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Date: 9月 28th, 2016
Cate: 素材

素材考(柔のモノ・その5)

テンピュールから低反発スポンジの枕が登場したのは、
もうどのくらい前なのだろうか。
その後、各社から低反発スポンジ(ウレタンフォーム)の枕が、いくつも登場した。

低反発ウレタンフォームに初めて触れたとき、
いままでになかった感触だと思った。
ソルボセインよりも気持ちいい、と感じた。

今年5月、ある展示会に枕を見かけた。
緑のジェル状の素材を使ったもので、触ってみた。
なかなか面白い感触だった。

この枕から少し離れたところに、Technogel(テクノジェル)の枕が展示してあった。
こちらは青。
ジェルの形状も違うが、感触は大きくは違わないだろうと思いながら、
ジェルの上に直接手を乗せてみた。

どちらも展示用のモデルで、直接手でジェルに触れられるようになっている。
Technogelに触れて、驚いた。
手のひらが気持ちいい、といっているような感じだったからだ。

私がこれまで触ってきた人工的な素材の中で、初めて気持いいと感じたものだった。
他にもっと気持いいと感じる人工的な素材はあるのかもしれないが、
私が触ってきた範囲では、Technogelが抜群に気持ちいい。

Technogelのマットレスも展示してあった。
デモ用だから横になることもできたが、やらなかった。
Technogelのマットレスの感触を体験してしまうと、
買ってしまいそうになるからだった。

今月、またTechnogelに触れる機会があった。
やはり気持いいと手のひらが感じている。

気持よさを味わいながら、今回はこれはオーディオに使える素材かもしれない。
そう思うようになっていた。

自然素材を積極的に使うのは、
感触が手に馴染んでいる、ということもある。
自然の、いい素材は触って気持ちいい。

ならばTechnogelの気持いいも、音の上でいい方向に働いてくれそうな予感がある。

Date: 9月 27th, 2016
Cate: 楽しみ方

オーディオの楽しみ方(つくる・その7)

雑誌は、時として読み捨てられる。
月刊誌だと年12冊。
一年分であれば保管場所はそれほどでもない。

でも雑誌好きの人は、いくつもの雑誌を講読するし、
何年、十何年、さらには何十年と講読し続けることもある。
そうなると保管場所の確保は、バックナンバーを捨てることにつながっていく。

どの雑誌を捨てるか、どの時期のものを捨てるのか。
こんなことやりたくないけれど、やらざるをえない事情だってある。

私も夢中になって読んできた雑誌の大半は処分せざるをえなかった。
そうすることで、そこに載っていた記事も忘れ去られていく運命にある、ともいえる。

本棚におさまっていても、二度と開かれることがなければ、
記事は忘れ去られていく。

けれどインターネットの記事は、その点で違う。
かなり残っていく。
Googleという優秀な検索エンジンがあるおかげで、
キーワードによっては、忘れ去られても不思議でない記事、
忘れ去られた方が好都合の記事まで浮上させてくる。

このことを怖いと思わない編集者、書き手がいるからこそ、
なぜ私は、絶縁トランスを「手作り」しようと思ったのか〟が残ったままなのだし、
この記事を恥ずかしいと思わないのだろう。

初歩のラジオについて、改めて書こうと思ったのも、
〝なぜ私は、絶縁トランスを「手作り」しようと思ったのか〟を見つけたからでもある。
このインターネットの記事と、初歩のラジオという雑誌の対比がきっかけとなっている。

Date: 9月 27th, 2016
Cate: 楽しみ方

オーディオの楽しみ方(初歩のラジオが果してきたこと・その1)

BCLが、その昔流行っていた。
BCL(Broadcasting Listening / Listeners)と聞いて、
私もやっていた、という人と、BCLってなんですか、という人、
いまでは後者のほうが多いのだろうか。

ベリカードが私も欲しくてラジオを買った。
小遣いを貯めて、東芝のラジオを買った。
初歩のラジオを読み出したのも、BCLブームがあったからである。

初歩のラジオは無線と実験と同じ誠文堂新光社が出していた。
さきほどWikipediaで調べたら、
1992年に休刊されているのを知ったぐらいだから、
ずいぶんと手にしていなかった。

初歩のラジオから、無線と実験、ラジオ技術に移っていったのは、
オーディオにのめり込んでいったからだ。

でも初歩のラジオと誌名にも関わらず、
記事のすべてが初歩のレベルではなかった。

電子工作といえるレベルから、シンセサイザーの自作記事まで、
驚くほど広かった。

私が買っていたころは、紙基板が付いていた。
配線が印刷された二枚の厚紙をエポキシ接着剤でくっつけて、
部品のリード線を通す穴にハトメをつけて、基板ができる。
これに買ってきた部品を取りつけての電子工作であり、
私がハンダゴテをにぎった最初のモノでもある。

ちなみに暗いところにもっていくとLEDが光る電子工作だった。

Date: 9月 27th, 2016
Cate: 楽しみ方

オーディオの楽しみ方(つくる・その6)

先日「トランス 自作」というキーワードで検索していた。
上位の検索結果に〝なぜ私は、絶縁トランスを「手作り」しようと思ったのか〟というのが、
表示された。

私が求めている内容かも、と思い、リンク先をクリックした。
某出版社のサイトだった(あえてぼかす)。
この時点で、どの程度の記事なのかはおおよそ想像がついたけれど、
一応最後まで読んだ。

想像を少しも超えていない内容だった。
この記事を書いている木村雅人氏がどういう人なのか、まったく知らない。
記事のタイトルも、木村雅人氏自身がつけたのだろうか。
そんな気はする。

〝絶縁トランスを「手づくり」〟とある。
なぜ、わざわざ自作ではなく手づくりとしたのか。
さらには鉤括弧までついている。強調したいわけである。

だから、私は絶縁トランスそのものを自作する記事だと期待したわけだ。
実際は市販のトランスを買ってきて、適当なケースに収めただけだった。

もちろん、そこから得られるものがきちんとあれば、
思わせぶりなタイトルもわからないわけではない。

そこにはノウハウのかけらも読みとれなかった。
漏洩磁束について、わずかに触れられているが、
ならば100V:100Vの絶縁トランスではなく、200V:200Vの絶縁トランスを買ってきて、
あえて100Vを使うべきである。
この使い方の方が漏洩磁束は減るし、トランスのうなりも抑えられる。
ただし銅損が大きくなるため、容量はさらに見込む必要はある。

それでも電源関係のトランスの使いこなしのひとつとして、
以前から知られていることでもある。
でも、このレベルのことも、記事にはない。

さらに使用されている絶縁トランスはEI型コアである。
EI型であれば、漏洩磁束もX軸、Y軸、Z軸でそれぞれ違う。
もっとも磁束の強いのはどの方向なのかの記述もないし、
そんなことを考えずにシャーシーに収めているだけである。

他にも指摘できるところはあるが、このへんにしておく。
言いたかったのは、
お粗末なモノをつくるのが、手づくりではないはずだ、ということ。

Date: 9月 27th, 2016
Cate: 楽しみ方

オーディオの楽しみ方(つくる・その5)

ラックスキットのマニュアルを数点、インターネットで公開されている人がいる。
当然のことだが、ラックスキットのマニュアルには実体配線図が載っている。

どんな文章よりも、一枚の実体配線図が語るものは多いし、大きい。
マニュアルはモノクロだから、実体配線図もモノクロ。
いわば線画である。

実体配線図は、初歩のラジオについていた。
中学生のころ読んでいた。
初歩のラジオの実体配線図もモノクロの線画だった。

だから色鉛筆で、配線一本一本に色を塗っていた。
最初はいわば塗り絵でしかなかった。
けれどやっていくうちに、色分けするようになってきた。
電源ライン、信号ライン、アース関係と色分けしながら、色鉛筆で塗っていく。

小遣いが足りないから、つまり作りたくともそのための予算がないから、
こうやって塗って楽しんでいた。
塗っていくことで勉強になる。無駄ではなかった。

ラックスキットの中でも真空管のパワーアンプは、
プリント基板が使われていないから実体配線図が重要である。

実体配線図を描くのは、けっこう手間がかかる。
私も描いたことがある。
伊藤先生のアンプの内部写真をみながら、実体配線図を描いた。

つくるには、お金がかかる。
いいモノをつくろうとすれば、それだけの予算を必要とする。
すぐには取りかかれないことも、時としてある。
それでもやれることはある。

真空管アンプならば、実体配線図を描くということがある。

Date: 9月 26th, 2016
Cate: 楽しみ方

オーディオの楽しみ方(つくる・その4)

BOSEbuild Speaker CubeとパイオニアのPIM16KTを対比させながら、
書いていこう、と最初は考えていた。

けれど(その2)からいきなり話が逸れてしまっている。
逸れてしまって思ったことがある。

製品についていくるマニュアルのことだ。

完成品のオーディオ機器にもマニュアルはついてくる。
海外製品ではついてこないモノはあるようだが、
国内製品でついてこないということは、まずない。

当然ラックスキットにもマニュアルはついている。
そのマニュアルは完成品とのマニュアルとは違うものだ。

例えばラックスのCL32とラックスキットのA3032は同じ内容・外観のアンプだが、
CL32は完成品で、A3032はキット。

A3032を完成させれば、CL32のマニュアルが必要になるが、
その前にA3032のマニュアル、完成させるためのマニュアルが必要である。

いったいどういうマニュアルだったのだろうか、といまごろ思っている。
いいかげんなマニュアルではなかったはずだ。

いいかげんなマニュアルでは、アフターサービスがさらに大変になるから、
親切丁寧なマニュアルだったように思う。

ラックスキットにはさまざまなキットがあった。
コントロールアンプ、パワーアンプ、プリメインアンプ、
それも真空管もあればソリッドステートもあった。

これらの製作マニュアルは、これから何かをつくろうとしている人にとって、
良い教科書になるのではないだろうか。

ラックスはラックスキットのマニュアルを公開してくれないのだろうか。

Date: 9月 26th, 2016
Cate: ショウ雑感

2016年ショウ雑感(その11)

今週末にはインターナショナルオーディオショウだ。
今年も各ブースでは、プレゼンテーションが行われる。

インターナショナルオーディオショウでは、そのプレゼンテーションを講演と呼んでいるが、
私は、どうしても、あれを講演とは呼びたくないし、
プレゼンテーションと呼ぶべきだと思っている。

毎年ショウの一週間ほど前には、その講演スケジュールのPDFが、
日本インターナショナルオーディオ協議会のウェブサイトで公開される。
今年はまだのようだが、すでにアクシスのサイトでは先週から公開されている

オーディオ評論家を呼んでのプレゼンテーション、
呼ばずに自社プレゼンテーションのスケジュールである。

自社プレゼンテーションのところは、詳細は書かれていないが、
メーカー、輸入商社のサイトでは公開されているところもある。

アクシスのスケジュール
ステラ/ゼファンのスケジュール
ノア/アーク・ジョイアのスケジュール
ヤマハのスケジュール

アクシスはステージプログラム、ステラ/ゼファンはデモスケジュール、
ノア/アーク・ジョイアは演奏スケジュール、ヤマハは試聴スケジュールとしている。

少し前に書いてるように、私はヤマハのNS5000を愉しみにしている。
去年のショウではヤマハのCDプレーヤーとプリメインアンプで鳴らされた。
今年もそうなのか、それとも……、と思っていただけに、
ヤマハの試聴スケジュールを見て、嬉しくなったし、楽しみが増した。

Date: 9月 26th, 2016
Cate: 再生音

続・再生音とは……(その27)

その人の音を表現するものとして、
例えばその人がJBLのスピーカーを鳴らしていたとしたら、
JBLらしくない音という表現が、そこで使われることがある。

JBLのところは、他のブランドや型番に置き換わる。
アルテックらしくない音、タンノイらしくない音……、いろいろある。

これは褒め言葉なのだろうか。
一般的には褒め言葉として受けとめられている。

例えば「可能性が感じられる音ですね」とか「可能性が感じられるスピーカーですね」、
こういう言い方も時としてされることがある。

友人、知人が新しいスピーカーに買い換えた。
興味、関心のあるスピーカーだから、さっそく聴きに行く。
いい音が鳴っていれば、言葉には困らない。
けれどそうでない時が、どうしてもある。

そういう時、あからさまに「ひどい音ですね」という人もいるが、
たいていの人は、相手を傷つけまいと「可能性の感じられる……」ということがある。

そういわれて喜ぶ人もいれば、
これがそういう時に使われがちな言葉であることを知っている人もいる。

「らしくない音ですね」、
これも時として「可能性が感じられる……」と同じ意味合いで使われることがあるからだ。

「JBLらしくない音ですね」といわれたら、どちらなのだろうか。
喜ぶ人の方が多いのだろうか。

知人も、そういわれて喜んでいたし、
彼自身も、JBLらしくない音だと表現していた。

このことは、ひとつのテーマとして書けるぐらいに長くなりそうだが、
ここでは、再生音らしい、再生らしさについて書いていこう(考えていこう)。

Date: 9月 26th, 2016
Cate: 楽しみ方

オーディオの楽しみ方(つくる・その3)

事実は小説よりも奇なり、とはよくいわれることである。
ラックスキットのアフターサービスはたいへんだろうな、という私の想像を、
現実ははるかに上廻っていたことを、さきほど知った。

facebookに(その2)へのコメントがあった。
そこにはリンク先があった。

AV Watchの記事へのリンクで、記事のタイトルは
52年前のアンプも復活!“末永く使う”視点で探るオーディオの魅力。ラックスマン修理現場に潜入」。

約二年前の記事だ。
先ほど読み終えたが、実におもしろかった。

修理という現場の大変さ、と、
そこにいる人たちのプロフェッショナルぶりが伝わってくる。

ラックスキットの話も、当然出てくる。
このところだけ引用しておこう。
     *
-修理に運び込まれる機器の中で、特に強敵というか、修理が難しかった製品はありますか?

土井:特にこの製品というのは無いですね。あえて言えば、アンプを自作するキットも販売していたので、キットの修理は強敵でしたね。お客様が作ったものを修理するわけですから、そもそもキチンと完成しているのかわからない状態から直さねばなりません。

 ケースを開けたらまず蜘蛛の巣のようなグチャグチャな配線があって(笑)、普通は抵抗パーツの足を短く切ってハンダ付けしますが、切らずに長い足のまま取り付けられていて、しかもハンダ付けではなくボンド付けというのもありました。ケース開けたら基板が全部ボンドで黄色いんですよ。思わず「これ、音出ていましたか!?」って聞いたら、「初めは出ていましたよ」と(笑)。ボンドでも最初は接点が繋がっていますが、だんだん電気が通らなくなるんです。もうこうなると、全部ハンダ付けからやり直し、キットの作り直しですよね。お客様から「もうこのキットはあげます。新しいのを買います」と言われたこともあります。
     *
ハンダ付けではなく、ボンド付け。
しかもリード線を切らず、にである。

このレベルがあるとは想像できなかった。
どんな人であっても、うまい下手はあっても、ハンダ付けだけはなされているものだと思っていた。

キットは、自分で部品を集めるわけでもないし、
回路を設計するわけでもない。図面を引くわけでもない。
だから、プラモデルみたいなモノだと小馬鹿にする人もいるけれど、
キットはそういう見方をするものではない。

とはいえ、ボンド付けでは、まさしくプラモデルみたい、としかいいようがない。
ラックスのサービスマンは、こういうレベルで組み立てられたモノでも、
一から修理をしようとする。修理不能でことわってもいいだろうに……、と思うけれど。

AV Watchの、この記事(インタヴュー)は、
他にも引用したいところがいくつかある。
リンク先の記事をぜひ読んでほしいので、このへんにしておく。

昔マークレビンソンのアンプとモジュール構成が話題になっていた時期、
マッキントッシュのアンプ内部を、エポキシ樹脂で充填してしまったユーザーがいた、
という話をエレクトリの人から聞いている。

これも修理したそうである。

Date: 9月 26th, 2016
Cate: 楽しみ方

オーディオの楽しみ方(つくる・その2)

以前はさまざまなキットがあった。
スピーカーからアンプ、アナログプレーヤーなど、という意味でのさまざまなキットと、
ハンダ付けができれば完成する簡単なモノから、
マランツのModel 7、Model 9といった、
ベテランでも完成させるのが難しいレベルのモノまで、という意味でのさまざまなキットである。

このころは税制がいまとは違っていて、
完成品にかけられる税があって、キットという未完成品には税が免除されていた。
そういうこともあって、キット専門のメーカーもあったくらいだ。

日本ではKE(京浜電子工業)、ケンクラフト(トリオ)、ラックスキット(ラックス)、
クリスキット(ユナイト)、SSL(ステレオサウンド)などが、
キット専門ブランドとしてあった。
これら以外に、アイデン、コーラル、ダイヤトーン、フォステクス、マイクロ、オンキョー、
パイオニア、タマサウンド、タムラ、テクニクス、ビクターなどもキットを販売していた。

海外ではヒースキットがキット専門ブランドで、ソニーサービスが輸入していた。
ダイナコ/ハフラーは有名だし、
ブラウン、グッドマン、KEF、ピアレスもスピーカーキットを出していた。

中でもラックスキットが、キットには関しては圧倒的に積極的だった。
製品数も多かったし、アンプだけでなく、アナログプレーヤーもあったし、
真空管のエレクトリッククロスオーバーネットワークもあった。
キットでしか出ていないモデルがあった。

当時は、ラックスキット、よくやってくれている、ぐらいに思っていたが、
アフターサービス面では、完成品よりも場合によっては手間も時間もかかることが発生する。

ラックスキットを購入したことがないので、
どの程度までアフターサービスでカバーしてくれるのか実体験としてはないが、
ラックスキットのアフターサービスが悪かったというウワサは聞いていないし、
むしろいいということを聞いたことがある。

キットをつくる人のレベルもさまざまだ。
プロを超える人もいれば、
ハンダ付けの技術も未熟な人が、いきなりレベルの高いキットに挑戦したりもするわけで、
そういう例であってもアフターサービスするのは、
完成品を組み立てるよりも大変なことは、容易に想像できる。

Date: 9月 25th, 2016
Cate: 楽しみ方

オーディオの楽しみ方(つくる・その1)

今年6月にBOSEからBOSEbuild Speaker Cubeが出た。

ニュース系サイトのいくつかで記事になっていた。
ほとんど記事にもあったように日本では発売されていない。
でも検索すれば、いくつかのところで取り扱っている。

BOSEbuild Speaker Cubeのことは、すぐにでも書こうと思ったけれど、
どんなふうに書こうか考えているうちに、
そういえば、と思い出したキットがあった。

パイオニアが1974年か1975年ごろに出したPIM16KTである。
古くからのオーディオマニアならば、型番から、どんな製品(キット)なのか想像がつく。

PIM16KTは、16cm口径のダブルコーン・フルレンジユニットPIM16のキット版である。
スピーカーシステムを自作するためのキットではなく、
スピーカーユニットを自作するキットである。

価格は1975年の時点で1,720円、PIM16Aは2,600円。
1979年には2,100円、PIM16Aは2,600円で変らず。

このくらいの価格であれば中学生だった私にも買える。
買おうかな、と考えた。
けれどキットが2,100円で、
500円(二本だから1,000円だが)足すと完成品のPIM16Aが買える。

PIM16KTはPIM16Aをバラバラにしたものだった。
振動板、ダンパー、ボイスコイル(ボビン)、センターキャップ、フレーム、磁気回路、
ガスケット、ネームプレート、マグネットカバーなどからなる。

作業はほとんどが接着なのだが、正確に組み立てる自信がなかった。
PIM16Aよりもかなり安かったら手を出していたかもしれないが、
価格差がほとんどない、ということ、PIM16Aをそれほど欲しいとも思っていなかったので、
結局買わなかった。
いま思えば、買っておけばよかった、と後悔する気持がちょっぴりある。

Date: 9月 25th, 2016
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(ラックスCL32・その6)

ラックスのCL32について、いつか書こうと以前から決めていた。
CL34のことは触れないか、さらっと触れるぐらいにするつもりだった。

けれど今回のような書き方にしたのは、少し前にラックスからLX380という、
プリメインアンプの新製品が登場したからである。

LX380の型番からわかるように、SQ38シリーズの最新モデルにあたる。
LX380の前にはSQ38uというモデルがあった。

SQ38uを見た時も、ラックス、ほんとうにどうしたんだろうか……、と思ってしまった。
LX380でも、またそう思ってしまう。

正確にはラックスマンとしなければならないのだが、
以前はラックスだったし、
「どうしたんだろうか……」には、
ラックス時代の製品を知っているからこそのおもいが入っているから、ラックスとしておく。

まず型番について書いておきたい。
私はこのブログでは基本的には「−(ハイフン)」は省略している。

以前のラックスの型番のつけ方にはひとつのルールがあった。
最初のアルファベットが二文字のときは数字との間にハイフンは入らない。
SQ38、CL35、MQ36など、当時のラックスの広告を見てもらえば、確認できる。

一文字の場合は数字との間にハイフンがはいる。
L-390V、C-1000、M-6000というようにだ。

それがいつの間にか変更になっている。
ラックスマンのウェブサイトで製品情報のページをみてもらえれば、
アルファベットが二文字だろうと一文字だろうと、数字との間にハイフンが入る。

今回の新製品LX380も、正確にはLX-380である。
SQ38uもSQ-38uである。

日本のオーディオ機器はハイフンを使う機種がほとんどだ。
その中にあって、ラックスは少し違っていた。
それがラックスらしさでもあったのに、いまは違う。

型番のハイフンなど、ほんとうに細かなことである。
そんなことを取り上げたところで、音とは関係のないことじゃないか──、
そう思う人の方がいまでは多いのかもしれないが、
そのこまかなことの変更が、いまのラックスのデザインに深く関係しているとも感じられる。

Date: 9月 25th, 2016
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(ラックスCL32・その5)

SQ38FD/IIが1978年にモデルチェンジし、SQではなくLX38になり、
ウッドケースを脱ぎ捨てた。

SQ38FD/IIとLX38のどちらに魅力を感じるかといえば、
私はLX38である。
ウッドケースがないということも理由として大きいけれど、
それ以上に私にとってLX38には、別の想い出があるからだ。
そのことは以前書いているので、ここではあえてくり返さない。

その時の音が、まだ耳に残っている、と感じるときがある。
まったく別の音を聴いている時に、その時の音がふっと甦ってくるような感覚があるからだ。

CL32が1976年、このころのラックスはラボラトリーシリーズを出していた。
コントロールアンプの5C50、パワーアンプの5M21(メーターなしは5M20)、
プリメインアンプの5L15、チューナーの5T10、5T50、
トーンコントロールユニットの5F70、ピークインジケーターの5E24があった。

それまでのラックスのソリッドステートアンプもウッドケースが標準だったがが、
ラボラトリーシリーズはさっぱりと脱ぎ捨てている。

真空管コントロールアンプのCL35IIIもモデルチェンジして、
1978年にCL36になったと同時にウッドケースから抜け出している。

ウッドケースなしのラックスの製品がすべて優れていて、
ウッドケースつきの製品がそうではない、といったレベルの話ではなく、
このころのラックスは何かから脱却しようとしていた印象があるのだ。

CL36の音は聴いていないのでなんともいえないが、LX38はよかった。
ラボラトリーシリーズはすべてを聴いているわけではないが、
いいアンプという印象がいまも残っている。
CL32も、ここに含まれる。

CL34は、ここには含まれない。

Date: 9月 24th, 2016
Cate: 素材

素材考(柔のモノ・その4)

ステレオサウンド 60号に菅野先生のリスニングルームが載っている。
それ以降のステレオサウンドにも何度か載っている。

手元にある方は並べて見較べると、ある変化に気づかれるだろう。
変化はひとつだけではないのでヒントを書いておくと、
スピーカー・エンクロージュアの上に注目してほしい。

それはただ乗っているだけではない。
間には柔のモノが使われている、とだけ書いておこう。

菅野先生から、いろいろ試してみた、という話を聞いている。
そしてあるモノに落ち着いた、ということだった。

ゴムやフェルトなど、そういったモノを使うとき、
何を選ぶのか。

私は基本的には自然の素材をまず試してみるようにしている。
天然ゴムもそうだし、フェルトも使えば、木や紙もある。
その後に人工のモノを試すようにしている。

1980年に入ってからか、ソルボセインという素材が登場した。
優れた振動吸収性を持つ、というこの素材は人工筋肉として開発された、ということだった。
青いシートで売られていた。

いまではかなりポピュラーな素材のひとつである。
もちろんずっと以前に試してみた。

この手のものは、どこかにどう使うかということの方が重要であり、
ただ単に敷いてみた、ぐらいの使い方では、はっきりとしたことは何も言えない。

ソルボセインを使っていて気になったのは、触った感じだった。
あまりいい感じはしなかった。
自然素材のいいところは触った感じの良さもある。

結局のところ(といっても私が試した範囲ではあるが)、
おおむね触っていい感じのするものが、音でも好結果につながるところがある。
必ずしも絶対とはいえないけれど、
スピーカーやアナログプレーヤーにおいては、その傾向が顕著であると感じる。

ソルボセイン以降もさまざまな新素材が登場している。
消えていったものもある。
それらすべてを触っているわけではないし、試してみたわけでもないが、
最近、興味深い素材があるのを知った。

Technogel(テクノジェル)という素材だ。

Date: 9月 24th, 2016
Cate: 日本のオーディオ

日本のオーディオ、これまで(ラックスCL32・その4)

ラックスのCL32をデザインしたのは、木村準二氏である。
ターンテーブルPD121も、木村準二氏のデザインである。

ラックス PD121で検索すると、
瀬川先生のデザインとしている人(サイト)が複数あるが、
瀬川先生ではなく、くり返すが木村準二氏のデザインであり、
PD121のデザインを見た瀬川先生は、非常に悔しがられた、という話も聞いている。

CL34のデザインが誰なのかは知らない。
木村準二氏ではないはずだ。
CL32をベースに、誰か他の人のデザイン(というか手直し)であろう。

手直しと書いてしまったが、
手直しとは到底いえない変更である。
手直しならば、CL32よりもCL34の方が優れていなければならないのだが、
実際にはそうではないことは、CL32とCL34の写真を較べれば誰の目にも明らかだ。

DTPが普及し始めた1990年代後半、
こんなことがいわれていた。

雑誌編集部が連載記事のデザインを、デザイナー(デザイン事務所)に依頼する。
DTPだからデータで入稿される。
その後は、最初のデータをフォーマットとして、
編集部で連載記事のレイアウトをしていく。

連載記事であればそちらの方が経費がかからずに済むし、
何もデザイナーに毎回発注する必要はないだろう、という判断のもとで、だ。

毎回まったく同じパターンで連載記事をつくっていくのであれば、
デザイナーに対しては失礼なことであっても、うまくいくのかもしれない。
でも実際の編集作業は、細かな変更が必要になることもある。

そういうときに編集者がMacとそれ用のアプリケーションを使って、
細かな変更を加える。
問題が発生するのは、こういう時からである。

編集者がデザインの意図を100%理解しているのであればまだいいが、
表面的な理解に留まっている場合、
連載が続けば続くほど、少しずつ元のデザインから離れていってしまう──、
こういう問題が指摘されたことがある。

CL32とCL34のデザインの違いについて書いていて、そのことを思い出してしまった。
木村準二氏がCL34のデザインを手がけられたら、結果は違っていたはず。

CL32のデザインをきちんと理解している人がCL34を手がけていれば、
また違っていたはずだ。

ところがリニアイコライザーからトーンコントロールへの変更、
それに伴うツマミがひとつ増えることを、
あまりにも安易に処理してしまった例がCL34のように思ってしまう。