2012年2月アーカイブ

トリオ TW-61

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岩崎千明


スイングジャーナル 11月号(1967年10月発行)

「SJオーディオ・コーナー ベスト・セラー診断」より


 編集部から「トリオのTW61をどう思うか」というよな電話を頂いたのは、厳しい日中の残暑を忘れたような夜風に乗って、庭の虫の音がクーラーを止めた室内に流れる。
 そんな9月の夜だった。
「トリオの下っ割くという呼声が高いし、近来のベスト・セラー製品でしょう」と答えた。そういえば私の友人のジャズ・ファン、それも音にうるさい上、本人がかなりの技術を持った奴が、TW61をぜひ欲しいと思うんだが、といってきて、トリオに頼んでみたら「ちょうど在庫が売切れてしまったので少し待ってくれ......」という返事があったのが3か月前だったっけ。
 トリオの製品が、機械いじりの好きな技術者に愛されるのは、理由がないわけではない。トリオというメーカーが、エレクトロニクス技術に強いこと、そして、その開発した最新技術を、常に製品に反映して、ユニークな魅力的な製品を、他社にさきがけて発表する点も、技術者には大きな共感を呼ぼう。
 トランジスタ・アンプという商品を、量産化とした形で、市場にまっ先に送り出したのも、トリオのこのファイティング・スピリットの現れだし、始めての本格的なトランジスタ・ハイファイ・ステレオ・アンプもトリオの栄光としてステレオ・アンプ史上に残ろう。
 さて、TW61、そういうわけでしみじみと音に接したことがなかったので、編集部の依頼もあることだし、トリオの神田松住町角の東京試聴室へ、翌日を足をしのばした。
 室の片側にずらりと並んだ最近の製品群、それをまずひとわたり聞いてみた。そして、TW61、うわこにたがわずベスト・セラーを誇るだけのことがあるなあと思ったのである。
 トリオのアンプ群、大きく分けてその音色により2系統あるようだ。その一方は、一時期私も毎日スイッチを入れ、ベイシーのフルバンドを轟かしたTW80A、豊かで迫力に満ちた低音と、ややきらびやかな高音が、ライブな部屋で特に効果的な、華麗ともいえる再生をしてくれた。
 その後この音色をややおとなしくし、きりりと引締めた80D、この線上にはチューナーつきアンプTW880も加えられよう。
 もうひとつの音色、静かといえるほどかなりおとなしく、ちょっと聞くと音域の広さをあまり感じさせないが、一般に技術向上を思わせ、高級な音楽ファンをも納得させる音色であり、これを代表するのがTW61である。そしてこの線上にあるのがチューナーつきアンプTW510であり、やや小出力のマイナーモデルTW31である。
 よく、本物の演奏はいくら聞いても疲れないといわれる。このTW61は、まさにそういう音に思われた。「ねえ、君、一日中聞いていて、どのアンプが一番欲しい?」試聴室の係のエクボがチャーミングなお嬢さんにそう聞いてみた。「そりゃあ、サプリーム1だわ、その次は、これね」TW510であった。つまりTW61にチューナーを組合せた総合アンプが510。やっぱりね。
 TW61、まずなんといったって安い! この値段は、まず音を聞いたら想像できない。31、600円!
 トランジスタ・アンプの永い経験と技術、それに量産体制とが、この価値を生みだし得たといえよう。
 ソリッド・ステートらしくブラック・パネルにゴールドつまみをあしらって、カチッとまとめてある。この小さなかたまりに秘めた出力が50ワットという強馬力ぶりは若いマニアにはたまらないであろう。つまみに触れる。なるほど友人の技術者がしびれたはずだ。アクセサリー回路が完全だ。
 2系統のスピーカーを切換えたりいっしょに鳴らすこともできるし、ピックアップを2つ切換えることもできる。むろんハイファイ・テーププレイヤーを最高に発揮するテープヘッド入力もついている。そして、テープ録音端子、録音しながら聞けるモニター端子とそのスイッチ。
 ところでトランジスタ・アンプは故障しやすくないか、とよくいわれる。トリオのアンプは全部特許の自動復帰保護装置つきだ。故障を誘起する異常事態になると、アンプが自動的に動作を止め、それを直すと動作を始める。安心できる装置である。

トリオ 400M

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菅野沖彦


スイングジャーナル 2月号(1969年1月発行)

「SJ選定新製品試聴記」より


 ターンテーブルの新製品としてトリオの400Mを選定したことはコスト・パーフォーマンスの高さによるといってよいだろう。つまり、対価格性能が優秀だから、これはお買徳といってよい。ターンテーブルの重要性については周知のことだが、他のパーツの特性が向上すればするほど、また優秀なターンテーブルへの要求も高まってくるのである。ターンテーブルにいい加減のものを使ったのでは、どんなに優れたカートリッジやアーム、そしてアンプやスピーカーを使っても絶対に優れた音質を得ることはできない。これにはいろいろな理由があげられるが、もっとも問題となるのは回転ムラつまりワウ・フラッターである。現在ターンテーブル単体として市場にでているものはいずれも実用上問題にならない程度の回転の均一性が確保されてはいるが、回転ムラは音程の不安定をもたらすので再生音の品位を下げる。もちろん音楽的にも正しいピッチが保たれないことは致命傷であるが、音程の不安定として感じられるほどひどいワウ・フラは論外で、そこまでいかなくても、音質のしまりがわるい、ダンピングがわるいという全体的な音色としてもきいてくるのだから注意すべきことだろう。次に問題なのが振動である。モーターの回転に起因する振動がターンテーブルに伝わってはカートリッジから雑音として再生されてしまうので手に負えない。
 ところで、こうした問題の解決には、まず優秀なモーターの開発がなければならない。静かで、回転力の強い、回転速度の均一なモーターによってのみ期待するターンテーブルの性能が得られる。しかし、それと同時に、モーターからターンテーブルへの動力伝達機構の重要性も忘れられない。この動力伝達機構としては現在、ゴム・アイドラーによりターンテーブルの内縁を駆動するリム・ドライブ方式と、特殊化学製品のベルトによりターンテーブルをプーリー駆動するベルト・ドライブ方式の2つがある。動力伝達方式について考える時、1つはいかにロスや障害を少なく正確に動力を伝えるかという考え方がある。モーターの回転速度を正しく減速してターンテーブルを回転させるためにできるだけ単純な機構がよいわけだ。2つには、動力伝達機構をいかに巧みに利用してこれを一種のショック・アブソーバーとしてモーターの振動を吸収してしまうかという一石二鳥的考え方である。トリオの400Mは明らかにこの一石二鳥的考え方の上にたって設計されたもので、アイドラー方式とベルト方式の両方を兼ねて、ベルト・アイドラー方式という呼び方をしている。これには有名なトーレンスのターンテーブルなどもあるが、結果的には優秀な特性が得られている。ターンテーブルはアイドラーによってリム・ドライグされるが、アイドラーはモーター・シャフトとは断絶され、ベルトによっておこなわれている。ベルトがターンテーブルにかけるものより短かいものですむし、速度変更が確実容易(アイドラーの上下による)にできる。重量の大きなターンテーブルを使用し、フライホイール効果を積極的に利用するという考え方もマニア向きといえるだろう。大型のフルパネルは大変重厚なイメージで仕上げも美しい。この価格でできるイメージではなく、同価格の他製品と比較すると圧倒的な風格をもっている。欲をいえば、ターンテーブル・シャフトの加工精度にもう一歩という感じだが、これは最高級品に要求するシビアーな見方であろう。4万円以上の製品とつい比較してしまうというのも、この製品がいかに高いコスト・パーフォーマンスをもっているかがわかるだろう。必ず大型のしっかりしたケースで使うこと。

パイオニア CS-10

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菅野沖彦


スイングジャーナル 2月号(1969年1月発行)

「SJ推薦ベスト・バイ・ステレオ」より


 CS10というスピーカーをごぞんじだろうか。パイオニアがだしている優秀なスピーカー・システムであろ。ただしお値段のほうも大分高い。
 このスピーカー・システムは、ブックシェルフ・タイプといって、現在のスピーカー・システムのタイプの中でもっともポピュラーなものである。初期のブックシェルフ・タイプはたしかに小型で、縦においても横においても使える四面仕上であったが、その後、形が大きくなり重さも増して、現実には本棚へおいて使えるようなものばかりではなくなった。このCS10も、四面仕上げであるが、重くて大きい。約25kgあるから、ちょっとした棚では支持できない。
 ところで、肝心の音であるが、このスピーカー・システムの音質について語ることは大変むずかしい。ベスト・バイとして選んでいるのだから決して悪いものではなく初めに述べたように優秀品であるにはちがいない。では何がむずかしいかということになるのだが、音の性格について、音質と音色という2つの面に分けて語らないと説明がつかないのがこのシステムの音だろうと思う。音質と音色は本来切っては考えられるものではなく、むしろ同義語として扱ったほうが混乱はないが、ここでは便宜上分けて使わせていただくことにしたい。
 まず音質についてだが、低域から高域にかけての周波数特性ののび、そしてその性格は大変すばらしい。しいていえばごく低いところが小型密閉箱のためにやや物足りないが、通常音楽の再生にはまったく問題ないところまでのびている。途中の山谷は大変少なく、フラットに近い特性は、特定の音を強調することがない。特に高音域は並はずれた指向特性のよさとともに非常によい。歪は適確な帯域分割とユニットの設計により大変少なく、ドーム型スコーカー、トゥイーターを使っているために多くの利点をもつ。特に小型密閉箱にありがちなウーハーの音圧によるスコーカーやトゥイーターへの位相干渉は構造上まったく心配がない。3ウェイが理想的に動作して、すっきりした再生音となっている。つまり音質としては大変バランスのよいもので、物理特性として優れていることがわかる。
 次に音色的なものだが、同じような周波数特性、各種の歪率など測定データーが似ていても、音がちがうものはざらにある。特にスピーカー・システムの場合は、箱の設計、材料、工作などは微妙に音色を変える。また、この密閉型の箱にハイ・コンプライアンスのウーハーを入れたタイプ(オリジナルは米国のAR)は一種特有の音色傾向をもつ。ダンプがきいて音がきわめてしまりがよいその反面抜けが悪く、音が前へ豊かに出ないという印象もつきまとう。スコーカーがドーム型のダイレクトラジエーションによるものだけに歪は非常に少ないが、派手な音圧感がない。つまり、ユニットのタイプによっても音色がちがうことも事実である。コーン型、ホーン型、ドーム型など、それぞれちがった音色傾向をもっていることは事実である。
 このようにスピーカー・システムの音についての評価はむずかしいが特にCS10はむずかしい。それはいいかえれば、あまりにも他のスピーカーと異った次元の音の良さがあるからかもしれない。私の好きなスピーカー・システムとして推薦するが、決して派手さや、刺激性のある音ではないことをお断りしておく。使用ユニットといい箱といい、ふんだんにぜいたくをした最高級品である。

ラックス SQ505

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岩崎千明


スイングジャーナル 1月号(1968年12月発行)

「SJ選定新製品試聴記」より


 昭和のごく初めのラジオが普及期を迎える頃から、戦前の電蓄大流行の時期は今日のステレオ大全盛期と同じように多くの国内の新進メーカーが隆盛をきわめた。その中にあって、高品質のスイッチ、端子類、ソケットの類のメーカーで規模は大きくないが、ひときわ有名だった錦水堂というキャリアの長いメーカーが関西にあった。このメーカーはトランスをも手掛けていた。このトランス類を初め、全商品ともかなり高価であったが、みるから豪華な神経の行き届いた仕上げのたまらない魅力であった。私の家に戦前直前、つまり昭和16年頃作られたと思われる錦水堂と銘うった多接点のロータリー・スイッチがあるが、引張り出して確かめたら30年後の今だに接点不良を起すことなく、使用に耐えそうである。この錦水堂こそ、今日のラックスなのである。
 高品質という言葉はいろいろな意味を持っているが、ラックスのアンプの場合は特に信頼度が高いという点が強いようだ。
 ラックスのステレオ・アンプにSQ5Bというのがあるが、これは昨年末やっとカタログから姿を消したが、過去8年間にわたって、ままりステレオが始まってから、ずっと作られていたという日進月歩の電子業界にあって、まったくまれな存在の驚くべき製品であった。これも高い信頼性の裏付けであろうが、こんな例はラックスではちょっとも珍しくはない。SQ38Dというアンプもそうだ。今から4年前の製品で、しかも今なおマイナー・チェンジを受けたSQ38Fが現存し、管球式のステレオ・アンプとして貴重な存在にある。昭和初期からのラックスのポリシーは、ステレオ全盛の今日なお輝きを失っていない。トランジスター・アンプが各社からぞくぞく発表されるや、管球アンプで「もっとも頼りになるアンプ」う送り続けてきたラックスの、トランジスター・アンプが待たれた。それが1昨年末発表されたSQ77Tであり、そのデラックス・タイプが、301であった。SQ301は、管球アンプの音を、トランジスター・アンプによって実現すること技術を集中したと伝えられた。それは当時の他社のトランジスター・アンプとはかなり異った音色で、それが、ファンだけでなく専門家の耳さえも賛否の両論に別かれさせた。これはSQ301の存在が、アンプ界において大きなウェイトを占めていたからにほかならない。
 '68年後期、つまり昨年の後半になってやっとラックスも今までにない意欲的な姿勢を示した。それがSQ505、606アンプの新シリーズの発表なのである。この新製品は、まさにラックスのイメージを一新した。ここには今までの、のれんを意識した老舗の感覚は見当たらない。しかし今までの永いキャリアは、全体の貫禄の中にずっしりと感じることができる。だがパネルにおけるデザイン、アンプ全体の仕様はまるで違う。フレッシュだ。まるでジムランのインテグレイテッド・アンプSA600にあるような、センスのあふれる仕上がりだ。パネルやつまみのつや消しや磨き仕上げの良さにもその新しいセンスがみられ、しかもスイッチの感覚に昔からの技術的神経の細かさが指先を伝わってくる。このアンプの音は前作得スキュー301とはかなり違う。もっと澄んだ音で、301をソフト・トーンとすればかなりクリアーな感じである。しかし、それでも他社のアンプとくらべると暖かさを感じる。いわゆる真空管的といわれているウォーム・トーンだ。
 つまりラックスのアンプに対する音楽的良心はフレッシュなセンスのSQ505にも少しもがけりなく光っているのを感じる。

マランツ Model 7T

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岩崎千明


スイングジャーナル 9月号(1968年8月発行)

「オーディオ・コーナー ベスト・セラー診断」より


 米国系商社に本国から派遣されてくる米人技術者たちと私はよもやま話をすることがときどきある。しかし、いつも感じることだが、ハイ・ファイ・パーツに関する限り、彼らよりも、日本のマニアの方が、はるかにくわしく知っている。ただ米国内における事情とは無関係に、その製品だけについてであり、それは多くの場合、物を正しく判断する基準を狂わしていることも確かである。
 米人技術者に、マランツという名をぶつけてみると、この事情がはっきりする。多くの場合、こういう答が返ってくる。「マランツ! オウッあれは一般商品ではない。高級ハイ・ファイ・パーツの範囲を超えたもので、性能の良否をうんぬんするようなレベルからはるか高い地位にあり、一般のファンが使うことはないと断言できる。マランツが見られるのはスタジオぐらいなものだ。」
 そういう返事を、何回となし聞かされてきて、つくづく日本のマニアはめぐまれていると思うのである。ハイ・ファイに関係している米本国の技術者でさえ、業務用ということで、あまり身近にないマランツの製品、それが日本のハイ・ファイ市場では高価であるかも知れないが、いつでも自分の装置に加え得る身近な存在にあるという点についてである。
 これは日本のハイ・ファイ・マニアのレベルが、米国内におけるそれよりずっと高いことを意味しておりその点で、日本のマニアは大いに自信を深めてよかろう。おそらく、マランツの真価を本当に知り尽し、その高性能を100%活用することができるのは日本のマニア以外にはいないのではないかとさえ思うのである。マランツの製品は、本来業務用としてのみ作られた。モノーラル時代の大型プリアンプが「コンソレット」と名付けられていた。これはスタジオ用のミクサー・パネルをコントロール・パネルと呼び馴わしていたので、その小型化した便利な卓上用という意味からであった。ステレオ用になってステレオ・コンソールと改められ、業務用のモニター用主要製品として米国内のスタジオ内のラックに多くみられるようになってマランツの名はプロの間で有名になってきた。そして60年頃から二本でもマランツの名は、すでに最高級プリアンプとして紹介された。
 私自身が、マランツの真価を知らされたのは、かなり後になってからである。米国市場の主要アンプを、同じ条件のもとで聞きくらべたのは64年の夏の夜。アコースティックのI型II型の組合せ、サイテーションのI型II型なと当時の最高級アンプとくらべて、マランツのプリ・メインの組合せはもっとも目立たないおとなしい静かな音でARやタンノイを鳴らしたのであった。それは、輝きも迫力も華やかさもなく、しかしそれでいてもっともひずみの少なさを感じさせた。広い音声帯域を感じさせるのは他のアンプだったが、抵抗のない自然さはマランツの組合せが一番であった。
 私はそれからいくばくもなくしてマランツのプリアンプを自分のアンプの中に加えた。
 時代は変る。電子業界の進歩は1日ですべてが変革してしまう。
 マランツが真空管をトランジスタに切換えたというニュースは真空管にこだわってきたマニアにショックを与えた。しかしその最初の製品プリアンプ7Tはマランツの名声をさらに一段と輝かす傑作であった。旧型になかったえぐるような繊細さが清澄な再生能力に一段と冴えをみせていた。管球のそれはソフトだが、なにかぬぐい切れない膜がかんじられたが、7Tでは解消していた。初期の製品はフルボリューム時のノイズが問題とされたこともあったが、パワーアンプ・モデル15が出た今日、この組合せは世界一を断言するのにためらうことはない。
 私は経済的なゆとりがあるのならマランツ7Tこそもっとも買得のプリアンプであることを疑わない。
 その使用者のレベルが高くなればなるほど、それに応えてくれる高性能を秘めているという点を指摘したい。そして今日、日本市場における売行きが、立派にそれを物語ろう。

パイオニア SA-910

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菅野沖彦


スイングジャーナル 1月号(1972年12月発行)

「SJ選定新製品試聴記」より


 SA910はパイオニアの最新アンプとして登場したもので、いかにも同社らしい巧みな製品づくりの冴えが感じられるプリ・メイン・アンプである。パイオニアがSAシリーズのアンプをだして、もうずいぶん長い年月を経たが、その間、着実に時代の流れに応じて電気回路の改善、機能の充実、デザインの洗練といった歩みを見せ、このSA910に、それらが集約されたといってもよいだろう。パイオニアというメーカー、まことに好調の波に乗ったメーカーで、国内はもとより海外の市場においても高く評価されているが、それは同社の製品づくりの巧みさと、強力な営業政策のバランスの賜で、よきにつけ、あしきにつけ、オーディオ・マニアや市場の機微に精通したプロ精神が心憎いほどに感じられる。
 SA910は、その性能、価格の両面からみて、当然、高級アンプであり、まず、見事な外観の仕上げに目をうばわれる。フロント・フェイスの金属パネルは一見単純なさりげなさであるが、その精緻な加工と仕上げは美しく、エッジのフレイム加工に立体的なイメージが活きて高級感を盛り上げている。ツマミ類やコントロール・レバー類のデザイン、感触も好ましく、確度と適当な味わいがバランスし、アンプいじりの喜びを感じることができる。回路を見ると、最新アンプにふさわしい充実したもので、特に、イコライザー、トーン・コントロール、パワー・ステージという全段にわたって二電源方式、差動回路を採用し、高い安定度を得ている。ピュア・コンプリメンタリー、全段直結というのは現在の日本のメーカーが猫も杓子も採用しているパワー・アンプの回路パターンだが、このアンプでも、差動増巾二段、二ヶ所の定電流負荷回路を採用し、実効出力で、60W+60W(8Ω)のパワーを20Hz〜20KHzにわたって確保、その時の高調波歪率と混変調歪率は0・1%というデータを得ている。イコライザー・アンプを中心としたプリ・アンプにも入念な設計がうかがわれ、余裕のあるダイナミック・レンジと、偏差の少いプレイバック・カーブ、低い歪率と、よく練られた素子の定数決定により、高いクォリティの音質が保証されている。
 操作パネルを眺めてみると、いかにもパイオニアらしいマニア気質を知り尽した、いじる楽しみとその必然性がよく考えられた配慮がわかる。特に目につくのは、ユニークなツイン・トーン・コントロール、レベル・セット・ツマミ、三系統のスピーカー出力端子とそのうちの一系統に出力レベル調整がついていることだ。
 ツイン・トーン・コントロールは、それぞれ異ったトーン・コントロールを単独あるいは組み合わせて使い、広い適応性と、多様なカーブを作り出すことが出来るもの。よく理解して使わないと難しい面もあるが、このアンプを使おうというほどのマニアにとってはむしろ強力な武器ともなるだろう。
 レベル・セット・ツマミは、予じめ−15db、−30dbのプリ・セットをすることによって、ボリュームを微妙に動かす必要もなく小音量時の使用が楽に出来るもの。この他に、別に−20dbのミューティングもついているという少々オーバーな手のこみようである。
 スピーカー三系統のうち、一系統に出力レベル調整がついているのはなかなか便利。能率の異るスピーカーの併用には威力を発揮する便利なアクセサリーである。
 この他、サブソニック・フィルター、30Hz以下カットのフィルターも適切で使いよいし、プリ・メイン・アンプとして要求されるコントロールは完備している。少々複雑過ぎる観もなくはないか、まさにマニア・ライクな代物だ。細かいことだが、どうも気になったのはトーン・デフィート・レバーの表示で、レバーにONという表示があって、トーンをキャンセルしないポジションにトーン・デフィートという表示があるのがおかしい。よく考えるとどっちがどうなのかわからなくなる。国際商品として、この表示は問題があるのではないだろうか?
 音質は力のある、それでいて、透明で柔かなニュアンスをよく再現してくれるもので、60W+60Wの出力は決して大パワーとはいえない現状だが(スピーカーが低能率時代だから)あらゆるスピーカーをこなす最低条件は満たす力を持っていると思う。

コーラル BETA-10 + BL-25

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岩崎千明


スイングジャーナル 7月号(1972年5月発行)

SJ選定 ベスト・バイ・ステレオ」より


 私のいつも使っているスピーカー、JBLのハークネスの後方、300Hzカットのアルテックの旧型マルチセルラ・ホーンの横に、縦長のボックスに入ったこの部屋で唯一の国産スピーカーがもう4年間も居続ける。
 これが、コーラルのBeta10だ。バスレフ箱に入ったこのBeta10は発売直後、その鮮やかな力強いサウンドに惚れこんで、手元において以来、JBLのD130がC40バックロード・ホーンの箱に収まるまでは、しばしばマイルスの強烈なミュートや、エヴァンスの鮮麗なタッチを再現していた。
 ただ、惜しいかな、鮮烈華麗なその中高音の迫力にくらべ、バスレフ箱に入れた低音は異質であるし、力強さもかなり劣ることを認めざるをえない。つまりBeta10の国産らしからぬジャズ向きの魅力あるサウンドは十分に認めながらも、その音のクォリティーを重低音にいたるまで保つことはバスレフ型では、しょせんかなわぬことを痛感していた。
 Beta10のサウンドの原動力は、その強大なマグネットにある。試みに15、500ガウスという強力な磁界に比肩したスピーカーを探してみよう。JBL D130、130Aクラスでさえ12、000ガウス。ボイス・コイル径が大きいからそのままくらべることはできないにしろ、Beta10の方が単位当りでは20%は強力だ。あとは英国製の高級スピーカー、グッドマン・アキシオム80と、このBeta10が範をとったと思われる、ローサー・モデル4ぐらいなものだ。そのどちらも17、000ガウスとBeta10をわずかに上まわるだけである。
  ジャズでは、楽器のサウンドそのものが音楽を形成し、そのアタック奏法が重要な要素であるゆえに、それを再現するには強烈なアタックの再生の得意なスピーカーがもっとも好ましい。僕がJBLを愛用するのもそのためだが、Beta10にも同様のことがいえる。
 加えて、軽く強靭なコーン紙。中央の拡散用金属柱でサブ・コーンからの高音の指向性の改善も、単にみせかけだけでなく、60度ずれた付近までシンバルの音がよく拡がっている。
 ただ、これほど楽器のソロが前に出るスピーカーでありながら、フルコンサート・ピアノのスケールの大きさが、とくに重低域でどうもふやけてしまうのが歯がゆいばかりであった。
 ところが正月の休み明け、広告でBeta10用のバックロード・ホーン、BL25の存在を知り、急いでコーラルから、BL25を取りよせてみた。
 チック・コリアのソロ・ピアノアルバムを聴いてみたが、Beta10がそのすさまじいまでの迫力を、中高域から低域にまで拡げたことをその時知ったのだった。それはまさにジャズ・ピアノのサウンドである。チック・コリアのちみつにして繊細流麗なタッチ、しかも左手のきらびやかな中に秘めた力強い迫力を、B得る25に収まったBeta10はみごとに再生してくれた。
 国産スピーカーと外国製のそれとくらべるまでもなく、国産オーディオ・パーツにはどうもベテラン・マニアを納得させる魅力をもった製品が少ない。国産パーツの優秀性はいやというほど知らされているのに、その中に魅力らしい魅力のない歯がゆさをいつも感じ僕。コーラルはその不満を解消してくれたまれな国産パーツだ。おそらく、この手間のかかる手造りのバックロード・ホーンはあまり商売にプラスをもたらすとは思えないが、これほど魅力に満ちた製品がまた日本市場に出ることを知って嬉しいのである。
 このBL25が、Beta10が今後も永く市場に残ることを願い、それをよく認識するマニアの少しでも多からんことを願うのである。

サンスイ SP-707J, SP-505J

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岩崎千明


スイングジャーナル 4月号(1974年3月発行)

AUDIO IN ACTION SP-505J、707Jのシステム・アップ」より


 SJ試聴室に、山水JBLのシステムSP707J、505Jそれに新しいJBLのシステムL88プラスがずらりと勢揃いする。その様はまさにJBL艦隊ともいうべきか、戦艦707J、巡洋艦505J、駆逐艦L88プラスと威風堂々と他の居並ぶシステムを圧倒し去る。この山水JBLのシステムが高音ユニットを加えることによって、どれほどグレード・アップするかを確かめ試聴する目的で一堂に会したわけだ。
 これらのシステムSP505J、707Jは、発売された状態では、それぞれ30cmと38cmのフルレンジが箱に収まった形だが、トゥイーターを加えることにより数段高いグレードに向上し、名実ともに世界最高のシステムと成長し得る。
 こうした大いなる可能性こそ、これらのシステムの大きな魅力と源となっているのだが、そのためこのシステムの愛用者や購入予定を願う多くのファンから、いかなる道が最もよいのかという質問がSJ編集部へ発売以来あとをたたずに来ている。そこで今月は、これを読者に代って試みよう。
 まず、SP505J、価格88、000円。JBL・D123、30cmフルレンジが中型のフロアータイプのチューンド・ダクト型エンクロージュアに収められている。
 D123はJBLサウンドの発足以来ごく初期から戦列にあり帯域の広いことでは定評のあるフルレンジだ。低い低音限界周波数とアルミ・ダイアフラムから輻射される鮮麗な高音域はJBL特有の高能率のもとに迫力にみちたスムースな再生を可能にする。
 SP505Jは、高音用ユニットとしてLE20、075、175DLHの3つの中から選べるが、組み合わせるべきネットワークはそれぞれちがってLE20はLX2、075はN2400、175DLHはLX10と組み合わせることが考えられる。
 価格は、それぞれの組合せで大きく違いLE20(20、100円)+LX2(14、000円)、075(38、200円)+N2400(15、600円)、175DLH(82、000円)+LX10(10、200)となるからどれを選ぶかフトコロと相談をして可能性の近いものをねらうことになるが音の方もかなりの違いを見せ、結論からいうと刺激的な音をさけるのなら、LE20、ハードなジャズ・サウンドをねらうなら無理をしてでもLE175DLHをねらうべきだろう。つまり、本誌の読者なら少々がまんをしてでも将来175DLHを加えることを、ぜひ薦める。
●LE20とLX2を組み合わせる場合
 JBLの山雨度は実に不思議で使うものの好みの音を「自由」に出してくれる。LE20との組合せの場合、ソフトな品のよい迫力が、その特徴だ。繊細感に満ちたクリアーな再生ぶりはまさに万能なシステムというべきで、クラシックのチェンバロのタッチからコーラスのウォームなハーモニーまでニュアンス豊かに再現する。しかも、ジャズの力強いソロにも際立った鮮麗さでみごとにこなしてくれる。ロリンズ・オン・インパルスのシンバルが少々薄い感じとなるが、タッチの鮮かさはやはりJBL以外の何ものでもない。全体にバランスよく、完成された2ウェイ・システムが得られる。
●075とN2400を組み合わせる場合
 これは075の高能率な高音が、ちょっとD123のサウンドと遊離してしまう感じがあって、鮮烈なタッチのシンバルだけが浮いてしまう。D123のバスレフレックスの組合せから得られる深々とした低音がLE20の場合みごとに引き立て合うのに、075では、その特徴が075のよさを相殺してしまう感じなのだ。ピアノの高音のタッチがキラキラしすぎるし、ミッキー・ロッカーのシンバルワークだけが、ややきつくなる感じ。075はかなりレベルをおさえて用いるべきだが、そうなるとLE20とかわりばえがしなくなる。
●175DLHとLX10を組み合わせる場合
 なにしろ、ロリンズのテナーの音までが力強くなって、輝き方が違ってくる感じだ。本田のタッチのすさまじさも175DLHとの組み合わせで俄然、迫力を加えてくるし、何とベースのタッチの立ち上りまで変ってしまう。
 まあ結論として、やっぱり175DLHを加えないとジャズ・サウンドの迫力は完全ではないのだ。拡がりと余韻の豊かさが加わるのは、175DLHの指向性のよいためか。
 175DLHの場合、高音用とはいってもクロスオーバーが1200hz付近だから、中音まで変ってくるのは、あたり前だが、それにしてもテナーやピアノなど中音はおろかベースからタムタムなど低音のアタックまでがすっかり変わり、D123が見ちがえるように迫力を加えてくる。やはり、ハードなジャズ・ファンだった175DLHをねらうべきだろう。

 SP707JはおなじみD130の38cmフルレンジでJBL精神むき出しの強力型ユニットを、これまたJBLならではの大型バック・ロードホーンのエンクロージュアに収めたシステム。元来、C40ハークネスとしてJBLオリジナル製品があったが、72年度よりC40はカタログから姿を消してしまったので、SP707Jの存在意義は大きい。C40のシステムとしてはD130単体と、D130+075の2ウェイ、D130A+175DLHの2ウェイの3通りが選べたが、日本のファンの間では後者がよく知られている。価格176、000円は決して安くはないがJBLオリジナル製品から比べれば安いものだ。
 組み合わせるべき高音用ユニットとしては、075、LE175DLH、LE85ユニット・プラスHL91ホーン・レンズの3通りがある。さらに、それぞれユニットをダブらせて用い、クロスオーバーをかえて3ウェイにすることをメーカーでは言っているが、まずその必要はないと結論してもよかろう。つまり、JBLはよほどの音響エネルギーを必要とする場合でない限り、ホールや劇場などを除いては3ウェイの必要性はないと言ってよかろう。
 さて、それぞれのユニットの試聴結果は、投ずる費用に応じてハッキリとグレードの高さを知らされ、どれもがD130単体の場合に比べて、格段と向上する。一段とではなく、格段とだ、つまり、SP707Jはこのままの状態ではなく、上記の3種のユニットのどれかを選んだ2ウェイとして初めて完全なシステムとなると言いきってもよい。それも世界最高級のシステムに。フトコロと相談して、075との2ウェイにするのもよい。ゆとりがあれば是非ともLE85+HL91をねらうべきであるのは当然だ。
 075とN7000が38、200円+16、700円。LE175DLH+N1200は82、000円+26、800円。LE85+HL91とLえっ苦5は83、000円+23、200円+41、500と価格は段階的に大きくステップ・アップするが、その差が音の上にもハッキリと表われてくるのだから言うべきところがない。
●075とN7000を組み合わせた場合
 これが意外にいい。SP505Jでは何かどぎつくさえ感じられた075が、707Jとの組合せでは俄然生き返ったように鮮明な再生をかってくれる。さわやかささえ感じる。のびっきった高音はアウト・バックのエルビンのシンバルのさえたタッチを、軽やかに鳴らす。707Jの音の深さが一段と加わり、力強い低音がアタックでとぎすまされてくる。特に音場感の音の拡がりが部屋の大きさをふたまわりも拡げてしまうのには驚かされる。
 JBLの怖じナル003システムはD130と同じ075をN2400と組み合わせされているが、この組合せを試みたところ、中域の厚さが確かに増し、ロリンズのテナーは豪快さを加えるが、シンバルの澄んだ感じがやや失われるのを知った。どちらをとるかは聴き手の好みによるが、オリジナルの003システムの場合のN2400ではなく、7000HzのクロスオーバーのN7000を指定したメーカー側の配慮も、また充分うなずけるものであるのは興味深い事実だ。
 175DLHこそ、D130とならぶJBLの最高傑作であると20年前から信じ続けているのを、ここでもやはり裏付けされたようだ。175DLHはD130の中音から低音まですっかりと生き返らせ、現代的なパーカッシブなジャズ・サウンドにみなぎらせ、鮮烈華麗にして品位の高い迫力をもってあらゆる楽器を再生してくれる。
 アウト・バックのエアート・モレイラのたたき出す複雑なパーカッションは大きなスケールで試聴室の空気をふるわせる。特に、バスター・ウイリアムスのベースのプレゼンスある響きは、大型の楽器を目前にほうふつさせ、エルビンのドラムスとの織りなすサウンドをみごとに展開してくれる。
●LE85+HL91をLX5と組み合わせた場合
 175DLHの場合に比べて音の密度が格段と濃くなり、音のひとつひとつの粒立ちがくっきりと増してくるのはさすが。175DLHに比べ、価格のうえで50%アップになるが、その差は歴然とサウンドに出る。
 もし、ゆとりさえあればLE85といいたいが、175DLHとして世界最高のシステムとなり得るのだからLE85は音のぜいたく三昧というところだ。なお、LE85の場合はホーンとデュフューザーが大きく、バックロード・ホーン型エンクロージュアのうえにのせるかたちになる。この場合、ぜひ注意したいのはHL91のホーン・レンズの後方には、、必ず厚板で音が後に逃げるのをふさがなければ完全とはいえない。つまり、ホーンを板につけ、板の前にデュフューザーをつけるべきで、板の大きさはデュフューザーよりひとまわり大きいのが望ましい。メーカーでこの板を作ってくれることを望むところだ。
 最後に、JBLオリジナル・システムL88プラスについて、ちょっとふれておこう。好評のL88のグリルを変えた新型であるL88プラスは、M12と呼ばれるキット34、300円を買いたして、3ウェイに改造出来得る。このキットの内容はLE5相当の12cm中音用ユニットと、ネットワークのコンビである。接続はコネクターひとつだけで、88プラスの箱のアダプターをはずしてつけることにより誰にでも出来るが、このエクスパンダー・キットを加えると、音域はまさに拡張された感じで中音のスムースさを加え、バランスが格段と向上して豊麗さをプラスしてくれる。
 JBLというブランドのシステムに対する、ジャズ・ファンの期待と信頼は、他のオーディオ・システムに例がないほどである。それを製品の上で、はっきりとこたえたのが、D130であり、D123である。D130のみでアンプの高音を強めた用い方により、D130のシステムは、ジャズ・サウンドのもつ醍醐味を満喫するのにいささかも不満を感じさせない。ましてD123のシステムにおいておやである。アンプの高音を3ステップ上げた状態で、我が家においてただ1本のD130と見破った者は、メーカーのエンジニアを含めまだひとりたりもいない。
 それを、さらにオリジナルJBLのサウンドに向上させるのが、この2ウェイ化だ。ひとつ気になるとすれば、D130をベースとしたオリジナル・システムは003と名付けた075を加えたものだけである。
 あくまで、オリジナルJBLに忠実ならんとする者にとってはD130うウーファーに使うことを将来ためらう向きもあるかも知れない。あえてというなら、130Aを買い換えなければなるまいが、ジャズの楽器の再現を主力にするならば、D130によりリアルなプレゼンスを認めることは容易であろう。

ビクター JA-S5

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岩崎千明


スイングジャーナル 11月号(1973年10月発行)

「SJ選定新製品試聴記」より


 ステレオ・コンポーネントに対するビクターの熱の入れ方は昨年頃より猛烈というべきほどの気迫と闘志をもってなされ、すでに市場に空前の人気と好評をもって迎えられたブックシェルフ型SX3を始め、数多くのプレイヤーがある。さらに「標準機なみ」と識者間でささやかれた高級アンプS9と、この一年間に矢つぎ早やに驚くほどの成果をあげて「さすが音のビクター」という声もこのところ当り前にさえなってきた。
 そしてS9のあとをうけて、兄貴分S7なみの高性能と認められたS5が市場に出てはや、3カ月を経た。
 S5は5万円台のいうなればもっとも需要層の厚い分野の商品だ。
 逆にいえば、この5万円台はよく売れるということになり、このクラスの市販商品は目白押しに数も多くあらゆるアンプのメーカーの狙う層なのだ。
 ライバル商品のもっとも群がるこのクラスにビクターのアンプ・セクションはふたたび全力投球で、S5を送ったのである。
「出力の大きさ自体はともかく、あらゆる性能に関してS9と同等。やや以前に出たこの上のS7をも、しのぐ」というのがビクターの開発部O氏のことばだ。
 このことばの裏にはS5の性能に対する自信とともにS7を捨ててもS5を売りつくして商品としても成功させなければという決意がはっきりと受け取られるのである。
 このことばが決してハッタリやコマーシャル・メッセージでないことはアンプを持っただけでも納得できよう。5万円台としてはもっとも重い重量はそのまま電源の強力なことを意味しトランジスタ・アンプにおいての電源の重要度はそれは技術を徹底的に極めたもののみが確め得るところであった。事実S5は近頃がらばかり大きくなるアンプの中にあって割に小さい方であるにもかかわらず、重くそのケースを開けるとあふれんばかりに部品がぎっしりつまっている。
 しかもそれは手際の悪いためではなくこの上なく合理化され、十分に検討し尽されている上に、なおやっと収まったというほどに中味が濃い。
 例えば、ビクターのアンプの特長でもある例のSEAコントロールと呼ばれる5または7ポジションのトーン・コントロールもS5では5ポジションながら丸型つまみでスペースは小さくともれっきとした本格派のものがついている。プリアンプはガッチリしたシールド・ケースによってプリント基板ごとすっぽりと遮へいされているが、驚ろいたことに入力切換スイッチがこのケースの内側のプリント基板に取付けられていて、長い延長シャフトによって前面パネルに出ているのだ。こうすることにより入力切換スイッチにいたる配線は、あらゆる入力端子からもわずか数センチですむことになりアンプ高性能のために重要な高域特性が格段と優れることになるわけだ。こうした高価な処置は、長いリード配線をやらなくてすむための工程の節約によってまかなったと開発者はいうが、これこそビクターの経験ある大規模な生産体制でなくては出来得ないだろう。
 しかし、この処置は結果としてその利益につながるが決して生産性を向上させるための処置ではない。いままでなおざりにせざるを得なかったプリアンプにおける高域位相特性の改善を目的としたものである点にS5の良さのよってきたるところを知るのである。
 イコライザー回路は厳選に厳選を重ねたつぶよりの素子を組合せ実にフラットな特性を得ている。さらに最大許容入力はピーク時で驚くなかれ700mV。このクラスのアンプのなかではまさに秀一。ガッと飛び出して来るジャズ・サウンドには、広大なダイナミック・レンジが必要だがこのアンプは・その要求を心にくいまでに満足させてくれる。そして4チャンネルはビクターのお家芸。このアンプには将来4チャンネルにシステム・アップした時マスター・ボリュームとして使えるよう超連動の4連ボリュームが装備されている。
 S5は間違いなく今後もベストセラーを続けるであろう。それは日本のオーディオ界の良識と高品質とを代表する製品として。

菅野沖彦


スイングジャーナル 11月号(1973年10月発行)

「SJ選定新製品試聴記」より


 アンプのハイ・パワー化の時代といわれる中で、質量共にバランスした本格的な100ワット以上(片チャンネル)のアンプとなると外国製品に頼らざるを得なかった。今月の選定新製品としで選んだケンソニックの新しい製品、プリ・アンプ C200、パワー・アンプ P300は、国産ハイ・パワー・アンプの夜明けを告げるに充分なクォリティとパワーをもった第一級のセパレート・アンプである。C200はコントロール・アンプとしての機能を豊かに備えているし、その音質の透明な美しさは特筆すべきなのだが、こっちのほうは後で再びふれるとして、まず、そのパワー・アンプP300のほうから述べることにしよう。このパワー・アンプは片チャンネル150ワット(8?)の連続実効出力をもつもので、現時点では国産のモースト・パワフルなアンプである。ピュア・コン直結という最新回路を採用しているが、特に注目すべきは出力段にトリプル・プッシュプル方式を使っていること、全段は2電源方式プッシュプル駆動となっていることである。広いダイナミック・レンジや優れた位相特性を得ることができ、しかも安定した動作の得られるという理由をメーカーはあげている。ハイ・パワー・アンプのエネルギー供給源ともいえる肝心の電源部もさすがに余裕のある設計で、大きなパワー・トランスと4000μF×2の大容量コンデンサーが使われ、瞬間的なピークやハイ・パワー連続動作にも充分な安定を計っている。
 大型メーターをアクセントとしたパネル・フェイスをみても、いかにも、このアンプの実力を象徴しているようで、多くの国産アンプ中で、この雰囲気は一次元高いところにあるように感じる。決してオリジナリティやひらめきのあるセンサブルなデザインとはいえないが、デザインの姿勢、使われているマテリアルや仕上げの高級性が、誠実に高級品のイメージを横溢させていて好ましい。
 パワー・メーターは0dB、−10dB、−20dBの感度切換をもち、適度なダンピングで動く指針は、VUとピーク・メーターの中間ぐらいの動きを見せ、実用上アンプのピーク動作を読みとるには好適なもの。いたずらに華美なメーター・デザインの流行からすると、この地味な照明色や、フレームのデザインはいかにも高級品にふさわしい飽きのこない落着きをもっていて好ましい。
 附属回路として、50%、25%のパワーに制限出来る切換式のパワー・リミッター、17Hz以下、24KHz以上を18dB/octでカットすることによって聴感に大きな影響を与えることなく可聴帯以外ノイズを防ぐバンドパス・フィルター、4組のスピーカー接続可能の切換式のスピーカー・セレクターなどを備え、このクラスのアンプの使用者の便を充分考えてつくられている。
 実際に使ってみたこのアンプの実力は予想以上のものであった。アルテックのA7やJBLの4320などの大型システムを力感と繊細で緻密な解像力、そして柔かく透明感をもった魅力的な音で鳴らしたし、また、小型のブックシェルフにも低能率を補ってハイ・パワーの実力を発揮、朗々と鳴らしてくれた。音の品位の高さは近来のアンプにないもので、特にハイ・パワー・アンプにあり勝ちなキメの荒さ、高音域のヒステリックなとげとげしさといったものはよく制御され、美しいソノリティをもっている。
 C200はデザイン的にはP300にやや劣り、少々寄せ集めのデザインの散漫さが気になるし、すっきりとしたまとまりに欠ける。しかし、やはり、使ってあるマテリアルや仕上げからくる高級感は滲み出ている。全段直結で、しかも完全プッシュプル動作をもつイコライザー回路はユニークな高級回路として注目されるだろう。コントロール・アンプにふさわしい豊富な機能、そしてP300との組合わせにおける質の高い再生音は、世界の一級品に勝るとも劣らない。これだけのパワフルなアンプでありながら、残留ノイズの少なさ、綜合的なS/Nの大きさは抜群で、まさに静寂の中から大音響が立上がる音離れの気持よさを味わうことが出来る。このアンプのロー・レベルでの音のキメの細かさや透明感の魅力は、このノイズの少なさが、少なからず役立っていそうだ。国際商品としての視野でみてこのアンプ(特にパワー・アンプ)の値打ちは高い。あとはどれだけの酷使に耐えるタフネスと安定性をもっているかを時間をかけて確めるだけである。

トーレンス TD125MKIIAB

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岩崎千明


スイングジャーナル 11月号(1973年10月発行)

「SJ選定新製品試聴記」より


 我家にはなぜかトーレンスのプレーヤーが4台ある。
 そしてもう1台はもっともふるくからわがリスニング・ルームの主役として活躍していたTD124IIだ。
 アイドラとベルトの2重ドライヴによる4kgのターンテーブルにアルミの2重ターンテーブル機構で、この軽量アルミのテーブルを浮かすことによりクイック・ストップのできるいかにもプロ用らしいメカニズムが気に入っていつも手元から手離せない。駆動源であるモーターの力をベルトによりアイードラーに伝え、それを介して重量級ターンテーブルを駆動するというメカニズムは類の少ないというよりトーレンスにあって始められた優れた機構であり、これにより、モーターの振動をおさえ高いSN比を得ることができ、高いトルクを保ったままでその高性能を得られる点、いかにも業務用機器を作って来たトーレンスならではのターンテーブルであり、TD124が全世界の高級マニアに常に愛用されトーレンス・ブランドを高級ファンの間に確固として固定した業績は誰も否定できまい。
 シンクロナス・モーターを用い電源周波数によって回転数の決る特有の性能を利用して、これに電燈線電源を接続するのではなく、新たに正確な電圧の周波数を保つ電源電圧をつくり出し、これによってシンクロナス・モーターを廻すという新しい理論にのっとったターンテーブル。それがTD125であった。
 この125のただひとつのウィーク・ポイントがモーターの回転数を変えるための、この電源の周波数切換えと速度徴調整の複雑さ等にある。これをより改良する目的でマークIIが誕生したとも言えよう。
 ターンテーブルはめったに買い換えがきかない点、誰しも同じで、一応気に入ったこの124はこの9年間主役を演じ、125が出たときも、それに置きかえることを拒んできた。
 新型125がいくらプロ用とはいえその構造が本来家庭用であるべき150と同じメカニズム、つまり2重ターンテーブルのベルト・ドライヴ機構である点とクイック・ストップのないことに不満が残ったからであった。しかし、今春のヨーロッパ紀行の経験はこうした単純な考え方を変えてしまった。
 ヨーロッパを歩きその各国のメーカーをまわり、スタジオを見、そしてディーラーのサーヴィス・セクションをのぞいた折、そのひとつとしてトーレンスTD125以外を使用しているところはないことを確かめたからである。
 もっとも信頼性の高い確実な高性能動作を常に保ってくれるというのがこのTD125に対する評価のすべてであった。
 しかし技術の進歩はターンテーブルのSNをさらに要求した。2年来、国産DDモーターがわが国のオーディオ・マニアの聞で急速にアピールしたのもその端的な表われであるし、DDモーターは国産にとどまらずデュアルからもオート・プレイヤーに着装されて商品化され日本にも入ってきた。
 世界最高と自他共に認めてきたトーレンスのターンテーブルはDD流行の波を受けてマークIIとしてマイナー・チェンジされ新たなるディーラー山水電気の手によって日本の市場に姿を呪わした。マークIlとなって電子制御回路を改め従来の複雑な回転速度調整を取り除くことにより一層の安定度と信頼性を獲得して確かさを一歩進め得たといえよう。
 ターンテーブルとアームを乗せた7kgのダイキャスト・ベースはモーターと電子制御回路を取りつけたメイン・シャーシーつまりプレイヤー・ケースからスプリングにより浮かせてモーターや外部からの振動・ショックに対して、またハウリングに強いトーレンスの特長をさらに高めより完全なものにし得たのである。
 こうした超重量級ターンテーブルにみられる立上りのおそい欠点もクラッチ機構により補い、このクラスではプロ仕様に指定されるに足るレベルにまで達し加えてベルトの僅かな伸びなども吸収してしまう工夫もなされている。さらに新たに設計されたアームは軽量針圧ながらダイナミック・バランス(スプリング加圧式)という理想的なものでオルトフォンなきあとの現在世界最高の軽針圧アームと断定してよかろう。

岩崎千明


スイングジャーナル 2月号(1974年1月発行)

「SJ選定新製品試聴記」より


 今年の国内オーディオ市場の大きな特長として、海外パーツの著しい進出と、定着とが挙げられるが、とりわけブックシェルフ型システムシステムを中心としたスピーカーの積極的な売り込みとその成功が大きく目立つ。
 そうした目につきやすいスピーカーのかげにかくれて、しかし、スピーカー以上に確かな地位をきずき固めつつあるのは海外カートリッジだ。
 従来も、高級品に関しては、国産品に対して十分な満足を満たされぬことが理由で、海外製品の中から選ばれせるというのがマニアの常識ですらあった。いわく、シュアーV15、いわくオルトフォンM15スーパー、いわくエンパイア、いわくADC等々であり、それをそなえているかどうか、そのいずれをそなえるか、さらにいくつそなえるかが、オーディオ・マニアのレベルの高さ、あるいはその志向する目標の高さ、さらにはそのマニア自体の質から誇りの崇高さないしは権威の水準までを示すものとして本人にも、まわりからもひとつの必需品とまでなっている。
 もし、当事者のうちにそんなばかなことが、といって拒否する筋金があったとしても、まわりはそうはさせず、海外製カートリッジの、それも高級品のいくつかが揃っていることで、そのマニアの質やレベルを判断してしまうのは、いつわりない状況だろう。かくいう私自身にしても、出入りする周囲のそうしたまなざしを迷惑ながらも、かなり気にせざるを得なくなって心ならず気に入らぬ海外製カートリッジの5〜6個を常用オルトフォンM15スーパーの他に揃えてはいる。苦々しく、いまわしいことだがそれが実情だ。
 所で、73年の海外カートリッジの進出は、こうした高級品群から、やや下まわった製品、価格水準にして、国内メーカーの作る高級品のランクの製品が数多く出まわっている点に注目しなければならぬ点がある。シュアー91シリーズに続き、ADCのQシリーズと名づけられた新シリーズ、さらにオルトフォンのMFシリーズのあとFFシリーズ、ピカリングとその同系のスタントン。ごく最近ではかつてのベスト・クォリティーの栄光の巻き返しをはかるグラドの普及価格品。
 そうした多くの海外製品は、たしかにトレースの安定差とサウンドの確かさ、豊かさとでもいえるうるおいにおいて、特性上はるかに優れているはずの国産品を脚もとにも寄せつけず、国産高級カートリッジの細身の音を、感覚的に上まわると誰にも思わせてしまう。
 この傾向は今年後半に入って登場した海外製品が市場に出るごとに確かめられた形となった。72年までは、国産カートリッジの優秀性が海外高級品のそれに肉迫し、あるいは追いつき追い越さんとしたところ、まったをかけられこの海外製新型の登場が73年に爆発的ともいえる形で始まったのである。
 シュアーV15タイプIIIにおけるMM型の電気特性の格段の飛躍は、そのほんの一例にすぎず、海外カートリッジ攻勢の氷山の一角にすぎない。その製品群の層は厚く、強固で堅い。国内メーカーはこの大きく立ちはだかる壁を乗り越えるべく努力を始めた。それは、乗り越えなければならないオーディオ業界の国際化の、大きな波なのだから。
 そうした時期に国内メーカーの中堅、FRが新型を発表したのである。
 FRはグレースとともに国内の高品質カートリッジの専門メーカーとして高い誇りと、キャリアと実績を持つ地味ながら確かな企業だ。小さいとはいえその技術力と開発力は、カートリッジ業界にあって特に注目すべき能力を内在し、メーカー発足以来いつの時代にあっても最高級カートリッジの製品を市場に送り、多くの高級マニアの支持を受けてきた。
 今回発表したFR6は、このメーカー独特の技術であるトロイダルコアーによるMM型の高品質カートリッジである。従来同種製品に新型を加えることのなかったこのメーカーには珍らしく、FR5から発展したMM型の高級製品で飛躍的なワイド・レンジと、高域セパレーションを獲得した高性能ぶりが注目できる。
 サウンドの面においても、国産カートリッジに共通な中域の繊細さに力強い芯を豊かさで包んだともいえる再生ぶりは、従来の国産品らしからぬ良さが国産品にもそなわってきたという点に注目すると共に拍手を惜しまぬものがある。
 高級カートリッジは決して海外製品の独壇場ではないことを知った貴重なワンステップであり、その基礎たる製品がFR6であろう。

シュアー M44-5

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岩崎千明


スイングジャーナル 8月号(1971年7月発行)

 「SJ選定 ベスト・バイ・ステレオ」より


 キミはいま、自分の再生装置に対して不安を感じていないか。
 キミの再生装置の音が果して本当によいかどうか自信があるか。
 キミの再生装置を友達に聴かしてやるだけのファイトがあるか。
 レコードの傷みが全然気にならないでいるか。
 そういうときに、まずレコードプレイヤーのカートリッジをチェックしてみて、絶対に信頼できるなら、まずキミはしあわせだ。
 優れたカートリッジほど、使い方はむつかしい。軽針圧を保ったまま、完全にトレースさせるには、アームが優秀であって、その調整が完全でなければならない。
 むろん、そのためにはレコード自体の保守が十分に行き届いている必要があるし、その音溝が最良の状態に保たれていなければならないし、それをトレースする針先は、きわめて厳格にチェックして、正しい状態に保たれていなければならない。
 正しい状態、これがなかなかのくせものだ。キミがまだかけだしのマニアならどういうのが正しいのかということすら十分に知らないだろうし、もし、かなりマニアなら、ほんの僅かのカンチレバーの片寄りでも気になるだろうし、動作中片寄りを起こすことのない、軽針圧カートリッジはごくわずかだ。
 こう書いていくと、たったカートリッジの針先ひとつにしたって、大へんな神経の使いようと、細心の注意の要求のため、音楽を楽しむどころではなくなってしまう。
 さて、そこでだ。
 キミを、こういう一切のわずらわしさから解放してくれるカートリッジがあるのだ。シュアーM44/5、これだ。M44/5はもう発表以来10年近い歴史を持っている。
 この原型でもあるM3型がステレオ・レコード発売以来、もっとも優れたカートリッジとしての座を永く保っていたが、M44出現以来、その座はこのM44にとって変った。「美しい安定した音色」という偉大なるおまけがついて。
 今日、国産カートリッジもその高性能ぶりは舶来カートリッジに迫り、あるいは追い越そうとさえしている。
 カートリッジの優秀性を測るべきポイントとして、私はその中音域から高域にかけてのトラッキング・アビリティーつまり音溝に対する追跡能力というか「追随特性」と、もうひとつ最高域のセパレーションの2点について注目するが、この点でも国産カートリッジの高級品は非常に優れており、海外製の高級品に決して負けてはいない。ただひとつの点をのぞいて。
 そのただひとつの点、これを端的に持っているのが、このM44を端に発するシュアー製品である。というのは、なによりも音が安定していて、美しいのである。
 音が美しいというのは、ある意味ではそこで楽器的な要素が介在することとなって再生という事象にある面で水をさすことにもなり得る。
 しかし、限度ある再生音楽において音が美しいという点は他のいずれの長所にもまして大きなるポイントなり得るのである。
 M44/5が、今でもなお多くのファンの支持を得ている、というのも、このカートリッジか、決して今日的な高性能カートリッジでもなければ軽針圧カートリッジであるという理由でもない。ただ非常に安定に動作し、音が豊かで美しいという点のみにある。この点では、おそらく、これからもこのカートリッジに優る製品は決して多くはないであろうし、M44/5がまだまだ多くの新らしいファンを獲得していくことが予想できるのである。

ラックス SQ707

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菅野沖彦


スイングジャーナル 11月号(1969年10月発行)

「SJ選定新製品試聴記」より


 SQ707というラックスの新製品アンプは、アンプの老舗ラックスが生みだした傑作である。ロー・コストの普及アンプであるが、決して安物ではない、これは、このアンプを使ってみればただちに理解できるであろう。第一、見た目にも、いかにも品位の高い音が出そうな美しい姿をしている。徹底した合理的な設計と、量産計画から割り出されたために、この価格がつけられたものと思う。数多くの商品を見馴れた眼には一目で、この製品の優秀性がピンとくるであろう。安物とは安物しか作れないメーカーが作るものらしく、高級機を作る技術と体験をもったメーカーがつくるロー・コスト商品には自ずから、その品位が滲み出るものであることを敢えてくれる
 SQ707の機能は、プリ・メイン・アンプとして必要なすべてを備えていて、一般の使用上、まったく不便を感じない。入力側からみていくと、フォノ、チューナー、テープデッキ、補助入力の4端子が用意されていて、フォノの入力感度は2mV、その他は120mVとなっている。出力側は、録音用のライン出力と、3ヘッド・タイプのテープレコーダーのモニター再生端子、そして2系統のスピーカー出力端子とヘッドフォン・ジャックがそろっている。コントロール機構には両チャンネル独立の高、低トーン・コントロールに、高低の湾曲点を変更するスイッチ、18dbのミューティング(アッテネーター)スイッチ、ABスピーカー切換スイッチなどがラックス特有のパネル・レイアウトですっきりと並んでいる。パネルはホワイト・ゴールドの瀟洒な色彩をヘアー・ライン・フィニッシュにした美しい輝やきをもつ。ケースはABS樹脂使用のユニークなもので、合理性はもちろんのこと、下手な鉄板加工より完成感が強く枠である。操作面によく練られているし、スイッチやボリューム類は専門メーカーのラックスらしく実にタッチがよく、スムーズであった。そして、その再生音は、こうした外観上の特長と共通した、あるいはそれらを上廻る質の高いもので、まるで澄みきった深い水を見るように、濁りや汚れのない、そして丸やかなものだ 実にふっくらと、独特のプレゼンスといいたいほど軽やかに空間が再現されるのである。この特長は、コンテンポラリー・レコードのように、ステレオフォニックな空間性のある録音により効果的で、ブルー・ノートやインパルスのようなマルチ・モノーラル的な録音では、やや丸味がついて物足りないという印象になるかもしれない。連続出力17Wという表示に物足りなさを感じられる人もいるかもしれないが、能率のよいスピーカーを使えば、家庭用としてパワー不足は感じられず、SJ試聴室のアルテックA7が、ガンガン鳴る。我家では、サンスイのSP1001やクライスラーのCE1ac、またオンキョーのFR12というような数種のスピーカーをつないで、鳴らしてみたが不足は感じなかった。もちろん大きな部屋で、大音響を期待すると無理も生じるが、10畳ぐらいの部屋までなら十分いける。まして4・5畳〜6畳での使用にはまったく心配はいらないだろう。名士の手すさぴといったらメーカーに怒られるかもしれないが、このアンプには音にも、外観にも、そうした余裕が滲み出ていて無理な気張りをまったく感じさせないのである。34、000円という価格も、ユーザーにとって、それほど気張りを要しないだろうし、本誌の選定新製品として名実共に推奨にあたいする製品である。
 このアンプから出る素直な音は、この製品を初めて使われる多くのオーディオ入門者に、初めから趣味のよい、音の規準を与えてくれると思う。これはいい変えれば、市販製品にあり勝ちな、ちょっと聞きには強い印象を与える、辛しや味の素が度ぎつくきいていないということである。ロー・コストの普及アンプの代表的地位を占める製品になるだろう。

グレース F-8C

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岩崎千明


スイングジャーナル 11月号(1969年10月発行)

「SJ選定新製品試聴記」より


 F8Lというベスト・セラーのカートリッジに「MUSICA」と名付けたF8Mが加わったのは昨年春であった。F8シリーズは国産MM型カートリッジの代表のようにいわれ、その性能、品質、さらに再生品位までもが高い信頼度をそなえている製品である。
 非常に繊細に音のひとつひとつを適確に拾い上げる能力、どんな演奏のレコードでも正確に音溝をトレースする能力、このようなもっとも大切にして必要な条件を、危な気なくそなえているという点て、グレースのF8Lは国内製品中でもベストに上げられるひとつであった。
 そして、その音の繊細さに、より以上の迫力、アタックの力強さを加えて誕生したのがF8Mであった。
 むろんF8Mは発売後、F8Lと並んで好評を持って迎えられ、特にジャズ・ファンからはF8L以上に支持されていると聞く。
 F8L、F8Mの話を長々と前置をしたのには理由がないわけではない。
 今回、F8Cが発売された。F8シリーズの最高級品としてのF8Cについて、次のようなことがよくいわれているのである。
 つまり「F8CはF8LとF8Mとの中間的な製品である」「F8LとF8Mの良い所を採り入れて作られたのがF8Cである......」
 これは結論からいくと誤りである。F8CはF8シリーズの標準品種F8Lを基として出発したF8Mとは兄貴分に当る製品である。メーカーの言によると「F8シリーズの最高級を目指して、精密技術を駆使して完成した製品」である。
 結果としてF8Mのアタックを加えられたF8Cは、音色の上で、F8LとF8Mの中間的なファクターを示すこととなった。メーカーサイドでは、しかしこれはあくまで聴感上の結果であるという。
 F8Lをもととしてその性能向上化の結果、それ以前のF8Mと似たとしても、技術的にはかなり違ったものからスタートして得たのである.
 一般にカートリッジの高性能化の方法として、針先カンチレバーの質量を減らし、その支持をやわらかにすることにより、振動系を動きやすくするのを目的とする。これはシュアーのカートリッジが追従能力、トラッカビリティの向上を狙って優れた性能を得るに到ったことからも納得ができよう。
 レコード音溝に刻みこまれた20、000ヘルツにも達する高速振動に追従するには、そのカンチレバー自体の自由共振はその限界を越えることが好ましい。しかし現実にはそれが、いかに難かしいことか現在の市販製品は20、000ヘルツ以上のものがない。もっとも高いひとつであるF8Lにしても18、000ヘルツである。一般には音声帯域内にあるこのカンチレバーの高域共振はダンパーによって押えられているわけである。このように押えられて周波数特性はフラットにされている。
 微少化されて20、000ヘルツ以上の音声帯域以上高い範囲に自由共振点が達したためJ支持部によるダンプの必要力くなくなって、針先の自由度が大きく向上したわけである。つまり針先コンプライアンスが向上して追従性がF8Cにおいて、25×10の−6乗
cm/dynと、より優れているのはこのためである。アタックの優れているのはこの結果、過渡特性が向上したからである。
 しかし、この僅かな向上のためにかなりのコストアップがつきまとうことになり、コスト・パーフォーマンスの点でF8Lにくらべて損をすることとなるのだが、この点こそ次のように強調したい。
 一般にコスト・パーフォーマンスを考えない最高級カートリッジとして国産を選ぶことは今日ではめったにないのが通例である。国産メーカーの奮起を促すことをいつも叫んできた我々にしては、このF8Cの出現をもっと価値のある成果として見直してもよいのではないだろうか。F8Cこそ外国製高級カートリッジに挑戦した国産カートリッジ第一弾なのであるから。

トリオ KT-8001

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岩崎千明


スイングジャーナル 11月号(1971年10月発行)

 「SJ選定 ベスト・バイ・ステレオ」より


 もしキミ、お金の糸目をつけずにチューナーを選べ、といったら、おそらく大多数のマニアはソニーの高級チューナーST5000FかまたはこのトリオのKT8001を指名するに違いない。こと、チューナーに関する限り外国製はFM周波数帯域が日本国内と違うため、海外製品が選ばれるというケースはよほど特殊の状態に違いない。
 しかも日本メーカーのチューナーに対する高周波技術は、今や世界の第1級に位しているから、あえて海外製に国産の2倍から3倍の金をはらうマニアはめったにいまい。
 まあ、こう考えてくると、国内市場でトップにランクされるチューナーは世界の市場でも最高ランクの品質をもっているとみて差支えない。つまり、トリオKT8001はまぎれもなく、世界のあらゆる製品中トップに位する高級チューナーであるといい切り得るのである。
 トリオのチューナー技術、FM受信の技術は、それはそのまま日本のハイファイ・チューナーの技術を示し、その発展を示すことを知らぬマニアは少ない。
 その長年のFM技術の一歩一歩の積重ねが、今日最高品質といわれるKT8001を創り上げたのである。
 というのは、トリオは、日本国内においてFM放送がまだテスト電波の時期において、すでに米国市場に数多くのFMチューナーをディーラー・ブランドで輸出していた。これは、おそらくオールド・ワァンなら誰しもがよく知っていた事実であり、61年頃の米国ハイファイ・カタログにはトリオの当時のチューナーとまったく同型の製品をひとちならずみつけることができる。
 米国内のラジオ放送ネットワークが、BCバンドからFMに急速に拡がり一都市に数10局のFM局が林立し、びっしりとFMバンド内を埋めつくしている。この受信には単に混信の問題だけでなく、アンテナ入力において他局の強力な電波による混変調、チューナー自体の局部発振回路からの妨害など、従来、全然考えられ得なかった難問題がつぎからつぎにと続発し、チューナーが高感度であればあるほど未知のトラブルをひとつずつ解決せずには前進できなかったのであった。
 さらにFMステレオの普及によって問題はマルチプレックス回路内にも及び、チューナーが高級化すればするほど、究明解決を要するテーマが山積してくる。
 こうした幾多の試練がトリオのFM技術を作り上げ、それが常に他社の製品にさきがけて新技術を盛り込んだ製品を世に送り出すという見事な成果をあげてきたわけだ。
 このKT8001に採用されている新技術の数々、例えばフロント・エンド(受信同調部)に設けられた局部発振のバッファー回路、集中回路による6素子のクリスタル・フィルターさらにマルチプレックス復調回路のダブル・スイッチングなどは、おそらく早晩他社の高級チューナーにも登場してくるに違いない。技術を舞台とした戦いというものはそういう宿命を常に持っている。しかしあえて私はいいたい。トリオの技術こそ、無からそれらの新技術を開発しだその技術陣の努力こそ、本当の「技術」であり、あとからそれを追いかけ、コピーしたものより常に一歩先んじているに違いないことを。
 開発途中でいくつかの難点にぶちあたり、それを、こまかくひとつずつ突き破っていく、これが見せかけだけでなく技術を土台から創り上げていくのである。つまり、トリオのKT8001と規格特性上はほぼ同じ製品が他社から出ることはもう時間の問題なのだが、しかしその時になっても、トリオのKT8001の存在は、ますますさん然と輝きを増すに違いない。
 トランジスタ・アンプ時代に先駆けたトリオのアンプ陣の、強力なバックボーンとしてトリオのチューナーはますます重要な地位を占めるであろう。
 KT8001はその最頂点の存在を一層明確に築き上げるであろう。

JBL SG520, SE400S, SE460

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岩崎千明


スイングジャーナル 11月号(1971年10月発行)

「supreme equipment 世界の名器を探る」より


 71年の看板商品だったアクエリアス・シリーズが評判の割に1型、4型を除き、宇宙的デザインの主要高級品2、3が本国で思わしくないとかの噂。世界のJBLも近頃はその威光にかげりが見えたとか、ささやかれている。
 これを吹き飛ばすかのようにプロフェショナル・シリーズが日本にもお目見えして、またまた話題を呼びそうだ。米本国のプロの分野で大手を振って幅をきかせているアルテックと並び、JBLが最近勢いを急進しているという。
 今やJBLはスピーカーだけでなくアンプを中心として音響設備に大々的に乗り出しているのである。
 JBLがアンプを作り出したのは、自社のスピーカーももっとも理想的に鳴らすという、はっきりした目的を持っている。当り前だがメーカーとしてこれほどはっきりした姿勢を、製品に持たせたことはそれまでにはなかった。JBLが「バラゴン」というステレオの3ウェイのホーン・ロード・システムを発売したときと同時に「エナージァイザ」という変った呼び方で発表したパワー・アンプが、パラゴンのドライブ用だ。スピーカー・システムの後側には、専用の格納スペースさえ設けられている。
 このアンプにつけられる名称通り、スピーカーの音響エネルギーの供給用という目的が、はっきりと出ているし、それがJBLの姿勢そのものなのである。この「エナージァイザ」にはパラゴン用とするときの低音上昇のための専用イコライザー・ボードが内蔵されていた。
 このエナージァイザはSE400として独立したステレオ用パワー・アンプの形で発売されたが、それと同時に発売されたのがSG520プリ・アンプでグラフィック・コントロ−ラーという名称をつけられた。スライド型のコントロールと、プッシュ・ボタンの切換という当時まったく新鮮なデザインに対して名づけられた。ステレオ・ブームの始まろうとする61年のことである。その翌年には早くもSG520は米国内西海岸のグッド・デザイン製品に選ばれ、品質、デザインとも、ずばぬけた高性能を認められたのは当然であった。
 この当時は真空管アンプで圧到的に他を圧していたハーマン・カードン社のサイテイション・シリーズがトランジスタ・ライズされた製品を発表し、今はなきアコーステック・ラボラトリのアコースティック・アンプが好評のもとにスタートした。しかし、現在、そのいずれもが数年前に姿を消し、ハーマン・カードン社もこのトランジスタ・アンプの失敗が原因で大きく後退を余儀なくされマイナーに引下ってしまった。トランジスタ・ライズに早くからふみ切って成功したのはJBLアンプだけなのである。これは実に偉大な技術的成果であり、メーカーの姿勢の正しさをも示すといえるであろう。
 かつて初期のSE400を実測してみたことがあった。ステレオ用として同時にフルパワーな出したとき、それはあらゆる周波数で60/60ワットを示した。規格の上ではなんと40/40ワットのアンプがである。現在はSE460としてさらに大きくパワーアップされている。
 この直後、私はSG520と、SE400を組み合せて手元におき、毎日のように愛用し、リスニング・ルームのメインとして活躍しているのはいうまでもない。
 永年使用してみてはっきり知らされたことは、61年に発表したSG520は10年を経た今日といえとも、これに匹敵する美しく華麗なステレオ・サウンドを持ったトランジスタ型のアンプを知らない。10年たった今においてまさに世界の名器といわれも大きな理由であろう。メーカーのすぢ金をこれほどはっきりと感じさせもアンプはめったにないであろうし、それは10年に渡って何ら変ってはいないのである。

オタリ MX-5000

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菅野沖彦


スイングジャーナル 11月号(1971年10月発行)

「SJ選定新製品試聴記」より


 テープレコーダー・メーカーとしての小谷電機(オタリ)の名前は一般には耳新しいかもしれない。事実そんなに古い会社ではないが、それでも創立以来7年目を迎える。そして、この会社の製品は、デュプリケーター、マスター・レコーダーの分野ではプロの間で既に有名で、特にデュプリケーターのシェアは圧倒的。一部、外国製品をのぞいて、ほとんどのミュージック・テープ・メーカーでは同社のものを使っている。8トラック・カートリッジのブームに乗って急激に成長したメーカーである。プリントの送り出しマスターとして必要なマルチ・トラック・テレコも手がけ、それらの技術をそのまま生かせるスタジオ用のテレコも製造している。したがって、その名は直接知らなくても、プログラム・ソースを通して、多くの人がオタリ製品の音を聴いていることになる。社長自身がエンジニアで、若く、はつらつとした体質をもったメーカーなのである。
 ところが、この専門メーカーとしての技術を一般のコンシュマー・プロダクツに生かした製品が、今回御紹介するMX5000という4トラック・オープン・リール・デッキである。この製品の前に、MX7000という2トラック・38cm/sをメイン・フューチュアーとしたデッキが発売されているが、これは一般用というより、むしろ、セミプロ級の機器であった。MX5000がオタリの初めての一般オーディオ・マニアとの接触点とみてよいだろう。
 いきなり苦言を呈するのは、いささか気がひけないでもないが、同社の製品はその堅実で充実した内容にも拘わらず、なんともセンスの悪いデザインであって、プロ機として工場やラボの中でならともかく、アマチュアの音楽的雰囲気豊かな部屋へとけこむにはなんとも見栄えのしないのが残念である。この感覚でほ、巌しいマニアの目には耐えられないといわざるを得ない。技術が丸裸で飛び出したというのが誇張のないところであって、素材や、加工にお金がかかっていながら、それらを生かし切っていない。よく見れば、手造りらしい好ましい雰囲気や、まじめな製作態度がよくわかるのだが......、これから同社か第一線メーカーとして飛躍するのに直面しなければならない問題といえるだろう。
 このような苦言は、私があえて言及するまでもなく、それぞれのユーザーの目に明白に見えることだが、あえて、このことに触れたのは、その内容のよさのゆえである。つまりなんとか、この点だけを改めれば、第一級の製品と思えるからこそである。
 MX5000は3モーター、4ヘッドの高級4トラ・デッキで、きわめてオーソドックスな設計思想による製品だ。サウンド・オン・サウンド、エコー回路、オートリバース(再生のみ)といったアクセサリー機能を備えてはいるが、その基本的な性格は、プロ用の3モーター、3ヘッド・デッキにあって、これをグレードを落さずにコンシュマー製品にしたものと思える。トランスポートはヒステリシス・シンクロナス・モーターでキャプスタンをベルト駆動、サプライ、テイク・アップにはそれぞれ余裕のあるインダクション・モーターを使っている。走行系のレイアウトもアンペックス式のごくありきたりのもので、それだけに信頼度が高い。操作ボタンはよく考えられた碁盤型のプッシュ式でリレー・コントロールである。スクエアーなプッシュ・ボタンを採用しているので、押すポジションによって動作がやや不確実になるのが惜しまれるが、レイアウトのアイデアは高く評価したい。エレクトロニックスは、3段直結ICを使用し、現時点でのテープに広く適用するように半固定のバイアス・アジャストをそなえている。スイッチによる大ざっばな切換えではなく、オシレーターを使ってのバイアス・アジャストとした点にもこの製品が、ハイ・レベルのユーザーを狙ったものであることが知れるだろう。実際に使用してみて、その使いよさ、堅実性はプロ機そのものといってよく、録再オーバーオールでの特性ははよく確保され、ソースとモニターの切換試聴でも、かなり優れた性能を知ることができた。高域でのトーン・クォリティーはきわめてナチュラルなのが好ましく、表面的な音造りなどという姑息は感じられなかった。実質的に大変価値の高いテープ・デッキだと思う。

ラックス SQ507X

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岩崎千明


スイングジャーナル 11月号(1971年10月発行)

「SJ選定新製品試聴記」より


 ここに紹介するラックスの新型アンプSQ507Xは、この71年秋発表される製品の中でもっとも魅力に富み、その期待に十分応え得る品質を秘めたSJ選定の名に恥じぬアンプである。
 ラックスは、同社のベストセラーであるSQ38FDアンプにみられる通り、今日で市場にあるただひとつの管球式を現在に到るも市販、製品化しているきわめて「保守的」な色彩を濃く持ったメーカーである。日進月歩、技術のピッチの著しい。ステレオ・メーカーとしてトランジスタ・アンプが幅をきかせる今日、今だにSQ38FDを商品としているのがこのメーカーのよい面にも悪い面にも出ているのだ。
 良い面は、いわずとしれて、高級マニアの欲する技術を温存していることにあり、「音楽のわかる」ことを誇るステレオ・メーカーである。悪い面はこのメーカーの作るトランジスタ・アンプが他社ほどにふるわない原因を作っているともいえるし、名作SQ38FDがラックスの作ってきた今までの数多いトランジスタ・アンプの影を薄くしてしまっているという事実だ。
 このSQ38FDのイメージをぶちやぶらずには、アンプ・メーカーとしてのラックスの地位を将来に確保することすらおばつかないのではあるまいか、という危惧はラックスのアンプの高品質を知るものにとって、おそらく共通の懸念であり、またこれからのアンプに対する期待でもあったに違いない。
 ラックスが発売したSQ507Xは、まさにSQ38FDの水準に達し、それを追い越したといい得る「最初」の製品である。
 このアンプの音に接したとき、このアンプの中味がすでに発売されているSQ505Xとほとんど変ることがなく、ただパワー・ステージを強力な石に換えて出力をアップしただけと聞かされ、それを疑ったほどである。つまり、それほどにSQ505Xにくらべ、音色の向上が明瞭なのである。
 深みと、うるおいのある音から、SQ505Xのと同じ回路方式とはどうしても思えないぐらいだ。あえていえば、これはJBLのアンプに近い音であるともいえるし、SQ38F特有の美しい音を受け継いでいるともいえる。
 ジャズ・サウンドのとりこになっている私にすれば、今までふれてきたラックスのトランジスタ・アンプの音は、やはりアタックにもの足りなさと歯がゆさをいつも味わうのだが、このSQ507Xに対してはそれが全然なかった。アルトやテナーのソロの迫力、ピアノのアタックのガッチリした響き、どちらもSQ507Xは見事にたたきだした。シンバルの輝きも、ベースの厚いうねりも、楽々と再生してくれた。この深みはかってSQ38FDで得た力強いベースに匹敵し、トランペットの輝きはSQ38FDさえ凌駕していた。このしっとりとして、しかも華麗ともいえるうるおいを他に求めればトランジスタ・アンプではJBLのそれしかないのである。
 この艶ややかにして素直なサウンドは、ラックス特有のシンプルな構成のトーン・コントロール回路と全段直結の融合による所産であるに違いない。さらに加えるならば構成ステージをやたら増すことなく、全体にムダを廃しゼイ肉を落し切った構成にあるのであろう。
 しかも、このアンプの11kgという重量は電源回路のゆとりあるレギュレーションを意味し、見えない所まで徹底したメーカー技術陣の充分なる配慮をうかがわせる。
 ラックスが今秋発象したSQ505X、503Xなどの全段直結アンプ群の最高級品としての誇りと品質とを担って登場したSQ507X、おそらくこのメーカーの今後の発展の強力なる索引力となるに違いない。

クライスラー CE-6a

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菅野沖彦


スイングジャーナル 11月号(1970年10月発行)

 「SJ選定 ベスト・バイ・ステレオ」より


 クライスラーのCE6aというスピーカーは明らかに用途を限定したスピーカー・システムのようである。つまり、これから普及しそうな4チャンネル再生システムの2−2方式のリアー・チャンネル用として、あるいは、サヴ・スピーカー・システムとしてリヴィング・ルームか寝室にという目的を意図した設計ポリシーであろう。奥行の浅い正方形バッフルを持ったプロポーションから、それは一目瞭然である。使用ユニットや構成は同社の傑作といってよいCE5a系と全く同一で20cmウーハー、12cmスコーカー、ホーン・トゥイーターの3ウェイである。もちろん、すべてのCEシリーズに共通のアコースティック・サスペンション方式で、f0の低いQの小さなフリー・エッジのハイ・コンプライアンス・ウーハーをベースにした完全密閉型となっている。ネットワークのクロスオーバー周波数がCE5aと異なるかどうかは不明だが、その再生音はややちがう。しかし私の個人的好みからいくと、この6aの音のほうが中低域の明瞭度があって好ましいように感じられた。CE5aのほうが豊かだとする人もいるし、事実、低域の再生キャラクターは、あのほうが分厚く豊かだ。しかし、6aの低域のほうが中域へのかぶりが少ない感じですっきりと音階を分離する。それでいて、低音域の量感も決して不十分な感じはなく、むしろ、あの容積のフラットなエンクロージュアから、これほどの量感豊かな低域が再生されることに驚くほどである。能率もけっして高いほうではないが、市版のアンプがハイ・パワー化の傾向にある現状では全く問題なく、パワー・ハンドリングにもゆとりがあって、相当な入力にも耐えて、大音量でジャズを満喫することができる。冒頭に書いた、サブ・スピーカー、あるいは、リアー・チャンネル用ということにこだわらずに、メイン・システムとして十分通用する実力をもったものと思う。小型システムを大型の代用品とか間に合わせのように考える人がいるが、それに賛成できない。狭い部屋には小型システムというのは一応常識的ではあるが、かといって、オーディオに熱心ならば、それに趣味として打込んでいれば、たとえ寝るスペースがスピーカーに占領されても、本人さえよければ大型システムを入れるのがよい。しかし、それにも限度があって、入らなければ仕方がない。また、部屋の中でスピーカーが目立つのを好まなかったり、小型のほうが趣味に合うという人だっている。小型システムは決して大型の代用品ではなく、要望に応じて独立存在価値をもつものだ。しかも、大型とは異なった設計理論と、製造面の相違から、小型には小型特有のメリットが音の上にもある。小型システムでも残念ながら、大型の代用としての能力しか持たないものもあるが、そうしたものは私たちのオーディオの世界に無関係であって、それは趣味の音響機器としてではなく、実用品として存在すればよいのである。話しが少々脱線したけれど、このクライスラーのCE6aは5a型と共に、小型システムの最高級品といってよい内容と、製品としての完成度をもった好ましいものだ。今さらいうまでもないが、好き嫌いは別として、同社のシステムに共通のバッフルの美しい仕上げ、紗を使ったフロント・フィニッシュなどには商品作りの誠意が滲みでている。これを商魂といっては誤りで、趣味の対象である嗜好品には、このように製作者の作品に対する愛情が現れるべきだ。仕上げのよさとはそういうもので、売らんかなという発想からでた表面だけのつくろいはすぐばれる。このサイズを形状を好まれる人は是非聴いてみるべきシステムで、きっと満足されると思う。

トリオ KA-7002

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菅野沖彦


スイングジャーナル 11月号(1970年10月発行)

「SJ選定新製品試聴記」より


 ツマミをまわす。朗朗と鳴る。スムースでグラマラスな音。艶があって、重厚な力感がみなぎる。いいアンプだ。トリオの新製品KA7002がそれだ。トリオのプリ・メイン・アンプの主力製品はKA6000とKA4000の2機種であった。そのいずれもが開発当初から優れたアンプとして高く評価されていたし、その後改良を重ねて現在まで現役アンプとして活躍して来たが、回路的に最新アンプの多くが採用しているものから見るとやや古さを感じさせたことは否定できなかった。オーディオ・アンプの最新高級回路というと、2電源、全段直結、純コンプリメンタリー回路というもので、段間コンデンサーおよび出力コンデンサーのない回路が主流である。この回路の利点は数々あるが、とにかく、従来のものより特性的に数段優れたものがつくり得る回路技術であることは間違いない。しかし、それにはそれなりの難しさがあって、パーツや調整にメーカーは苦労をさせられる。アンプを使う身になってみれば回路はどうでもよいわけで、問題は音そのものにありというわけだが、とにかく、KA7002の電子回路が採用した最新技術の成果には見るべきものがある。最終段の出力コンデンサーを取りのぞくにはPNPタイプのトランジスタが必要で、これまで高級アンプとしての要求にこたえる大出力型の石の国産化が思うようにいかなかったのであるが、KA7002では、実効出力50+50W(8Ω)というパワー・ハンドリングを実現させた。従来より、トリオの高級アンプの抜群のパワー・キャラクターは信頼感溢れるものであるが、純コンプリ回路のアンプを出すに際しても、余裕あるパワーを確保するために今日までの時を要したと理解すべきだろう。イコライザーは3段直結のNF型、高圧電源によリダイナミック・レンジも充分広くとられている。トーン・コントロールは2dbステップ式で、150、3300Hz、2K、6KHz のターンオーバーとロールオフの立上りが切換えられる現時点では大変オーソドックスなもの。フォノ入力は2系統、負荷インピータンス30、50Kの切換え、MC用の感度切換がある。スピーカーは3系統使用可能。ナル・バランス・コントローラーがついた。テープ・プレイが2系統となり、いずれからもモニター・タビングが可能。4チャンネル時代にふさわしく、2Ch、4Chのモード切換スイッチがあリ4Chのコントロール・アンプとしての機能もそなえている。その他マイク入力端子は標準型マイク・ジャックで設けられているし、コントロール機構は万全である。デザインは従来のKA6000の延長で、全く同じイメージといってよい。決して悪いデザインではないが、卒直なところ、内容が勝ったように思う。トリオのアタック・シリーズというのはコンポーネント・システムをシリーズ商品としてデザインの統一を計っているから、このアンプもその中に加えるものとして統一デザインとなったのであろう。しかし、欲をいうとこれだけの内容をもったアンプなら、もっともっと高級感というものが欲しい。それは、ラグジュリーな華美さをいうのではなく、バランスド・フィーリングというか、雰囲気をもった深い味いである。世の中の超一流品のみがもつ風格あるたたずまい、これが日本のオーディオ機器に望れてよい時がきた。それは、内容が優秀な技術の裏づけによって高度なものになったからであり、それとバランスしたソフトウェアーが望まれるのである。こんなことをいいたくなるほど、このアンプの音は、ぼくを魅了した。優れたアンプに共通してある、あのプレゼンスのよさ、音がスピーカーの振動板から離れて、前面にふんだんに拡散されてくる気持よさ、ほんの1時間あまりの試聴ではあったが、すっかりほれ込んでしまった。これで10年使ってもこわれなければ、世界の第一級品といえる。
 ぽくが録音してヴァン・ゲルダーがカッティングしてくれた八城一夫トリオ+3のピアノやホーン、ドラムスのヴィヴィッドな響きは血の通ったヒューマニティ溢れるサウンドだったし、猪俣猛のインパッシブなスキンのフィンガリングも抜群。ソビエトの新人イエレシュの弾いたムソルグスキーも、レオンハルトのバッハのゴールドベルク・パリエイションも、チューリッヒ・チェンパーのしなやかな弦のアンサンブルも、みんなそろって美しく、バッチリ聴きごたえのある高密度な音だった。

ソニー TC-9000F-2

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菅野沖彦


スイングジャーナル 12月号(1972年11月発行)

「SJ選定新製品試聴記」より


 2トラ/38。いうまでもなく、数多いテープ規格の一つ。1/4インチ巾のテープ上に2本の録音帯をもって毎秒38cmの速度でとばして録音再生をおこなう磁気録音方式のことである。オープン・リール・タイプとして、今、アマチュアに最も普及している規格は、4トラ/19であろう。トラック数が倍で、スピードが半分というわけだ。トラック数が倍ということは、それだけ一本あたりの録音帯の巾は狭い。磁気録音の規格上録音帯の巾は広いほど、走行速度が速いほど、物理的には有利であり、高性能の録音が可能なのである。その反面、テープの経済性では不利であり、同じ収録時間を得るには4トラ/19より2トラ/38はスペースで倍、走行速度で倍、都合4倍のテープを消費することになるのは止むを得ない。いい音を得るためにはお金がかかるのだ。2チャンネル・ステレオでは2トラックの場合は、片道録音、4トラックの場合は往復録音であることはいうまでもない。2トラックが4トラックよりも便利な点は編集が可能ということも見逃せない。4トラックでは、往きの録音である部門を編集しようと思うと帰りの録音帯も一諸に切ってしまうから編集を考える場合には、帰りの2トラックは遊ばせておかねばならないという不都合がある。結局、片道しか便のないということで、経済的にも、音質的にも無駄をするというわけだ。
 こんなことを総合して考えた時、2トラック式が必要なことは理解できるだろうし、カセットの性能が向上してくるにつけ、カセットと2トラック式の間にはさまった従来の4トラックがやや中途半端な性格にならざるを得ないという最近のテープ界の実情もあわせて理解していただけるのではないかと思うのである。
 そこで、高度な音質を求めるアマチュアに2トラック式のオープン・リール・デッキが見直されはじめ、今、一つのブームを作りそうな気配を感じるのは私だけではないだろう。従来からも、高級マニアの間で、このテープ・デッキを持って優秀なハイ・ファイ性を楽しんでおられる人たちがいたが、これから、ますますそうしたファンが増えつつあるのだ。
 機を見るに敏なメーカーは、早速この2トラック式のテープデッキに力を入れ始め、従来20万円級のものしかなかった市場に、ティアックやパイオニアが10万円を少々超えた値段で製品をつくるようになったわけだ。ここに紹介するソニーのTC9000F2は、23万円という価格でそうした普及型の2トラック・デッキではないが、テープレコーダーの専門メーカーとしてのソニーのコンシュマー用の製品の中での最高級機にふさわしい風格をもったデッキである。録音は2トラックの19cmと38cm。再生はこれに4トラックの2チャンネルが加わる。つまり録音機としては2トラックに徹しているけれど再生は、従来の4トラック・ステレオのミュージック・テープのプレイバックをも考慮したものだ。ヘッドは、F&Fと称するソニーのフェライト・ヘッドを使い、駆動はデュアル・キャプスタンによるクローズド・ループ式。もちろん3モーター式で、操作は軽く確実なリレー式だ。電源は50、60Hz両用で扱いやすい。
 使ってみた感じでは、このクラスの製品としては、もう一つ徹底して高級なマニア用であってもよいのではないかという気がしないでもない。つまりバイアス・セットは、ノーマルと同社のSLHとの切換ということになっているが、いろいろなテープが存在する現状からして、そして使う人がかなりの技術をもった人にターゲットをしぼれるはずだから、イコライザーと共に半固定可変式というところまで踏み切ってもよいだろう。10万円ちょっとのデッキが出るという現状からすると、20万円を超えるものでは、そこまで踏み切ってもよいようにも思う。また早おくりのスピードも少々遅い。ローディングは、キャプスタンとヘッドハウジングがくっつきすぎてやや厄介。エレクトロニクスのS/Nはよくトランスポートの特性をよく発揮する。音質は、デリケートなニュアンスと透明感、ややまるまったハイエンドに一つ不満があるが、2トラ/38の醍醐味を味わえる高品位のものだった。美しいデザインはソニーらしい手馴れたもので、現代的な感覚がさえて好ましいものだった。

オンキョー Integra A-755

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岩崎千明


スイングジャーナル 12月号(1972年11月発行)

「SJ選定新製品試聴記」より


 秋葉原でベストセラーのひとつとして、発表以来2年間、いまもって売れに売れているインテグラ725のオンキョーが、また、ベストセラーを狙う新型アンプを発表した。
 インテグラ755である。
 725が発表された時、これに接して、このクオリティーの高さと、それに対するペイとの比、つまり、コスト・パーフォーマンスという点で当時のアンプ市場で、画期的ともいえる注目すべき製品であったことを察し、いち早くそれを伝えたものだった。
 今回の新製品755も、また現時点におけるこのクラスのアンプの中にあって、725同様の地位を占めるに違いないことを予感し、それは725の場合のように、広くファンに伝えるべきが義務でもあると思う。
 インテグラ・シリーズと銘うったオンキョーのアンプは、725出現より約1年前からスタートを切った。しかし、そのあまりにオーソドックスなあり方と企画は必ずしもメーカー側の思惑どおりにはかどることがなかった。
 しかし、そのアンプ設計方針の手がたい正攻法は、725においてはっきりと実を結んだ。「コンピューターによる時定数の決定」という謳い文句は、宣伝だけのものではなく、アンプ設計の重要なポイントとしてクローズ・アップされてきたのはトランジスター・アンプ時代になってからである。それは段間直結が普及し、低音域が飛躍的にのぴトランジスター自体の改善により高域が目覚ましい帯域を獲得するや、ますます重要なファクターとなってきたのである。負帰還技術を駆使する現代の高性能アンプにとって、ハダカ特性、つまり負帰還をかける以前の回路の位相特性が、完成された状態のアンプのすべてをすら決定してしまうからである。インテグラ・シリーズにおいて、この点を追求したオンキョーのアンプ設計陣の狙いは正しかった。インテグラの725以後の製品がトランジスター・アンプにありがちだった「固い音」を一掃したのは、かつて位相特性を重視した設計の結実であり、勝利なのであるといえよう。
 725以後のオンキョーのアンプのすべてに、この格段の向上がみられ、すぐ続いて出た733は、さらにハイグレードの高性能をそなえた高級志向のアンプとして、725同様ハイレベルのマニアに柏手をもって迎えられ、725と並んでオンキョーのアンプ作りの見事な成果として実績を挙げて今日に到っている。
 ただ、それぞれについて、ひとこと注文をつけるなら、725はコンパクトにまとめたそのデザインが、物足りないし、733は価格的にもうちょっと購入しやすくして欲しいという点を加えたい。
 ところが この両者の長所をそっくり受け継いで、さきの注文をそっくりそのまま受け入れて、実現した新製品が出た。それが、今回の755なのである。こういえば、755がいかにすぐれ、いかにコスト・パーフォーマンスの点でも優れた製品かをお判りいただけるのではないかと思う。
 実際に内容をみると、まさに両者のイイところをそのまま組み合せたともいいたいほどで、プリ・アンプ部は725直系、パワー・アンプはハイ・パワーで鳴る733直系なのである。
 メーカー発表のデータの信頼度というのはそのままメーカーそれ自身の信頼度となるが、技術的にまじめなオンキョーの姿勢そのまま、755のデータは、私自身のチェックによっても発表値を少しも下まわることなく、きわめて高い信頼性を誇る。
 透明で暖みある音といわれるように、SJ試聴室においてフリーダム・レーベルの69年録音のスタンリー・カウエルのピアノが文字通り透明なひびきを室内いっぱいにみたし、ウッディ・ショーのペットがシャープに突ききさり、62年録音のニュージャズ・レーベルのバイアードの「ハイフライ」はプレゼンスも生々しく、楽器のサウンドを克明にえぐり出してくれたのである。

エンパイア 1000ZE/X

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岩崎千明


スイングジャーナル 6月号(1971年5月発行)

「SJ選定新製品試聴記」より


「王冠」をシンボル・マークとしているメーカーは、別に珍らしいわけではない。しかも王者たるにふさわしい貫禄と高品質のメーカーである場合が少なくない。時計ではローレックス、車ではマセラッティ、そして音響製品としては、この米国のエンパイアだ。
 エンパイアは、その重要な部門は米国軍需産業と結びついている。近頃とみに重要性を増している水中通信のための超音波部門がそれだ。原子力潜水艦が海軍力の大きなウエイトを占め海底に数10日という長期間潜まるために、海中との通信は電波を用い得ないため音響分野で解決される。この分野で2次大戦中より重要な役割を果してきたエンパイア社が、卓抜せる音響技術をオーディオに活用して、エンパイアのHiFi製品がうまれた。当然のことながらその技術はある意味で他社をはるかにしのぐことになろうし、「王冠」のマークも当然のことで誰しもが認めよう。
 エンパイアの製品は、音響製品のすべてにわたる。スピーカー・システム、アーム、カートリッジ、さらにターンテーブルとアンプを除くあらゆる電気音響変換器を網羅している。注自することはどの分野でも、高性能を誰しもが認め超一流と格付けされる棄華なぜいたくきわまりない製品を市場に送り出している点だ。
 このエンパイアがこのたび発表したカートリッジが1000ZE/Xである。カートリッジにおけるキャリアは、シュアーと並ぶほど古く市場の評判も長くシュアーと並んで2分していた。売行きはピッカリングという老舗をはるか引き離し、品質は新進気鋭のADCをしのぐ実力ぶりは決して底の浅いものではなく、軍需産業を担ってきた基礎的な技術がものをいっているのに違いない。
 エンパイアのオーディオ製品にみられるサウンド・ポリシーはひとくちにいって、いかにも米国調らしいといい切れる。JBLの新大陸的な明快さと、清澄な迫力とを併せ持っている。ヨーロッパ調の格式ある控えめな品の良さはないが、フィラデルフィア・オーケストラの音のようにエリントン・バンドのサウンドのように華麗な迫力と厚さを感じるサウンドだ。
 この路線をはっきりと打出していたのがステレオ初期以来のカートリッジで、最近は8888シリーズがこれを明瞭に感じる。999シリーズになって音域がさらに広くのびて繊細感が格段と向上した。しかし、やはり迫力ある低音感、それにまして充実された力強い中音域。ジャズ・サウンド特有の楽器の迫力を実に鮮かに再生する能力はまさに、ジャズ向きという言い方がぴったりくるようなサウンド・ポリシーである。グラナディアを頭とするスピーカー・システムも円柱型というユニークなデザインと共に、サウンドの力強さをあらゆるファンから認める傑作だ。
 1000ZE/Xはエンパイアのサウンド・ポリシーに乗っとった高級製品に違いない。しかし、この音は明らかに一歩を踏み出した。踏み出したとて「延長上」であるとはいい切ることはできない。というのは、ここにあるのはヨーロッパ調を目指したもので、品位の高い格調あるサウンドなのである。従来になくおとなしさを意識させられる点で、間違いなく「エンパイア」であることを眼で確かめたくなったぐらいだ。ピアノ・トリオを聞き、従来のエンパイアに感じられたきらびやかさが押えられ、スケールの大きさと音のふくよかさがにじみ出てきた。ヴォーカルではより生々しい自然らしさが感じられる。ただシンバルがやや薄く線が細い響きとなったように思われるのは私の耳だけか。
 カートリッジでもっとも注目すべき点はトレース能力にある。テーパード・カンチレバーを世界に先駆けて、ステレオ製品の初めから採用してきたエンパイアのカートリッジの最高級にふさわしく、なんと0・5gの針圧が常用できる世界でもまれな製品がこの1000ZE/Xなのだ。

マイクロ MR-611

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菅野沖彦


スイングジャーナル 6月号(1971年5月発行)

「SJ選定新製品試聴記」より


 マイクロ精機がディスクのプレイバック・システムの専門メーカーであることはいうまでもない。しかも、専門メーカーとしては珍しく、カートリッジやトーン・アーム、フォノ・モーターという各パーツを自社の製品で固めたプレイヤー・システムを発売している。どういうわけか、グレースやオーディオ・テクニカ、そしてFRなどではプレイヤー・システムを発売していないのである。マイクロ精機のこの特色は、同社が音屋と機械屋の両方をバランスさせることに長年努力していることの証左であり、同社の意欲と熱意のほどが伺いしれる。マイクロが製造しているこれらのパーツ、システムはきわめて多く、他社ブランドの製品、輸出などを含めると、その豊かな経験が比較的新しい同社の歴史をうめるに価いするものであることがわかるだろう。大変堅実で、頑固なほど真面目な製品づくりは、ややもすれば洗練された感覚に欠ける嫌いがあり、熱意と努力とはうらはらに、もう一つすっきりしない仕上センスに私は今まで不満をいだいて来た。プレイヤー・システムはディスク・レコードへの音楽的な憧憬の心情と密接に連るものであるだけに、そのデザインや素材や加工がかもしだす味わいはオーディオ・ファンにはきわめて重要なもののように思える。したがって、個々のパーツの性能もさることながら、システムとしてまとまったものは、その雰囲気──機械美の本質を失わないデザインとメカニズムの感触、スムースネスなどにメーカー製らしいプロフェッショナルな手腕とセンスが滲み出ていなければならないと思うのだ。カートリッジ、アーム、モーター、プレイヤー、ケースをバラバラに買ってきて素人が組み立てたものと大差のないアピアランスでは困るのである。したがって、本来ならばシステムに使われているモーターなどは、それ自体がプレイヤー・ケースと一体のデザインであってしかるべきで、モーター単体として、デザインされたものをケースに取付けるという(残念ながら現代では全てのプレイヤーがそういうものばかりなのが不可思議)のでは能がない。単体としてもシステムとしても共用できるという都合から来ていることはわかるが、もう一つその枠や概念を破ったものが出てもよい。話しがやや脱線したが、今度、マイクロが発売したMR611は、従来私が持っていた不満を大巾に取り除いてくれた好製品だ。まず、その雰囲気はマニアの部屋におくにふさわしいものだという感じがもて
る。8極ヒステリシス・シンクロナス・モーター、堅実なスタティックバランスのトーン・アーム、バリアブル・フラックスの新設計のカートリッジによって構成されたこのプレイヤー・システムはローズウッド特有の重厚な化粧板によって装われている。実際に使ってみると、カートリッジは切れ込みのよい水準以上の性能を示すし、ターンテーブルも大変スムースで安定している。なによりもよいことはハウリング・マージンが大きくとれていることで、さすがにプレイヤー・システム作りの経験の豊かさが生きていると思った。他の某高級プレイヤー・システムより約6dbレベルを上げられる。せまい部屋で、大音量でジャズを聴きたい我々にとって、これは実に有難いことなのである。ワーンというハウリングに至らなくてもハウリング気味の状態が、いかに再生音を混濁させていることか。このMR611で再生すると途端に音がすっきりすると同時に低域のしまった安定感が快よかった。細い点では、アームの高さ調整機構がワンタッチで確実なことやヘッドシェルが小型ながらきわめて強度の高いこと、ストレイ・キャパシティの小さい出力コードの採用などいずれも実質的なパーフォーマンスの向上に役立つ配慮ががなされているし、付属品を入れるパーツ・ボックスも設けられている。アクリル製のダストカバーを演奏中に、その自らの重みで落下させても針飛びはなく、補強のきいたしっかりしたウッド・ベースとゴム脚の防振効果のバランスが見事である。なにかいいことずくめのようだが、先にもふれた仕上げの感覚ではもっと要求したい点もなくはない。例えばターンテーブルのラバー・マットの質感やパターンにはもっと高級感がほしい、あちらこちらにやたら入っているマイクロのブランドはいかにもパーツの寄せ集めを感じさせる。もしそうでないとしたら、一つの製品にブランド・マークが都合8つもついているのは選挙運動じゃあるまいし、あまり趣味のよいものではない。このこと自体はたいしたことではないがそういう感覚が実はオーディオ機器の本質や、マニアの趣向のデリカシーには重要な意味を持つものなのだ。メーカーも自負する〝高級マニュアル・レコード・プレイヤー〟であるだけに小言の一つもいいたくなったのである。
 しかし、このMR611にはマイクロ精機の商品感覚に一つの飛躍が感じられ、その実質の優秀性と共に大きな満足感を得ることが出来たものであることを使用感想記の結論としたい。

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