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Date: 9月 24th, 2008
Cate: 伊藤喜多男, 言葉

伊藤喜多男氏の言葉

21歳ぐらいのときか、西日暮里にあった伊藤(喜多男)先生の仕事場に伺ったとき言われたのが、
「アンプを自作するのなら、一時間自炊をしなさい」であり、肝に銘じてきた。

その一年ほど前に、
伊藤先生がつくられたウェスターン・エレクトリックの349Aプッシュプルアンプを聴いて、
当時使っていたロジャースのPM510に組み合せるのは、「このアンプだ」と思っていた時期であり、
自分でそっくりの349Aアンプをつくろうと思っていることを話したら、上の言葉をいただいた。

つまり人間の感覚のなかで、聴覚は、味覚に比べると目覚めるのが遅い。
味の好き嫌い、おいしい、まずいを判断できるようになる時期と比べると、
聴覚のその時期は人によって異るけど、たいていはかなり遅い。

目覚めの早い味覚、言い変えれば、つきあいの長い自分の味覚を、
自分のつくったもので満足させられない男が、
つきあいの比較的短い聴覚を満足させられるアンプをつくれるわけがないだろう、ということだ。

味覚も聴覚も視覚も、完全に独立しているわけでもない、と。

それにどんなに忙しくても一時間くらいはつくれるはずだし、
一時間の手間をかければ、そこそこの料理はつくれるものだ。
同時に、料理をつくる時間を捻出できない男に、
アンプを作る時間はつくれないだろう、と。

設計をする時間、パーツを買いに行く時間、選ぶ時間、アンプのレイアウトを考える時間、
そしてシャーシの加工をする時間、ハンダ付けの時間……、
それらの時間は料理に必要な時間よりも多くかかる。

納得できる。

一時間自炊はアンプの自作だけに限らない。
アンプやスピーカーを選択し、セッティングし、調整して、いい音を出すことにも、ぴたりあてはまる。

Date: 9月 8th, 2008
Cate: LS5/1A, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その7)

アルテックの604シリーズは、38cmコーン型ウーファーとホーン型トゥイーターの同軸型で、
クロスオーバー周波数は、モデルによって多少異るが1.5kHz前後。 
中高域はマルチセルラホーン採用なので、水平方向の指向性は十分だろう。 
問題はクロスオーバー周波数から1オクターブ半ぐらい下までの帯域の指向性だろう。 
実測データを見たことがないのではっきりしたことは言えないが、
604の、このへんの帯域の指向性はあまり芳しくないはず。 

BBCモニターのLS5/1Aは、
38cmウーファーとソフトドームのトゥイーター(2個使用)の2ウェイ構成で、クロスオーバーは1.75kHz。
当時すでにBBCの研究所では指向性の問題に気がついており、
ウーファーをバッフルの裏から固定し、バッフルの開口部は円にはせずに、
横幅18cm、縦30cmくらいの長方形とすることで、水平方向の指向性を改善している。 
ユニークなのは、30cm口径よりも38cm口径のほうが、高域特性に優れている理由で採用されていること。 

1980年ごろ登場したチャートウェルのPM450E(LS5/8)は30cm口径ウーファーだが、
バッフルの裏から固定、開口部はやはり長方形となっている。 
LS5/8のネットワーク版のロジャースPM510も、初期のモデルでは開口部は長方形だ。

アルテックがスタジオモニターとして役割を終えた理由として、いくつか言われているが、
指向性の問題もあったのではないかと思う。 
同じことはタンノイの同軸型ユニットについても言える。