MacPower誌、1994年8月号の「Design Talk II」に川崎先生は、こう書かれている。


 久しぶりの講演、それも、入院前に東京での最後の講演会場になった同じ舞台。いわゆる「生還」した心情だった。
 この印象は2度目である。昔の話になるが、車椅子生活になった後の78年のオーディオフェアで、あるメーカーのディレクターとして晴海の見本市会場の設営の最終指示のために会場に入ったとき、現場の職人さんやオーディオフェアの顔馴染みの他社の人たちから拍手で迎えてもらったことがある。あのときと同じ生還したという思いがこみ上げた。


「戻ってこれたぁ、戻ってきました」という言葉には、「生還」の思いがこめられていたのだろうか。

 おまえのことなんかどうでもいいと言われそうだが、私にとっても、14年ぶりの、菅野先生のリスニングルームだった。菅野先生と川崎先生の話をききながら、ふと思ったのは(というよりも感じたのは)、「なんと温かい空間なんだろう」ということだった。
 ステレオサウンド編集部時代に何度もおうかがいしていたが、そう感じたことはなかった。きっとその当時から、その前からも、ずっと温かい空間だったのだろう。私が感じとれなかっただけなんだろう……。

 今回の対談が実現できて、ほんとうによかったと思っている。菅野先生のリスニングルームで行えて、ほんとうによかった。そして、人の「思い」がもつなにかを、すこしばかり感じとれたようにも思う。