらかさが加わるようだ。デッカ入門用。

デッカ Mark V/e

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岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 個性的という点で、あらゆるオーディオ製品中もっとも強烈な魅力がこの身上だろう。この魅力に惹かれ、一度とりこになったら生涯手離せなくなることの方が恐いだろう。

デンオン DL-103S

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岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 103を、より広帯域化しよりデリケートな表現を可能にした改良は、より一般的高級ファンに受け入れられよう。出力の低下も僅かで、専用トランスはそのままだから便利だ。

ソニー XL-45

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岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 いかにも現代風のサウンドといえる鮮明度を、安定したトレースと音にプラスして手慣れた腕による高い完成度の新製品が突然のようにソニーブランドからデビュー。

デンオン DL-103

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岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 国内製品中最高の信頼性と音の解像力と定評に裏づけされファンは少なくない。クリアなサウンドは迫力も十分で引きしまった響きは原型といわれるオルトフォン以上の鮮明さ。

グレース F-9F

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岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


グレースの、最新最高級の優秀品。優れた周波数特性、極めて安定したトレース性能がベストセラーの裏づけだ。大ヒットしたF8の品の良い明るさを加えている。

ADC Q36

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岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 使いやすさという点で、今までのADCカートリッジの最大弱点を補ったQシリーズ中のベストクラスは、帯域の広さもあり安定した音とトレース特性で誰にも推められる。

岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 MM型の元祖としての貫録が製品にやっと反映した優秀品。トレースと音の安定性はすばぬけ、中域の充実感もヨーロッパ製品らしく、広帯域再生用のもっとも好ましい優秀品。

オルトフォン VMS20E

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岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 オルトフォンのサウンドも一段と広帯域に拡大され、米国製品への対抗姿勢が感じられるものの音色の確かさと力強さは、さすがに技術以上の魅力となって高級ファンの目標だ。

岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 MC型でスタートを切った専門メーカーの最新製品は従来より一段と力強さと輝きとが加わり、繊細なる国産共通の音に新たなる魅力を加えた。専用トランスの組合せが条件。

エンパイア 4000D/III

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岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 シュアーを意識するあまりか線の細い音に傾斜していたエンパイアも4000では、従来の力満ち張りのある中低域と輝きをとり戻し、デリケートすぎた適性針圧を格段に改善。

マイクロ LM-20

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岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 受注生産といわれるだけあって、一個一個造られ調整され、抜群のトレース性能とモニター的な粒立ちのよい音でマニアの間に秘かなセラーを続ける特長的傑作といえよう。

岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 国産の高性能カートリッジの中にあって、音は力と輝きを感じさせる数少ない優秀品。とくに楽器のサウンド、歌に張りのある再生ぶりがいい。交換針が安いのも嬉しい。

テクニクス 260C

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岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 あまりにフラットというべきか、無機的なほどの無個性な個性。音が細身なのがちょっと気になるが、これほど色づけのなさを感じさせるのも大きな魅力といえよう。

オーレックス C-407S

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岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 冷たいほどのクリアな立上りと解像力は独特のエレクトレット・コンデンサー型のミニマム・マスのためか。よく聴き込んでみると透明度抜群なのを知ろう。

岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 もし初心者であれば、最初のコンポーネントユニットはカートリッジの選択から始まるに違いない。他のパーツよりも出費は少なく手軽に音質変化や向上が認識できるからだ。さらにグレードを高めるときにはスピーカーなりアンプなりに眼や意識は方向転換していく。そして次にシステムとして二回りや三回りも向上を遂げた後であるに違いなく、今度はちょっとやそっとのグレードでは納まらない。つまりもっと高いレベルを目差してのカートリッジの選択条件となり、それは当然厳しくなってくる。

AKG PU2R

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岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 マイクでおなじみAKGの新参カートリッジ中の一般級。バランスの良い帯域は、中高域のくっきりした特長と安定性で、はっきりした個性を感じさせる魅力あふれる音。

ピカリング XV15/400E

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岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 ピカリングとしてはかなり平坦な周波数特性を音からも感じられごく安定したその響きは、やや繊細感がものたりないとはいえあらゆる音楽にも応じ、迫力と豊かさが得られよう。

スタントン 500A

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岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


ピカリングの業務用として、とくに広い帯域は望まないにしろその中域を主体とした安定した音とトレースとで、少々針圧を増せば使いやすいことこの上なしだ。

グラド FCE+

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岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 あまりみばえのしない外観はグラドの共通的なマイナス面であるが、その音の安定ぶりと鮮かな再生ぶりでまったく見直される。より高域までの再生帯域と繊細さがプラスだ。

岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 やや高域不足ともいえるがバランスの良さと中声部の安定した力強さから、超ロングセラーを続ける製品でとくに音楽を選ばぬ再生ぶりも広く一般用としてふさわしいものだ。

グラド FCR+

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岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 思いもかけぬ、という言い方どおりこの品質は価格から判断できぬ充実した音だ。中域のくっきりした力のある音と豊かな低域は、米国製らしからぬ優れたサウンドと追従性。

オルトフォン SL15Q

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岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 MC型として世界最初のCD4対応型。ずばぬけた超高域特性から、ステレオ用としても優れた対応特性を示す。ひとつにはイメージアップの製品ともみられるが割安だろう。

オルトフォン SPU-A/E

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岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 Gタイプよりも一段と重厚さと音像の充実感をもち、クラシックのベテラン音楽ファンにとってより大きな魅力を感じさせよう。本来業務用の製品で、やや重い針圧が必要だ。

テクニクス 405C

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菅野沖彦


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 物理特性を追求した見本のようなカートリッジで、ティピカルな音質傾向をもつ。冷たいという感覚も生まれるが、正確無比な音溝再現を感じさせるさっぱりした音が特長だ。

グレース F-9U

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菅野沖彦


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 出力電圧がやや低いことをのぞくと、きわめて堅実実用度の高い、優れたカートリッジである。F8シリーズより音がしっかりしていて豊かな肉づきが感じられる。

オルトフォン F15

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菅野沖彦


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 オルトフォンの作るMI型のカートリッジの中でもっとも安価ながら、さすがに落着いたバランスでプレゼンスのいい音場が再生される。0・6ミルの丸針つきで堅実な製品。

岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 オーディオテクニカのもっとも代表的カートリッジで、帯域の中心にひ弱さがないのが、国産品では珍しい。安定したトレースとクリアな音で広く一般に推奨。交換針も安い。

オルトフォン SPU-GT/E

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菅野沖彦


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 オルトフォンのカートリッジの代表といってよいMC型。現役製品とはいいかねるが、その艶、豊潤さ、重厚な肉付きなど、少々の特性の悪さを上廻る音の魅力の強みだ。

オルトフォン FF15

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岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 オルトフォンの中域から低域への力強く豊かなサウンドを主軸に、ややソフトな中高域とくっきりした高域で海外製らしく幅広い音楽に応じられ、トレースの安定性も優秀。

菅野沖彦


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 VM型カートリッジ特有の鋭く明解な音像再現に暖かいニュアンスが加わって高い完成度に達した製品。あいまいさがないところが好みの分れるところだろう。

岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 ややソフトな中域と優れたバランスは豊かな低域が大きい支えだ。針圧に対する余裕が幅広いユーザーに適応しよう。ヨーロッパ製を、というときには誰にも推められよう。

シュアー M75ED TypeII

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菅野沖彦


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 彫像のクッキリとした再現はシュアーの製品に共通した特色だが、これは中でも品位の高い再生音をもつ。値段は比較的安いが性能は最高水準といってもよい。安定度抜群。

シュアー M44G

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岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 安定したサウンドとトレース能力でシュアーの偉大なる特長を凝縮したといえる。どんなソースにも無難にこなし、けっして広帯域ではないが優れた再生で誰にでも手軽に使える。

エンパイア 999SE/X

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菅野沖彦


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 同社の安いカートリッジだが音質はなかなかいい。しっかりした解像力で輪郭の明確な音像が再現され、かつ、デリケートな間接音もよくでてプレゼンスもいい徳用品だ。

ピカリング V15 MICRO IV/AM

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岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 きっすいの米国伝統的カートリッジ、ピカリングの製品中、鮮麗な音の高出力を特長とする使いやすい一般用。やや針圧を増すのが安定したトレースと再生音を得るコツだ。

シュアー M44G

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菅野沖彦


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 シュアーの安価なカートリッジだが、安定性は同社の製品に共通して保持されている。出力電圧も高くSNのよい、しっかりした音が再生される。徒らに神経質でなく好ましい。

パイオニア PC-1000

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菅野沖彦


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 新素材をカンチレバーに活かした同社の最新最高級のカートリッジ。音の腰が硬く、音像の輪郭は明確そのもの。ロックの激しい複雑な波形の再現に威力を発揮する。

エンパイア 909/X

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岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 張りのある腰の強い低域と鮮かな高域が好ましく、広帯域にプラスされたエンパイアらしい音と、ラフに使える幅広いトレース能力が初心者にも安心して手を出せよう。

菅野沖彦


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 実に充実感を豊かに感じさせるカートリッジ。内声の厚み、低音の弾性と豊かさは音が決して無機的な冷たさにならず、音楽に生命感を与える。トレーシング能力、安定性も一級。

EMT TSD15

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岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 業務用ということで入手し難い点が、ますます評判を高める。MC型ながら軽針圧かつ出力もかなり高く入力トランスなしでもまず使える所が嬉しい。繊細感プラス鮮明な迫力。

オルトフォン SPU-G/E

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岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 楕円針で高域のレンジと解像力を大きく改善し、SPUも鮮明さを一段と強めて現代の音楽ソースに対応したとみてよい。SPUファンにとって、これは頂点の目標だろう。

ビクター X-1

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菅野沖彦


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 CD4再生に必要な高域特性を保持することと、従来の2チャンネルの可聴帯域での快いバランスとの両立をかなりの線で達成した製品で明解な再生音が得られる。

菅野沖彦


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 FRのMMカートリッジの最高峰らしく緻密でさわやかな分解能をもち、高域の透明感が気持よい。出力電圧も高くSNが大変よいことも濁りを少なくしているのではなかろうか。

パイオニア PC-1000

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岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 プレーヤーで名を馳せるパイオニアが、カートリッジに対し意欲を示した驚異的製品。パイプ状のベリリュウムカンチレバーは世界ただひとつ。未来を志向する先取り型の傑作。

岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 シュアーなみに使いやすく、性能面でも最高級655に匹敵する実用的な高級品。米国系のMM型の線の細い音に不満の際、選ばれる最右翼のMM型として推薦ナンバーワン。

スタントン 681EEE

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岩崎千明


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 物理的な性能の良さが聴感上で感じられるカートリッジである。さして積極的に演出を加えるタイプではないだけに面白さはさしてないが安心して音楽が聴けるのがよい。

シュアー M91ED

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菅野沖彦


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 シュアーらしい明解さを持ち、切れ込みがよいさわやかな音を再現してくれる。輝かしい高音部は好みの分れるところかもしれないが、レコードの音楽的効果を上げる。

デンオン DL-103S

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菅野沖彦


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 オルトフォンタイプの103をさらに改良し、ハイ・コンプライアンス化したS型はAU320トランスとの併用で偏色のない音を再生する。嗜好を満たす音色も持っている。

ソニー XL-45

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菅野沖彦


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 新素材を新しい製造法で実用化したカンチレバーをライン・コンタクトの特殊形状針との併用で高域の特性やトランジェントが優れたものとしたものでシャープな切れ味だ。

スタントン 681SE

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井上卓也


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 軽針圧傾向がいちじるしい最近のカートリッジのなかでは、比較的針圧を加えるタイプである。音質面でも特性面でも標準型に属し、堅実な点が大変に好感のもてる製品だ。

井上卓也


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 独自のV字型マグネットをもったテクニカの中級機である。もっともらしい音質のコントロールが感じられず、直線的に音楽を表現する点が良くも悪くも特長であり、個性である。

井上卓也


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 FRのMC型カートリッジとしては、もっとも古い製品である。やわらかく、透明感をもった繊細なこのカートリッジの音は、発売当時よりも現在の方が個性的と受取れる。

ADC Q36

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菅野沖彦


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 ADC独特のIM型カートリッジの中では新しいシリーズだが音は豊かで骨太だ。従来のADC製品にあり勝ちだった神経質なところがなく安定したトレースが得られる。

B&O SP10

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井上卓也


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 比較的ローコストなカートリッジながら音色が明るく、それでいて適度の抑制がきいた音を聴かせてくれるのはSP10の特長である。キビキビとした性格の音は健康的だ。

エンパイア 1000ZE/X

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井上卓也


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 いわゆるハイファイ的な傾向が感じられないために表面的な華やかさはないが、内面的な密度の高さは素晴らしい。陰影の濃い音色は、かけがえのない都会的な魅力である。

グレース F-8C

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井上卓也


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 F8L以来、確実に積み上げられた性能の向上は、すべてこのF8Cに結実しているように感じられる。F8Lのスタンダードな性格の上に緻密さと華やかさが加わっている。

オルトフォン SPU-G/E

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井上卓也


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 移り変りの激しいオーディオ製品のなかにあって驚くほどの長期間にわたり王座に君臨している事実はさすがである。最近やや変化の兆しが感じられるのが心配なことだ。

スタントン 681EEE

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井上卓也


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 物理的な性能の良さが聴感上で感じられるカートリッジである。さして積極的に音楽を演出を加えるタイプでないだけに面白さはさしてないが安心して音楽が聴けるのがよい。

オルトフォン SL15MKII

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井上卓也


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 やや古典的ともいえるSPUシリーズの音から現代的傾向の音を聴かせるようになった。標準型カートリッジ的にも感じられる面はあるが、やはりオルトフォンはオルトフォンだ。

EMT XSD15

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菅野沖彦


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 TSD15を一般のヨーロッパ規格のコネクター寸法にしたものだ。MC型で肉の太い音質とシャープな切れこみを合わせ持つ。繊細、明るさという面より重厚明確な音が魅力。

B&O MMC4000

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井上卓也


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 滑らかで幅広いfレンジをもち、独特のデリケートで感受性豊かな音を聴かせてくれる。ローレベルの美しいアンプやスピーカーを使わないと、この特長が活かされない。

菅野沖彦


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 ハイ・コンプライアンスの限界といってもいい高性能カートリッジ。音のバランスとしては455Eのほうが美しいが、この繊細でのび切った高音、中低域の豊かさも魅力的。

テクニクス 205C-II

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井上卓也


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 マグネットを含むMM型の振動系を極度に軽量化し、トランスデューサーとしての性能の向上を追求した点では典型的なカートリッジである。軽質量アームとの組合せが必要。

オルトフォン VMS20E

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菅野沖彦


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 柔軟な中低域の豊かさの上にややシャープな高域の特質をもったカートリッジでシンフォニックな響きのスケール感がよく再現されヨーロッパらしいソノリティを聴かせる。

シュアー V15 TypeIII

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井上卓也


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 愛用者が多い点では、この機種をおいて他にあるまい。各種のレコードに対して、絶妙ともいえる見事な演出効果がおこなわれている点は、さすが老舗シュアーならではと思う。

菅野沖彦


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 FRのMC型としてMk2を経てMk3となった製品で、MC型特有の純度の高い音質が一段と洗練されてきた。FRT4トランスとの併用で血の通った音質が得られる。

デッカ Mark V/e

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井上卓也


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 緻密で華麗な音をもった個性的なカートリッジである。予想するよりも、併用機器や音楽のレパートリーとの適合性が広く、使いやすくなったのがうれしい。

エンパイア 4000D/III

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菅野沖彦


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 同社の最新最高の製品らしい優れたカートリッジだ。ハイ・コンプライアンスの繊細精緻な再現と、がっしりした音のたくましさを兼ねそなえていて音場も豊かである。

デンオン DL-103

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井上卓也


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 標準カートリッジとしてのDL103の存在価値は大変に大きいものがある。製品間の音質的、性能的な差が少なく、充分に管理されているのは見事で、安定度は抜群である。

菅野沖彦


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 カートリッジを選ぶ視点は大別して二つあると思う。一つは、再生の安定性。つまりトレーシング能力である。それも、大振幅のトレーシング能力が優れているといった局部的なものだけではなく、一枚のレコードの実用的な安定再生とでもいうべきものが大切だ。やたらにホコリの影響を受けやすかったり、デリケートな針圧のものは実用的見地からは選びたくない。他の視点としては、音色の魅力である。なんといってもレコードがいい音で鳴ってくれると、少々の物理特性上の欠点があってもすて切れないものだからである。

EMT XSD15

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井上卓也


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 古典型のMCカートリッジの代表製品ともいえる存在である。明快で緻密であり、かつ重厚な音は、近代的カートリッジとは明らかに異質なものであり、現在では貴重な製品だ。

井上卓也


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 物理的な性能の向上に伴って、芯の強い明快なサウンドは薄れたが、他の製品と比較すると、やはりメーカーとしてのサウンドポリシーは充分に認められる。これが魅力である。

オルトフォン VMS20E

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井上卓也


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 MC型シリーズとはやや性格が異なり、やわらかく中低域に厚みが感じられるのが目立った点である。高域は充分に伸びきったとは感じられないが必要にして充分である。

井上卓也


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 FRのMC型としては第三世代のカートリッジである。FR1の独特の音色から、かなり大人っぽい落着いた音に成長しているのが明瞭に感じられる。

エンパイア 4000D/III

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井上卓也


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 よく伸びたfレンジと滑らかでナチュラルなローレベルの描写は、近代的カートリッジの典型的な性格である。この音は、ソフィストケートされた大人の魅力にほかならない。

井上卓也


ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)

特集・「'75ベストバイ・コンポーネント」より


 カートリッジは、コンポーネントとしては、スピーカーと並ぶ、いわゆるトランスデューサーであるのが特長である。この部分での音の変化は微妙であり、アンプやスピーカーでは救えない点は注意すべきところだろう。私は、個人的には、カートリッジを複数個使うことが多い。それは、聴く音楽の種類により、明らかな適、不適があることを経験しているからである。
 選出した機種は、主張が明らかであり、個性的な表現をするモデルから、個性ではやや薄らぐが、バーサタイルな面をもち、かつ音楽性を損なわないモデルまである。

菅野沖彦


スイングジャーナル 3月号(1975年2月発行)

「ベスト・バイ・コンポーネントとステレオ・システム紹介」より


 AT15Eはオーディオ・テクニカが同社のオリジナルであるVM型の発電機構を持ったカートリッジとして何回か改良を経て完成した最新製品である。この後に普及版の、AT14シリーズを発売しているが、同じ設計思想にもとずくものだ。AT15Eのよさは、VM型の同社のカートリッジに共通のきわめて明解な音像再現に加えて、豊かな陰影やニュアンスの再現力が得られたところにあると思う。VM型の振動発電系というのは.45/45方式の現在の2チャンネル・ステレオ・ディスクの溝の構造と同系のもので、互いに45度ずつ傾いた左右の壁の振動を、ちょうど、その振動を刻み込んだカッティング・ヘッドの左右のドライビング・コイルのポジションのようにV字型に2つ独立したマグネットが設けられて変換するというものだ。その構造が、いかに音質に結びついているかを明確に断言する自信はないが、今まで聴いてきた同社のVM型に共通した音質傾向が、先に述べたように、明解な音像再現とクリアーなセパレーションにあったといえる。曖昧さのないソリッドな音の再現は、時にドライで鋭角な印象を与えられ、音楽のニュアンスによっては不満を感じる場合があった。AT15Eでは、それが大きく変化して、適度な味わいと音のタッチの快さを感じるものになったのである。カートリッジは変換器として、ディスクの溝に刻まれた信号を忠実にとり出すことが、その大きな役目であるから、こういう音のカートリッジ......というような存在や、表現は本来おかしいというのは正論である。カートリッジが音を持つことは間違いだという理屈は正しいと思う。しかし、それはあくまで理屈の上であって.現実は大きく違う。全てのカートリッジは固有の音をもっている。カートリッジだけではない。全ての機械系をもつ変換器は固有の音を持っているのが現実である。そして、そこに楽しさや、喜びを感じることは間違いだといってみてもはじまらない。いい音、快い音は、まきに好ましいのであって、感覚に正邪はないのである。私はよく自分の部屋でカートリッジをテストするが、自分の作ったレコードでは、よくそのマスター・テープと聴きくらべることがある。変換器として、マスター・テープに近い音を良しとするのは当然だが、そういう比較は遠い昔にやめてしまった。つまり、近いといえば全てのカートリッジはマスター・テープに近いし.遠いといえば全て遠いのである。そして、その差の部分は千差万別で、そこにカートリッジの音として固有の音楽的魅力の有無が存在することのほうに大きな楽しみを見出してしまっている。

高品性かつ豊かな感性を持つジャズ・サウンドを再現
 そんなわけで、このAT15Eに対する私の評価も、かなり柔軟な態度で音楽を聴いた上でのものであり、このところそうした味わいを聞かせてくれるカートリッジが国産でポツポツ出始めてきたことに喜びを感じているのである。ところで.このAT15Eを使って一式コンポーネントを組み合わせろという編集部の注文だが、小さなカートリッジ一個から、システムに発展させるというのは、少々こじつけがましいこともあり、本来、カートリッジは最後に決めて、なお、その上でも、いくつかのものを使い分けるという性格からすれば、この注文は少々無理があろうというものである。そこで、AT15Eの価格や実質性能、感覚的な満足度にバランスした装置を漠然と考えてみると、やはりかなり高級なシステムになるようだ。決して10〜20万の普及システムはイメージ・アップされてこない。AT15Eというのはそういうクラスのカートリッジなのだろうと改めて思った。ここに作ったシステムは、それでも、ギリギリ節約して作ったつもりのものである。プレイヤー・システムとしてはAT15Eのよさを発揮させるにはアームが重要。多くの普及、中級、時には高級システムまでが、トーンアームに問題があって、カートリッジの性能を充分に発揮しきれないのである。ひどい場合はトレース不能、ビリつきを生じて、一般にはカートリッジのせいにされている。
 デンオンDP3700Fはこの点で安心して使える。シンプルだが精度のいいアームは高感度でしかも神経質ではない。私の好きなアームの一つだ。モーターはいうまでもなくDDの有名なもの。話が前後するが、AT15Eのシェルはあまりいただけない。形は気取っているし、作りもよいが、音は最高とはいえない。他のシェルに変えて、よりよい結果が得られた経験がある。シェルに対するカートリッジ本体の食いつきもよくないし、ダンピングが不充分だ。
 アンプは同じデンオンのPMA700Zを使う。デンオンのプリメイン・アンプとしては既に定評のあったPMA700の改良でMKII的新製品である。音の透明度と実感がより確かな感触になった。よく練られた回路は高度な技術に支えられた音の品位のよさを感じさもる。味わいも豊かで、音楽の生命感がみなぎる。
 スピーカーはダイヤトーンの新製品DS28Bだ。去年の暮に発売になったばかりだが、すでにかなりの台数がファンの手許に渡っているという。ダイヤトーンのスピーカー技術が、商品としてまとめの技術とよく結びついた完成度の高いもので、とにかくよく鳴る。AT15E、PMA700Zで鳴らしたDS28Bの屈託のない音は、端正でいてガッツのある日本のスピーカーが、一つのオリジナリティーをもつに至ったなという実感を感じさせた。ユニットも箱も、総合的に充実した高級ブックシェルフ・スピーカーとして価値が高い。
 このシステムは品位の高いジャズだけでなく、デリカシーやポエジーにも感性を持つジャズ・ファンの耳に耐えるものだと思う。なお、AT15Eは、針圧を1・8gぐらいで演奏するのが最もよい。
 AT15Eに欠けるもの、それは強いていえば柔軟さと暗さの雰囲気だろうか。

オルトフォン SL15

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井上卓也


ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)

特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より


 個性的な魅力と欠点が交錯して存在した忘れがたいカートリッジであるS15に続いて発表されたこのSL15は、しばらくの間はSPUの存在があまりにも大きいために忘れていたのだが、折にふれて使ってみるとオルトフォンの音を受継ぎながら現代化された魅力が次第に感じられてきた。私にとって、いわば大器晩成型のカートリッジである。ストレートな表現ながら適度の情趣性がある。やはり、オルトフォンはオルトフォンなのだ。

オルトフォン SPU

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井上卓也


ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)

特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より


 数多くの海外製品、国内製品が発表され消えていく中にあってステレオ初期以来MCカートリッジの王座を維持している実力は大変なものである。豊かな低音をベースにして明快で適度の響きをもった中域から高域のソノリティはレコードファンの誰しもが感じるあの魅力をもっている。感覚的に古さを感じてはいながら使うたびに一種の安心感と新しい喜びを感じさせるのは何なのだろうか。現在、消えてしほくない製品の筆頭である。

シュアー V15 TypeIII

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井上卓也


ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)

特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より


 エラックとクロスライセンスをもつシュアーはMM型のオリジネーターであり製品の豊富さでも屈指の存在である。V15タイプの第3世代として登場したV15/IIIは、シュアーサウンドと呼ばれたV15/IIを音質面、物理特性面ともに一段とリファインして完成したシュアーの傑作である。フラットに延びきった周波数レスポンスとトラッキング能力は抜群で、V15/IIIを聴いてみて髄15/IIの色づけの濃さが確認できるようだ。

デッカ Mark V

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井上卓也


ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)

特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より


 独特な垂直系のカンチレバーを採用したダイレクトカップリング方式とマトリクス内蔵の構造を一貫して通しているのは異例な存在である。従来から音色上でも異色といわれ、ある範囲のソースに対しては抜群の表現力をもつ、いわば単能カートリッジといわれていたが、このMKVは伝統を保ちながらよりバーサタイルな性格をもっている点がよい。明るく輝かしい音ながら緻密であり、ニュアンスの表現でも見事である。

エンパイア 1000ZE/X

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井上卓也


ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)

特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より


 このカートリッジほど使用する人によって評価が変わる例はあるまい。けっして表面的に個性の強さを感じるような性格ではないだけに大変に興味深いものがある。ヨーロッパ系のカートリッジがもつ明快さや輝きといった美点こそないが、都会的に洗練された陰影の深い音はソフィスティケートされた、このカートリッジならではの魅力であり、欠かすことのできない存在である。内面的な個性の豊かさでは、右にでるものはない。

瀬川冬樹


ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)

特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より


 他のカートリッジでは絶対に聴くことのできない重厚な豊かさと、その厚みにくるまれて一見柔らかでありながら芯の強い解像力は、もはや一メーカーの商品であることを離れてひとつのオーディオ文化とさえ言いたい完成度を示していた。残念ながら経営者の代が変って、最近の製品の音質は少々神経質な鋭さが出てきたし、専用のダイナミックバランス・アームも製造中止になってしまった。何とか以前の音質を保たせたいものだが......。

オルトフォン SL15Q

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岩崎千明


ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)

特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より


 平均的なシュアーを意識的に避けたのは、CD4に対する技術力の差だ。CD4そのものよりこれが実現に伴う周辺の技術はカートリッジの未来を決定する多くのファクターを秘める。たいぷIIIが商品として、あの磁気回路とコイルを土台としている限りCD4に取り残されざるを得ないのに、オルトフォンのコイル型はCD4を卒業してステレオ用にその技術を拡げつつある。限りない広帯域感と一層繊細なサウンドがそれを物語ろう。

オルトフォン SPU-G

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菅野沖彦


ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)

特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より


 こんな古い特性の悪いカートリッジは、いかに過去の最高級品とはいえ、技術的に見れば取り上げることにためらいを感じるのが当然だ。しかし、現在入手可能だということと、その音の味わいが、現在のハイ・コンプライアンス・カートリッジのもつ、音のボディの欠落の傾向への警鐘としても価値があると考え、あえて、ここに取り上げる。とにかく、この音は理屈には叶わなくてもいい、堂々とした充実感が大きな満足感を与えてくれる。

シュアー V15 TypeII

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菅野沖彦


ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)

特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より


 現在のシュアーの現役最高級品はタイプIIIである。しかし、私としてはどうしてもタイプIIが捨てられない。このカートリッジの安定性、つまり常にいかなるレコードに対しても安定なトレースを示してくれるという信頼感は抜群だ。そして美しくバランスのとれた音質はレコードの特長をよく出してくれる。全てのカートリッジに難はある。それは聴く人の個性とのぶつかり合いだといってもよい。V15IIはまるで君子のような製品なのだ。

オルトフォン SL15E MKII

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岩崎千明


スイングジャーナル 5月号(1974年4月発行)

「SJ選定新製品試聴記」より


 CD4用のカートリッジとして、海外製品がこのところ続々と名乗りを上げている。いち早く製品を市場に送ったピッカリングを始め、ADCや西独のエラックなどもその製品の出るのは時間の問題だが、その中でも日本のオーディオ・ファンの間で、もっとも注目されたのはオルトフォンのCD4用のカートリッジSL15Qである。デンマークのオルトフォンというよりも、世界市場でもっとも高品質を誇るカートリッジ・メーカーとしてのオルトフォンであり、かつては業務用のディスク・カッターから再生機器の専門メーカーとして日本においてすら伝鋭的に語られている名門中の名門、それがオルトフォンであり、この方面では今日も全ヨーロッパに業務用機器を提供しつづける確固たる業績を誇る専門メーカーである。オルトフォンのCD4用カートリッジが、かくも注目され話題となったのは、それが他に例のないMC(ムービング・マグネット)型の故である。4チャンネルの前後分離のための前後差信号成分は、CD4方式において他の信号とまったく独立した形で、35、000ヘルツという超音波信号にFM変調の形で乗せられているのだ。デイスクの中からこの35、000ヘルツという気の遠くなるような超振動をとり出すために、カートリッジの針先は極端にミニチュアライズされなければならず、ダイヤ・チップをつけたカンチレバーは、従来よりひとまわりも、ふたまわりも小さくされなければならない。それをカンチレバー基部にコイルが着装されているMC型において実現することは、とうてい考えもよらぬことであったのに、さすがオルトフォン。SPU以来のコイル型カートリッジのクラフツマン・シップを発揮してSL15Qという形で製品化してしまったわけだ。CD4の開発者である日本ビクターの4チャンネル担当技術者さえ賞賛した傑作を、4チャンネル時代の擡頭期たる今日、いち早く完成してしまったわけである。他のあらゆるCD4用カートリッジがすべてMM型であるのに、オルトフォンはMC型として。
 以上は前置き。お話の本題はこれからだ。オールド・ファンにとって、スピーカーが変り、アンプが同じ真空管ながらよりハイパワ一に替えられたとしても、絶対に変わりないのがオルトフォンSPUカートリッジだ。ステレオ初期において決定的といえる勝利を収めたオルトフォンが、米国市場においてシュアに質的な意味でなく、たとえ量的な意味にしろ優位を奪われたのは、軽針圧動作という時代の要求によるものだったのだろう。歴史に残る傑作SPUを軽針圧したのがS15であり、さらにSL15に改良されて完璧といい得る軽針圧MC型は完成された。SPUのそれよりも半分の軽い針圧のもとではるかに広い再生帯域がSL15によって成し遂げられたのであった。しかし、SL15Q、4チャンネル・カートリッジの技術がSL15の姿をこのままですませて置くことにメーカーとしての責任をオルトフォンは意識したのに違いあるまい。
 SL15MKIIがSL15Qの発表された昨11月から半年目にデビューしたのである。SL15Qの出現を予想した時よりもごく当然のように、それはSL15Qのクオリティーをそのままステレオ用に移植したとでもいいたくなる成果をはっきりと示しながらのデビューだ。シュアv l15typeIIIになって中声域にMC型に匹敵する格段の充実をみせながらも、実は本質的にあのコアーとコイルの構造では量産上CD4への足がかりすら掴めないとも受けとれるのに対し、オルトフォンはCD4用を完成したあとで、その技術によりMKIIをものにしたのはさすが世界に冠たる名門ぶりといえてもよかろう。音色上SL15MKIIはSL15よりもさらに超ワイドレンジを感じさせる。果しなく高域のハイエンドが延び切ったという感じだ。しかも中域のピアニシモの繊細感は、多くの国産MM型カートリッジのそれに似て、より緻密で粒立ちの良いサウンドエレメントがビッシリと詰め込まれたといえようか。低域での豊かなひろがりに加えて、引き締った冴えたタッチは、従来のSPUの重厚な響きは薄れたとしても、それに優るローエンドの拡大を如実に示している。

岩崎千明


スイングジャーナル 2月号(1974年1月発行)

「SJ選定新製品試聴記」より


 今年の国内オーディオ市場の大きな特長として、海外パーツの著しい進出と、定着とが挙げられるが、とりわけブックシェルフ型システムシステムを中心としたスピーカーの積極的な売り込みとその成功が大きく目立つ。
 そうした目につきやすいスピーカーのかげにかくれて、しかし、スピーカー以上に確かな地位をきずき固めつつあるのは海外カートリッジだ。
 従来も、高級品に関しては、国産品に対して十分な満足を満たされぬことが理由で、海外製品の中から選ばれせるというのがマニアの常識ですらあった。いわく、シュアーV15、いわくオルトフォンM15スーパー、いわくエンパイア、いわくADC等々であり、それをそなえているかどうか、そのいずれをそなえるか、さらにいくつそなえるかが、オーディオ・マニアのレベルの高さ、あるいはその志向する目標の高さ、さらにはそのマニア自体の質から誇りの崇高さないしは権威の水準までを示すものとして本人にも、まわりからもひとつの必需品とまでなっている。
 もし、当事者のうちにそんなばかなことが、といって拒否する筋金があったとしても、まわりはそうはさせず、海外製カートリッジの、それも高級品のいくつかが揃っていることで、そのマニアの質やレベルを判断してしまうのは、いつわりない状況だろう。かくいう私自身にしても、出入りする周囲のそうしたまなざしを迷惑ながらも、かなり気にせざるを得なくなって心ならず気に入らぬ海外製カートリッジの5〜6個を常用オルトフォンM15スーパーの他に揃えてはいる。苦々しく、いまわしいことだがそれが実情だ。
 所で、73年の海外カートリッジの進出は、こうした高級品群から、やや下まわった製品、価格水準にして、国内メーカーの作る高級品のランクの製品が数多く出まわっている点に注目しなければならぬ点がある。シュアー91シリーズに続き、ADCのQシリーズと名づけられた新シリーズ、さらにオルトフォンのMFシリーズのあとFFシリーズ、ピカリングとその同系のスタントン。ごく最近ではかつてのベスト・クォリティーの栄光の巻き返しをはかるグラドの普及価格品。
 そうした多くの海外製品は、たしかにトレースの安定差とサウンドの確かさ、豊かさとでもいえるうるおいにおいて、特性上はるかに優れているはずの国産品を脚もとにも寄せつけず、国産高級カートリッジの細身の音を、感覚的に上まわると誰にも思わせてしまう。
 この傾向は今年後半に入って登場した海外製品が市場に出るごとに確かめられた形となった。72年までは、国産カートリッジの優秀性が海外高級品のそれに肉迫し、あるいは追いつき追い越さんとしたところ、まったをかけられこの海外製新型の登場が73年に爆発的ともいえる形で始まったのである。
 シュアーV15タイプIIIにおけるMM型の電気特性の格段の飛躍は、そのほんの一例にすぎず、海外カートリッジ攻勢の氷山の一角にすぎない。その製品群の層は厚く、強固で堅い。国内メーカーはこの大きく立ちはだかる壁を乗り越えるべく努力を始めた。それは、乗り越えなければならないオーディオ業界の国際化の、大きな波なのだから。
 そうした時期に国内メーカーの中堅、FRが新型を発表したのである。
 FRはグレースとともに国内の高品質カートリッジの専門メーカーとして高い誇りと、キャリアと実績を持つ地味ながら確かな企業だ。小さいとはいえその技術力と開発力は、カートリッジ業界にあって特に注目すべき能力を内在し、メーカー発足以来いつの時代にあっても最高級カートリッジの製品を市場に送り、多くの高級マニアの支持を受けてきた。
 今回発表したFR6は、このメーカー独特の技術であるトロイダルコアーによるMM型の高品質カートリッジである。従来同種製品に新型を加えることのなかったこのメーカーには珍らしく、FR5から発展したMM型の高級製品で飛躍的なワイド・レンジと、高域セパレーションを獲得した高性能ぶりが注目できる。
 サウンドの面においても、国産カートリッジに共通な中域の繊細さに力強い芯を豊かさで包んだともいえる再生ぶりは、従来の国産品らしからぬ良さが国産品にもそなわってきたという点に注目すると共に拍手を惜しまぬものがある。
 高級カートリッジは決して海外製品の独壇場ではないことを知った貴重なワンステップであり、その基礎たる製品がFR6であろう。

テクニクス 205C

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菅野沖彦


スイングジャーナル 10月号(1971年9月発行)

「SJ選定新製品試聴記」より


 すべてのオーディオ機器は、今や、趣味嗜好の対象として考えられている。中でも、カートリッジは、ユニバーサル・トーン・アームが普及して、シェルの交換が当然のことになり、あれこれと取換えて再生するという使われ方が定着しているのを見ても、嗜好品としての色彩が濃い事がわかるだろう。本来的にはカートリッジの振動系というのは、アームを支点として動作するものなのだから、アームと一体となって設計されるべきだし、使われるべきものなのである。それが、このような使われ方が一般化したことの理由は、一つに、いろいろな音のするカートリッジがあることによる。それらは、それぞれに正しい設計、周倒な製造がなされながら、個性的な音質をもっていることによるといえるだろう。現在市場にあるカートリッジの変換方法、つまり、レコード溝の振動を拾いあげて電気エネルギーに変える方法にも実に多種多様のものがある。MM型、MC型、IM型、MI型などのマグネチック系の多くのヴァリエインョンに加えて、光電型や静電型、圧電型などがそれである。そして、これらの変換方式のちがいが音質に差をもたらすと考えられたり、あるいは、変換方式のちがいそのものは音質には影響がなく、それぞれの変換方式のちがいによって生じる振動系のちがいが音質をかえると考えられたりしている。私はカートリッジの専門家ではないから断定的なことはいえないが、その両方だという気が体験的にもする。そして、さらに、その両方だけのファクターではなく他にも無数のファクターが集積されて、音質を決定していると思うし、使用材料の物性面まで考えたら、ちがうカートリッジがちがう音を出すことは当然だと思うし、その音のちがいを楽しんで悪い理由は見つからない。とはいうものの、エネルギー変換器としてのカートリッジの理論の追求や、その現実化の理想については明解な目標と手段とがあるわけで、ただ闇雲に、こんな音が出来ましたというのではお話しにならない。現在のカートリッジの改善のポイントは、振動系を軽量化しながら剛性を保つこと、振動系が理論通りに動作する構造を追求することにより機械的歪を減らすこと、電気的、磁気的な変換歪を最少にすることなどに置かれ、各メーカーが、その構造上、材質上、製造上の改善に一生懸命努力をしているのである。
  ここにご紹介する松下電器のテクニクス205Cという新しい製品は、最も新しい技術で振動系を改良した注目すべき新製品である。その特長のいくつかをあげてみると、まず、振動系の主要部分であるカンチレバーが飛躍的に軽量化され、しかも高い強度が維持されていることだ。材質にチタンを使って、これを直径0・35ミリ、20ミクロン厚のパイプ状カンチレバーに圧延加工し、これに0・4ミリグラムという実効質量の軽いソリッド・ダイアモンド・チップを取りつけ、振動系のナチュラルが、きわめて広い周波帯域を平担にカバーし、精巧無比な加工技術で支点とダンパーを構成し、小さな機械インピーダンスでトレース能力を確保、きわめて忠実な波形ピックアップをおこなう。そして、これに直結されるマグネット振動子には高エネルギーの白金コバルト磁石を使い、この優れた振動系の特質をさらに高めている。ワイヤー・サポートにより支点は明確にされ、リニアリティとトランジェントに高い特性を得ている。製品は、全機種に実測の特性表がつけられるというから、カートリッジのようにデリケートな構造をもつ製品に心配されるムラの不安がない。このように、205Cのフューチャーは、テクニクスの高い設計技術と、材質そのものの開発、優れた加工技術が結集したもので、マニアなら一度は使ってみたい気持になるだろう。在来のテクニクス200Cの繊細きわまりないデリカシーと高い品位の再生音に加えて、強靭さと豊かさが加わった音質は最高級カートリッジといってよいすばらしいもので、一段とスケールが大きくなった。歪が少いことは一聴してわかるし、パルスに対するトランジェントのよさは実にクリアーな響きを聴かせてくれた。特性を追求するとこうなるのかもしれないが、私としては、もう一つ熱っぽいガッツのある体温のある音がほしい。それは歪によるものだと技術者はいうかもしれない。しかし私はそうは思わない。それは、たくまずして滲み出る体質のようなものである。この205Cで再生した本田竹彦のトリオの世界はあまりにも美しく透明過ぎた。やや硬質に過ぎた。冷かった。しかし、これはきわめて欲張った話しであって、現時点で最高のカートリッジとして205Cを賛えたい。

シュアー M44-5

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岩崎千明


スイングジャーナル 8月号(1971年7月発行)

 「SJ選定 ベスト・バイ・ステレオ」より


 キミはいま、自分の再生装置に対して不安を感じていないか。
 キミの再生装置の音が果して本当によいかどうか自信があるか。
 キミの再生装置を友達に聴かしてやるだけのファイトがあるか。
 レコードの傷みが全然気にならないでいるか。
 そういうときに、まずレコードプレイヤーのカートリッジをチェックしてみて、絶対に信頼できるなら、まずキミはしあわせだ。
 優れたカートリッジほど、使い方はむつかしい。軽針圧を保ったまま、完全にトレースさせるには、アームが優秀であって、その調整が完全でなければならない。
 むろん、そのためにはレコード自体の保守が十分に行き届いている必要があるし、その音溝が最良の状態に保たれていなければならないし、それをトレースする針先は、きわめて厳格にチェックして、正しい状態に保たれていなければならない。
 正しい状態、これがなかなかのくせものだ。キミがまだかけだしのマニアならどういうのが正しいのかということすら十分に知らないだろうし、もし、かなりマニアなら、ほんの僅かのカンチレバーの片寄りでも気になるだろうし、動作中片寄りを起こすことのない、軽針圧カートリッジはごくわずかだ。
 こう書いていくと、たったカートリッジの針先ひとつにしたって、大へんな神経の使いようと、細心の注意の要求のため、音楽を楽しむどころではなくなってしまう。
 さて、そこでだ。
 キミを、こういう一切のわずらわしさから解放してくれるカートリッジがあるのだ。シュアーM44/5、これだ。M44/5はもう発表以来10年近い歴史を持っている。
 この原型でもあるM3型がステレオ・レコード発売以来、もっとも優れたカートリッジとしての座を永く保っていたが、M44出現以来、その座はこのM44にとって変った。「美しい安定した音色」という偉大なるおまけがついて。
 今日、国産カートリッジもその高性能ぶりは舶来カートリッジに迫り、あるいは追い越そうとさえしている。
 カートリッジの優秀性を測るべきポイントとして、私はその中音域から高域にかけてのトラッキング・アビリティーつまり音溝に対する追跡能力というか「追随特性」と、もうひとつ最高域のセパレーションの2点について注目するが、この点でも国産カートリッジの高級品は非常に優れており、海外製の高級品に決して負けてはいない。ただひとつの点をのぞいて。
 そのただひとつの点、これを端的に持っているのが、このM44を端に発するシュアー製品である。というのは、なによりも音が安定していて、美しいのである。
 音が美しいというのは、ある意味ではそこで楽器的な要素が介在することとなって再生という事象にある面で水をさすことにもなり得る。
 しかし、限度ある再生音楽において音が美しいという点は他のいずれの長所にもまして大きなるポイントなり得るのである。
 M44/5が、今でもなお多くのファンの支持を得ている、というのも、このカートリッジか、決して今日的な高性能カートリッジでもなければ軽針圧カートリッジであるという理由でもない。ただ非常に安定に動作し、音が豊かで美しいという点のみにある。この点では、おそらく、これからもこのカートリッジに優る製品は決して多くはないであろうし、M44/5がまだまだ多くの新らしいファンを獲得していくことが予想できるのである。

エンパイア 1000ZE/X

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岩崎千明


スイングジャーナル 6月号(1971年5月発行)

「SJ選定新製品試聴記」より


「王冠」をシンボル・マークとしているメーカーは、別に珍らしいわけではない。しかも王者たるにふさわしい貫禄と高品質のメーカーである場合が少なくない。時計ではローレックス、車ではマセラッティ、そして音響製品としては、この米国のエンパイアだ。
 エンパイアは、その重要な部門は米国軍需産業と結びついている。近頃とみに重要性を増している水中通信のための超音波部門がそれだ。原子力潜水艦が海軍力の大きなウエイトを占め海底に数10日という長期間潜まるために、海中との通信は電波を用い得ないため音響分野で解決される。この分野で2次大戦中より重要な役割を果してきたエンパイア社が、卓抜せる音響技術をオーディオに活用して、エンパイアのHiFi製品がうまれた。当然のことながらその技術はある意味で他社をはるかにしのぐことになろうし、「王冠」のマークも当然のことで誰しもが認めよう。
 エンパイアの製品は、音響製品のすべてにわたる。スピーカー・システム、アーム、カートリッジ、さらにターンテーブルとアンプを除くあらゆる電気音響変換器を網羅している。注自することはどの分野でも、高性能を誰しもが認め超一流と格付けされる棄華なぜいたくきわまりない製品を市場に送り出している点だ。
 このエンパイアがこのたび発表したカートリッジが1000ZE/Xである。カートリッジにおけるキャリアは、シュアーと並ぶほど古く市場の評判も長くシュアーと並んで2分していた。売行きはピッカリングという老舗をはるか引き離し、品質は新進気鋭のADCをしのぐ実力ぶりは決して底の浅いものではなく、軍需産業を担ってきた基礎的な技術がものをいっているのに違いない。
 エンパイアのオーディオ製品にみられるサウンド・ポリシーはひとくちにいって、いかにも米国調らしいといい切れる。JBLの新大陸的な明快さと、清澄な迫力とを併せ持っている。ヨーロッパ調の格式ある控えめな品の良さはないが、フィラデルフィア・オーケストラの音のようにエリントン・バンドのサウンドのように華麗な迫力と厚さを感じるサウンドだ。
 この路線をはっきりと打出していたのがステレオ初期以来のカートリッジで、最近は8888シリーズがこれを明瞭に感じる。999シリーズになって音域がさらに広くのびて繊細感が格段と向上した。しかし、やはり迫力ある低音感、それにまして充実された力強い中音域。ジャズ・サウンド特有の楽器の迫力を実に鮮かに再生する能力はまさに、ジャズ向きという言い方がぴったりくるようなサウンド・ポリシーである。グラナディアを頭とするスピーカー・システムも円柱型というユニークなデザインと共に、サウンドの力強さをあらゆるファンから認める傑作だ。
 1000ZE/Xはエンパイアのサウンド・ポリシーに乗っとった高級製品に違いない。しかし、この音は明らかに一歩を踏み出した。踏み出したとて「延長上」であるとはいい切ることはできない。というのは、ここにあるのはヨーロッパ調を目指したもので、品位の高い格調あるサウンドなのである。従来になくおとなしさを意識させられる点で、間違いなく「エンパイア」であることを眼で確かめたくなったぐらいだ。ピアノ・トリオを聞き、従来のエンパイアに感じられたきらびやかさが押えられ、スケールの大きさと音のふくよかさがにじみ出てきた。ヴォーカルではより生々しい自然らしさが感じられる。ただシンバルがやや薄く線が細い響きとなったように思われるのは私の耳だけか。
 カートリッジでもっとも注目すべき点はトレース能力にある。テーパード・カンチレバーを世界に先駆けて、ステレオ製品の初めから採用してきたエンパイアのカートリッジの最高級にふさわしく、なんと0・5gの針圧が常用できる世界でもまれな製品がこの1000ZE/Xなのだ。

フィリップス GP-412

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岩崎千明


スイングジャーナル 5月号(1971年4月発行)

「SJ推選ベスト・バイ・ステレオ」より


 冒頭から少々きざったらしい言い方をするが、私はこのフィリップスの新型カートリッジを紹介できることをおおいに誇りにしている。このカートリッジの優秀性をわずかな紙面でどうやって紹介できるか少なからず心配しながらも筆をとっている。

 フィリッブスというメーカーはいうまでもなく、カセット・テレコでよく知られており、4チャンネル時代を迎える今日、その実用的なソースとしての未来性がますます注目されている。

 しかし、メーカーとしての真のフィリップスの姿は、あまりに大きすぎてどう説明していいのかわからない。

 戦前は、米国RCAと並んで全世界の市場を2分するほどの、エレクトロニクスと家電の大御所だった。ヨーロッパに君臨するこの大メーカーの規模は、戦後おとろえたとはいえ、米国フォーチューン誌において10位以内に入る世界のトッブ企業なのである。ちなみに日本の最大メーカーは新日鉄で、ほぼこれに匹敵する。

 西洋音楽が芽生え、根を下し、今日の繁栄の地となったヨーロッパ大陸に地盤をおいたフィリップスの、音楽再生に対する技術は一般にはまだあまり知られてはいない。

 しかし、カセット・テレコの例を持ち出すまでもなく、その分野において常に最高であり容易に他の追随を許すことはないほどに質的に高い。その上おどろくことに、その高水準の技術の所産がマニア用としてではなく一般用を目的の商品としてでも大成功をとげている事実はあまり例がない。見せかけでなく真に音楽に根ざした技術的所

産というべきだろう。

 現在、市販のステレオ・カセットは国産品20機種以上にも上るが、その高級品とほぼ同価格のフィリップス製が「通」の間ではやはり人気ベストワンであることを知っておられるだろうか。外国製は割高というハンディをせおっているこの普及型カセットにおいてすらこの有様なのだ。

 SJ誌試聴室において、偶然のことから眼にとまったごく目立たないカートリッジに PHILIPS という字をみて、私はトリオレーベルの本田竹彦トリオの音溝に針を落した。まったく期待のない時だっただけに、音の出た瞬間、痛烈なカウンターを喰ったようなショックを私は受けた。このピアノの音は、かつてオルトフォンに初めて接したときのように実に豊かで堂々としていた。しかも、録音本来の最大特長であるアタックの切れ込みの良さはほんのわずかも損なうことなく強烈だった。まさに、フル・コンサート・ピアノのスケールに、そのままというか、目の前2mぐらいで演奏しているエネルギーが室内に満ちた。このアルバムにおさめられているピアノやドラムの激しいアタックはカートリッジのビりつきを露呈するのだが、ここでは実に安定し、フォルテの時にも微動だにせずトレースをやってのけたである。念のためビル・エヴァンスのアローンをかけた。

 ヴァーヴ盤は、ギター・ソロがびりつきやすく、これがカートリッジのトレース特性のチェックにもってこいであるし、国産でこれを無難にやりとげるのはわずかしかない難物である。すでにどうにもならぬほど傷んだ個所を除き実に安定にトレースしたのだった。かくも「安定に」この難物をトレースしたカートリッジはシュアーV15II、エンパイア999を除いてはない。安定なのは音だけではなくトレース能力自体であることも明記しておこう。

 ソフトなタッチでしかも強烈なアタックを刻明にうきぼりするこのフィーリングは、ごく最近手にした、ライカのレンズに対して感じたものとまったく同一のものである。そこには単に技術だけではどうにもとらえきれない「何か」がはっきりと存在しているのだ。

 マニア用として、全く別系統のセクションで作られ、販売されるというこのカートリッジに、私は伝統を思い知らされ、羨望を感じたのである。

オルトフォン M15

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岩崎千明


スイングジャーナル 4月号(1971年3月発行)

 「SJ選定 ベスト・バイ・ステレオ」より


「ソニー」という固有名詞が、トランジスター・ラジオの意味で、普通名詞として通用する後進国があるという。その国の人達にとっては、トランジスター・ラジオはソニー製品以外にはあり得ないのであろう。しかしラジオ同様小型のトランジスター・テレビを眼前にする日になったとき、はじめてソニーが普通名詞から本来の固有名詞に戻ることであろう。
 これとほぼ同じ状況が、日本の高級オーディオ・マニアの間にあったのは、つい3〜4年前までであった。
「オルトフォン」という名は、ステレオ・カートリッジやアームのメーカーとしてではなくて、高品質のムービング・コイル型カートリッジの代名詞として通用されていたのである。シュアV15がムービングマグネット型ながら優れた動作と再生能力を示すことが高く知られるようになるまでは、オルトフォンは、ステレオ・カートリッジの最高級品の代名詞ですらあった。そして、その日は、ステレオレコードがこの世に現われてから10年近い長い期間、ずっと続いていたのは進歩のピッチの速い、製品のサイクルの速いこの分野にあって、まさに奇蹟にも近い業であったといってよい。
 ムービングコイル型の、高品質カートリッジの代表的な製品名であるこのオルトフォンがひそかにいわれていた噂を裏書するかのように、ムービング・マグネット型カートリッジを市場に送ったのは、もう1年近く前である。
 実際に私達の前に製品が現われてその音に接するまでは、不安と期待とが、それぞれ強く混ぜ合っていた。MC型でないというのがいかなる理由なのか、またMC型で発揮した腕前はこの新素材を果してどこまで生かすか。
 すでにその発表時期には、シュアV15型がステレオ・カートリッジの最高級品として全世界の、もちろん日本のハイファイ・ステレオ・マニアの間において、かなり大きなウェイトで、その座を確保したあとであるだけに、オルトフォンの新らしいムービング・マグネット型は注目されている以上に、深い興味の対象となっていた。かつて米国コンシューマー・レポート誌を始め、多くの専門誌の紙面において、首位争いに伯仲していたオルトフォンMC型/シュアMM型の対決以上に興味と話題をさらって登場したのが、このオルトフォンであった。
 しかし、不安と心配はまったくとりこし苦労に過ぎなかった。
 M15は、実にみごとな再生能力と、トレース能力とを合わせ持っていた。そのサウンドは一聴してだれしも認める通り、シュアと共通した音の細やかなディテールをくっきりと鮮やかにクローズアップする分解能力を示しながら、しかもその全体のサウンドイメージは、正にオルトフォンのそれであり、ずっしりした腰の強い低音の厚みが、サウンド全体の芯として構成されているかのようである。MC型より受けつがれた音の安定したパターンはオルトフォンのサウンド・ポリシーに他ならないといえよう。
 トレース能力がカートリッジの良さを如実に示すことはシュアが高品質MM型カートリッジを説明するごとに取り上げ、トラッカビリティの重要性を強調していることであるが、オルトフォンM15のトレース能力の安定性は、まさに比類ない安定さのひとことに尽きる。
 他のカートリッジのよくトレースし得ない音溝に対してさえ、オルトフォンM15は、MC型同様に安定した再生と合せて不安気なしにトレースしてしまうのである。
 M15はシュアV15と並びステレオ・カートリッジの最高峰として再び王座を確保し普及するに違いないだろう。

シュアー V15 TypeIII

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菅野沖彦


スイングジャーナル 6月号(1970年5月発行)

「SJ選定新製品試聴記」より


 シュアーが久しぶりにV15を改良した。タイプIIIという名称からして、これが同社の最高級カートリッジのV15の三度日の改良製品であることがわかるだろう。V15のタイプIIは途中で、NEW TYPEIIというのが出たが、これは、そうした改良型というよりも、振動系から、モールディングの型に至るまですべてをV15IIをベースにしながらも、まったく新しく設計した製品である。V15IIがトラッカビリティというシュア一社の標語と共に登場し、その思想が示すように、レコード溝の完全なトレース能力を追求することが、カートリッジのすぺての特性を追求することにつながるということが認識されてからずい分の年月がたった。事実、V15IIは、あらゆるカートリッジの中で、もっとも安定したトレースを示し、広く標準カートリッジとして使われた実績は今さらいうまでもないことだ。あのカートリッジが出た時、私も、私の仲間たちも、もうカートリッジも終局に近いところへ釆たという観をもったもので、それまでビリついたレコードもV15IIでなんなくトレースし、安心してレコードが聞けるという恩恵に感謝したものだった。勿論、その後、高域の音色に癖があるとか、肉づきと陰影がものたりないとかいった感覚的な不満がいろいろいわれだしたことも事実で、V15IIのあまりにもポピュラーになった名声に対するねたみと共に、V15II批判がにぎやかになったことも事実である。しかしながら、私個人の考えでは、そうした声は、半分はマニア特有の特権意識から出た、俺は皆がさわぐV15などには満足しないというキザな発言とカートリッジがもつ個性の感覚評価からくる、俺はオルトフォンの音が好きだ、あるいは、EMTの音こそ音楽的だ......という嗜好的意見であると思う。カートリッジの技術水準と、実際に多くの製品を理解していれば、V15IIを、あの時点で批判する勇気も自信も、私にはなかった。この数年間、私があらゆるチャンスに最も多く使ったカートリッジはV15IIであったし、そのほとんどの場合にV15IIは満足のいく音を聞かせてくれたものだ。勿論、たまには、V15とちがう音のカートリッジにも魅力を感じたし、このレコード(音楽)には、このカートリッジのほうがいい......という実感を他のカートリッジで味わったことも再三あったけれど、安定したプレイ・バックという基本条件をV15IIほど満してくれる製品には出会わなかったのである。そのV15IIが、今度IIIとして新登場したのだから、これは私にとって近来にない期待に満ちた試用であった。初めてV15IIIをシェルにつけ、針圧も調整して、私の録音したレコード上に針を下す瞬間の胸のときめきは、ちょっと言葉では表現できないものだった。結果は、期待が裏切られることはなかったが、期待以上の感激もなかったというのが正直な感想である。それはどういうことかというと、従来のV15IIにはすでに書いたようにトレーシングに関する不満をもっていなかったので、今度の新型が、この点で抜群によくなったという実感はなかったのである。私が制作しているレコードの中には、高レベル・カッティングのものが何枚かあり、リミッターをかけないで、しかも平均レベルも高くとったものが何枚かあるが、それらについても、今までにV15IIは充分なトレースを示してくれていたからである。シュア一社のデータによると、タイプlIlはタイプIIに比しぞ2kHz以上でのトレーシング能力が大幅に向上しているらしく、4k−10kにわたってカッティング・ベロシティにして従来より3cm/sec.以上の振幅への追従の余裕をもっている。高域の特性の向上も著しく、CD4の再生もカバーできるものとなった。
TypeIIIとなって確かに高域ののびと分解能が向上していることが聴感上はっきりとわかるが、可聴周波内での帯域バランスという点だけからいえば、TypeIIもすて難い味を持ち合せているとも思われる。これが期待が裏切られなかったと同時に、驚ろくほどの意外な喜びもなかったということである。しかし、間違いなくこのV15IIIは現在の最高級カートリッジであるし、特性と聴感的なバランスのとれた優れた製品である。特性データとはうらはらに音楽が貧弱に聞えるカートリッジが少くないが、この製品を使って活き活きした音楽が楽しめた。

マイクロ MC-4100

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菅野沖彦


スイングジャーナル 3月号(1970年2月発行)

「SJ選定新製品試聴記」より


 マイクロ精機の新製品カートリッジ、MC4100を聴いた。マイクロ精機はディスク・レコード再生パーツの専門メーカーとしてお馴染みのメーカーであるが、その製品の一つ一つにはアイデアの生かされたユニークな特長をもったものばかりである。カートリッジ、トーン・アーム、ターンテーブルそしてアクセサリー・パーツの数々は既に市場で大きなシェアを占めている。私もマイクロの製品にはいろいろ接してきたが、このメーカーの誠実さ、熱意が生きた製品ながら、もう一つ注文があって、全面的にほれこんだものがなかったのである。特にカートリッジは今や専門メーカーとしての地位を完全に確立した同社だが、本誌の選定新製品としてとりあげられたのは、このMC4100が初めてではないかと思う。このカートリッジは、一聴して、きわめてすっきりとしたシェイプの音像が印象的で、再生音のヴェールを一枚はいだような明解さであった。これは広く読者に御紹介すべき製品だと思う。
 再生装置を構成するユニットやパーツはいずれもそうなのだが、このカートリッジほど嗜好品的性格の強いものもあるまい、本来、ディスク・レコードに刻まれた波形を忠実になぞって拾いあげ、これを歪ませることなく電気エネルギーに変換するというドライな働きをすべきハード・ウェアなのだが、いろいろな変換原理、構造のちがい、材質の差などが、それぞれ個性的な設計思想や製造技術を生み出した。そこへもってきて、その動作を完全に定量的に把握して客観的なデータとして示し得ないという問題もからんで、製品による音質、音色の個性が、レコードとの相性、使用者の好みとからみ合い現在のような商品性をつくり上げたといってよかろう。しかし、技術は着実に進歩しているし、理論解新はほぼ完全なまでに進み、優れたカートリッジの具備すべき条件はかなりの程度明白になっていることも事実である。その証しに、現在の市販カートリッジを何種頬も比べてみると、その音質の差は、一時からみればずっと少くなっているのである。
 このような状況下で新しく売り出される製品にはそれなりにメリットがなくてはならないが、このMC4100はMC型としては価格が低廉なこと、しかも高級MC型として十分な特性と品位の高い音質を再生してくれる点、まずは新製品として立派な価値をもつものと思う。MC4100はマイクロらしいユニークな独創性をいくつももっているカートリッジだが、振動系をそっくり交換してしまうという交換方式がまず大きなポイントだろう。これは同社のMC4000において採用された方式だが、この製品では、さらに扱いやすくなっている。出力端子とシェルの結線はそのままで、可動コイルごと針先を交換できるのである。独特なニードル・プロテクターも簡便で確実だ。黒を基調としたデザインも好ましく、シャープな音質にふさわしいスタイリングだ。
 試聴にはずい分いろいろなレコードを使ったけれど、このカートリッジの高音域の切れ味、繊細さは抜群で、シンバルやハイ・ハットのハーモニックスがきわめて鮮やかに再現される。欲をいえば、ガッツのある太く野性的なサウンドの再生が、ちょっびり品がよくなりすぎるということなのだが、それは欲張りすぎるかもしれない。これが音響機器の難しいところであることは度々述べた通りで、この爽やかな高音域は得難い特質である。低音ののびもよく、素直に透明にベース・ラインを再現する。指定針圧は1・5gで、0・5〜2・5gというラチュードで表示されているが、トレースは安定で、オーバー・カット気味のパルシヴなソースもよくカヴァーするし、ダンピングもよくノイズは少いほう。出力電圧は0・1mVで3Ωの出力インピータンスであるから、普通のフォノ入力にはトランスかヘッド・アンプを介す必要がある。同時に売り出されるMTA41というヘッド・アンプを使うのが本節だが、他のトランスやヘッド・アンプでも、それなりに使えることは勿論である。このヘッド・アンプは2個のバッテリーを収納できるが1個はスペアーで、外部スイッチの切換で任意の電源を選べるから、電池の滅りも簡単に確認できるし、安全である。このアイデアもいかにもマイクロらしいキメの細かさであった。

菅野沖彦


スイングジャーナル 2月号(1970年1月発行)

 「SJ選定 ベスト・バイ・ステレオ」より


 オーディオ・テクニカのAT−VM3は、かって選定新製品として本誌で取上げたことがある。今回は、ベスト・バイとしての再登場であるが、このカートリッジのコスト・パーフォーマンスのよさからして当然のことといえるであろう。特に、ジャズの再生にあっては、そのパルスの連続する情報に対して振動系のトランジェントのよさが振動系支持の安定によって保証されなければならない。この点で、このカートリッジは同社のAT35X同様、ユニークなサスペンション方式を採用していて、レコード溝の走行方向への引張りには大変安定した構造である。V型に配置された二個のマグネットによる発電機構もAT35Xと同じだが、この構造のもたらすメリットが果して決定的に他の構造より勝るかどうかはいえない。しかし、現実の音から明確に感じられるのは、この系列のカートリッジのもつ、歯切れのよい、しっかりした音像の再現と、複雑な波形に対するスタビリティのよさだ。
 AT−VM3は帯域バランスがおだやかで、目立ったピークやディップは音から感じられない。概して、こうしたおだやかな周波数特性をもつカートリッジは音が沈み勝ちで、弦楽器などにはよい結果が得られても、パーカッションやブラスにはめりはりが立たない物足りなさが残るものが多い。しかし、このカートリッジの場合は、おだやかなバランスでありながら、一つ一つの音に対する立上りが鋭いために、ジャズの再生でかなり満足すべき結果が得られるものである。音色を大きく左右するファクターは周波数特性であることは事実だが、もっと根本的な音質は、むしろ、トランジェントやクロストークの特性によるものであることが、多くのタイプの異ったカートリッジが教えてくれる。特に、カートリッジとか、スピーカー、そして、マイクロフォンのような変換器にあっては、その機械振動をあずかる振動子の材質のもつ固有の音色が、必らずどこかに現れる。見かけ上の特性の上でこれを殺すことは出来ても、再生音の質には多かれ少かれ、その素顔をのぞかせるように思う。現在のところ、カートリッジの振動系はかなり理想に近いものであるが、なお改良の余地がないわけではない。一つの固定した考えにこだわらず、常に異ったアングルから見直し、どんな小さなこともおろそかにしない開発精神が大切だ。
 テクニカは、そうした点で、かなり自由に製品の開発をおこなっていることが、これらの商品から推察できる。6、900円という値段は決して安いとは思わないが、今のカートリッジの相場からすれば高い値段ではない。メーカーにはいろいろいい分もあるのだろうが、カートリッジの価格は高すぎる。こういう安い価格が通用するのは、カートリッジが嗜好品だからであろう。もし、これを純粋に科学技術の産物と解釈して大量生産品扱いをすれば、もっと安い価格で充分な特性のものが得られるはずだ。ユーザーがカートリッジを選ぶ時には、この辺をはっきり認識してかからなければいけない。嗜好性の対象となるような名品は、当然のことだが、眼玉が飛びでるほど高くるし高いとそれだけ良い音にも聞えものだ。高ければ、当然、物理特性も向上しているが、それと同様に仕上げの美しさや高級観からくる印象が音に影響を与えるものだと思う。
 このAT−VM3は千円台だから実用品として考えてよくその意味では実質的価値は10、000円以上のものに決して劣らないといえるのである。今や国産カートリッジの水準はきわめて高く、たくさんの優秀製品があるが、このカートリッジもそうした製品の一つとしてジャズ・ファンに安心して推められるものだと思う。

オーディオテクニカ AT-3M

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菅野沖彦


スイングジャーナル 12月号(1969年11月発行)

「SJ選定 ベスト・バイ・ステレオ」より


 ジャズのレコードに限ったことではないが、モノーラル時代の名演奏の再発売ものには見逃せない名盤がたくさんある。レコードというものの本質からいっても、記録性ということは大変重要なもので、特にジャズのような瞬間性の大切な、二度と再び同じ音楽がこの世に存在し得ないものについては、きわめて貴重なものだ。資料としてはもとより、かけがえない音楽体験として、モノーラルのレコードを、ただ局面的なオーディオ観で、ステレオ録音ではないからというだけで、遠ざけてしまうとしたら、その音楽的損失は計りしれないほど大きい。しかもモノーラルにも、ステレオ顔負けの素晴しい録音のものさえあるのだから、なおさらのことである。特にジャズ・サウンドは、空間サウンド以上に楽器音そのもののリアルな再現が好まれるという美的観念があるから、モノーラル録音はクラシックの場合ほどの制約にはならないともいえる。クラシックとジャズとの間には、音楽的な音そのものについての美学の差があることは否めない。ジャズのステレオ録音に、マルチ・モノ的な音が多いものもそうした理由による。荒々しいタッチ、生々しい触感、激しい圧迫感をもった音を明確に把握しながら、しかもステレオフォニックなプレゼンスを2チャンネルの再生から得ようとすることは容易ではないし、これは、ジャズ録音にたずさわる私たちの抱える大きな課題なのである。
 ところで、モノーラルのレコードが現時点で再発売される時に、いわゆる擬似ステレオ化されているというケースがあるが、これについては、クラシックもジャズも、心ある人々が大反対しているようだ。しかし、先に述べたようなジャズ・サウンドの美的観念からして、ジャズの疑似ステ化についての反対はクラシックとは比較にならないほど強烈で、ついに、近頃では、ほとんどのレコード会社がモノーラルのまま再発するようになった。
 こうなってくると、もう一つ問題となるのが再生のシステムであって、ステレオ・カートリッジで、モノーラル・レコードを演奏することには一考する必要が生じるというものだ。つまり、ステレオ・レコードとモノーラル・レコードとでは、溝を切刻するカッター針の曲率半径が異り、溝の形はちがう。また本来、モノーラル・レコードには縦振動の成分は含まれていないし、それを再生するカートリッジも縦の振動成分に対しては感度をもたないように設計されている。ステレオ・カートリッジでも、左右チャンネルの出力をシリーズ結合して縦成分をキャンセルして使えばまだよいが、そのままの状態で使ったのではかならず不都合が生じる。一般にいわれることは、モノのカートリッジでステレオ・レコードはかけられないがステレオ・カートリッジでモノーラル・レコードをかけても差支えない......というのだが、それはレコードに対する保護の面からであって、そのレコードを理想的に再生することに関しては問題がある。モノ・レコードはモノ・カートリッジでかけるのが本来である。そこで、このAT3Mは貴重な存在である。ステレオになってカートリッジの振動系は大幅な進歩を遂げているが、このAT3Mもモノ当時のカートリッジとは格段の性能をもつ。欲をいえば、現時点でカートリッジ・メーカーの技術をもってすれば、さらに理想に近いモノ・カートリッジが出現するはずだが、モノ・レコードを聞く人には、広くこの製品を推薦したい。ステレオ・カートリッジで聞くよりも、はるかに腰の入った、がっしりとした音の再生ができるのである。今さらモノ・カートリッジをと思われる人もいるかもしれないが、ジャズ・ファンならばぜったいに聞き逃せないモノーラルの名盤のよりよい再生のために、このカートリッジを今月のベスト・バイ商品として選んでみた。

グレース F-8C

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岩崎千明


スイングジャーナル 11月号(1969年10月発行)

「SJ選定新製品試聴記」より


 F8Lというベスト・セラーのカートリッジに「MUSICA」と名付けたF8Mが加わったのは昨年春であった。F8シリーズは国産MM型カートリッジの代表のようにいわれ、その性能、品質、さらに再生品位までもが高い信頼度をそなえている製品である。
 非常に繊細に音のひとつひとつを適確に拾い上げる能力、どんな演奏のレコードでも正確に音溝をトレースする能力、このようなもっとも大切にして必要な条件を、危な気なくそなえているという点て、グレースのF8Lは国内製品中でもベストに上げられるひとつであった。
 そして、その音の繊細さに、より以上の迫力、アタックの力強さを加えて誕生したのがF8Mであった。
 むろんF8Mは発売後、F8Lと並んで好評を持って迎えられ、特にジャズ・ファンからはF8L以上に支持されていると聞く。
 F8L、F8Mの話を長々と前置をしたのには理由がないわけではない。
 今回、F8Cが発売された。F8シリーズの最高級品としてのF8Cについて、次のようなことがよくいわれているのである。
 つまり「F8CはF8LとF8Mとの中間的な製品である」「F8LとF8Mの良い所を採り入れて作られたのがF8Cである......」
 これは結論からいくと誤りである。F8CはF8シリーズの標準品種F8Lを基として出発したF8Mとは兄貴分に当る製品である。メーカーの言によると「F8シリーズの最高級を目指して、精密技術を駆使して完成した製品」である。
 結果としてF8Mのアタックを加えられたF8Cは、音色の上で、F8LとF8Mの中間的なファクターを示すこととなった。メーカーサイドでは、しかしこれはあくまで聴感上の結果であるという。
 F8Lをもととしてその性能向上化の結果、それ以前のF8Mと似たとしても、技術的にはかなり違ったものからスタートして得たのである.
 一般にカートリッジの高性能化の方法として、針先カンチレバーの質量を減らし、その支持をやわらかにすることにより、振動系を動きやすくするのを目的とする。これはシュアーのカートリッジが追従能力、トラッカビリティの向上を狙って優れた性能を得るに到ったことからも納得ができよう。
 レコード音溝に刻みこまれた20、000ヘルツにも達する高速振動に追従するには、そのカンチレバー自体の自由共振はその限界を越えることが好ましい。しかし現実にはそれが、いかに難かしいことか現在の市販製品は20、000ヘルツ以上のものがない。もっとも高いひとつであるF8Lにしても18、000ヘルツである。一般には音声帯域内にあるこのカンチレバーの高域共振はダンパーによって押えられているわけである。このように押えられて周波数特性はフラットにされている。
 微少化されて20、000ヘルツ以上の音声帯域以上高い範囲に自由共振点が達したためJ支持部によるダンプの必要力くなくなって、針先の自由度が大きく向上したわけである。つまり針先コンプライアンスが向上して追従性がF8Cにおいて、25×10の−6乗
cm/dynと、より優れているのはこのためである。アタックの優れているのはこの結果、過渡特性が向上したからである。
 しかし、この僅かな向上のためにかなりのコストアップがつきまとうことになり、コスト・パーフォーマンスの点でF8Lにくらべて損をすることとなるのだが、この点こそ次のように強調したい。
 一般にコスト・パーフォーマンスを考えない最高級カートリッジとして国産を選ぶことは今日ではめったにないのが通例である。国産メーカーの奮起を促すことをいつも叫んできた我々にしては、このF8Cの出現をもっと価値のある成果として見直してもよいのではないだろうか。F8Cこそ外国製高級カートリッジに挑戦した国産カートリッジ第一弾なのであるから。

マイクロ VF-3100/e

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)

特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より


 適度に柔らかく、しかもハイ・エンドを僅かに強調してシャープさも盛り込んだといった作り方のようで、強い個性はないが無難なカートリッジという印象である。ツァラトゥストラの冒頭のオルガンが少々軽く聴こえること。音の奥行きや厚みに、やや欠けること。フォルティシモで幾らか音が荒れ気味になることなど、細かくあげればいろいろあるが平均的な水準あたりでうまくまとめられた製品のようだ。弦合奏や声は、ややハスキーで冷たい傾向だが、ジャズやムードの立体感や奥行きがわりあいよく出て楽しめる。ピアノは、タッチが多少重く粘るが、重量感がもう少しあっていい。スクラッチは、ハイ・エンドでいくぶんシリつく傾向がある。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆★
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆☆★
総合評価:80
コストパフォーマンス:90

瀬川冬樹


ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)

特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より


 トレーシングが安定しているらしく、針の浮く感じやビリつく傾向はほとんど無いが、音のバランスにやや難点があって、中域に僅かながら圧迫感があり、高域はなだらかに下降しているらしく華やかさとか繊細感が、もう少し欲しいような音質である。音源が遠くやや平面的で、総じて明るさが不足しているが、ムード音楽のギターの音は温かく、弦合奏は柔らかく耳あたりがいい。ピアノや打楽器は、タッチがやや重く、音離れに不満がある。オーケストラは重低音が割合豊かだが、中域の厚みがもっと欲しいし、フォルティシモは飽和的になる。ヴェルディの大合唱は、フォルティシモでも音の分離が明瞭で、音も充実しているが、やはり音源がやや遠い印象である。

オーケストラ:☆☆☆★
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆★
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆★
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:75
コストパフォーマンス:85

ピカリング V15/AM-3

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)

特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より


 ワイドレンジという感じの音ではなく、中~高音域の上の方に多少張りを持たせてハイ・エンドをカットしたような、おそらく中級品らしい音づくりだが、腰の強い明るい音が身上のようである。音の拡がりがよく出て奥行きもあり、分離も切れ込みも一応よく、低域にも適度の厚さがある。ピアノ・ソロでは、一種ふてぶてしいような張りがあって、引き締った腰の強い音を再生する。弦合奏のユニゾンでは何となく安っぽさが感じられる一方、妙につやのある音が印象に残るが、ヴェルディあたりになると、バランスの悪さや歪みっぽさが出てきて、さすがに欠点を露呈してしまう。華やかさ、明るさ、独特の拡がりに特徴がある。

オーケストラ:☆☆☆☆★
ピアノ:☆☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆★
総合評価:80
コストパフォーマンス:95

グレース F-21

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)

特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より


 おそろしく元気のいい音を持ったカートリッジで、低域に独特の量感があるし、中高域もかなり強調されていて、明るい派手な音を聴かせるが、音のキメが相当荒いことや、個性の強いキャラクターが全体のバランスをわずかながらくずしてしまっているという点で、今回テストした中では異色的な製品だった。逆カマボコ型に近い音質なので、華やかだが硬質のドライなタッチになり、ロスアンヘレスの声が別人のようにハスキーに聴こえるのはおもしろい。レクィエムもすばらしく威勢がいいし、モダンジャズも圧倒的迫力だ。スクラッチノイズまでが大きく勇ましい。音ぜんたいが、いかにも若さにまかせて走りまわっているような、ある種の逞しさに溢れている。

オーケストラ:☆☆★
ピアノ:☆☆★
弦楽器:☆☆★
声楽:☆☆★
コーラス:☆☆★
ジャズ:☆☆★
ムード:☆☆☆★
打楽器:☆☆★
総合評価:55
コストパフォーマンス:65

東京サウンド STC-10E

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)

特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より


 とりたてて欠点もないかわりに、素晴らしいという魅力もあまりない。総体にぼってりと重い音で、軽快さに欠けるが、かといって奥行きや厚みのあるという音でもなく、何となく水っぽい酒のような印象だ。弦合奏のユニゾンが割合美しいし(ただし高域の繊細感が物足りなかった)、ロスアンヘレスの声が温かく聴ける。ヴェルディのレクィエムも、ドンシャリ的にならず安定だが、内声部の充実感にやや欠けて、男声の魅力が不足していたのは他の多くのカートリッジ同様である。ピアノやジャズでは、タッチが重くなるものの丸味のあるウォームトーンが聴き易い。無難だが、いま一つ魅力に欠けるという音だ。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆★
声楽:☆☆☆☆★
コーラス:☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆★
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:80
コストパフォーマンス:95

パイオニア PC-15

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)

特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より


 ブラインドテストNo.37(パイオニア PC20)の音にもう少し腰の強さが加わったような音質だが、中域が多少かたく、音が重い感じになる。ジャズの迫力では、リファレンス・カートリッジ(シュアーM75)によく似た、中域のしっかりした厚みがあり、ムードもバランスよくおもしろく聴かせる。
 弦合奏では中域の張りがいくぶん耳ざわりだが、ハーモニーがよく溶け合うし適度につやもある。ヴェルディでも中高域の張り出す感じはあるが、フォルティシモでも歪みがわりあい少ない、男声の美しい、明るいバランスの良い音である。ロスアンヘレスの声は、しかしやや品を欠き、ピアノ・ソロもタッチが硬く重く粘る。スクラッチノイズは少ない方だが、ややよごれ気味で多少耳につき、高域のしゃくれ上がったような音である。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆★
コーラス:☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆★
総合評価:75
コストパフォーマンス:90 

瀬川冬樹


ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)

特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より


 総体に、やや重くダークな音で、音の切れ込みの良さとか音離れの点に多少の不満が残るが、柔らかくバランスの良い音質で、欠点の少ないカートリッジである。スクラッチもよく抑えられて、高域にピーク性の危なげな音も感じられない。ただ、どのレコードの場合にも、楽器がやや遠のく印象で、ソフトタッチの音になる。激しさを求める向きには敬遠されそうだが、耳当りのよさをとるべきだろう。オーケストラや弦合奏では、、弦楽器のみずみずしさがもっと欲しい気がするし、声もややドライでタッチがコロコロして輪郭が明瞭だが、強打音ではやや音離れが悪くなる傾向がある。ソフトムードというところで好みが分かれそうだ。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆★
総合評価:80
コストパフォーマンス:95

マイクロ M-2100/5

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)

特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より


 中低域にややふくらみを持たせた温色系の音に特長がある。特別に素晴らしいという音ではないにしても、バランス良く、柔らかく、上手にまとめられた製品と思われる。ジャズの低域が豊かで(もう少し締まりは欲しいが)臨場感があるし、独唱も合唱も、声と楽器のコントラストが表現されて距離感がよく出る。大編成のフォルティシモでも飽和した感じがなく音がよく伸びるが、音源がやや遠のいた印象になり、どういうわけか高域が幾分上がり気味に聴こえる。このカートリッジの弱点はピアノにあるようで、音が平面的で打鍵ONが少々安っぽくなるし、楽器のスケールがやや小型になる。スクラッチノイズが多少ジャリつく感じなのと、レコード外周の反りに弱くフラッター気味になりやすい。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆★
コーラス:☆☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:85
コストパフォーマンス:100

テストを終えて

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)

特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より


 39個というと多いみたいに思えても、いまわが家でいつでも鳴る形にシェルにマウントしてあるカートリッジが間もなく80個になろうとしているありさまだから、その大半は一度は耳にしている筈で、今回はじめて聴く製品は数種類しかないわけだけれど、ブラインドで銘柄を想像できたのは10個にも満たなかった。いくら音が違うといったところで、カートリッジの差というものは、たとえてみれば、同じメーカーのスピーカーでせいぜい1ランクちがいの音の差ていどが、カートリッジでいえばピンからキリまでぐらいの差にあたるといった程度で、そういうこまかな差を文字に書き表わすと、どうしても新聞を虫メガネでたどるように、写真の網点や活字のニジミがことさら誇張されるといった感をまぬがれ得ない。
 また一方、レコードあってのカートリッジの音ということを考えると、スピーカーが部屋や置き場所によってガラリと音質が変わるようにひとつのカートリッジの評価が、レコードによって、かわることは当然といえる。その点、今回テスト用として選ばれたレコードは、カートリッジのテスト用としては、どちらかというとカートリッジのかくれた欠点をえぐり出すというソースでなかったから、結果としては、ずいぶん点数が甘くなっていると思う。少なくとも、わたくし個人が対象にしている室内楽や器楽曲、声楽曲のとくに欧州系の凝ったレコードを再生したら、またいわゆる優秀録音ではないSPからのダビングものや年代の古い録音を再生したら、もっと辛い評価になったろうとも思う。加えて、カートリッジという商品は承知のように一個ごとの製品ムラがあるし、室温やその他の外的条件による適性針圧のちがい、負荷のちがい、またMC型ではトランスやヘッドアンプのキャラクターなど、さまざまの条件が複雑にからみあうので、カートリッジの本質を正しく掴もうとするなら、こういう短期間の比較にはもはや限界があるし、さらにつっこんで考えてみれば、ブラインドテストという方法に、根本的に無理があることに気がつく筈だ。
 実際の話、10号のスピーカー、今回のカートリッジと二回のブラインドテストを経験してみてわたくし自身は、目かくしテストそのものに、疑いを抱かざるをえなくなった(本誌のメンバーも同意見とのことだ)。目かくしテストは、一対比較のようなときには、先入観をとり除くによいかもしれないが、何十個というそれぞれに個性を持った商品を評価するには、決して最良の手段とはいい難い。むろん音を聴くことがオーディオパーツの目的である以上、音が悪くては話にならないが、逆に音さえ良ければそれでよいというわけのものでは決してありえなくてカートリッジに限っていってもいくら採点の点数が良かろうが、実際の製品を手にとってみれば、まかりまちがってもこんなツラがまえのカートリッジに、自分の大事なディスクを引掻いてもらいたくない、と思う製品が必ずあるもので、そういうところがオーディオ道楽の大切なところなのだ。少なくとも、ひとつの「もの」は、形や色や大きさや重さや、手ざわりや匂いや音すべてを内包して存在し、人間はそのすべてを一瞬に感知して「もの」の良否を判断しているので、その一面の特性だけを切離して評価すべきものでは決してありえない。あらゆる特性を総合的に感知できるのが人間の能力なので、それがなければ測定器と同じだろう。そういう総合能力を最高に発揮できるもののひとつがオーディオという道楽にほかならない。
 この原稿を渡した後で、コスト・パフォーマンスの点数を入れるために、価格を知らせてもらうわけで、とうぜん製品の推測もつくことになるが、どういう結果が出ようが、わたくしとしては右に書いた次第で、あくまでも今回与えられた条件の中で採点したにすぎず、この採点は商品としてのカートリッジの評価とは必ずしも結びつかないことをお断りしておきたい。

ビクター IM-10S

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)

特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より


 ブラインドテストNo.27(ピカリング V15/AM3)あたりと一脈通じる、中域から低域の厚い特徴のある音質だ。高域の特性があまり延びていない印象で、そのためか音が重い傾向だが、中低域の豊かさをとるべき音なのだろう。しかしスクラッチノイズの性質は、スペクトラムが低く楽音にまつわりつく感じで、多少耳ざわりである。ピアノのソロは中域の厚みと高域の丸さのために腰のつよい太い音質になるが、ジャズではこの強さが好ましい。ロスアンヘレスの声が明るく、伴奏との距離感の出るのもよい。弦合奏もよくハモる。しかしやはりヴェルディあたりになると、強奏で何となく安っぽいハイファイ調になり、音ばなれのよくないところが気になってしまうあたり、中級品と思われる音質である。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆★
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆★
ムード:☆☆☆★
打楽器:☆☆☆★
総合評価:75
コストパフォーマンス:80

瀬川冬樹


ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)

特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より


 わりあいに腰の強い、ホットな音質を持ったカートリッジで、多少品格に欠けるが一種のふてぶてしさを持った、中高域に張りのある音質は独特である。オーケストラではバランスよく、低域も充分出て、音の奥行きも立体感もなかなかよく出るが、フォルティシモではやや混濁気味で、強奏の際の伸びと分離に多少難点が残る。ピアノは、タッチが明瞭だが、ややこもり気味のところがある。弦合奏は特に難は無いというものの、中高域に幾らか圧迫感がある。ロスアンヘレスの声にもそういう印象が付きまとうし、ヴェルディも強奏部でやや荒くなる。しかし、ジャズやムードではダイナミックな近接感を伴って厚みのある楽しめる音を再生する。

オーケストラ:☆☆☆☆★
ピアノ:☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆★
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:75
コストパフォーマンス:80

ADC ADC25

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)

特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より


 ピーク性の危なげな音が全然感じられないが、中域の盛り上がったカマボコ型の特性らしい。ピアノや打楽器の音がよく張り出して、やや派手だがピアノのタッチは軽く粒が立ち、適度の厚味を持ってしかも細かく、音が明るい。しかし、「ツァラトゥストラ」や「レクィエム」では、やや抑制を欠いて押しつけがましく、野放図に唱うといった印象がやや安手で品のない音になりやすいが、ジャズでは楽器が近接してある種の生なましさを再現する。フォルティシモでも音がつぶれずによく伸びる。ただ反ったレコードで何となくフラッター気味になるのは、針の支持の柔らかすぎのようで、トレースに不安定なところがありそうだ。スクラッチノイズは、ややスペクトラムが低く、楽音との分離がよくない。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:80
コストパフォーマンス:75

EMT TSD15

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)

特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より


 いくらブラインド・テストでも、自分が毎日常用しているカートリッジぐらいは、見当がつこうというものだ。最初のスクラッチノイズを聴いただけで、これはEMTだと判ってしまったので、試聴記にも先入観が入ってしまうし、なにしろ目下惚れっぱなしの製品だけに欠点が書きにくい。まあ強いて難点をあげれば効果だし入手しにくいし、割合に寿命が短いし、しかも針交換が高価につくということで、決して万人にすすめるべき製品ではないし、いささか深情けの過ぎるような音質は、もっとリラックスして、カラリとドライに楽しみたいという人には毛嫌いされるにちがいない。つまり決して万能型のカートリッジでもなく無色でもない、かなりアクの強い音質だと思う。

オーケストラ:☆☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆☆☆
総合評価:100
コストパフォーマンス:85

エンパイア 999VE

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)

特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より


 すばらしく安定な、どっしりと腰のすわった音質で、周波数全域に亘ってよくコントロールされた、ピーク成分のない滑らかな音質である。ツァラトゥストラの冒頭のオルガンの低音の独特の厚みは振動的と言いたいほどだ。高域は、やや丸いために、ちょっと聴くとソフトムードのようだが、分解能もよく中低域の厚みの上に充実した奥行きある音が乗って、フォルティシモでも腰がくだけずよく伸びる。ピアノもバランスが良く、多少甘く切れ込み不足の感があるが、耳あたりがいい。弦合奏では、高域のマルサゆえかツヤに欠けて無難といった印象。ジャズではこれがさらにソフトムードになって激しさに欠けるが、総体に歪みっぽさのない、滑らかな安定したトレースが素晴らしい。

オーケストラ:☆☆☆☆★
ピアノ:☆☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:85
コストパフォーマンス:75

シュアー V15 TypeII

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)

特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より


 ごく平均的な特性をもった優等生手とカートリッジのようで、おとなしいがおもしろみはあまりない。オーケストラでは、奥行きや距離感が割合よく出て、音の分離もいいが、冒頭のオルガンの重低音がやや不足する。ピアノはタッチが柔らかいが、切れ込みに欠けて奥行きが浅く感じられる。弦合奏でもやはりおとなしく柔らかく、ソフトムードで躍動感に欠け、ロスアンヘレスの声はバランスは美しいが、つややかさがないのであくまでも無難という印象。大合唱もバランスよく、これといった欠点はないがもう少し奥行きが出て欲しい。ジャズも躍動感が無くおとなしく、楽器の距離感がもっと出ても良さそう。ソツがなさすぎておもしろくないのだが、こういう欠点の無さが貴重なのかもしれない。

オーケストラ:☆☆☆☆★
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:80
コストパフォーマンス:75

エラック STS444E

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)

特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より


 ハイ・エンド(高域端)のしゃくれ上がった特性らしく、それが一種の繊細感を伴っているが、中域の厚みに欠けるためか、線の細い音質である。総体に平板で奥行きに欠け、ピアノ・ソロやジャズのピアノがべったりと立体感を欠く。弦合奏では中高域に独特のツヤが出るが、細身で冷たい音質である。ヴェルディのレクィエムではハイ・エンドのピーク性の音が最も強調されて、ハイファイマニアの喜びそうな、一見繊細で分離のよい派手な音を聴かせるが、重量感のない軽い音である。ロスアンヘレスの声が、ややドライになってしまうのもこの特性のためらしい。ただ、全体としては音の品位はそう悪い方ではなく、軽快でクールな音質にこの製品の特徴がある。

オーケストラ:☆☆☆☆★
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆★
総合評価:80
コストパフォーマンス:75

スタントン 681EE

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)

特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より


 中高域をやや盛り上げて、高域を抑えたような特徴のある音質。ジャズのコンボなどでは、独特の近接感が出て、厚味とコクのあるウォーム・トーンを聴かせるが、最高音域が柔らかく丸めてあるので、ブラッシュ・ワークの切れ込みや繊細感に不満が残る。オーケストラや弦合奏では、したがって抜けの良くない甘い音になり、幕一枚向こうで鳴る感じになる。スクラッチノイズは少ない、という方ではない。声やピアノでも近接感のある腰の強い音になるが、やや圧迫感がなくもない。しかし、音全体に、なめらかさと力強さがあって、相当に個性的なカートリッジだという印象を受ける。ハイのしゃくれ上がった音の嫌いな人には、好まれる要素を持っている。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:80
コストパフォーマンス:75

シュアー M75E TypeII

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)

特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より


 いろいろなレコードに対して平均的に点数が良く、ある種の魅力も兼ね備えたなかなか好ましい製品だ。オーケストラで音源が、やや遠くなる感じはあるが、楽器の遠近感や奥行きを美しく再現し、適度のキメも細かく、バランス良く歪みも少ない。ピアノでは、中高域の張りが、やや不足してタッチが甘くなるが、柔らかく楽しめる音質。弦合奏はユニゾンがよく溶け合い、生き生きとよく動くつやっぽい音が再生される。ヴェルディは声部の厚みをやや欠くがディテールがよく再現され、強奏でも歪が少なく、スケールのあるダイナミックな音質である。ジャズ、ムードもおもしろく聴ける。ロスアンヘレスで、声と楽器のコントラストがもう少し望まれるが、総じて良いカートリッジだ。

オーケストラ:☆☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆☆★
総合評価:95
コストパフォーマンス:90

デッカ C4E

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)

特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より


 軽く耳ざわりでないスクラッチノイズを伴って、ツヤっぽく独特の拡がりが出る。オーケストラのフォルティシモでも音がつぶれず十二分に良く伸びて、ダイナミックレンジの広さを感じさせる。歪みも少なく、音の分離も切れ込みも音離れもよい。特にピアノが非常によく鳴って、やや重量感を欠くがタッチが明瞭な、中音域の張りのある、明るい美しい音である。弦合奏は中低域の量感をやや欠くが高域のツヤが美しいユニゾンを聴かせる。ロスアンヘレスの声もツヤがあって、しかも温かい。ただし、ジャズではシンバルの音などに独特の音色があって、いずれにせよ中~高域に一種の癖を持ったカートリッジであることがわかるが、安っぽさのない格調の高い音が印象的である。

オーケストラ:☆☆☆☆★
ピアノ:☆☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆☆★
声楽:☆☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:90
コストパフォーマンス:85

ADC ADC10E/MKII

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)

特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より


 中域が張り出して、やや図太いがしっかりした、明るい音質である。弦合奏に厚みがあり、ロスアンヘレスの声も温かく聴ける。ジャズは近接感がよく出て、温かく良く唱い、打楽器の音離れもよい。ただし、レコードによってはトレースに不安定なところがあって、ピアノの打鍵がザラつき気味になる。オーケストラではフォルティシモがややよごれて、何となくビリつき加減。ヴェルディでは低域の厚みがやや不足して、コーラスが細身になる。小編成では高域の丸い音質でシャープさの点で物足りなさがあるが、大編成ではハイ・エンドが上がるような、レコードによって性格の変わるようなところがある。針の支持が柔らかすぎるのか゛反ったレコードでは音が浮く傾向がある。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆☆★
総合評価:80
コストパフォーマンス:75

瀬川冬樹


ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)

特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より


 中低域のやや不足した線の弱い音だが、ふんわりと音が拡がって独特の雰囲気を持った品の良い音質だ。総じて音の厚みに欠けるし、特にピアノでは左手の方が音が弱くなる感じで、腰砕けという印象が無くもないが、弦の合奏等、ユニゾンが美しくよく溶け合いツヤを持って再現される。独唱も品良く美しい。「ツァラトゥストラ」のフォルティシモでも音がつぶれずよく伸びる。しかし、大合唱(ヴェルディ)等では、声がやや濁る感じになり、コーラスの人数が減ったようになるのは、中域の厚みに欠けるためか。ジャズではややきれいごとに音源が遠くなって迫力に欠ける。スクラッチは殆んど気にならないが、針の支持が柔らかいらしく、反ったレコードの外周でボディーがぶつかり気味になる。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆
弦楽器:☆☆☆★
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆★
総合評価:75
コストパフォーマンス:70

エンパイア 888VE

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)

特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より


 高域にピーク性の音がほとんど感じられない丸い音質で、中域に独特の厚みと粘りがあって、幾分重くこもるが、力強い線の太い音をもっている。音のたちそのものは悪い方ではなく、特にピアノでは腰のすわった力強いタッチが聴かれ、したがってジャズも、音像がやや大柄になるが迫力がある。しかしツァラトゥストラやヴェルディでは、中高域で、やや圧迫感があり、フォルティシモでは少々飽和的になって、切れ込みや分離に不満が感じられる。スクラッチノイズの性質は、割合低いところにもスペクトラムを持つような重い音質で、楽音にまつわる傾向がある。おもしろ味とかニュアンスにはやや欠けるが、ロスアンヘレスの声などはふくらみを持って温かく聴けた。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆★
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:80
コストパフォーマンス:80

ビクター IM-2E/MKII

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)

特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より


 レコードのスクラッチが軽く浮き上がり、楽音とノイズがよく分離して、おそらく振動系の軽いカートリッジであることを思わせる。総じて柔らかく軽いクールな音質であるが、試聴メモでは──中低域が不足気味で音の厚みに欠ける。音源が遠ざかる。腰が弱い。充実しない。──といった形容が八枚のレコードに共通していて、音のバランス上、とくに中音域(それもかなり広範囲の)全般に力の欠けた、線の弱い音質である。ハイ・エンド(高域端)にかけて上がり気味の特性が、このけいこうを さらに強調している。オーケストラのフォルティシモでは、音が充分に伸びきらない印象もある。ダンパーが非常に柔らかいらしく、外周で反りの大きなレコードでは、ボディーが盤面をこすり気味であった。

オーケストラ:☆☆☆
ピアノ:☆☆☆
弦楽器:☆☆★
声楽:☆☆★
コーラス:☆☆☆
ジャズ:☆☆★
ムード:☆☆★
打楽器:☆☆★
総合評価55:
コストパフォーマンス:55

グレース F-8C

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)

特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より


 美しく良く抜けた明るい音質。高域に軽い盛り上がりを感じるほかはフラットな印象で、すべてのレコードを安定にトレースする。ヴェルディのレクィエムでは中高域のややうるさいところが難点であること、ピアノが多少安手になること、ジャズではハイが上がっている感じなのに楽器の近接感がそれほど出ないことなどから、中低域の厚みがもう少し欲しく思われるが、総体に明るく、きめ細かで、適度のツヤを持った音質が好ましく、オケのフォルティシモでもよく伸びて歪みっぽさのないところも良い。スクラッチノイズの性質は軽くシャリつく感じで、僅かながら耳につきやすいが、楽音とはよく分離する。こまかな難点はあっても、それをカヴァーする良い所を持った製品のように思われる。

オーケストラ:☆☆☆☆★
ピアノ:☆☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆☆★
声楽:☆☆☆☆★
コーラス:☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:85
コストパフォーマンス:90

デンオン DL-103

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)

特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より


 総体的に上の部に入るカートリッジであろう。物理特性も良さそうだし、聴感上もなかなか好ましい。オーケストラでは音が柔らかくキメ細かで、バランス良く、フォルティシモでの音の伸びも充分だし、歪みも少ない。立体感の再現も良く、楽器の距離感や奥行きの描写に優れている。ピアノもバランス良く、腰のすわった見事な音。弦合奏はやや強さに欠けるが圧迫感がなくハーモニーが美しい。ロスアンヘレスの声もまるくつやっぽいが、声と伴奏との距離感がやや不足。ヴェルディはオケと声部が安定してよく拡がって、やや細いが分離良く澄んだ音で、特に男声が美しい。ジャズも臨場感を伴なって音像が良く浮き上がる。スクラッチノイズは僅かに耳につくが、総じて優れた製品のようだ。

オーケストラ:☆☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆★
声楽:☆☆☆☆★
コーラス:☆☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆☆★
総合評価:90
コストパフォーマンス:95

瀬川冬樹


ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)

特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より


 スクラッチノイズがよくおさえられ、聴感上の歪みも少ないし、音のバランスも良い。適度の奥行きもあるし、やわらかく、温かいきれいな音で、特にピアノの高域など、いわゆる粒の立ったというのか、タッチの明瞭な独特の美しさも感じられる。強いてあげるべき欠点も無いし、おそらく計測上の特性も相当に良いという製品なのだろうか、どういうものか聴き終わった後の印象が稀薄で、個人的には食指の動きにくい音であった。たとえば、ここにもう少しシャープな切れ味を求めたい。生き生きとした躍動感が欲しい。特にピアノやジャズでは、低域の締まりがやや不足しているし、中音域がもっと充実していて欲しい。フォルティシモでやや音が伸びきらない点も気になった。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆★
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆★
ムード:☆☆☆★
打楽器:☆☆☆★
総合評価:75
コストパフォーマンス:80

ナガオカ NR-I

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)

特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より


 かなり美しい音質をもっているのだが、どこか柳腰美人のような腺病質的な音のカートリッジだ。音の左右の拡がりは充分よく出るが奥行きが不足して、従ってやや平面的な印象を免れない。オーケストラの強奏では中低域の充実感に欠け、腰が弱いシリつき気味の音で、ハイ・エンドの上がっているような音質である。ピアノではタッチの弱さや音像の輪郭の甘いところが先に立ちすぎて、ハープシコードのような音になってしまう。弦合奏はそういう癖が逆に美しさにもなるが、ユニゾンの厚みには欠ける。ロスアンヘレスの声は割合美しく、伴奏とのコントラストもよく出る。ジャズやムードでは意外に立体感がよく出て、ややハイ上がりながらおもしろく聴ける。かなり癖の強い製品のようだ。

オーケストラ:☆☆☆★
ピアノ:☆☆★
弦楽器:☆☆☆★
声楽:☆☆☆☆★
コーラス:☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆★
総合評価:75
コストパフォーマンス:80

オルトフォン SL15

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)

特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より


 スクラッチノイズが多少強調されるし、ノイズの性質からすると必ずしも優等生的なカートリッジではなさそうだが、この音質にははなかなか魅力的なところがある。オーケストラでは、やや中域の薄い細身の音質だが、歪みが少なくよく切れ込むしフォルティシモでもよく伸びたみずみずしい音が聴ける。ピアノは丸い粒がよく揃った感じで、一音一音がキュッと引き締ったシャープな音像である。弦合奏もやや厚みを欠くがユニゾンのハーモニーが美しく、楽器の数が増える感じである。独唱、合唱は、声がわずかにやせぎみだが、ツヤっぽく魅力的だ。やや小造りだが、シャープでいて温かく、音が生き生きと奥行きを持って立体的に聴こえる。細身だが彫りの深い現代風美人といったところか。

オーケストラ:☆☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆☆★
総合評価:95
コストパフォーマンス:100

グレース F-8M

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)

特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より


 音が幾分平面的で混濁気味になりやすい。ピーク性の音は殆んど聴かれないが、中高域の引っ込みがちの音質で、従ってオーケストラでは奥行きと厚みをやや欠いて、楽器の距離感が充分に再現されず、フォルティシモでは音が充分に伸びきらない。ピアノは、中域全般に力のないソフトタッチで、音がくしゃんとつぶれ気味。弦合奏も中高域の引っ込んだ、こもった感じでつやが余りなく躍動感に乏しい。ロスアンヘレスの声は割合良いが、やや固く金属質に響く。ヴェルディの強奏部では歪みは少なく分離も良いが、音がやや薄く平板だ。ジャズはシンバルが安っぽくなり、ギターはふくらみがなく小型になる。音の素性は悪くないが、製品としてのコントロールに難があるのではないか。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆★
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆★
コーラス:☆☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆★
打楽器:☆☆☆★
総合評価:75
コストパフォーマンス:80

テクニクス 210C

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)

特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より


 全部のレコードを、きわめて安定にトレースして、全く危なげのない音を聴かせてくれた。おそらく、物理特性のいいカートリッジに違いない。中音域は充実して適度の厚みがあり、温かく柔らかく、刺激も少ない。しかし、音色そのものは明るい方ではなく、やや暗く、重いところがあり、オーケストラや合唱曲では音のバランスが実に見事ではあるが、音離れが良くないというか、スピーカーの中に音がくっついてこちらまで飛んでこないというような、ややもったりしたところがある。ピアノや弦合奏でも、高域の切れ込みにもどかしさを感じるし、打楽器の衝撃音やオケのフォルティシモで十二分に伸びきらないようだ。スクラッチノイズはきわめて少なく、ほとんど耳につかない。

オーケストラ:☆☆☆☆★
ピアノ:☆☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:85
コストパフォーマンス:90

サテン M-11E

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)

特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より


 トーン・コントロールでハイ・ブーストしたような、特異なバランスの音質である。このために、すべてのレコードが、他のカートリッジと比べてまるで音質が変わってしまい、ロスアンヘレスの声などは、ことさらにハスキーになる。しかしこういう華やかで鮮明な音は、他にないだけにうまく使いこなせば貴重なのかもしれない。たとえばオーケストラでは、非常に分離の良いような、ある種のきめ細かさが出るし、ムード音楽は部屋いっぱいに音が浮き上る印象になる。ピアノの打鍵も、鈍く重くまつわりつくものがなくてスカッと抜けて、軽くよく切れ込むタッチである。要するに非常に特徴があるのだが、ここまでバランスをくずしてしまうと、何となく薄っぺらで安手な印象が先に立ってしまう。

オーケストラ:☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆★
声楽:☆☆★
コーラス:☆☆★
ジャズ:☆☆☆
ムード:☆☆☆★
打楽器:☆☆☆
総合評価:60
コストパフォーマンス:65

デンオン DL-107

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)

特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より


 ハイ・エンドのしゃくれ上がりは感じられないが、中高域がやや張り出し気味で、スクラッチノイズがわずかながら耳につく。こういう特性のためか総体にやや派手な、明るい印象を受ける。オーケストラは多少勇ましいという感じがあり、ピアノはきらびやかでタッチが軽く、打鍵もしっかりして切れ込みが良い。しかし弦合奏のユニゾンがややうるさく、合唱では特に中高域の張りが目立ちすぎ、内声部の温かみも欠け、ロスアンヘレスの声は、何となくハスキーがかる......というように、音のバランス上難点があった。音の性質(タチ)そのものはそう悪い方ではないのだから、おそらくもっと良くできるカートリッジのはずだ。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆
声楽:☆☆☆★
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆★
ムード:☆☆☆
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:75
コストパフォーマンス:80

瀬川冬樹


ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)

特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より


 聴感上では中高域がややひっこみ気味で、ハイ・エンドのしゃくれ上がった特長のある音をもっているが、総じて美しいつやっぽい音質に魅力が感じられる。合唱の項目の点数だけがよくないのは、大編成のオケと混声合唱というように音の厚みを要求される曲であるのは、前記の特性の傾向ゆえか、多少ドンシャリ的な、中音域の薄っぺらな音になってしまったからで、この辺がこのカートリッジの弱点らしい。従って、時間をかけていろいろなレコードでテストすれば、あるいはもっと点数が下がるかもしれないが、今回のテストに限っていえば、歪みの少ない柔らかく美しい音、切れ込みの良いよく抜けた分離の良さ、独特のツヤっぽさ等、一応上位にランクされてよい製品のようだ。

オーケストラ:☆☆☆☆★
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆★
声楽:☆☆☆☆★
コーラス:☆☆☆
ジャズ:☆☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:85
コストパフォーマンス:90

東京サウンド STC-4E

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)

特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より


 音のバランスは仲々良く、欠点の少ない整った音質だが、音色に明るさをやや欠いて、どことなく湿り加減になる。オーケストラでは低域に適度の厚みもあり高域のキメも細かく、音の分離もいいし奥行も深みもあるのだが、何となく音がスピーカーから離れてこないような感じである。ピアノの音もバランスよく、弦合奏もよく溶け合ったハーモニーを聴かせるし、中高域もやわらかく美しい。ロスアンヘレスの声と伴奏のコントラストもよく再現される。要するに素性の良い音なのだが、行儀がよすぎるというか、躍動感とかつややかさをもっと望みたいような暗調の音質がもどかしくて、総じてフォルティシモで音がややつまるようにのびきらないところが残念に思われる。

オーケストラ:☆☆☆☆★
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:80
コストパフォーマンス:85

ADC ADC550E

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)

特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より


 音のクォリティから想像すると、割合ロー・コストの製品だろうと考えられる。高音域のレンジはそう広いと思われず、中~低域の音質が重く粘るが、特に中音域に音のバランスが集中している感じで、腰の強い音がする。高域は丸く甘いのだが、レコードによっては何となくドンシャリ調になるのは、おそらく振動系のナチュラル(高域共振点)が可聴周波の割合低い方に出ているのを、無理やり押えたといった特性なのではないか。フォルティシモでは音が混濁してやや硬くなり、ピアノも声も、品に欠けるところがある。バリバリと力強い独特のねばりが特長で、周波数レンジを欲ばらないで、バランスよく、うまくまとめたという感じの音質であった。

オーケストラ:☆☆☆
ピアノ:☆☆☆
弦楽器:☆☆★
声楽:☆☆★
コーラス:☆☆★
ジャズ:☆☆☆
ムード:☆☆☆
打楽器:☆☆☆
総合評価:60
コストパフォーマンス:70

グレース F-8L

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)

特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より


 目立った特徴も欠点も無く、ごく穏健な製品のようだ。総体に丸く甘いが聴き易い音である。ハイ・エンド(高域端)はやや上昇ぎみにもおもわれるが、ピーク性のものではなく、これが音に適度のツヤを持たせているようである。オーケストラのフォルティシモや打楽器の衝撃的な音でやや腰が弱くなるが、トレーシングも割合安定しているし、反ったレコードでも不安がない。スクラッチ・ノイズも少なく、雑音の性質は軽く、耳ざわりでない。「ツァラトゥストラ」のフォルティシモや「レクィエム」の大合唱で、音の分離が幾分物足りないこと、柔らかく聴き易いがやや薄手で、音の奥行きに不足を感じることや、強奏の部分で僅かだが音にあらさが残る点が気になった。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆★
総合評価:80
コストパフォーマンス:85

瀬川冬樹


ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)

特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より


 中高域が多少張り出す感じだが、耳ざわりなピークもなく、圧迫感のない滑らかな音を聴かせる。中低域は幾らかふくみ声のような丸い感じでおとなしいが、総体に明るい新野しっかりした音質で、音像が甘くならない。特に弦合奏はつややかでハーモニーが美しい。ピアノの音色も独特で、コロコロとタッチが明瞭。ロスアンヘレスの声はやや中抜けのような気がするが、ヴェルディの大合唱で男声がしっかりきれいにハモるのは、音のバランスに難点が少ないためだろう。ジャズはややおとなしく迫力に欠けるが、近接感を伴って楽しく聴ける。立夏如何がよく出るが大編成のフォルティシモでは、音が僅かに荒くなる傾向がなくてもない。しかしトレースは割合安定している。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆☆
声楽:☆☆☆★
コーラス:☆☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆☆★
総合評価:90
コストパフォーマンス:100

スペックス SD-801 EXCEL

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)

特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より


 これは非常に特徴ある音だ。低域の独特の厚みというか、ふてぶてしいと言いたい程の量感は一度聴いたら忘れ難い。特にジャズやムード(今回試聴に使ったディスク)の場合には、ホットなプレイを楽しむ雰囲気をかもし出す。しかしこの低域はやや重く粘って、しかも不思議なエコーがつく感じで、ピアノやベースの音離れがよくない。中域の充実感は充分だが、弦やピアノではときとしてややキャンつく傾向がある。中高音域からハイ・エンドにかけては、ダラ下りになったようなレンジの狭い感じの音質で切れ込みが物足りない。かなり低い周波数にスペクトラムを持つ重いスクラッチ・ノイズが、楽音にまつわりつくように耳障りな傾向があった。

オーケストラ:☆☆☆★
ピアノ:☆☆☆★
弦楽器☆☆☆☆★
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:80
コストパフォーマンス:90

パイオニア PC-20

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瀬川冬樹


ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)

特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より


 低域から中域にかけての音域がやや弱く、高域端が上がっているようなバランスで、腰が弱いがあたりはやわらかく、耳あたりのよい音質である。繊細感も適度にあってひずみも少なく美しい。ピアノのタッチはやわらかすぎるきらいがあるが、こまかい音もよく出る。ただ、中音域の力が弱いせいか音が平面的で、ややこもり気味のところがある。弦合奏はよく溶け合うが、躍動感に欠けてきれいごとの感じ。ロスアンヘレスは多少ふくらみ声で、おもしろ味に欠けるが、耳あたりがやわらかい。ヴェルディでは、さすがに内声部の厚みに掛けて、特に男声の美しさが感じられない。総じて柔らかすぎる印象だが、バッググラウンド的に聴き流すには好適の音のように思う。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆★
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆★
ムード:☆☆☆★
打楽器:☆☆☆★
総合評価:70
コストパフォーマンス:80

菅野沖彦


スイングジャーナル 9月号(1969年8月発行)

「SJ選定新製品試聴記」より


 カートリッジは手軽に差変えて使えるので、ちょっとオーディオにこった人なら2〜3個はもっているものだろう。というよりは、お金が貯って、良いカートリッジが発売されたと聞くと、つい買ってきて使ってみたくなるのが人情。事実、カートリッジを変えると良悪は別にしても音が変るからついつい、これで駄目ならあっちでは......ということになるものだ。もっとも、カートリッジというものは、それを取付けるトーンアームと一体で設計されるべきもので、うるさくいえば、先ッチョだけを変えるというのは問題がないわけではない。だから、同じアームにAとBのカートリッジをつけ変えて、Aがよかったからといって一概にAのほうが優れたカートリッジだと断定できない場合もあるのである。アームを変えたらBのほう力くよくな
る可能性もあるのだ。そこで、カートリッジを差変えて使うことのできるトーンアーム、いわゆるユニバーサル・アームは勢い高級な万能型でなければ回るわけであるが、今回のテストには英国製のSME3009を使用した。国産にも優れたアームが多数あるが、このSMEのアームは精度の高い加工とスムースな動作、ユニバーサル型としての妥当な設計、そして外国製ということで国産アームよりも客観性があると考えられるためか、研究所の測定などにも、現在ではこのアームを使うことが常識となっている。
 アームの条件について前書きが長くなってしまったが、この試聴記はSJの試聴室で実際にじっくリテストした結果なのでその条件について書いておくことも必要だと考えた。アンプやスピーカーは別掲の通り。使用レコードは新譜として各社から発売されたものの中から録音のよいものを数枚選び、さらに私自身の録音したものを何枚か聴いた。これは私にとってもっとも耳馴れたプログラム・ソースなので、その出来不出来はともかくテスターとしての私の耳には最高のプログラム・ソースだからである。
 さて肝心のオーディオ・テクニカの新製品AT−VM3だが、この製品は同社がすでに発売しているAT3というロング・ベスト・セラーに変るものとして登場させたもの。そして構造的には同社の開発したVM式という独特なムービング・マグネット型である。これは、AT35という同社の高級カートリッジで初めて実現した方式で、AT35そのものはかなり長期にわたって改良が重ねられたものだ。音の本質的なよさを認められながら帯域バランスの点でいろいろ問題があったものをコントロールして現時点ではバランスのよいカートリッジに成長した。このAT35を普及タイプとして設計しなおしたのが、このAT−VM3と考えられ、価格的にも求めやすいものになった。VM型の特長は、左右チャンネルに独立した発電機構をもつことと、振動系がワイヤーで支持され支点が明確になっていることだが、この2点は従来のMM型が指摘された問題点を独創的に改良したものである。そのためと断言してよいかどうかはわからないが、音の根本的な体質とてもいうものがVM型共通のクォリティを得ていることがわかる。つまり、きわめて明解な締った音質がその特長で、冷いとも思えぬほどソリッドなダンピングのきいた音がVMシリーズの特長である。硬質で現代的なスマートな音がする。比較試聴に使ったシュアーV15IIやエンパイヤー999、ADC10EMKIIなど世界の一級品に悟して立派な再生音が得られた。ベースの音程の分解能は特に注目に価いするものだった。ブラスの高域やシンバルが、冷いのが特長でもあり難点であるが、対価格という立場で考えれば、優秀製品として推したい。ただし、本誌では蛇足かもしれないが、弦のアンサンブルやクラシックのヴォーカルやコーラスにおいてはもうひとつ不満があることをつけ加えておこう。音響機器にハードでドライな客観性を求めるか、ソフトでウェットな個性を容認するかというオーディオの興味の焦点の一つがそれであろう。

菅野沖彦


スイングジャーナル 6月号(1969年5月発行)

「SJ選定新製品試聴記」より


 カートリッジが再生装置の入口として大切なことは今さらいうまでもない。確実にレコードの音溝に刻まれた振動を検出して、素直に電気エネルギーに変換するのが役目である溝を針がたどって、そのふれを発電素子に伝えるという点ではどのカートリッジも同じ方法によっている。つまりカンチレパーといわれるパイプの棒の先に針がついていて、その反対側にマグネットなりコイルなりあるいはその他のエネルギ一変換に必要な物体がついているわけだ。その材質や形状には各設計者の意図や技術が反影していて千差万別だが、基本構造には変りがない。この振動体を弾性体て支えて、針先が常に所定の位置を保つようになっているがこれをダンパーといっている。これらを総称して振動系というが、この振動系の設計製造がカートリッジの特性をほぼ決定するのである。これを電気エネルギ一に変換する変換系にはいろいろな方式があるが、まず振動系が正しく働かなければ、そのあとにいかなる忠実な変換系を用意してもまったく無意味である。MMとかMCとか、あるいは光電子式とかいったカートリッジの種類はすべて変換系についての分類であるが、こうしたタイプの差だけをもってどれがよいか悪いかを決めこむことは出来ないという理由がここにある。
 フィデリティ・リサーチというピックアップ専門メーカーは従来その代表作FR1シリーズで高い信頼を得てきたメーカーである。FR1は改良型MK2になってますます力を発揮し、最高級カートリッジとして広く認められている。このFR1系はMC型であったから、FRといえばMCカートリッジという印象をもっておられる方もあるだろう。同社は古くからMM型の開発もしていたらしいが、製品として市場に登場するのはこのFR5が初めてである。MM、MCというタイプの違いこそあれ、FRの専門メーカーとしてのキメの細い設計製造技術は、まず振動系の完成度の高さに特徴があると思われ、このMM型の出現には大きな期待が寄せられた。
 MM型はMC型に対して使用上いくつかの利点をもっている。まず、出力電圧が高く、そのまま普通のアンプに接続できること、次に針先の交換が容易であることなどである。商品として大量生産向きであることもひとつのメリットだが、これはメーカー・サイドの問題である。そして、このFR5はMM型とはいえ、本体内のコイルのターンニングが特殊で、あまり量産向きではない。このMM型はいかにもFRらしい、こった設計でマニア向けの高級品といえる。磁性体の歪については、すでにFRT3という整合トランスで立証済の高い技術力をもつFRだから低歪率のMM型カートリッジの出現となったのも不思議ではない。ここへくると話は変換系の問題になるのだが、水準以上の振動系が出来上ると変換系の直線性も問題になってくるのである。ひらたくいえば、正確に楽器をたたくテクニックが完成してこそ次に音楽性の問題がでてくるようなものだ。もっとも音楽性のない奴はテクニックも完成しにくいように、カートリッジも変換系と振動系は密接な関係があって実際には2つを分けて考えるのが難しい。ある種の変換系では振動系を理想的にもっていけないという制約もある。その点、MC、MMといった方式では非常に高度なものを実現化できるのである。FR1の追求によって生れた高い機械的技術と磁性歪に関する豊富な資料が生んだこのFR5はMMカートリッジに新風を吹きこむものだ。
 音質は非常にクリアーで歪が少ない。これはジャズのプログラム・ソースに対してはパンチの欠けた弱々しい印象につながる場合もあるかもしれない。特にある種のルディ・ヴァン・ゲルダーの録音のように、どす黒い凄みのある音には品がよすぎるようだ。しかし、物理的に歪の少い高度な録音、たとえばボブ・シンプソンのO・ピーターソンの録音とかコンテンポラリーのロイ・デュナンのものなどには真価を発揮する。のびきった高域特性が保証するシンバルのハーモニックスの美しさ、デリケートな息使いの手にとるような再現が見事であった。

菅野沖彦


スイングジャーナル 11月号(1968年10月発行)

「ベスト・セラー診断」より


 フィデリティ・リサーチ、略してFRというイニシアルは、マニア間で高く評価されているカートリッジ、トーン・アームの専門メーカーである。FRは社長が技術者で、会社というよりは研究所といったほうがよいような性格のため、広く大衆的な商品はつくっていない。この社の代表製品はFR1と呼ばれるムービング・コイル型のカートリッジで、昨年MKIIという改良型を発表して現在に至っている。この欄でもカートリッジを何回かとりあげ、そのたびに、再生装置の音の入口を受持つ変換器としての重要性については詳細に解説されている。そして、現状では理想的なカートリッジというものの存在が理論的には成立しても、実際の商品となると困難だというのが偽らざる実状のようである。つまり、物理特性をみても、あらゆるカートリッジがあらゆるパターンを示し、皆それぞれ専門家によって慎重に開発され製作されているのに......と不思議になるくらいである。ましてやその音質、音色となるとまったく千差万別で、どれが本当の音かは判定不可能といってもよい。一般にはレコードの音がどうであるべきかという基準がない(そのレコードを作った人でさえ本当のそのレコードの音を知ることはむずかしい)から音質や音色を感覚的に受けとって嗜好性をもって優劣を判断することにならざるを得ないわけだ。
 話は少々ややこしくなってしまったが、そういう具合で良いカートリッジというものを、いずれも水準以上の最高級品の中から見出すことはむずかしいのである。FR1MKIIは、そうした高級品の中でも、一段と明確に識別のできる良さをもっている。それは高音がよくでるとかどぎついとか、低音が豊かだとかいった、いわば外面的な特質ではなく強いて表現すれば透明な質といった本質的な音のクォリティにおいてである。FR1の時代には、かなり外面的な特長もそなえていて、音の色づけ、いわゆるカラリゼイションを感じさせるものがあった。それにもかかわらず質的なクォリティの良さを高く評価されていたのだが、MKIIとなってからは、そうしたカラリゼイションも一掃され本当に素直な本来のクォリティが現れてきた。そしてつけ加えておかなければならないことは、FRT3というトランスの存在についてである。ムービング・コイル型は出力インピーダンスが低く、一般のアンプのフォノ入力回路にはトランスかヘッド・アンプを介して接続しなければならない(例外もある)。これがMC型のハンディで、そのヘッド・アンプやトランスの性能が大きく問題とされた。せっかく、本来優れた変換器であるMC型が、その後のインピーダンス・マッチングや昇圧の段階で歪を増加させたのでは何にもならないからである。同社が最近発売したFRT3というトランスはコアーとコイルの巻き方に特別な設計と工夫のされた恐しく手のこんだもので、その歪の少なさは抜群である。FR1MKIIはFRT3のコンビをもってまったく清澄な音を聴かせてくれるようになった。FRT3は他のMC型カートリッジに使っても、はっきりその差のわかる歪の少ないもので、少々高価ではあるけれど、マニアならその価値は十分認められるであろう。
 FR1MKIIの音は恐らくジャズ・ファンの中には物足りないと感じられる人もいるかもしれない。しかし、そう感じられる人は、きっと歪の多い、F特の暴れた装置の音で耳ができた人だと断言してもよいと思うのである。私が優秀だと思うカートリッジはすべて、そういう傾向をもっているが、それは決して何かが足りないのではなく、何も余計なものがないのである。そして、そうしたカートリッジから再生される音はやかましくはないけれど、迫力がないということは絶対にない。これはぜひ認識していただきたいことだ。

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