1・合成インピーダンス
〈質問〉 現用のTRプリメインアンプには、スピーカーの接続がA、B、それにA+Bの3系統ついており、それぞれ8Ωとなっています。もしAに8Ω、Bには16Ωのスピーカー接続しA+Bで聞いた場合、AとBのΩの違いからアンプ(トランジスタ)が故障するようなことはないでしょうか。説明書には、4Ω以上のインピーダンスをもつスピーカーを使用するよう指示があります。もうひとつスピーカーの許容入力が20ワット(W)となっている場合、何Wくらいまでの入力に耐えることができるのですか。
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アンプに2系統のスピーカーを接続する場合、AとBを同時に接続すると、特に断り書きのないかぎり、「並列」接続になり、その際の抵抗(インピーダンス)値は
AスピーカーをR1、BスピーカーをR2とした場合、次の式で決まります。
従っておたずねのケースは、合成抵抗は約5・3Ω。一般にトランジスターアンプは、4Ω以上であれば安全ですから、質問のケースは全く支障余せん。また前の式から、8Ωのスピーカーを2系統までなら使えることがわかります。8Ωと8Ωの並列合成は4Ωですから。
もうひとつの質問の許容入力は、普通の使用状態なら音楽を鳴らすかぎり、表示許容入力の3倍から5倍は安全。レコード演奏の際に LOW フィルターをONすること、また演奏中には各種スイッチをON−OFFしないことなど取扱に注意すれば、表示値の10倍くらいのパワーを短時間加えても、スピーカーは大丈夫なものです。
2・トランジェント
〈質問〉 最近「歯切れが良い」ということを「トランジェントが良い」と言うようですが、トランジェントの語源、及び本来の意味を説明してください。私の知っている範囲ではトランジェントというのは
transient [trセnzient]で、「一時的」なとか「素通りの」とかいう意味で、歯切れという意味はどこにも出てこないと思うのですが、私の解釈が間違っていたら指摘してください。歯切れというのならば、articulate,
clear などというべきではないかと思うのです。
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「歯切れ」という言葉を英語にあてはめるとすれば、おたずねの通りです。しかし、この場合のトランジェントというのは、それとは少し違うのです。
トランジェントは電気の方の技術用語では、正しくは《トランジェント・レスポンスで trasient response》「過渡特性」とか「過渡応答」などと訳しています。
「過渡」、「過渡期」などという言葉は、一般用語としては、移り変わってゆくこと、その途中(の時期)、を言います。電気の方でもこれと同じで、音波のように大幅に揺れ動く波(電気になれば「音声電流」という)に対して、アンプやスピーカーやピックアップなどの音響機器が、その移り変わってゆく波形にどのように応答(response)してゆくか、ということう表すのです。スピーカーに例をとれば、スピーカーの振動板がブランコのように前後に揺れて音を出します。アンプから送り込まれる電流(パワー)がその駆動源です。いま、アンプから一瞬だけスピーカーを動かす力が加わってすぐに止まったとしても、ブランコと同じ原理で、スピーカーの振動板は急に止まることができず、しばらくゆらゆらと揺れています(図4−35)。この、あと揺れの程度の少ないほど、「トランジェントが良い」というので、その結果、「歯切れ」が良いように聴こえるのです。ですから、「トランジェントが良い」というのは、「歯切れが良い」という意味と同じなのではなく、そういう状態を別な言いかたで表しているのです。